大手企業が次々と「上場廃止」を選択する深いワケ…「世界から見向きされない市場」は東証改革でどう変わるか
現代ビジネス より 231220 加谷 珪一
このところ上場廃止を選択する企業が増加している。背景には日本でもガバナンス強化が進み始めたことで、中途半端な上場のコストが合わなくなってきた現実がある。一連の動きについてはどう考えれば良いのだろうか。
⚫︎大手が上場廃止に踏み切るワケ
教育サービス大手のベネッセホールディングスは、創業家が自社株のすべてを買い付けるMBO(経営陣が参加する買収)を実施し、上場を取りやめると発表した。
大正製薬も同様のMBOを表明したほか、経営危機で資本構成が変化した東芝、給食大手のシダックスなど多くの企業が上場廃止を選択している。
これまでも上場廃止は常に一定数存在していたが、リストラなど何らかの事情を抱えていることが多かった。東芝はまさにそのケースに該当するが、そうではないと思われる企業もある。
ベネッセは主力サービスである「進研ゼミ」の先細りなど、業績の伸び悩みに直面しているものの、経営不振というほどではなく、大正製薬に至っては、財務体質は盤石であり業績に大きな問題はない。
両社が上場廃止を決断した本当の理由は外部からはうかがい知れないものの、両社に限らず、このところ上場廃止が増えていることには、東証改革によるガバナンス強化が関係している可能性が高い。
これまでも上場廃止は常に一定数存在していたが、リストラなど何らかの事情を抱えていることが多かった。東芝はまさにそのケースに該当するが、そうではないと思われる企業もある。
ベネッセは主力サービスである「進研ゼミ」の先細りなど、業績の伸び悩みに直面しているものの、経営不振というほどではなく、大正製薬に至っては、財務体質は盤石であり業績に大きな問題はない。
両社が上場廃止を決断した本当の理由は外部からはうかがい知れないものの、両社に限らず、このところ上場廃止が増えていることには、東証改革によるガバナンス強化が関係している可能性が高い。
日本の株式市場は、多数の企業を上場させることを優先し、甘い基準での上場を許してきた経緯がある。
諸外国ではグローバル経済の進展に伴い、社外役員がしっかりと経営を監視しているのか、経営の透明性は確保されているのか、女性登用などダイバーシティがしっかりと実施されているのか、など外部からの厳しいチェックが入る。こうした基準を満たせない企業は容赦なく市場からの退出を迫られる。
国内では、一連の動きについて、社会的な正義を追求するためのものであり、業績拡大とは相反する概念と解釈する人も多いが、これは完璧な誤りである。
国内では、一連の動きについて、社会的な正義を追求するためのものであり、業績拡大とは相反する概念と解釈する人も多いが、これは完璧な誤りである。
グローバル市場は急ピッチで多様化が進んでおり、新しい時代において継続的に業績を拡大するためには、一連の条件をクリアすることが強く求められる。
つまり上場基準の厳格化というのは、社会正義ではなく、むしろ市場の飽くなき利益追求から来ていると考えるべきである。
つまり上場基準の厳格化というのは、社会正義ではなく、むしろ市場の飽くなき利益追求から来ていると考えるべきである。
そうであればこそ、各国の株式市場は一連の環境変化に耐えられない企業に対して市場からの退出を強く促しているのだ。
⚫︎世界から見向きもされない市場に
ところが日本の場合、企業の経営改革が遅れていることから、一連の条件をクリアできる企業が少なく、諸外国と同等の上場基準を導入してしまうと、上場できる企業が激減してしまうという問題があった。
⚫︎世界から見向きもされない市場に
ところが日本の場合、企業の経営改革が遅れていることから、一連の条件をクリアできる企業が少なく、諸外国と同等の上場基準を導入してしまうと、上場できる企業が激減してしまうという問題があった。
このため甘い上場基準が適用され続けており、結果としてこれが上場会社を乱造する温床にもなっていた。
東証には2000社以上の企業が上場しているが、1社あたりの時価総額はニューヨーク証券取引所の5分の1程度しかなく、この企業規模では、到底、グローバルな投資家の投資対象にはならない。
ここ10年の間に日本の大手企業が次々と海外の投資ファンドの投資対象から外れているが、これは日本がもはや健全な投資家から見向きもされない市場となりつつあることを示している。
こうした状況に危機感を覚えた政府や東証は市場改革を進め、新にプライム市場を創設。より高い基準をクリアした企業でなければプライム市場に上場できないような制度改革を行った。
一連の改革は骨抜きにされ、多くの企業が横滑りでプライム市場に移行したものの、こうした選別が存在しなかった時代と比較すれば、東証の上場基準はかなり厳しくなったといってよい。
ここで大きな判断を迫られるのが企業側である。
市場改革の狙いは、上場基準を厳しくすることで企業の経営改革を促すことである。だが、そこまでの改革を望まない企業は、自ら上場廃止を選択するという流れが強まってくる。当然のことながら、各社はこうした事情について表立って言及することはないだろうが、上場廃止を決断する企業が増えていることと、市場のガバナンス強化は決して無関係ではない。
⚫︎本来の目的からズレている
一連の動きについては2つの見方ができるだろう。
1つは上場基準を諸外国並みに合わせ、それをクリアする企業しか上場させないことは、日本の資本市場にとって好ましいことであり、選別が強まることをポジティブに評価するというものである。
東証には2000社以上の企業が上場しているが、1社あたりの時価総額はニューヨーク証券取引所の5分の1程度しかなく、この企業規模では、到底、グローバルな投資家の投資対象にはならない。
ここ10年の間に日本の大手企業が次々と海外の投資ファンドの投資対象から外れているが、これは日本がもはや健全な投資家から見向きもされない市場となりつつあることを示している。
こうした状況に危機感を覚えた政府や東証は市場改革を進め、新にプライム市場を創設。より高い基準をクリアした企業でなければプライム市場に上場できないような制度改革を行った。
一連の改革は骨抜きにされ、多くの企業が横滑りでプライム市場に移行したものの、こうした選別が存在しなかった時代と比較すれば、東証の上場基準はかなり厳しくなったといってよい。
ここで大きな判断を迫られるのが企業側である。
市場改革の狙いは、上場基準を厳しくすることで企業の経営改革を促すことである。だが、そこまでの改革を望まない企業は、自ら上場廃止を選択するという流れが強まってくる。当然のことながら、各社はこうした事情について表立って言及することはないだろうが、上場廃止を決断する企業が増えていることと、市場のガバナンス強化は決して無関係ではない。
⚫︎本来の目的からズレている
一連の動きについては2つの見方ができるだろう。
1つは上場基準を諸外国並みに合わせ、それをクリアする企業しか上場させないことは、日本の資本市場にとって好ましいことであり、選別が強まることをポジティブに評価するというものである。
もう1つは、厳しい上場基準を要求すれば上場を選択する企業が減り、証券市場が低迷するという見方である。
スジ論で考えれば、当然、前者に軍配が上がるはずだが、必ずしもそうとはいえないのが今の日本における最大の問題である。厳しい上場基準を適用することで、上場企業が減ってしまい、後者の意見の方が説得力を持ってしまう可能性も十分に考えられる。
だがここは、厳しい基準をクリアした企業のみが上場するという原理原則を徹底していかなければ、日本の資本市場に未来はないと考えるべきだろう。
日本における上場というのは、知名度アップが目的だったり、大企業になったことのご褒美というニュアンスが強く、資金調達を行うという本来の目的とは乖離が生じている。
スジ論で考えれば、当然、前者に軍配が上がるはずだが、必ずしもそうとはいえないのが今の日本における最大の問題である。厳しい上場基準を適用することで、上場企業が減ってしまい、後者の意見の方が説得力を持ってしまう可能性も十分に考えられる。
だがここは、厳しい基準をクリアした企業のみが上場するという原理原則を徹底していかなければ、日本の資本市場に未来はないと考えるべきだろう。
日本における上場というのは、知名度アップが目的だったり、大企業になったことのご褒美というニュアンスが強く、資金調達を行うという本来の目的とは乖離が生じている。
株式上場後も市場から資金を調達せず、銀行融資で長期資金を賄っている企業も多く、ある種の歪みが生じていると言えなくもない。
とはいえ銀行からすれば、株式を上場しているということは、一定基準をクリアした企業ということであり、当然、融資のハードルは低くなる。
とはいえ銀行からすれば、株式を上場しているということは、一定基準をクリアした企業ということであり、当然、融資のハードルは低くなる。
直接、市場から資金を調達していなくても、企業側は上場していることのメリットを享受しきたと考えるべきだろう。
⚫︎市場の資金調達能力にも影響してくる
もし上場基準の厳しさを理由に上場廃止を選択した場合、今後の資金調達は全て銀行からの融資に頼らざるを得ない。圧倒的な競争力を持つ企業であれば、非上場企業となった後も銀行と有利な条件で取引できるだろうが、中には上場企業という肩書きが外れることで、銀行との取引条件は悪化する企業も出るだろう。
いずれにせよ、上場廃止を選択する企業が増えれば、結果的に市場での選別や淘汰が進む可能性が高くなり、相応の企業のみが残るという結果になりそうだ。
一連の上場廃止については、少数株主の権利が侵害されているとの指摘もあり、その指摘は正しい。だが、今後もグローバル市場で成長する意思のない企業の上場を許していては、市場の資金調達能力にも影響してくる。
東証改革をきっかけに上場廃止を選択する企業が出てくるのであれば、その決断は尊重し、去る者は追わずというスタンスが適切だろう。
⚫︎市場の資金調達能力にも影響してくる
もし上場基準の厳しさを理由に上場廃止を選択した場合、今後の資金調達は全て銀行からの融資に頼らざるを得ない。圧倒的な競争力を持つ企業であれば、非上場企業となった後も銀行と有利な条件で取引できるだろうが、中には上場企業という肩書きが外れることで、銀行との取引条件は悪化する企業も出るだろう。
いずれにせよ、上場廃止を選択する企業が増えれば、結果的に市場での選別や淘汰が進む可能性が高くなり、相応の企業のみが残るという結果になりそうだ。
一連の上場廃止については、少数株主の権利が侵害されているとの指摘もあり、その指摘は正しい。だが、今後もグローバル市場で成長する意思のない企業の上場を許していては、市場の資金調達能力にも影響してくる。
東証改革をきっかけに上場廃止を選択する企業が出てくるのであれば、その決断は尊重し、去る者は追わずというスタンスが適切だろう。