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歴史が示すウクライナの「抵抗」の意味 📗「ブラッドランド 上・下」 202204

2022-04-17 01:40:00 | 📗 この本

【第14回】歴史が示すウクライナの「抵抗」の意味 「ブラッドランド 上・下」 
  Wedge より 220417 筒井清忠


 近現代史への関心は高く書物も多いが、首を傾げるものも少なくない。相当ひどいものが横行していると言っても過言ではない有様である。この連載はこうした状況を打破するために始められた、近現代史の正確な理解を目指す読者のためのコラムである。

📗ブラッドランド 上・下
ヒトラーとスターリン 大虐殺の真実 (著)ティモシー・スナイダー (訳)布施由紀子
筑摩書房 上 3080円(税込)下 3300円(税込)

 ウクライナ戦争においてウクライナの国民がロシア軍に激しく抵抗し「奴隷になるよりは死を選ぶ」として戦っていることに対して、日本では「早く降伏した方がいい」と否定的に捉える人がいたことは驚きであった。

 これは、ソ連・ロシアに支配されたウクライナの近現代史への無理解が原因と思われる。ウクライナは、ソ連・ロシアから残虐この上ない仕打ちにあったことがあるため、「死を賭した抵抗」という態度に出ているのである。

 それを理解するのに最適の書が、近年、ウクライナをはじめポーランド、ベラルーシ、バルト諸国、ルーマニア、ロシア西部地方などの「流血地帯(ブラッドランド)」では、1930年代から第二次世界大戦終了にかけての時代、ヒトラー・ドイツとスターリン・ソ連のために、約1400万人もの人が殺されたことを明らかにした本書である。

⚫︎ウクライナ人が戦う理由
 とくに深刻であったウクライナでは、まず1928年から32年にかけての第一次五カ年計画の実施の際、スターリンによって過酷な農業集団化政策が実施された。スターリンは「富農(クラーク)をひとつの階級として抹殺する」と宣言、富農絶滅政策を取ったのである。富農が誰であるかは、恣意的に決められ農民の集団強制移住が実施された。これによってウクライナ人はじめ約170万人が極寒のシベリアなどに何千両もの貨物列車に詰め込まれて送られ、奴隷労働に従事させられ死んでいったのである。

 その後、33年から本格的なウクライナ人に対する集団的飢餓政策が始まった。穀倉地帯とまで言われたこの地域に過酷な食糧徴発が科され、そこから深刻な飢餓が始まり、結局約330万人のウクライナ人が餓死したのである。

 いくつものおぞましい事例が並べられており、親が子を食べあるいは子ども同士が食べあうという、この世の地獄絵図についての叙述が続いている。食べるものが全くなくなり、「人肉が唯一の肉となった」「ハルキウ地方のある若い共産党員は、人肉を使わなければ自分は食肉徴発目標値を達成できない、と幹部に報告した」。

 これが、ソ連・ロシアのためウクライナ人が経験させられ近現代史であった。これを知ったウクライナ人の誰がロシアに降伏するだろうか。

⚫︎「抵抗」を理解できない背景とは
 1400万人という数字は、独ソ戦の戦死者とは全く別の飢餓などによる死者数である。あの過酷な強制収容所などの施設に送り込まれた人の数よりも「流血地帯(ブラッドランド)」で殺された人間の数の方がはるかに多いのにもかかわらず、それをほとんど無視してきたこれまでの多くの歴史家の態度も問題となる。

 たしかに、書店や図書館で見るとわかるが、この時代を主題にした歴史書において、こうした事実が十分に記述されてきたとは言い難いであろう。飢餓の事実と餓死者の数が書いてあってもそれだけで終わっていることが多い。
 たまたま見たある新書は良心的で、さすがに「それは第一次世界大戦の死者より多い」という趣旨が書いてあったが、やはりそれで終わってしまっていた。本書でも問題にしているヒトラー・ナチスドイツの蛮行の記述に比すと分量のアンバランスがあまりにも際立っているのである。

 また、著者は『全体主義の起源』(みすず書房)を書いたハンナ・アレントの後継者と見なされているが、アレントはスターリン・ソ連とヒトラー・ドイツを共に全体主義として厳しく批判しているにもかかわらず、日本ではアレントについての書物を見ると、この全体主義についての箇所はナチスドイツのことばかりを書いており、ソ連のスターリン主義による独裁・虐殺の問題をほとんど扱っていない。

 こうした不均衡が、高等学校の世界史や一般向けの書物における不十分な叙述となり冒頭に述べた事態につながったのであろう。

 その意味で本書の衝撃は大きく、出された数字など細部についての検討は今後なされることもあろうが、その大きな問題提起が深く長く続いていくものであることは間違いないところである。

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