「スマホが頭を悪くする」と断言できる科学的な理由とは
ダイヤモンドonline より 210707 川口友万
文字通り朝起きてから寝るまで、大人も子どももスマホに夢中だ。
スマホの目覚ましで起き、スマホでニュースを読み、メールをチェックし、通勤中もスマホを手放さず、休憩時間もスマホでゲームをしたりSNSをチェックしたり、こんなデバイスはこれまでなかった。
これまでゲーム脳やテレビ中毒など新しいデバイスやデジタルサービスが生まれるたびに、批判的な言説が流れ、それを科学が否定するという繰り返しだった。スマホに感じる不気味さもこれまでの言説と同様に、新しい技術に対するアレルギーでしかないのだろうか。(サイエンスライター 川口友万)
⚫︎スマホを使うと 記憶力が低下する
スマホを巡っては、スマホの使い過ぎが脳に負荷をかけ、記憶障害や判断力の低下、集中力の低下を引き起こすと言われている。
「5分間のスマホ利用で記憶に重大な障害(Mobile phone use for 5 minutes can cause significant memory impairment in humans)」(Hell J Nucl Med. Sep-Dec 2017;20 Suppl:146-154 Kalafatakis Fほか)という衝撃的な論文がある。
健常者64人と軽度認知障害者20人を実験群,健常者36人を対照群として次の実験を行った。
実験群に対しては、最初に10個の単語を見せ、それを思い出しながら書き出してもらうテストを行う。
それを(1)スマホを使う前、(2)スマホを5分間使った直後、(3)スマホを5分間使ってから5分後――という3パターンでスコアを比較する。
一方、対照群はスマホを使わず、実験群と同じ時間間隔でテストを行った。
その結果、実験群ではスマホを使った直後の健常者のスコアがもっとも低く、3回目の測定(2回目の測定から5分後)はスマホを使った直後よりもスコアは良かったが、スマホを使う前のスコアよりも下だった。
反対にスマホを使わなかった対照群は1回目、2回目、3回目とテストの度にだんだんとスコアが上昇、すべて実験群を上回った。またスマホを使った60~80歳の老齢者は、若い年齢層に比べてスコアの低下が大きかった。
なぜ、このようなことが起きたのか?
認知心理学にはワーキングメモリー(作業記憶)という概念がある。脳は作業に必要な情報を一時的に記憶し、作業が終わると必要な情報と不要な情報を整理して、不要な情報は消す。その一時的な情報整理の作業を行う場所がワーキングメモリーだ。
⚫︎スマホを使うと 記憶力が低下する
スマホを巡っては、スマホの使い過ぎが脳に負荷をかけ、記憶障害や判断力の低下、集中力の低下を引き起こすと言われている。
「5分間のスマホ利用で記憶に重大な障害(Mobile phone use for 5 minutes can cause significant memory impairment in humans)」(Hell J Nucl Med. Sep-Dec 2017;20 Suppl:146-154 Kalafatakis Fほか)という衝撃的な論文がある。
健常者64人と軽度認知障害者20人を実験群,健常者36人を対照群として次の実験を行った。
実験群に対しては、最初に10個の単語を見せ、それを思い出しながら書き出してもらうテストを行う。
それを(1)スマホを使う前、(2)スマホを5分間使った直後、(3)スマホを5分間使ってから5分後――という3パターンでスコアを比較する。
一方、対照群はスマホを使わず、実験群と同じ時間間隔でテストを行った。
その結果、実験群ではスマホを使った直後の健常者のスコアがもっとも低く、3回目の測定(2回目の測定から5分後)はスマホを使った直後よりもスコアは良かったが、スマホを使う前のスコアよりも下だった。
反対にスマホを使わなかった対照群は1回目、2回目、3回目とテストの度にだんだんとスコアが上昇、すべて実験群を上回った。またスマホを使った60~80歳の老齢者は、若い年齢層に比べてスコアの低下が大きかった。
なぜ、このようなことが起きたのか?
認知心理学にはワーキングメモリー(作業記憶)という概念がある。脳は作業に必要な情報を一時的に記憶し、作業が終わると必要な情報と不要な情報を整理して、不要な情報は消す。その一時的な情報整理の作業を行う場所がワーキングメモリーだ。
ワーキングメモリーで情報は整理され、記憶されるが、スマホを四六時中使っていると常にワーキングメモリーに新しい情報が入るため、整理する暇がない。そのため、記憶が定着せず、記憶力が落ちることになる。スマホは本当に記憶力を低下させるのだ。
⚫︎サイレントモードにしただけで 利用者の半数が不安に
スマホはとにかく気を散らせる。アメリカで2011年ごろから「FoMO」(Fear of Missing Out)とその反対の意味の「JoMO」(Joy of Missing Out)」という単語がはやっている。
FoMOは情報を見逃す恐怖で、SNSで話題になったことを自分だけが知らない、LINEを使ったイベントの参加申し込みに自分だけ遅れるといったことを恐れる状態だ。反対に情報を追わないことをスタイルにするのがJoMOだ。
FoMOに陥った人は、常にスマホをチェックしなければ不安に駆られる。
グーグル社が12名の参加者(女性6名、男性6名)に自分の携帯電話をサイレントモードにしてもらい、24時間が経過した後にどのような状態だったかをインタビューした。
結果は二分された。一方は、スマホから解放され、あまりストレスを感じなかった、あるいはリラックスして仕事ができたというもの。もう一方は、見逃したメールがないか15分おきにチェックした人や友達や恋人からのチャットに返事が遅れると怒られると心配した人、周りからの疎外感を感じた人もいた。
たった1日、手元にないどころか、サイレントモードにしただけで、多くの人を不安に陥れる。それがスマホだ。
⚫︎『スマホ脳』の作者が語る 脳が快楽物質を出す理由
『スマホ脳』の作者、精神科医のアンデシュ・ハンセン (C) Stefan Tell
それでも人はスマホを手放さない。何かおかしいと感じながら、朝起きて最初にスマホでメールをチェックする。
スマホの何が人を夢中にさせるのか。ベストセラー『スマホ脳』の作者で精神科医のアンデシュ・ハンセンは、人間がギャンブルや酒に依存していくメカニズムと同じことがスマホを使うと脳で起きるからだという。著名人のインタビューを行っているシード・プラニング社から同氏のインタビューを引用する。
まず脳の目的について、次のように書かれている。
「脳は何のためにあるのでしょうか? 考えるため? 感じるため? 脳は考えたり感じたりしますが、それは生存するために体をどう動かすかを決定するためです。気持ちよくなったり賢くなることは目的ではありません」
そして、脳は長年にわたり変化していないとして、次のように指摘している。
「私たちの脳は1万年も2万年も変化していません。まだサバンナ生活の脳なのです。ドーパミン(脳内で分泌される快楽を生む物質)は幸せの物質と考えられていますが、正しくありません」
⚫︎『スマホ脳』(アンデシュ・ハンセン/久山葉子 新潮社)
ハンセン氏は、脳内でドーパミンが分泌される理由について、生存と繁殖のために何に注意を向けるべきかを人間に教えるためだという。つまり、ドーパミンは「もしかしたら?」「たぶん?」という期待の快感を生み出す物質なのだ。
ごはんのたびにベルを鳴らすと、ベルを鳴らすだけで犬がよだれを垂らすという、あの条件反射の実験の時、犬の脳の中はドーパミンであふれかえっている。
「脳は『おそらく得られる』という状況が好きなんです。だから人間はギャンブルが好きなんです」
⚫︎紙とデジタルでは 記憶される中身が変わる
SNSの「いいね」ボタンはまさに脳のこの仕組みを突いている。自分がアップした写真や記事に誰がいいねを押したのか、何人が押したのか、SNSを開かなければわからない。「もしかしたら?」に突き動かされ、人はスマホを開く。
「企業は心理学を使い、精神の深い部分に訴えかけます。だからデジタルデバイスに触らずにいることは難しい」
デジタル化された情報と元のアナログ情報とは、同じように見えて脳の受け止め方は違うらしい。ハンセン氏は紙の本とPDFデータでは、同じ内容でも記憶される中身が変わるのだという。
「電子版よりも紙の方が学びの質が高いのです。内容が複雑になればなるほど、紙で読む方が学びの質が高まります。なぜかはわかりません。記憶と三次元で学ぶことが関係しているのかもしれません」
ハンセン氏によれば、現在の研究結果は紙とデジタルとでは質的な違いがあることを示している。紙の方があきらかに良いのだ。
「私たちとスマホの関係は、これから果てしなく続くデジタルとの関係の入り口にすぎません。こうしたテクノロジーはやがて私たちの肉体に侵入し、血圧や心拍数を測定し、感情の動きを分析するでしょう。私たちにはもっと議論が必要です」
ハンセン氏は、デジタル技術が人間や生物にとって適切なのかどうかの議論はもっとなされるべきだと考えている。
「デジタル化は私たちを脅かしています。かつてないほど睡眠時間と運動時間を奪い、不安やうつに対して私たちを脆弱(ぜいじゃく)にしています。私はスマホが他のエンターテインメント製品よりも中毒性が高いと考えています」
⚫︎スマホの普及で 得たものと失ったもの
スマホとどのように付き合っていけばいいのか。
「デジタルテクノロジーは素晴らしい。しかしそこにはダークサイドもあります」
たとえば、人間は同時にいくつものことを処理するマルチタスクが苦手だ。ながら勉強は脳には向かない。必然的にシングルタスクを切り替えながら行うことになるが、それは脳の使い方としては非効率だ。
「脳は気が散りやすいのです。それは生存のために常に周りに気を配らなくてはならなかった名残です。そうしなければ、動物に襲われたり病気にかかったりしてすぐに死んでしまいます」
生き残るには注意を周りに向けつつ、深く集中する必要があります。生きるために深く集中するには、周りの情報を遮断しなければならない。しかしスマホはその逆のことを要求する。スマホは「スマホに集中すること」を求めるのだ。
さらにスマホのコンテンツは、自分と他人を比較する。
「誰かと自分を比較することはストレスですが、SNSはそれを求めます。SNSで他人と自分を常に比較することは、精神に非常に悪い影響を与えます。自分がSNSのヒエラエルキーの下方にいると思えば、不安やうつは悪化します。自分はみんなよりダメだと考えてしまうのです」
私たちは何時間もスマホをのぞき込み、そこでは広告やSNSが「あなたは他人より遅れている、劣っている」と語り掛けてくる。
ここ最近、私たちは他人に共感する力を失っているのだという。
「今は誰もが個人放送局で、自分に注目を集めようとする時代です。それが共感性に影響しているのかもしれません」
⚫︎ スマホがさまざまな利便性をもたらす一方で、私たちは何を失ったのか。
「私たちはスマホを使い出してから、眠らなくなり、運動をしなくなり、人と会わなくなりました。これが代償です。私たちがテクノロジーに合わせてはいけない。テクノロジーが私たちに合わせるべきなのです」
ネットサービスにとって、私たちは客ではないとハンセン氏。
「私たちは商品なんです。私たちの注意を奪い、それを広告主に売っている」
スマホとは何なのか、デジタル化は善なのか悪なのか、私たちは議論すべき時と場所に立っている。
💋ある意味、喫煙と同様