滋賀県 甲賀市甲南町池田 檜尾神社石階段
JR草津線甲賀駅の西方1km程のところ、山手に檜尾神社がある。中世以来地域の崇敬が厚い氏神で、隣接して別当寺の文殊院があり神仏習合の名残をとどめている。石鳥居をくぐってすぐ、自然石積の石垣の間、左右を耳石で画し1段につき2ないし3本の方柱状の切石を組み合わせた12段の石階段がある。初段目の大部分は埋まっている。高さは3m程だろうか、傾斜はかなり急である。耳石の手前には柱状に立てた標石が左右にある。ちょっと見たところ特に何ということのない神社の石段に見えるが、この石段が近江在銘最古の石階段とされる。上から2番目の左右の耳石に刻銘がある。向かって左に「文正元年(1446年)戌丙六月一日」、右に「願主 多喜土佐 沙弥 源珎」とある。手前の標石にも何か刻んであるが大半が埋まってはっきり確認できない。隣の甲賀町滝に本拠を置いた甲賀53家のひとつ多喜氏は古代の大伴氏の流れをくみ、織豊期の著名人である中村一氏、山岡道阿弥も一族とのことである。多喜氏の土佐守を名乗る人物がこの石段を寄進したものだろう。滝の丘陵には多喜氏の拠ったとされる中世城郭が残る。
神社の東、少し離れたところ、道路脇の草生地には地中に埋めた柱の根元が朽ちる度に短く切って据え直していくうちに段々背が低くなっていったと思われる古い木造鳥居がポツンと立っている。古くはこの鳥居あたりから参道が延びていたのだろうか。
参考:瀬川欣一 『近江 石の文化財』 341~342ページ
平凡社 『滋賀県の地名』日本歴史地名大系 394~395、406~407ページ