石造美術紀行

石造美術の探訪記

滋賀県 東近江市林田町 香林禅寺宝篋印塔

2008-01-24 00:46:38 | 宝篋印塔

滋賀県 東近江市林田町 香林禅寺宝篋印塔

 

永源寺末の香林禅寺境内東南の築山状の植込の隅、生垣に接して宝篋印塔がある。高さ約178cm。01自然石を無造作に組んだ上に据えられ、南側と東側は生垣でよく見えない。基礎は上反花式で側面は輪郭を巻き格狭間を配する。格狭間内は素面。輪郭内の彫り込みに比べ格狭間内の彫りは非常に浅くほとんど線刻に近い。格狭間の形状は稚拙で退化形式といってよい。基礎上の反花は隅が小花にならない抑揚のあるタイプだが全体に彫成が甘くかなり抑揚感が薄れている。反花上の塔身受は低い。側面の幅に対する高さの比は比較的大きく、どちらかというと背が高い。塔身は金剛界四仏の種子を薬研彫する。種子を囲む月輪はない。笠は上6段下2段で軒が薄く、二弧輪郭付の隅飾は低くやや外傾が目立つ。笠も全体的に幅に対する高さの比が大きい。笠の頂部面積が大きく段形の逓減率が小さい。相輪は完存しており、側面の直線が目立つ伏鉢、薄い複弁下請花、九輪の凹凸はハッキリせず線刻に近い表現となっている。上請花は素弁で宝珠との間のくびれが目立つ。宝珠の側面の曲線は硬く重心も高い。全て花崗岩製だが、塔身だけは風化の程度も少なく緻密で良質の石材を使用している。塔身のサイズのバランスは悪くないが塔身のみ別物の可能性がある。この塔身に刻銘が認められキリーク面の左右に正和3年(1314年)銘があるというがはっきり確認できなかった。笠と基礎は全体に背が高く、退化した格狭間の形状や反花の彫成、隅飾の外傾、頂部が広く逓減率の小さい段形、スムーズな曲線部がほとんどない硬直化した相輪は番傘状となる一歩手前で、各部とも室町時代に降る様相を呈し15世紀後半頃のものとみて大過ないと思われる。ただし鎌倉後期の紀年銘がある以上、やはり塔身のみ別物としておくのが穏当であろう。

 

 

参考:滋賀県教育委員会編 『滋賀県石造建造物調査報告書』 124ページ

   八日市市史編纂委員会編 『八日市市史』 638ページ

 

 

このほか境内には宝篋印塔の笠残欠が転がっており、別に裏庭にも孔雀文を基礎に刻む宝篋印塔があるというが今回は時間の都合で見ることができなかった。これはまた別の機会に…。