京都府 京都市北区 紫野十二坊町 上品蓮台寺五輪塔
千本通りに面した通称十二坊、真言宗智山派上品蓮台寺。境内の北端に近い場所、子院のひとつ真言院の北側の墓地中央に玉垣に囲まれた立派な五輪塔がある。緻密な良質の花崗岩製で塔高約220余cm、地輪の幅は約80余cmに達する。二重の切石基壇は当初からのものかどうかわからない。反花座はない。地輪の側面高は約55cmと低すぎず高すぎずといったところ。水輪は整った曲線を示し、その最大径は若干上にあってやや裾すぼまり気味であるが申し分ない。火輪は軒口厚く、隅にいくに従って厚みを増しながら力強く反転する。火輪の屋根の勾配は比較的急で、四注の屋だるみは軒反にあわせて下方で反り上がる感じである。火輪頂部の幅はやや広い。大きめの空風輪はどっしりとして全体のフォルムを引き締めている。鉢形の風輪と空輪先端の尖りまでよく残る完好な宝珠形の空輪の描く曲線はスムーズで硬直化したようなところは微塵も感じさせない。空風輪のくびれも適度で少しも脆弱なところはない。梵字や刻銘はみられず全くの素面である。非のうちどころのない典型的な鎌倉後期スタイルの大形五輪塔で、13世紀終りから14世紀初頭頃の造立とみてまず間違いないだろう。保存状態良好で風化が少ない点も好感が持てる。エッジのきいたシャープな仕上がり、均整のとれた隙のない佇まいは、律宗系の五輪塔によくみられるスタイルである。間違いなく京都でも最も美しい五輪塔のひとつに数えられよう。千本通りから船岡山にかけては古来葬送の地であったとされており、今日も寺院や墓地が多く見られる。ここの墓地も広大で、いたるところに中世に遡る石仏や小さい五輪塔などが見られる。墓地の一角に無縁の石仏などが集積されており、その質と量には目を見張るものがある。ほとんどが阿弥陀如来で、大半は室町時代以降のものと思われる小さいものだが、ちらほらと混じるやや大きめの石仏の中には、彫りが深く体躯のバランスもよいものが少なくなく、これらは鎌倉時代に遡る可能性を秘めている。川勝博士がおっしゃられたように、京都は阿弥陀の石仏が相対的に多い土地柄であるということが実感される。
参考:元興寺文化財研究所 『五輪塔の研究』平成6年度調査概要報告 51ページ
川勝政太郎 『京都の石造美術』
なお、後から知ったのですが、同寺には平安時代藤原期の仏師として名高いかの「定朝」の墓があるとのこと。初めからわかってればねぇ…またしても不勉強が露呈しました、トホホ…。近くの釘抜き地蔵石像寺の見事な石仏は見てきましたが(別途紹介します)、千本閻魔堂引接寺の至徳銘の変わった層塔は解体修理中で見れなかったので、あわせて改めて見学の機会を持ちたいと思います、ハイ。