「当事者」という言葉がずいぶん定着し、あちこちで使われるようになってきましたね。とくに、「ショウガイシャ」という言葉を使わずにすむ格好の便利な言葉として、人気急上昇中のようです。
それとともに、「当事者主体」という言葉も、よく用いられるようになってきました。「当事者」だけでなく「当事者主体」です。ますますパワーアップする言葉ではありませんか。
先日ある福祉系団体のところに出かけて行ったときも、「当事者主体」がすっかり話題の中心でした。なんでも、先方は「当事者主体」であることがモットーらしく、そのことをさかんに誇っておられるのです。たしかに誇らしいといえば誇らしいことです。
「うちは何でもすべて、当事者主体でやっていますので・・・!」
「ほお、そうなんですね。それは結構なことですね。」
「ええ、そうなんです。これはうちの一番のウリなんですが、ひとつ他の団体にもうちのやり方を広めていければ、と最近では考えているんです!」
「ああ、そうなんですねえ。他の団体はまだそういう感じじゃないんですか。」
「残念ながらね。まだそれがこの辺りの現状です。だからうちのやり方を広めていくのは、地域の意識を底上げしていく上でも、意義深いんではないかと私どもは考えている次第なのです。ぜひ進めていきたい。」
「なるほど。で、1つよくわからないので教えて頂きたいのですが、『当事者主体』という場合、その『当事者』というのは、『当事者が主体』ということなんでしょうか? それとも『当事者を主体』ということなんでしょうか?」
「えっ!? な、何ですって? 『当事者が主体』か『当事者を主体』かですかあ? えっ、あの!! それはですねえ・・・それどういうことですかあ?」
「いやだから、『当事者が主体』か『当事者を主体』かってことなんですけど・・・」
「え、あー、そうですよね。今ひとつ意味がわかりかねますけど・・・そうですねえ、『当事者が主体』か『当事者を主体』か・・・う~ん、どうでしょう・・・そうですねえ、どうなんだろう・・・両方ですかねえ・・・」
「両方!? ・・・両方って、当事者が当事者を主体にするってことですか?」
「そういうことになりますかねえ」
「当事者が当事者を主体にするっていうと、そのとき、援助者はどうなるんですか? こちらの援助者の方々は何をするわけですか?」
「えっ? 何だか話がよくわからないんですけど・・・援助者は援助をします。はい。」
「そうですよね。で、その援助っていうのは、どんなことをするんですか?」
「いろんなことをしますよ、もちろん。必要と思われることは何でも。でも何をするのも、つねに『当事者を主体』にやっているのです。これがうちのモットーです!」
「ああ、『当事者を主体』になんですね。『当事者を主体』に、援助者がいろいろ何でもやるんですね。『当事者が主体』で、それを援助するのが援助者というんではなくて。。。何をやるのか、決めるのは援助者なんですね。」
「そうです。援助者が当事者のために決めて、当事者のことを思って、『当事者主体』に何でもやるのです。これがうちのモットーです! 愛なしにはやれないことなんです!」
「ああ、なるほど、なるほど。そういうことなんですねえ。よくわかりました。今日はいろいろ教えて下さって、どうもありがとうございました。」
もちろんこれは、実話です。団体を特定できないように、内容の一部を改変することもしておりません。なぜならこれは、特定するまでもなく、すでにあちこちに転がっている話だからです。