心身社会研究所 自然堂のブログ

からだ・こころ・社会をめぐる日々の雑感・随想

ゾウは互いに名前で呼び合う!

2024-06-13 20:16:43 | 生命・生物と進化

ワシントンのロイター通信によると、野生のアフリカゾウが名前のようなもので互いに呼びかけ合っているとする研究結果が

6月10日、イギリスの科学雑誌Nature Ecology and Evolutionに発表されました。

 

この研究は、コーネル大学の行動生態学者ミッキー・パルド氏らが

ケニアのアンボセリ国立公園とサンブル国立保護区などに生息するアフリカサバンナゾウ100頭以上を対象に、その鳴き声を分析したものです。

一般的なゾウの鳴き声は、遠くにいる相手や姿が見えない相手に対して使う低い呼び声と、

接触できる距離にいる相手同士のあいさつ声、年上のゾウやメスのゾウが面倒を見ている子ゾウに呼びかける子育て声の、3種類に分類できます。

 

研究チームはこの3種類の鳴き声に着目し、1986年~2022年にわたり、

3つの国立公園や保護区で野生のメスと子ゾウの群れを観察し、

録音した469の鳴き声をAIの機械学習モデルで解析しました。

個々のゾウの個体識別は耳の形によって行なわれました。

 

その結果、AIはその鳴き声の27.5%で、鳴き声の音響特性だけから、呼びかけられた相手を特定することができ、

呼びかける相手のゾウごとに、鳴き声の音響構造が異なることが判明しました。

しかもそれは、イルカやオウムのように、呼びかけたい相手の特徴的な鳴き声をまねて互いを呼び合うのではなく、

個々の相手を指すとみられる鳴き声の呼び方のちがいをあたかも名前のように学習して認識し、

それぞれの相手に宛てて使用しているようなのです。

 

そこでこのことを確認するために、2020~22年に、さまざまな相手をよく声を録音したうえで、

17頭のゾウに、約50m先からスピーカーで、それぞれのゾウを指すとみられる異なる音を聞かせ、どう反応するかをテストしたところ、

平均してみな自分を指す音の呼びかけにより強く反応し、

他の個体に向けられた呼びかけよりも、より熱心に行動したり(返事をしたり、スピーカーに近づいたりした)、

より多くの声を上げたりする傾向が見い出されたとのことです。

 

パルド氏が述べるように、

「ゾウがお互いを個人として呼び合うことは、異なる多くの社会的絆を維持する重要性を浮き彫りにしている」といえましょう。

 

<文 献>

Pardo, M.A., Fristrup, K., Lolchuragi, D.S. et al. 2024 African elephants address one another with individually specific name-like calls, in Nature Ecology and Evolution. https://doi.org/10.1038/s41559-024-02420-w

 

にほんブログ村 科学ブログ 生物学・生物科学へ
にほんブログ村

にほんブログ村 哲学・思想ブログ 心理学へ
にほんブログ村

心理学ランキング
心理学ランキング

動物・生物ランキング
動物・生物ランキング

PVアクセスランキング にほんブログ村

 

 

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

イヌは新型コロナウイルスの匂いを嗅ぎ分けられる!

2023-09-18 22:20:59 | 生命・生物と進化

カリフォルニア大学サンタバーバラ校地理学名誉教授のTommy Dickey氏とBioScent社のHeather Junqueira氏は、

2019年12月から2023年4月の間に相次いで発表された、

新型コロナウイルスの匂いを嗅ぎ分ける訓練を受けたイヌについて発表された29本の査読済み論文を体系的に収集して

――合計すると、32カ国の400人以上の科学者が、147頭のイヌの嗅覚による新型コロナウイルスの検出能力を、

3万1000点以上の匂いのサンプルや直接人間の匂い嗅ぎで検討していたことになります――、

その有用性や安全性、実用性に関する評価を行なったところ、

 

イヌの嗅覚を用いた新型コロナウイルス検査の感度は、何と、92.3%の論文で80%を超えており、

32.0%の論文では特異度が97%を超え、84.0%の研究で特異度は90%以上だったとのこと。

さらにイヌは、呼気、唾液、気管支分泌物、尿、マスク、衣類などから新型コロナウイルスを検出できること、

訓練を積んだ犬であれば、症状が出る前の患者や無症状の患者の検出も可能であること、

訓練を受けた経験のない新型コロナウイルスの新規変異株感染者や後遺症患者の検出も可能であること、

新型コロナウイルス感染者と別の新しい呼吸器系ウイルス感染者とを区別する能力があることも示されました。

 

こうなるともはや、イヌの嗅覚を利用した検査の方が、PCR検査や抗原検査などよりはるかに効率的ではないかということになりましょう。

実際、この研究で対象とされたある論文の著者は、

「今や、新型コロナウイルス検査のゴールドスタンダードはイヌであり、RT-PCR検査ではない」とコメントしているとか。

なにしろイヌの嗅覚による検査だったら、とにかく速い。直接匂いを嗅いだら数秒内に感染の有無を教えてくれるのですから。

 

なおこの研究は、7月17日に、Journal of Osteopathic Medicine誌に掲載されました。

生体の感覚の精妙さを強調するオステオパシー医学の専門雑誌上であるところにも興趣をそそられます。

 

<文 献>

Dickey, T. & Junqueira, H., 2023  COVID-19 scent dog research highlights and synthesis during the pandemic of December 2019-April 2023, in Journal of Osteopathic Medicine.

  2023 July 17; doi: 10.1515/jom-2023-0104. [Epub ahead of print]

 

にほんブログ村 科学ブログへ
にほんブログ村

にほんブログ村 科学ブログ 生物学・生物科学へ
にほんブログ村

動物・生物ランキング
動物・生物ランキング

PVアクセスランキング にほんブログ村

 

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

4万6000年の仮死状態の眠りから覚めて繁殖をくり返す線虫

2023-08-10 23:15:07 | 生命・生物と進化

シベリア北東のコリマ川の永久凍土で、4万6千年間にわたり「クリプトビオシス」(cryptobiosis)と呼ばれる仮死状態で過ごしたとみられる線虫が、

発見時には全く代謝が検出できない状態だったのが、シャーレのうえで動き出し、みごとに復活したことを

ドイツやロシアなどの研究チームが発表したとの驚くべきニュースが報じられました。

 

動き出した線虫は単為生殖で増えるため、次々に繁殖をくり返して、100世代以上もの繁殖に成功し、数千匹に増えたとのこと。

DNAの解析から新種であることも判明し、「パナグロライムス・コリマエンシス」(Panagrolaimus kolymaensis)と名づけられたとのことです。

 

もちろん、水や酸素がなかったり、極端な温度にさらされたりする厳しい環境になると、長期間にわたり仮死状態になって耐える生物は、

これまでもクマムシやワムシなどが知られていますが、今回の線虫の仮死状態の期間ははるかに長いとのことです。

 

脊椎動物が背側迷走神経複合体で行なう不動化の反応の、無脊椎動物における極限的な形での表現ということができましょう。

 

 

にほんブログ村 科学ブログ 生物学・生物科学へ
にほんブログ村

にほんブログ村 科学ブログへ
にほんブログ村

動物・生物ランキング
動物・生物ランキング

PVアクセスランキング にほんブログ村

 

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

自慰行為には進化上の利点があるらしい!

2023-07-20 10:11:22 | 生命・生物と進化

動物界で自慰行為を認めることは、決して珍しいことではありません。

しかし、自慰行為は、単に自分だけの快楽のための行為と見なされ、

さらには病的な行為だったり、あるいはせいぜい高い性的興奮の副産物にすぎないものと見なされがちでした。

ところが実際には、進化上重要な役割を果たしている可能性があるらしいことがわかってきました。

 

というのも、ヒトを含む霊長類の自慰行為は、少なくともオスにとっては、

生殖の成功率を高めるとともに、性感染症(STI)への罹患リスクを低減させる効果があるらしいことが、

英ユニバーシティ・カレッジ・ロンドン(UCL)のMatilda Brindle氏らの研究で示唆されたからです。

この研究結果は、「Proceedings of the Royal Society B : Biological sciences」誌の6月7日号に掲載されました。

 Brindle氏らは、246本の学術論文や150件の調査結果、霊長類学者や動物園の飼育員から得た聞き取り情報など、400近くの情報源を集め、

その上で、これらの包括的なデータを系統比較的な手法と組み合わせて、霊長類の自慰行為の進化の経路や関連要因を検討し、

オスとメスの双方において、いつから、また何のために、自慰行為が行われてきたのかについて考察を試みました。


 合計67属の霊長類の自慰に関するデータを、オス・メス別に、「自慰をする」「自慰をしない」「記録がない」として整理し、

この基礎データから、それぞれの属の祖先における自慰行為の有無を推定したところ、

少なくとも真猿類の祖先がすでに自慰を行っていた可能性が示されました。



 ではなぜそれが進化の過程で生まれ、受け継がれてきたのでしょうか。

研究グループはいくつかの仮説を立てて検証しました。

1つ目の仮説は、自慰行為が受精の成功に役立つとする「交配後選択仮説(postcopulatory selection hypothesis)」。

この仮説は、さらに2つの説に分かれ、1つ目は、強いオスに交尾を中断される可能性の高い低位のオスにとっては、

交尾に至った時点で迅速に射精することが必要となるので、射精を伴なわない自慰により、

交尾前の興奮を高めておくことは、より迅速な射精につながり、繁殖上、有効な戦術になる可能性があるというものです。

 

もう1つは、射精を伴なう自慰により、劣化した精子を排出できるため、交尾には新鮮で質の高い精子を利用でき、

これにより、他のオスの精子との競争に打ち勝つ可能性が高くなるというものです。

研究グループによると、集めたデータからは、自慰行為が、複数のオスが1匹のメスと交尾するシステム(多雄交尾)とともに進化してきたことが示され、

この仮説が裏付けられたとしています。

 もう1つの仮説は、「病原体回避仮説(pathogen avoidance hypothesis)」で、

交尾後の自慰による射精は、STIでの主要な感染部位である尿道の洗浄につながるため、交尾後のSTI罹患リスクを下げるのに役立つとするものです。

研究グループは、霊長類において、オスの自慰行為は病原体の発生と関連しながら進化してきたことが示されたとして、

この仮説についてもエビデンスが得られたとしています。


 一方、メスの自慰行為の意義についてはどうかというと、データ不足のため、まだ明確なことは分からないままとのことです。

 

<原著論文>

Brindle, M., Ferguson-Gow, H., Williamson, J., Thomsen, R. & Sommer, V., 2023  The evolution of masturbation is associated with postcopulatory selection and pathogen avoidance in primates, in Proceedings of the Royal Society B:Biological sciences, vol.290(2000);20230061. pii: 20230061.

 

にほんブログ村 科学ブログ 生物学・生物科学へ
にほんブログ村

にほんブログ村 科学ブログ 生物学・生物科学へ
にほんブログ村

動物・生物ランキング
動物・生物ランキング

PVアクセスランキング にほんブログ村

 

 

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

オキシトシンは本当に「愛のホルモン」か?

2023-03-16 11:18:41 | 生命・生物と進化

“愛のホルモン”(love hormone)とも呼ばれるオキシトシンは、

これまで考えられてきたほど社会的絆の形成に必要不可欠なものではない可能性が出てきました。

 

カリフォルニア大学サンフランシスコ校(UCSF)・ワイル神経科学研究所のDevanand Manoliらのグループは、

オキシトシンが社会的絆をもたらすことを示すのに大きな役割を果たしてきたプレーリーハタネズミを対象に、

遺伝子編集技術を用いてオキシトシン受容体遺伝子の欠損した個体を作製し、

その個体が他の個体との関係を維持できるかを観察したところ、

意外にも正常な個体と同じようにつがいを形成できることを確認したのでした。

 

そしてプレーリーハタネズミの、齧歯類としては珍しく、一夫一妻的なペア関係を強固に支え、

パートナーと密接に過ごして他の異性を拒絶したり、父母で子育てをしたりといった、オキシトシンに特有とされてきた行動特性は、

オキシトシン受容体がなくても全く損なわれることがないらしいことも確認され、

オキシトシンはその複雑な遺伝的プログラムの1つにすぎないことが明らかにされたのでした。

 

おまけに、もっと古くからオキシトシンの特性として知られてきた、

出産時に陣痛を起こして分娩を促進したり、出産後には乳汁の分泌を促す働きに関しても、

遺伝子改変されたメスのプレーリーハタネズミでも出産と授乳が十分に可能であることが示され、

うち半数は離乳まで子を育て上げることもできたことが確認されています。

 

プレーリーハタネズミという動物実験の結果を、そのままヒトに当てはめることはできませんが、

こうして、オキシトシンという単一の因子が、社会的な愛着のプロセス全体を担っているとは単純に言えないことが明らかになりました。


<原著論文>

Berendzen, K. M., Sharma, R., Mandujano, M. A., Wei, Y., Rogers, F. D., Simmons, T. C., Seelke, A. M. H., Bond, J. M., Larios, R.,  Goodwin, N. L., Sherman, M., Parthasarthy, S., Espineda, I., Knoedler, J. R., Beery, A., Bales, K. L., Shah, N. M. & Manoli, D. S., 2023  Oxytocin receptor is not required for social attachment in prairie voles, in Neuron, vol.111, no.6, pp.787-96.

 

にほんブログ村 科学ブログ 生物学・生物科学へ
にほんブログ村

にほんブログ村 哲学・思想ブログ 心理学へ
にほんブログ村


動物・生物ランキング


心理学ランキング

PVアクセスランキング にほんブログ村

 

 

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする