北海道大学がきのう18日に発表したところでは、同大学院水産科学院博士後期課程3年の山田寛之氏(27歳)と同大学院水産科学研究院の和田哲教授が、北海道に生息するイワナの稚魚が頻繁にあくびをすることを発見し、稚魚のあくびが、着底行動から遊泳行動への行動変化が起こる直前に集中していることを明らかにしました。すでに10日にオンライン上のJournal of Ethology誌に発表されています* 。
あくびは、内温動物(恒温動物)では、行動変化しようとするその直前に起こることが従来から知られています。また近年の研究から、あくびの持つ生理学的な覚醒作用(血流促進効果や脳の冷却機能など)が確認され、これは「状態変化仮説」(state-change hypothesis)と呼ばれますが、これによって生じる生理的覚醒度の高まりが動物の行動状態の変化を引き起こすこともわかってきています** 。
これに対して魚類など外温動物では、これまでせいぜい、あくびに似た行動様式を示すことが断片的に知られる程度で、逸話的な観察記録しかありませんでした。このため、外温動物で「状態変化仮説」を定量的に検証する研究が行われたこともなく、そこで研究チームは、イワナの稚魚を用いて「状態変化仮説」の検証を行なうことにしたそうです。
この実験では、野外で採集されたイワナの稚魚41個体を対象とし、観察水槽を用いて行動が録画されました。その10分間の動画をもとに、稚魚のあくびと着底行動、および遊泳行動をデータ化した上で、観察されたすべてのあくびについて、発生から行動変化までの時間が記録されました。
その結果、41個体のうち23個体で計48回のあくびが観察され、うち32回は遊泳時よりも着底行動中に多く観察され、特に着底行動から遊泳行動への行動変化が起こる直前に集中していることが明瞭に確認されました。
この研究は、あくびの「状態変化仮説」を魚類で実証した世界初の研究です。今やここに、外温動物である魚類のあくびも、内温動物のあくびと、少なくとも部分的には共通の機能を持つ可能性が示唆されています。さらには、魚類は地球上で最初にあくびをした動物と考えられますから、今回の研究結果は、魚類だけでなく動物界全体のあくびの起源を理解するうえでも、重要な貢献を果たすことが期待されます。
<文献>
* Yamada, H. & Wada, S., 2023 Fish yawn: the state-change hypothesis in juvenile white-spotted char Salvelinus leucomaenis, in Journal of Ethology, 2023 January 10.
→https://doi.org/10.1007/s10164-023-00777-2
** Massen, J. J. M., Hartlieb, M., Martin, J. S., Leitgeb, E. B., Hockl, J., Kocourek, M., Olkowicz, S., Zhang, Y., Osadnik, C., Verkleij, J. W., Bugnyar, T., Němec, P., Gallup, A.
C., 2021 Brain size and neuron numbers drive differences in yawn duration across mammals and birds in Communicartions Biology, vol.4, issue1:503.
doi: 10.1038/s42003-021-02019-y.