心身社会研究所 自然堂のブログ

からだ・こころ・社会をめぐる日々の雑感・随想

自慰行為には進化上の利点があるらしい!

2023-07-20 10:11:22 | 生命・生物と進化

動物界で自慰行為を認めることは、決して珍しいことではありません。

しかし、自慰行為は、単に自分だけの快楽のための行為と見なされ、

さらには病的な行為だったり、あるいはせいぜい高い性的興奮の副産物にすぎないものと見なされがちでした。

ところが実際には、進化上重要な役割を果たしている可能性があるらしいことがわかってきました。

 

というのも、ヒトを含む霊長類の自慰行為は、少なくともオスにとっては、

生殖の成功率を高めるとともに、性感染症(STI)への罹患リスクを低減させる効果があるらしいことが、

英ユニバーシティ・カレッジ・ロンドン(UCL)のMatilda Brindle氏らの研究で示唆されたからです。

この研究結果は、「Proceedings of the Royal Society B : Biological sciences」誌の6月7日号に掲載されました。

 Brindle氏らは、246本の学術論文や150件の調査結果、霊長類学者や動物園の飼育員から得た聞き取り情報など、400近くの情報源を集め、

その上で、これらの包括的なデータを系統比較的な手法と組み合わせて、霊長類の自慰行為の進化の経路や関連要因を検討し、

オスとメスの双方において、いつから、また何のために、自慰行為が行われてきたのかについて考察を試みました。


 合計67属の霊長類の自慰に関するデータを、オス・メス別に、「自慰をする」「自慰をしない」「記録がない」として整理し、

この基礎データから、それぞれの属の祖先における自慰行為の有無を推定したところ、

少なくとも真猿類の祖先がすでに自慰を行っていた可能性が示されました。



 ではなぜそれが進化の過程で生まれ、受け継がれてきたのでしょうか。

研究グループはいくつかの仮説を立てて検証しました。

1つ目の仮説は、自慰行為が受精の成功に役立つとする「交配後選択仮説(postcopulatory selection hypothesis)」。

この仮説は、さらに2つの説に分かれ、1つ目は、強いオスに交尾を中断される可能性の高い低位のオスにとっては、

交尾に至った時点で迅速に射精することが必要となるので、射精を伴なわない自慰により、

交尾前の興奮を高めておくことは、より迅速な射精につながり、繁殖上、有効な戦術になる可能性があるというものです。

 

もう1つは、射精を伴なう自慰により、劣化した精子を排出できるため、交尾には新鮮で質の高い精子を利用でき、

これにより、他のオスの精子との競争に打ち勝つ可能性が高くなるというものです。

研究グループによると、集めたデータからは、自慰行為が、複数のオスが1匹のメスと交尾するシステム(多雄交尾)とともに進化してきたことが示され、

この仮説が裏付けられたとしています。

 もう1つの仮説は、「病原体回避仮説(pathogen avoidance hypothesis)」で、

交尾後の自慰による射精は、STIでの主要な感染部位である尿道の洗浄につながるため、交尾後のSTI罹患リスクを下げるのに役立つとするものです。

研究グループは、霊長類において、オスの自慰行為は病原体の発生と関連しながら進化してきたことが示されたとして、

この仮説についてもエビデンスが得られたとしています。


 一方、メスの自慰行為の意義についてはどうかというと、データ不足のため、まだ明確なことは分からないままとのことです。

 

<原著論文>

Brindle, M., Ferguson-Gow, H., Williamson, J., Thomsen, R. & Sommer, V., 2023  The evolution of masturbation is associated with postcopulatory selection and pathogen avoidance in primates, in Proceedings of the Royal Society B:Biological sciences, vol.290(2000);20230061. pii: 20230061.

 

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排便習慣と認知症リスクの関連

2023-07-14 09:21:16 | 健康・病と医療

 国立がん研究センター中央病院の清水容子氏らが、中年期以降の排便習慣と認知症の関連について解析した結果、

男女とも少ない排便回数および硬い便が高い認知症リスクと関連することが示されたそうです。

Public Health誌オンライン版の2023年6月29日号に掲載されました。

 介護保険の認定記録を用いたコホート研究で、JPHC研究における8地区で排便習慣を報告した50~79歳の参加者を対象に、

2006~16年の認知症の発症について調査し、

生活習慣因子や病歴を考慮したCox比例ハザードモデルを用いて、男女別にハザード比(HR)と95%信頼区間(CI)を推定したものです。

 その主な結果は以下のようです。

・男性1万9,396人中1,889人、女性2万2,859人中2,685人が認知症と診断された。
・排便回数について、1回/日と比較した多変量調整HR(95%CI)は、以下のとおり(傾向のp値:男性<0.001、女性0.043)。
 2回/日以上:男性1.00(0.87~1.14)、女性1.14(0.998~1.31)
 5~6回/週:男性1.38(0.16~1.65)、女性1.03(0.91~1.17)
 3~4回/週:男性1.46(1.18~1.80)、女性1.16(1.01~1.33)
 3回/週未満:男性1.79(1.34~2.39)、女性1.29(1.08~1.55)
・便の硬さについて、正常な便と比較した調整HR(95%CI)は、以下のとおり(傾向のp値:男性0.0030、女性0.024)。
 硬い便:男性1.30(1.08~1.57)、女性1.15(1.002~1.32)
 非常に硬い便:男性1.84(1.29~2.63)、女性2.18(1.23~3.85)

 

  <原著論文>

Shimizu, Y., Inoue, M., Yasuda, N., Yamagishi, K.,  Iwasaki, M., Tsugane, S. & Sawada, N., 2023  Bowel movement frequency, stool consistency, and risk of disabling dementia:

    a population-based cohort study in Japan, in Public Health, vol.221, pp.31-38. doi: 10.1016/j.puhe.2023.05.019

 

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ポリヴェーガル関係の最新論文(2023.06.30)

2023-07-01 07:51:51 | ごあいさつ

このたび、ポリヴェーガル理論関連で、私の最新論文2本が、相次いで公表されました。

 

1つは、6/28発売の『わが国におけるポリヴェーガル理論の臨床応用』に収められた、

「こころに安全を育むこと/からだに安全を育むこと」という論文で、

ポリヴェーガル理論が心理療法にも身体療法にも共通のプラットフォームとなりうる基本的な論点をまとめた小文です。

 

もう1つは、6/30に発表された、オンライン雑誌『<身>の医療』第7号に収められた、

「コロナ禍・トラウマの時代・ポリヴェーガル理論」という論文で、

内外でも初かもしれない、ポリヴェーガル理論の社会心理学的な考察です。

オンライン雑誌なので、誰でも自由にWeb上で読むことができます。 →こちら

 

興味ある方は、目を通して下さるとうれしいです。

 

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