心身社会研究所 自然堂のブログ

からだ・こころ・社会をめぐる日々の雑感・随想

PTSDと(m)TBI((軽度)外傷性脳損傷)、MI(道徳的負傷:モラルインジャリー)(1)

2023-05-31 21:38:15 | 健康・病と医療

トラウマといえばPTSDがすぐ引き合いに出されますが、トラウマに直接関わる疾患は、決してPTSDだけではありません。

PTSDが生じるようなトラウマ受傷の際に、

PTSDと併発しやすく、PTSDと似た症状も起こしながら、しかしPTSDとは異なる重要な疾患として、

TBI(Traumatic Brain Injury:外傷性脳損傷)とくにmTBI(mild Traumatic Brain Injury:軽度外傷性脳損傷)と、

MI(Moral Injury:道徳的負傷(モラルインジャリー))の2つの損傷(Injury)を、忘れるわけにはいきません。

(m)TBI物理的かつ心的なトラウマ性損傷であり、MI心的かつ道徳的なトラウマ性損傷です。

 

どちらもPTSDとはちがう疾患ですが、PTSDとよく似た症状を生じ、またそれ自体がPTSDを生じる一因にもなるとみられています。

苟もトラウマが、からだ・こころ・社会の総体において把握される必要があるものだとすれば、単にPTSDを診るだけでなく、

(心的外傷が物理的な損傷も伴なう場合には)(m)TBI((軽度)外傷性脳損傷)を、

(心的外傷が道徳的な損傷も伴なう場合には)MI(道徳的負傷(モラルインジャリー)を、合わせて診る必要が出てきます。

 

この2種類のトラウマ的な「損傷」(Injury)について、これから少し詳しくみていきたいと思います。

 

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精神科病院の虐待・人権侵害を断ち切るために

2023-05-29 18:25:58 | 福祉・教育

認定NPO法人大阪精神医療人権センターから、

厚生労働省、内閣府、法務省、東京都、関係自治体、

衆議院、参議院、国会議員、政党、関係地方議会、

精神保健医療福祉関係団体、法律家団体、人権関係団体に向けて、

意見書「精神科病院の虐待・人権侵害を断ち切るために」が出されました。

→https://www.psy-jinken-osaka.org/archives/saishin/13443/

 

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ニューロダイバーシティによる自閉症治療の変化

2023-05-18 11:32:33 | 健康・病と医療

『日経サイエンス』の4月号に、サイエンスライターのクラウディア・ウォリスが、

自閉症治療の現場も、ニューロダイバーシティ運動を受けて、変化の波が生じていることをレポートしています[Wallis 2022=2023,p.6]。

 

これまで自閉症治療は、自閉症の症状をなくし、定型的な行動に合わせて、自閉症らしく見えないようにすることを強いるのを

「至適アウトカム」としてきたわけですが、

今や自閉症の症状はむしろ尊重し、どう扱うかは患者本人と家族とが自らの幸福に寄与するよう自身で決定すべきことへと変わりつつあるということです。

 

デューク大学の自閉症・脳発達センター所長G・ドーソンは、ある10代の患者が「アイコンタクトを保つ練習なんかもうしたくない」と訴えてきたけれど、

それで構わないのだと明言しています;

また同様に、「体を前後に揺らす方が落ち着くという人がいるなら、それを認めればいいのです。異なるあり方を社会が受け入れるべきだと私は思います」

と述べています[Dawson et als.2022;Wallis 2022=2023,p.6]。

 

自閉症セルフ・アドボカシー・ネットワークの共同創設者アリ・ネーマンによれば、

あまりにも多くのセラピストが、自閉症者たちに、定型的な見かけを試すテストにパスする方法を“教える”ことに注力しているのが現状だというのですが、

でもその結果当人はどうなっているかといえば、自閉症とみなされまいとして、定型行動から外れていないかチェックするのに

エネルギーと認知力とを使い果たしてしまうというのが実態だといいます[Ne’eman 2021;Wallis 2022=2023,p.6]。

  それどころか、自閉症とみなされないよう努めることで、自殺率の高さにも関連することすら見い出されているのです[Cassidy et als.2018;Wallis

2022=2023,p.6]。

 

「治す」とは何をすることなのか、本当に問われているのではないでしょうか?

 

実際、その一方では、すでにこのブログでも以前に書いたように(→ニューロダイバーシティの登場!)、

臨床現場にニューロダイバーシティが入ってくるとき、この概念の意味を全く曲解して、

自閉症者たちを「ニューロダイバーシティを持つ人たち」(people with neurodiversity)と呼ぶ医師やセラピストも少なくありません。

・・・これは「ダイバーシティ」の概念の意味をそもそもよく理解しておらず、まるで「ニューロダイバーシティ」ということを

まるで1つの病気や障害の名前のように捉えているのですね。

 

こうした危険はすでにニューロダイバーシティ運動の火付け役だったジュディ・シンガーが指摘していたことでした[Singer 2019]。

すなわち、「ニューロダイバーシティ」はすべての人のものです。すべての人が「ニューロダイバース」です。

その一員として、自閉症も非自閉症者も、ともにそのままに肯定されるのです。

 

<文献>

Cassidy, S., Bradley, L., Shaw, R. & Baron-Cohen, S., 2018  Risk markers for suicidality in autistic adults, in Molecular Autism, vol.9, article42, pp.1-14.

Dawson, G., Franz, L., & Brandsen, S., 2022  At a Crossroads—Reconsidering the Goals of Autism Early Behavioral Intervention From a Neurodiversity Perspective, in JAMA

    Pediatrics, vol.176, no.9, pp.839-40.

Ne’eman, A., 2021 When Disability is Defined by Behavior,Outcome Measures should not Promote “Passing”, in AMA Journal of Ethics, vol.23, no.7, pp.E569-75.

Singer, J., 2019 Reflections on Neurodiversity. https://neurodiversity2.blogspot.com/

Wallis, C., 2022 Rethinking Autism Therapy, in Scientific American, vol.327, no.6, p.25.=編集部訳、2023「自閉症治療再考――ニューロダイバーシティとしてとらえ直す」『日

    経サイエンス』第53巻4号、p.6。

 

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守ってやるぞ詐欺

2023-05-02 13:40:30 | 社会・社会心理
4月30日の東京新聞に、法政大学前総長の田中優子氏が、以下のような文章を寄せています。
 
 『日本は本当に戦争に備えるのですか?』という、まさに「今」の問題を複数の人たちで論じた本が出された。その中で政治思想史が専門の岡野八代さんが、チャールズ・ティリーの著書の一部を紹介している。そこには「プロテクションラケット(protection racket)」という言葉が出てくる。racketは恐喝、ゆすりなどの意味があるので「守りの恐喝」となる。ヤクザの世界の、あの「みかじめ料」のことも指しているという。岡野さんはそれを「守ってやるぞ詐欺」と訳した。つまりは「自分で脅威を作り出し、その脅威を減じてやるから金を出せ」という態度のことだ。例えば政府が市民を守ろうとしている脅威が架空のものであったり、実際には政府の活動が引き起こした結果であったりするならば、それは「守ってやるぞ詐欺」なのだ。そして「多くの政府は本質的にゆすり屋と同じことを行っている」と。
        ◇  ◆  ◇
 私が言っているのでも岡野さんが言っているのでもない。ティリーが、それも近代国家成立の歴史を論じる中で言っているのである。つい、今の日本の現政権の、「台湾有事」とやらの軍拡行動が脳裏に浮かんでしまうかもしれないが、そういう想像はご自由に。
 その「みかじめ料」のことを江戸時代までは「年貢」と言った。「貢ぎ物」だから、使用目的や配分を国民的に議論したりはしない。年貢は藩単位で集め、「守ってやるぞ」と言っている武士たちが給与として受け取った。そして実際に対外戦争も内戦も起こさないよう努力し日本を守った。ただし治世の基本は身分制度であり、諸藩には参勤交代を義務づけ、島原天草一揆ではキリシタンを、由井正雪の乱では浪人集団を、安政の大獄では反幕府の人々を、容赦なく弾圧した。こうなると「守ってやるぞ詐欺」の守る相手は誰なのかわからなくなるが、年貢を納める人、つまり農民たちであったろう。一方、税金は貢ぎ物ではなく国民が自治体や政府に預けたお金だから、当然使用目的も配分も明らかにし、国会で議論もしなければならない。しかし内実が「みかじめ料」なら、なるほど議論しにくいだろう。
        ◇  ◆  ◇
 ここで思い出すのは宗教団体だ。世界の終末時に天国に行かれるようにしてやるとか、先祖の恨みから守ってやるとか、地獄に行かないよう話をつけてやるなど、「守ってやるぞ詐欺」が幅を利かせる。暴力団が壊滅させられても政治党派や宗教団体がなくならないのは、ティリーによるとそこに「神聖さを帯びる力」があるからだという。つまりは「権威」だ。日本は長い間武家政権が続いたが、それが安定していたのは「将軍」職位が天皇によって与えられたからである。そこで、天皇を味方につけておくために各時代の幕府はあらゆる努力をした。戦前の日本においていくつもの戦争が常に天皇の名のもとに行われたことも、それと同じであった。軍部は天皇の権威をまとったのである。
 戦後は「選挙で勝つ」ことが権威となった。私たちは投票した党に権威を与えている。権威を得た党は国会の議論もなしにことを進めることさえある。本を読んで勉強し、情報を集め、熟慮して投票し、意見は常にはっきり表明する。それが「守ってやるぞ詐欺」に引っかからない、唯一の方法だろう。
 
しかしもっと見えにくい問題は、
こうした「守ってやるぞ詐欺」が、
国家権力や宗教団体などの行使するおどろおどろしい場面にとどまらず、
もっと日常的に、見えにくい形で、
身の回りのそこここに蔓延していることでしょう。
 
とりわけ、医療、心理、福祉、教育等々といった、
人を援助する(=“守ってやる”⁉)お仕事の現場では
横行していないかどうか、よくよく嚙み締める必要があるはずです。
まあ生権力ということになってきますね。。。
 
 
 
 
 
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