音楽のリズムに合わせて、身体を揺するといった反応は、霊長類でもほとんどヒトだけのものとされてきましたが(私自身も本にそう書いています!)、チンパンジーでも確認されたことが、京大霊長類研究所の服部裕子・友永雅巳両氏によってPNAS誌に報告されました。画期的ですね。
→https://www.pnas.org/content/pnas/early/2019/12/17/1910318116.full.pdf
またこちらも
→https://phys.org/news/2019-12-chimpanzees-spontaneously-music.html
http://www.kyoto-u.ac.jp/ja/research/research_results/2019/documents/191224_1/01.pdf
動画はこちら
→https://www.youtube.com/watch?v=uhlYqn3swaY
ここでふと思い出すのは、1917年に最初の報告がなされた、ゲシュタルト心理学者ヴォルフガンク・ケーラーの永遠の名著『類人猿の知恵試験』(岩波書店)に活写された、何匹ものチンパンジーたちに自発的に出現する原始的な「輪舞」様のリズム運動です(pp.88,308-9)。ちなみにこの本のこの箇所は、私が大学時代に読んで最も強く感銘を受けた件の1つでもありました。
彼らは「歓極わまるときには、頭を上下に振り振り、大きく開けた口(攻撃の場合とは全く違う)はあらゆる筋肉をだらりとさせ、若いサル共と輪を作って堂々めぐりをする。この連中がその時真実遊んでいることは、彼らがめいめいのうしろについて輪を作り、一足ごとにあるいは一足おきに[……]足踏み鳴らし、またほかの者共は大げさに進行運動に抑揚をつけながら、行進するのを見た人は誰も見誤らないであろう。」(p.88)
「ただ歩くのでなく跑歩(だく)で、殊に片足は強く踏みしめ片足は軽く地につけ、それでリズムに近いものが発生し、全員が拍子をとって足並みを揃えるようになった。足のリズムは時折頭にも及んで、足並に合せて、だらりと垂れた下あごと一緒に、頭を上下にがくがくさせた。チンパンジー共はみんなこの素朴な輪舞に熱中し、満足している様子であった。」(p.308)
しかしこれはまだ、お互いの身体がじかに見えていて、身体どうしの動きのリズムを合わせるところから生じてくるシンクロニーでした。これに対して今回の発見は、他者の身体が直接に見えていない場での、音楽といういわば抽象的なリズムに合わせるところから生じてくるシンクロニーであることに、画期的な水準のちがいがあることに瞠目せずにはいられません。