心身社会研究所 自然堂のブログ

からだ・こころ・社会をめぐる日々の雑感・随想

心身相関におけるポリヴェーガル理論の意義

2024-05-02 21:10:33 | ポリヴェーガル理論

私が昨年7月に、日本心身医学会総会で行なった講演「心身相関におけるポリヴェーガル理論の意義」の原稿が、

その機関誌『心身医学』に掲載され、このたび公刊されました。

以下、ご笑覧下さい。

 

はじめに
 心身相関を,脳の中枢と身体の末梢の間の双方向的な相互関係と捉え直すならば,その媒介変数として,自律神経系の働きの意義が改めて注目される.その観点から,心臓の精神生理学的研究を通して,自律神経系について新たな見方を提示したのが「ポリヴェーガル理論」である.本稿ではこの理論が何を主張し,心身相関にどのように新たな見方を提示するものであるか,その意義と課題は何かについて,簡単にまとめておく.さらに詳細は,類書を参照されたい.


背景と現況
 この理論の提唱者Stephen W. Porges(1945~)は,もともと心臓の精神生理学(心拍変動と自律神経)の研究者で,その長年の研究の到達点として,1994年10月8日,この年学会長だった「精神生理学会」の講演で初めて発表したのがポリヴェーガル理論である.その講演原稿が翌95年に同学会誌に発表され,これに以後の関連論文計19編を合わせて2011年に大著『Polyvagal Theory』が上梓され,同理論は広く知られるようになった.以後続いて2017年,2021 年に単著が,2018年,2023年には共著が,公刊されている.
 こうしてPorgesは臨床家でなく純然たる研究者であるが,決して象牙の塔に安住することなく,一貫して臨床応用への高い関心をもつ研究者であり続けてきた.すでに若き1980年代には,呼吸性洞性不整脈(RSA)の研究がハイリスク新生児のスクリーニングに応用され,次いで2000年前後からは,ポリヴェーガル理論に基づき,自閉スペクトラム症(ASD)児の聴覚過敏や社会性低下を改善するプロジェクトが試みられ(今日“Safe and Sound Protocol:SSP”として結実),そして2011年の大著刊行後には,この理論を最も有名にしたトラウマ臨床,およびトラウマ関連障害の現代的な病態への応用が大きく発展した.
 特に1980年前後以降,日本を含む先進諸国では,うつや不安障害の遷延化,ストレスだけでなくトラウマ(トラウマティック・ストレス),抑圧だけでなく解離,各種の機能性の心身疾患,発達障害などの顕在化につれて,新たな治療パラダイムが求められるなか,ポリヴェーガル理論はその有力な理論的支柱たりうる斬新な学説として世界的に注目されるに至ったのである.
 もっともこの国では,2018年の邦訳刊行以降,正確な理解もないままに,この理論の神経学的根拠も放擲し,媒介変数としての自律神経系の位置づけも捨象した,あたかも自律神経系を独立変数のごとくに宣揚するバブリーな“紹介”と安直な“臨床応用”ばかりが先行し,他方それに幻惑されるあまり,自律神経系をあたかも従属変数のごとくに主張する浅薄な“批判”が飛び交う事態ともなっている.
 そこで本稿では,原点に立ち戻って,ポリヴェーガル理論が神経学的に何を明らかにし,どのように新しい自律神経の理論であるのか,またそこから心身相関にどう寄与しうるのかなどについて,考察を進めることとする.

 

→この続き、そして全文は、こちらで読むことができます。

 

にほんブログ村 科学ブログへ
にほんブログ村

にほんブログ村 科学ブログ 生物学・生物科学へ
にほんブログ村

医学ランキング
医学ランキング

心理学ランキング
心理学ランキング

動物・生物ランキング
動物・生物ランキング

心理療法ランキング
心理療法ランキング

PVアクセスランキング にほんブログ村

 

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

ポリヴェーガル新刊 ポージェス父子で!

2023-10-02 08:36:21 | ポリヴェーガル理論

先月、スティーブン・ポージェスがポリヴェーガルの新刊『Our Polyvagal World』を、御子息のセス・ポージェス氏と共著で刊行されました。→こちら

ちなみにセス・ポージェス氏は、研究者ではなく、アメリカの映画監督、プロデューサー、ジャーナリスト、テレビコメンテーターです。→こちら

それにしても、ポージェス&スー・カーターご夫妻をまさに足して2で割ったようなお顔が印象的です ↓ 。

 

     

にほんブログ村 科学ブログ 生物学・生物科学へ
にほんブログ村

にほんブログ村 哲学・思想ブログ 心理学へ
にほんブログ村

医学ランキング
医学ランキング

心理学ランキング
心理学ランキング

心理療法ランキング
心理療法ランキング

PVアクセスランキング にほんブログ村

 

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

ポリヴェーガル理論はノーベル賞候補か?

2023-08-25 13:11:18 | ポリヴェーガル理論

スティーブン・ポージェスがポリヴェーガル理論に則って作成したSSP(Safe and Sound Protocol)を請け負う

UNYTEのホームページに7月4日に投稿された、レベッカ・ノウルズという人の論考によると、

 

ポリヴェーガル理論の提唱者スティーブン・ポージェスは、

最近、Research.com が5月8日に発表した「最優秀心理学者」(Best Psychology Scientists)のPsychology分野で、

36,052件の被引用数と237の出版物により、アメリカ人で655位(全世界で1028位)にランクされました。→こちら

ポージェスは心理学だけを専門としない科学者であることを考慮すると、この数字はいっそう意義深いものとなってきます。

 

そんな分野横断的な彼の研究の影響力を示す一端として、AD Scientific Index 2023によれば、

彼の論文で最も多く引用された、1997年の『Psychophysiology』誌に掲載された「心拍変動: 起源、方法、解釈上の注意点」は4409件引用され、

次に多く引用された、生物学的心理学におけるポリヴェーガル理論について説明した2007年の論文「The Polyvagal Perspective」は3526件引用された、

といったところです。

 

さらに、完璧とは言いがたいものの、研究者の科学論文の到達点と影響力を表わすもう一つの指標である、

AD Scientific Index 2023のH-indexでも、ポージェスは名誉ある数字を示しています。→こちら

 

H-indexは、当の研究者が執筆した論文のうち、少なくとも同数の引用を受けた論文の数によって計算されるものですが

(例えば、H-indexが10というのは、著者の出版物のうち10本以上が10回以上引用されていることを意味します)、

ポージェス博士のH-indexは99で、51000回以上の引用がなされていることになります。

そしてこれほど高いランキングは、何と、ノーベル賞受賞者を含む世界的な科学者に限られるのだそうです。

 

それはそれですばらしいことですが、

でもノーベル賞は人気投票ではないのだから、引用件数だけで決まるような単純なものではなく、

大事なのは、その引用した多くの論文の方が、いかに科学的に意味のある研究へと結実しているかということです。

今回のノウルズ氏の論考は、あくまでSSPを請け負うUNYTEサイトの、

プロモーション・ライティングでもあることは留意しておかないといけません。

 

 

<文 献>

Knowles, R.,2023  Revolutionizing the study of the autonomic nervous system : the growing legacy of Dr. Stephen Porges, posted July 4, 2023, on 

        https://integratedlistening.com/blog/revolutionizing-the-study-of-the-autonomic-nervous-system-the-growing-legacy-of-dr-stephen-porges/

 

にほんブログ村 科学ブログへ
にほんブログ村

にほんブログ村 哲学・思想ブログ 心理学へ
にほんブログ村

医学ランキング
医学ランキング

心理学ランキング
心理学ランキング

PVアクセスランキング にほんブログ村

 

コメント (6)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

ChatGPT、ポリヴェーガル理論の限界を語る!

2023-03-13 13:41:53 | ポリヴェーガル理論

私が日ごろ懇意にし、よくdiscussionをしているある精神科医が、

最近もりあがってるChatGPTで、「ポリヴェーガル理論の限界を教えて」と質問してみたそうです。

すると、以下の答えが返ってきたそうです。

 

「スティーブン・ポージェス博士によって開発されたポリベーガル理論は、感情、行動、社会的関与の生理学的基盤を理解する上で影響力がありま

す。ただし、この理論にはいくつかの制限があります。以下はその例です。

1 複雑性:理論は複雑であり、実践的に理解することが難しいことがあります。神経、生理、行動など、複数の分析レベルが含まれます。

2 実証的根拠の欠如:ポリベーガル理論を支持する実証的根拠がある一方で、一部の研究ではその主要な仮定の一部を支持する結果が得られなかっ

たりすることがあります。理論の妥当性を確認するためには、さらなる研究が必要です。

3 限定的な焦点:理論は主に自律神経系とそのストレスや社会的関与に対する生理学的反応を調節する役割に焦点を当てています。これは感情と行

動にとって重要な側面ですが、認知プロセスや文化的影響など、他の重要な要因を考慮していません。

4 個人差:理論は、すべての個人がストレスや社会的関与に対して同様の生理学的反応を示すと仮定していますが、個人差が存在する可能性があり

ます。

5 臨床応用:理論は臨床設定で応用されていますが、臨床実践における有用性はまだ探求されており、さまざまな心理障害の治療における有効性を

決定するためにはさらなる研究が必要です。

 

さて皆さんいかがでしょうか? 

その精神科医は、けっこう的を射ているんじゃないかと漏らしておりましたが、

たしかに巷でよく口にされる印象を、みごとに隈なくよく集めてあります。感心しますね。

ChatGPTとは、「○○についての世のうわさ大全」というべきでしょうか。

この情報力はたしかにすごいですが、

ただこの情報を使って、先に向けて新たに思考を働かせる起点にはちっともならない気がします。

新たな情報を生まない情報。それは情報と呼べるのか? 

もしこういったものに私たちが情報源を頼るようになるとするなら、

確実に私たちは思考停止状態(という不幸? いやむしろ幸せ?)になることでしょう。

 

なぜChatGPTは、新たな情報を生まないのか?

それは言うまでもなく、そしてない物ねだりでもありますが、

ChatGPT(というかAI全般)が自分の「問い」というものを持たないからです。

「問い」がなく「答え」だけがそこにはある。

だからその「答え」からは新たな「問い」が生まれないのです。

 

もっとも、「問い」がなく「答え」だけがあるというのは、

この国の人間への教育のスタンスに、根強く貫かれているものではないでしょうか?

”勉強”といえばこの国では、ほとんど受験勉強しかないのですから。

 

とすればこの国は、長い間にわたって、「出来損ないのAI」を育ててきたようなものです。

多くの人間が出来損ないのAIになる時、間違いなく本物のAIが普及し支配します。

なぜなら、それだけが唯一出来損ないじゃないから。

 

多くのヒトが出来損ないのロボットになったとき、ロボットが普及してきたように。。。

多くのヒトが出来損ないのコンピュータになったとき、コンピュータが普及してきたように。。。

 

ヒトがテクノロジーの前座に成り下がるにすぎないことを、

近代人はテクノロジーの進歩と呼んできたのでした。

 

にほんブログ村 科学ブログへ
にほんブログ村


心理学ランキング

PVアクセスランキング にほんブログ村

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

新著出版記念セミナー

2022-05-16 20:12:38 | ポリヴェーガル理論

私の新著『ポリヴェーガル理論への誘い』の出版記念に、7月3日に、恒例の沖縄トラウマ研究会の主催で、「超入門復習セミナー」がオンライン開催されます。関心ある方は、どうぞご参加ください。

お申し込みはこちら

PVアクセスランキング にほんブログ村

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする