心身社会研究所 自然堂のブログ

からだ・こころ・社会をめぐる日々の雑感・随想

笑いヨガによる血糖値低下の意味

2023-04-25 19:53:29 | 健康・病と医療

笑いは、ストレス軽減、NK細胞の活性化、アレルギー反応抑制などとともに、食後血糖値の上昇抑制の効果をもつことが報告されていますが、

福島県立医科大学の広崎真弓氏らは、笑いそのものでなく作り笑いに、深呼吸、手拍子、掛け声を組み合わせた「笑いヨガ」で、

2型糖尿病患者の血糖コントロールが改善されることを、3月31日号のFrontiers in Endocrinology誌に報告しました。

「笑いヨガ」とは、グループのなかで、作り笑いや深呼吸、手拍子や掛け声を行なうことで、

冗談やユーモアに頼らずに笑いの効果を体操として行なおうとするエクササイズです。

 

 この研究では、大阪大学医学部附属病院糖尿病センターに受診する2型糖尿病患者42例を介入群と対照群に無作為に割り付け、

介入群には笑いヨガのプログラムを12週間実施しました。

開始前と12週間後に、HbA1c、体重、ウエスト周囲径、心理的因子、睡眠時間を評価した結果、

ITT解析の結果、笑いヨガ群ではHbA1c値(群間差:-0.31%、95%信頼区間:-0.54~-0.09)と

ポジティブ感情スコア(群間差:0.62ポイント、95%信頼区間:0.003~1.23 )が大幅に改善し、

睡眠時間も増加傾向がみられたとのことです(群間差:0.4時間、95%信頼区間:-0.05~0.86、p=0.080)。

なお、「笑いヨガ」プログラムへの平均出席率は92.9%と高かったそうです。

 

これはしかし、作り笑いでも血糖値を下げられるといった単純な話ではなく、

それに深呼吸、手拍子、掛け声が組み合わされていることで、

いずれもポリヴェーガル理論でいう腹側迷走神経複合体の活性化を引き起こし、

作り笑いが自然な笑いと同等の笑いの効果を示したとみるべきでしょう。

 

<原著論文>

Hirosaki M, Ohira, T., Wu, Y., Eguchi, E., Shirai, K., Imano, H., Funakubo, N., Nishizawa, H., Katakami, N., Shimomura, I. & Iso, H., 2023 Laughter yoga as an enjoyable therapeutic approach for glycemic control in individuals with type 2 diabetes: A randomized controlled trial, in Frontiers in endocrinology, vol. 14. pii: 1148468.

 

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ポリクライシスの時代

2023-04-02 13:03:55 | 社会・社会心理

2023年1 月 16-20 日、世界経済フォーラム(ダボス会議)がスイスで開かれ、世界各国から政府高官や企業経営者らが参集しました。

今回のテーマは、「分断された世界での協力」でしたが、

そうした中で大きな焦点を当てられたのが「ポリクライシス(polycrisis)」という新たな概念だったと報じられています。

1月の年次総会前の1月11日に公表した『グローバルリスク報告書2023年版』(Global Risks Report 2023)[World Economic Forum 2023]でも、

この言葉が1つの重要なキーワードをなし、これから2年後の、そして10年後の、予想されるクライシスのTOP10を、以下のように示しています。

 

 

「ポリクライシス(polycrisis)」とは、もともとフランスの社会学者エドガール・モラン(と共著者のアンヌ・ブリジット・カーン)が、

21世紀を迎えるにあたって、1999年の著書『母国としての地球』(Homeland Earth: A Manifesto for a New Millennium)のなかで用いた造語で、

現代の最も「生きた」問題は、単一の脅威ではなく、

「さまざまな問題、対立、危機、制御不能なプロセスの複雑な相互連帯であり、この惑星の全般的な危機である」と主張し、

これを「ポリクライシス」と名づけたのでした[Morin&Kern 1999,p. 74]。

 

すると2013年、これを承けて、南アフリカの社会学者マーク・スウィリングが、

ポリクライシスを「単一の原因に還元することを拒む、

グローバルに相互作用する社会経済的、生態学的、文化的、制度的な危機の入れ子集合(nested set)」[Swilling 2013, p.98]と定義し、

それ以降、気候変動、不平等の増大、金融危機の脅威など、グローバルな政治経済が直面する相互関連的な複数の危機を包括的に示すラベルとして

使用するようになったものでした[Swilling 2013; 2019]。

 

それがコロナ禍の今日、リアルな熱い関心を引くようになったのです。

1980年代以降始まった「トラウマの時代」[津田 2019,pp.17-27]の深まりとともに、

世界はまさに、そうした「ポリクライシスの時代」に突入しつつあるのではないでしょうか。

 

<文献>

Morin, E. & Kern, A. B.,  1999. Homeland Earth: A Manifesto for the New Millenium. Advances in Systems Theory, Complexity, and the Human Sciences. Cresskill, N.J: Hampton Press.

Swilling, M., 2013  Economic Crisis, Long Waves and the Sustainability Transition: An African Perspective, in Environmental Innovation and Societal Transitions, vol.6, pp.96–115.

  https://doi.org/10.1016/j.eist.2012.11.001.

———. 2019  Long Waves and the Sustainability Transition, in Handbook of Green Economics, Elsevier, pp.31–51.

  https://doi.org/10.1016/B978-0-12-816635-2.00003-1.

津田真人, 2019 『「ポリヴェーガル理論」を読む――からだ・こころ・社会』星和書店。

World Economic Forum,2023  The Global Risks Report 2023 18th edition. Switzerland: Cologny/Geneva.

  https://www.weforum.org/reports/global-risks-report-2023/digest

 

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