チハルだより

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物書きの勇気

2009-09-16 | エッセイ


〈おはなし作り〉は、わたしにとって、子どものころからの、お気に入りの遊びのひとつ。それを本気で仕事にしたいと思うようになったのは、いまから十三年ほど前、長女が生まれてまもなくのことでした。
 幸運に恵まれて、思いがけずデビューも叶い、物書きとして、童話や絵本の世界に携わることができるようになりました。この世界ならではの驚きに、出会うことにもなりました。
 たんに〈おはなし〉の原稿を書くことのみが、わたしの役目なのだと思っていたら、あらまぁそんなと、ひるむこともあるのです。
 たとえば、人様の書いたものを拝見し、コメントしたり、選考したり。わたしなどがと思いつつ、きっと心をこめて書かれただろうお作です、わたしなりの精一杯で、お応えしていくしかありません。
 これまで読ませていただいたお作の数は、まだいくらもありはしませんが、それでも、感じるところはあるのです。上手な文章を書こうとすること以上に、子どもを知ろうとすることに、書き手がもっと心を注げば、いい作品が、ますます生まれるんじゃないのかなあ、と。
 子どもを知ったつもりになって書くことも、考えものだとは思うのです。経験が、じゃまをする場合だってあるでしょう。
 毎月発行されているフレーベル館の保育絵本、キンダーブックで、わたしはいま、〈生活おはなし〉の連載を受け持っています。かつての保育士経験が生きることは、もちろん少なくありません。ただ、おもしろい〈おはなし〉を書こうとすればするほどに、経験や、歳月の流れとともに、しなやかさから遠ざかっていく観念が、立ちはだかってくるようです。そこを飛びこえ、はばたく勇気が必要になってくるのです。
 やはり月刊保育絵本を発行するチャイルド本社から出た自作『ふたごのあかちゃん』は、なけなしの勇気が功を奏したものでしょうか、ひさかたチャイルドより、シリーズ第2弾となる『ふたごのあかちゃんとにげたとら』が、書店に並ぶようになりました。
 時々ぐらつく勇気をそのたび支えてくれたのは、ナチュラルに絵本を愛し、楽しんでくれるたくさんの読者さん。日常と、日常を飛びこえた、ゆかいな世界のバランスを見つめてくださった編集さん。そして、魅力あふれる楽しい絵を描いてくださった、はたこうしろうさん。はたさんのドラマティックな画面構成、キュートなキャラクター、本のすみずみまで行き渡るデザインセンスが、きらめく命を絵本に吹き込んでくれました。
 この世界、いい仕事をする方は、いい顔で、子どものそばに立っている…そんな気づきもありました。
 必然の人との出会いや、偶然の出来事が、なにかしら与えてくれるものを勇気に変えて、今日も書いていけたなら…。これは、ちっぽけな、ひとりの物書きのひとりごと。

■京都新聞 2009年9月8日 丹波版 口丹随想


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