わたし、ナナ。一年生。
学校から帰ると、公園へ毎日あそびにいくんだよ。今日は、ともだち、いるかなあ?
「おーい、ナナちゃん!」
あ、二年生のレンくんが一輪車にのってやってきた。両手を広げて、すいすいすーい。
「レンくん、かっこいい!」
レンくんは、一輪車からスタッとおりて、わらったよ。
「ナナちゃんも、のる?」
「えっ!」
のってみたい。でも……。
「ほら、かしてあげる」
レンくんが、一輪車をおしだした。水色の一輪車。レンくんの一輪車。キズがいっぱいあるけれど、かっこよくって、まぶしくて……、わたし、ぶるっと、あとずさり。
とたんに、つん!
はなに、なにかおちてきた。
「雨だ!」
レンくんは一輪車をかかえて走ったよ。わたしも、あとをおいかけた。野外ステージの屋根のしたで雨やどり。
公園から、どんどん人が出ていくよ。つばめもどこかへとんでいく。雨はステージの屋根をたたいてる。パンパンパン。なんだか、いじわるな音みたい。
わたしは空にあっかんべー。雨の音にまけないくらい、大きな声でしゃべったの。
「ねえ、レンくん!」
「なに、ナナちゃん?」
「一輪車、こわくない?」
「へ? なんで?」
「……ころぶでしょ?」
「う~ん、たまに、ね」
「いたいでしょ?」
「そりゃあ、ちょっとは」
「いたいの、いやでしょ? こわいでしょ?」
「こわくないよう。一輪車は、おもしろいんだ。ぼく、一輪車にのると、空をとんでる気分になるんだよ」
「空、とぶの?」
「うん。鳥みたいに、さ」
レンくんは一輪車にとびのって、ペダルをふむと、うでを広げて、すいすいすーい。ステージをまわりだす。
「ぬれちゃうよう!」
わたしの声にレンくんが、手をふった。その手のほうへ、つばめが一羽、とんできた。
レンくんは、ステージをすいすいすすむ。つばめは、レンくんのそばをとびまわる。つばめとレンくんのまわりだけ、雨が、ぴちぴち、ひかってる……。
わたしは目をとじた。こうすると、さっきまで、見えなかったものが見えるんだ。雨の音がとおくなる。だんだんと、わたしだけしか見えないものが見えてくる……。
ほら、ぴかぴかの一輪車。のっているのは、わたしだよ。うでを広げて、すいすいすーい。レンくんとつばめといっしょに、わたし、大きな空へとんでいく……!
「ナナちゃん、ナナちゃん、どうかした?」
レンくんが、いつのまにか、わたしの顔をのぞいていたよ。
「あのね、目をつぶって見ていたの。一輪車にのって、わたしも空をとんだんだ!」
「……それって、ゆめで一輪車にのったってこと? ほっへえ! かっこいいね!」
レンくんが、また一輪車をわたしのほうにおしだした。
「ね、ほんとうに、のってみる?」
どきっ。わたしは、むねをおさえたよ。それから、えいっと、うでをのばしたよ。
水色の一輪車にさわったとたん、パチパチパチ……! 雨の音が、かわったよ。
あかるいはくしゅみたいに聞こえたの。
■毎日新聞 <短編童話の競作シリーズ、企画・協力 後路好章> 2012年6月29日(金)掲載
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毎日新聞 (2012.6.29・金) に短編童話「ゆめ、すいすい」(石井勉・絵/北川チハル・文)が掲載されました☆
毎日新聞さんと石井勉さんのご快諾をいただいたので、当サイトにて、石井さんの大きなイラスト&おはなし全文、近々アップの予定です~!!
ただいま、毎日jpから、おはなしのみ、ご覧になれます↓
http://mainichi.jp/feature/news/20120629ddm013040022000c.html
TOKYO FM シナプス(パーソナリティ:やまだひさしさん 13:00-15:55)「よ・み・き・か・せ」(2012.6.20オンエア)で 野口聖古 さんが『もうすぐって どのくらい?』 <岩崎書店/ひだ きょうこ・絵/北川チハル・文> を読んでくださったようです!ありがとうございます☆
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