警視庁公安部・片野坂彰シリーズの第4弾! 書き下ろし作品で、2022年4月に文庫本が刊行された。このシリーズでは直近の作品である。1年に1作ペースだとすると、数ヶ月後に次作が登場するかもしれいない。
この第4作はタイトルに出てくる通り、海域が舞台となる。結論を言えば、片野坂を含め公安部長付特別捜査班の4人のチームが引き起こす日本海海戦ストーリーである。
さて、このストーリー、プロローグは、片野坂彰が日本海沿岸を視察する旅から始まる。冒頭は能登半島北海岸の中央地点で「日本の原風景」と称される「白米千枚田」から海を眺める場面である。石川県警公安課の渡邉上席管理官が片野坂を案内する。海を遠望しつつ、渡邉の質問に対し、片野坂は西から順に並べて、猿山岬灯台、旧海軍望楼跡、竜ヶ崎灯台、禄剛埼灯台を確認したい、それは「警察的というよりも、防衛的観点なんですね・・・」という。片野坂は日本海海戦の虞を念頭においていた。
第一章は場面が一転する。特別捜査班班長香川潔が、法曹会館のグリルで警察学校時代の同期生で静岡県警の公安課補佐から相談を受ける場面から始まる。ロシアや旧東欧諸国さらに中国からの外国人女性を紹介する地域密着型の結婚相談所が絡む問題だという。妙な連鎖反応を起こして、温泉繋がりの都市に広がっているという。協力者情報では、ある市職員が自称ベラルーシ出身で結婚を急ぐ相手に押し切られる形で結婚したという。結婚相談所と役所を結ぶ国際結婚、この件に香川は危うさを感じ、他府県への波及も調べる必要を意識し始める。どこかのシンジケートが対日有害活動を目的にしているのではないかと。望月が基礎的な国際結婚データ収集を担当し、そのデータをもとに欧州に居る白澤が詳細な解析を始める連携プレーが始まっていく。
連携プレーによるデータ収集と分析から、全体像が浮上してくる。けっこう興味深い論議点が出てくる。だが、これがどう発展するのかと思いきや、彼ら特別捜査班にとっては、副次的事案となっていく。まずこのことがおもしろい。特別捜査班にとっては問題事象の洗い出しが中心になるのだ。
今回のストーリーの興味深いところは、彼らの殆どの活動舞台が海外になることである。
片野坂の戦略に基づいて、それぞれが密かな任務を持ち、3週間前後の日程で個別のルートによりシベリア鉄道経由にてドイツに入る。そこで白澤を含め4人が合流する計画である。このストーリーはそれぞれの個別な経路とそこでの行動を描写していく。
では、各人がどんなルートを辿ることになるのか。行動ルートを簡単にご紹介しておこう。今回のストーリー展開のスケールがおわかりになり、ちょっと惹きつけられる力が強まるのではないかと思う。
片野坂:北京⇒ ワシントンDC⇒ ベルリン
香川:ウラジオストク⇒ 空港・軍港の視察⇒ シベリア鉄道⇒ ウラン・ウデ⇒
イルクーツク⇒ ノヴォシビルスク⇒ モスクワ⇒ ベルリン
望月:北京⇒ 曲阜市⇒ 大連(葫芦島市)⇒ 青島⇒ 北京⇒
内モンゴル自治区経由モンゴル縦貫鉄道⇒ ウランバートル⇒ ウラン・ウデ⇒
シベリア鉄道⇒ イルクーツク⇒ ノヴォシビルスク⇒ エカテリンブルグ⇒
モスクワ⇒ チューリッヒ⇒ ベルリン
勿論、片野坂の指示によるミッションは、原子力潜水艦や軍事関連施設、軍事関連製造工場施設・・・の視察である。この辺り、その実現可能性が現実にどこまであるかはまったく私には想像もできない。インテリジェンス小説・フィクションとしては、興味深くてかつおもしろい。そういう施設設備等の所在地自体は多分リアルな情報を踏まえてフィクション化されているのだろうと推測する。
このストーリーで興味深いのは、望月に中国から尾行者がつきまとうことである。そしてベルリンで命を狙われる可能性が高まるという窮地に立ち到る。
ベルリンでの4人の合流は、片野坂が急遽スイスのツェルマットでの合流に切り替える。片野坂と香川にとって、ベルリンは望月を窮地から脱出させる場に転換する。どのようにして? それは読んでのお楽しみである。
「第八章 日本海海戦」は最終ステージとなる。だがわずか10ページ。実にその発想がおもしろい。フィクションならではのおもしろさといえる。
さて、この作品は登場人物たちが日本に絡んだ世界各国の情勢分析、日本国内の諸事象の情報分析について頻繁に会話するという特徴がある。勿論、公安的視座からの情報提示であり、情報分析である。今回は特に軍事面での現状分析の比重が高くなっていく。
ここに提示される情報は、ほぼリアルタイムの同時代性をもつ。基本的な情報は事実を踏まえていることと思う。そこにフィクションがどれだけ入っているのかは判断のしようがない。ほとんどの提示情報は実で、ストーリーは虚であると言えるのかもしれない。
このフィクションを楽しむ一方で、読者にとってこの情報分析が副次的に現在の状況を認識するための思考材料となる。私はこれらの会話を特に興味深く読んでいる。
著者は過去の歴史を踏まえた上でリアルタイムな情勢分析を提示したいために、フィクションとしてこの小説を書いているのではないか、とすら感じる。それくらい、情勢分析・情報分析に関わる会話がストーリーの中で大きな比率を占めている。
もう一つの特徴は、飲と食にまつわる蘊蓄話が各所に盛り込まれてくことにある。ヒューミントを重視する片野坂のプロフィールと関係しているのかもしれない。特別捜査班の3人もまた食通の側面を持つキャラクターに設定されていて、おもしろい。初めて知る食通話には興味津々となる。飲と食の領域は奥が深そう・・・・・。
最後に、印象深い箇所を引用しておこう。
*最低賃金は低く算定され、生活保護基準は高く算定されるように仕組まれているからだ。 p65
*情実人事は人を不幸にして、組織も弱体化させるものなんだよ。 p85
*・・・・・話が飛んだり横道に逸れたりするのではなくて、話を展開しているんだ。現状が逼迫している時にはそうはならないが、話題の展開は高所、大所から事案を考える時に、相関図を作るのと一緒で、どこかで繋がりが出てくることがあるから面白いんだ。 p97
*例えば、今の日本の道路事情は完全に中国に把握されています。特にタクシーの配車に関するデータは全国百パーセント管理されていると言っても過言ではありません。 p114
*そもそも「戦狼(Wolf of war)」とは、人民解放軍特殊部隊出身の主人公が、反政府側のテロリストを退治する・・・・という、ハリウッド映画「ランボー」をパクって、中国国内では売れた、中国映画のタイトルである。これはハリウッド映画の戦争モノ同様に、国家の意向を汲んだプロパガンダ映画の意味合いがあった。 p293
*日本人らしさというのは、確かにいい面も多いのですが、自分で自分のことを決断する主体が欠けているところが最大の問題だと思います。その点で言えば、スイス人は違います。1920年に国際連盟に原加盟国して加盟し、その連盟本部がジュネーヴに設置されたにもかかわらず、UNに加盟したのは2002年ですからね。永世中立国をUN、つまり連合国に否定されていたことに対する強い信念を持っていたのです。 p365
インテリジェンス小説として興味深くおもしろい。
ご一読ありがとうございます。
補遺 関心の波紋を広げた情報。このストーリーには直結しない情報も含む。
大野伴睦 :ウィキペディア
中川一郎 :ウィキペディア
秋元議員に懲役4年実刑判決 IR汚職事件 東京地裁 :「NHK」
IR汚職「資金提供業者」と2ショット入手! 宮崎政久法務政務官の説明に疑義
:「文春オンライン」
「8050問題」の本当の原因とは? 親子共倒れの悲劇を生まないためにできること
:「tayorini」
高齢化で「8050」から「9060」問題へ :「産経新聞」
ロシア対外情報庁 :ウィキペディア
ロシア及び中国による対日有害活動等 :「警察庁」
北朝鮮による対日有害活動 :「警察庁」
「在日特権」の虚構 弁護士会の読書 :「福岡弁護士会」
アンビルトの女王、ザハ・ハディドってどんな人? :「GIZMODO」
時代が追いついた「アンビルトの女王」ザハ・ハディドの美学|東京建築物語(第6回)
:「JBpress オートグラフ」
ゴルフ型潜水艦 :ウィキペディア
北朝鮮 SLBMの発射準備か 米研究グループ分析 :「NHK」
潜水艦発射弾道ミサイル :ウィキペディア
KSS-III submarine From Wikipedia, the free encyclopedia
島山安昌浩級潜水艦 :ウィキペディア
APT10とは :「SOMPO CYBER SECURITY」
中国を拠点とするAPT10といわれるグループによるサイバー攻撃について
(外務報道官談話) :「外務省」
恒大集団 :ウィキペディア
戦狼外交 :ウィキペディア
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「遊心逍遙記」に掲載した<濱 嘉之>作品の読後印象記一覧 最終版
2022年12月現在 35冊
この第4作はタイトルに出てくる通り、海域が舞台となる。結論を言えば、片野坂を含め公安部長付特別捜査班の4人のチームが引き起こす日本海海戦ストーリーである。
さて、このストーリー、プロローグは、片野坂彰が日本海沿岸を視察する旅から始まる。冒頭は能登半島北海岸の中央地点で「日本の原風景」と称される「白米千枚田」から海を眺める場面である。石川県警公安課の渡邉上席管理官が片野坂を案内する。海を遠望しつつ、渡邉の質問に対し、片野坂は西から順に並べて、猿山岬灯台、旧海軍望楼跡、竜ヶ崎灯台、禄剛埼灯台を確認したい、それは「警察的というよりも、防衛的観点なんですね・・・」という。片野坂は日本海海戦の虞を念頭においていた。
第一章は場面が一転する。特別捜査班班長香川潔が、法曹会館のグリルで警察学校時代の同期生で静岡県警の公安課補佐から相談を受ける場面から始まる。ロシアや旧東欧諸国さらに中国からの外国人女性を紹介する地域密着型の結婚相談所が絡む問題だという。妙な連鎖反応を起こして、温泉繋がりの都市に広がっているという。協力者情報では、ある市職員が自称ベラルーシ出身で結婚を急ぐ相手に押し切られる形で結婚したという。結婚相談所と役所を結ぶ国際結婚、この件に香川は危うさを感じ、他府県への波及も調べる必要を意識し始める。どこかのシンジケートが対日有害活動を目的にしているのではないかと。望月が基礎的な国際結婚データ収集を担当し、そのデータをもとに欧州に居る白澤が詳細な解析を始める連携プレーが始まっていく。
連携プレーによるデータ収集と分析から、全体像が浮上してくる。けっこう興味深い論議点が出てくる。だが、これがどう発展するのかと思いきや、彼ら特別捜査班にとっては、副次的事案となっていく。まずこのことがおもしろい。特別捜査班にとっては問題事象の洗い出しが中心になるのだ。
今回のストーリーの興味深いところは、彼らの殆どの活動舞台が海外になることである。
片野坂の戦略に基づいて、それぞれが密かな任務を持ち、3週間前後の日程で個別のルートによりシベリア鉄道経由にてドイツに入る。そこで白澤を含め4人が合流する計画である。このストーリーはそれぞれの個別な経路とそこでの行動を描写していく。
では、各人がどんなルートを辿ることになるのか。行動ルートを簡単にご紹介しておこう。今回のストーリー展開のスケールがおわかりになり、ちょっと惹きつけられる力が強まるのではないかと思う。
片野坂:北京⇒ ワシントンDC⇒ ベルリン
香川:ウラジオストク⇒ 空港・軍港の視察⇒ シベリア鉄道⇒ ウラン・ウデ⇒
イルクーツク⇒ ノヴォシビルスク⇒ モスクワ⇒ ベルリン
望月:北京⇒ 曲阜市⇒ 大連(葫芦島市)⇒ 青島⇒ 北京⇒
内モンゴル自治区経由モンゴル縦貫鉄道⇒ ウランバートル⇒ ウラン・ウデ⇒
シベリア鉄道⇒ イルクーツク⇒ ノヴォシビルスク⇒ エカテリンブルグ⇒
モスクワ⇒ チューリッヒ⇒ ベルリン
勿論、片野坂の指示によるミッションは、原子力潜水艦や軍事関連施設、軍事関連製造工場施設・・・の視察である。この辺り、その実現可能性が現実にどこまであるかはまったく私には想像もできない。インテリジェンス小説・フィクションとしては、興味深くてかつおもしろい。そういう施設設備等の所在地自体は多分リアルな情報を踏まえてフィクション化されているのだろうと推測する。
このストーリーで興味深いのは、望月に中国から尾行者がつきまとうことである。そしてベルリンで命を狙われる可能性が高まるという窮地に立ち到る。
ベルリンでの4人の合流は、片野坂が急遽スイスのツェルマットでの合流に切り替える。片野坂と香川にとって、ベルリンは望月を窮地から脱出させる場に転換する。どのようにして? それは読んでのお楽しみである。
「第八章 日本海海戦」は最終ステージとなる。だがわずか10ページ。実にその発想がおもしろい。フィクションならではのおもしろさといえる。
さて、この作品は登場人物たちが日本に絡んだ世界各国の情勢分析、日本国内の諸事象の情報分析について頻繁に会話するという特徴がある。勿論、公安的視座からの情報提示であり、情報分析である。今回は特に軍事面での現状分析の比重が高くなっていく。
ここに提示される情報は、ほぼリアルタイムの同時代性をもつ。基本的な情報は事実を踏まえていることと思う。そこにフィクションがどれだけ入っているのかは判断のしようがない。ほとんどの提示情報は実で、ストーリーは虚であると言えるのかもしれない。
このフィクションを楽しむ一方で、読者にとってこの情報分析が副次的に現在の状況を認識するための思考材料となる。私はこれらの会話を特に興味深く読んでいる。
著者は過去の歴史を踏まえた上でリアルタイムな情勢分析を提示したいために、フィクションとしてこの小説を書いているのではないか、とすら感じる。それくらい、情勢分析・情報分析に関わる会話がストーリーの中で大きな比率を占めている。
もう一つの特徴は、飲と食にまつわる蘊蓄話が各所に盛り込まれてくことにある。ヒューミントを重視する片野坂のプロフィールと関係しているのかもしれない。特別捜査班の3人もまた食通の側面を持つキャラクターに設定されていて、おもしろい。初めて知る食通話には興味津々となる。飲と食の領域は奥が深そう・・・・・。
最後に、印象深い箇所を引用しておこう。
*最低賃金は低く算定され、生活保護基準は高く算定されるように仕組まれているからだ。 p65
*情実人事は人を不幸にして、組織も弱体化させるものなんだよ。 p85
*・・・・・話が飛んだり横道に逸れたりするのではなくて、話を展開しているんだ。現状が逼迫している時にはそうはならないが、話題の展開は高所、大所から事案を考える時に、相関図を作るのと一緒で、どこかで繋がりが出てくることがあるから面白いんだ。 p97
*例えば、今の日本の道路事情は完全に中国に把握されています。特にタクシーの配車に関するデータは全国百パーセント管理されていると言っても過言ではありません。 p114
*そもそも「戦狼(Wolf of war)」とは、人民解放軍特殊部隊出身の主人公が、反政府側のテロリストを退治する・・・・という、ハリウッド映画「ランボー」をパクって、中国国内では売れた、中国映画のタイトルである。これはハリウッド映画の戦争モノ同様に、国家の意向を汲んだプロパガンダ映画の意味合いがあった。 p293
*日本人らしさというのは、確かにいい面も多いのですが、自分で自分のことを決断する主体が欠けているところが最大の問題だと思います。その点で言えば、スイス人は違います。1920年に国際連盟に原加盟国して加盟し、その連盟本部がジュネーヴに設置されたにもかかわらず、UNに加盟したのは2002年ですからね。永世中立国をUN、つまり連合国に否定されていたことに対する強い信念を持っていたのです。 p365
インテリジェンス小説として興味深くおもしろい。
ご一読ありがとうございます。
補遺 関心の波紋を広げた情報。このストーリーには直結しない情報も含む。
大野伴睦 :ウィキペディア
中川一郎 :ウィキペディア
秋元議員に懲役4年実刑判決 IR汚職事件 東京地裁 :「NHK」
IR汚職「資金提供業者」と2ショット入手! 宮崎政久法務政務官の説明に疑義
:「文春オンライン」
「8050問題」の本当の原因とは? 親子共倒れの悲劇を生まないためにできること
:「tayorini」
高齢化で「8050」から「9060」問題へ :「産経新聞」
ロシア対外情報庁 :ウィキペディア
ロシア及び中国による対日有害活動等 :「警察庁」
北朝鮮による対日有害活動 :「警察庁」
「在日特権」の虚構 弁護士会の読書 :「福岡弁護士会」
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時代が追いついた「アンビルトの女王」ザハ・ハディドの美学|東京建築物語(第6回)
:「JBpress オートグラフ」
ゴルフ型潜水艦 :ウィキペディア
北朝鮮 SLBMの発射準備か 米研究グループ分析 :「NHK」
潜水艦発射弾道ミサイル :ウィキペディア
KSS-III submarine From Wikipedia, the free encyclopedia
島山安昌浩級潜水艦 :ウィキペディア
APT10とは :「SOMPO CYBER SECURITY」
中国を拠点とするAPT10といわれるグループによるサイバー攻撃について
(外務報道官談話) :「外務省」
恒大集団 :ウィキペディア
戦狼外交 :ウィキペディア
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「遊心逍遙記」に掲載した<濱 嘉之>作品の読後印象記一覧 最終版
2022年12月現在 35冊