長崎の港の沖に停泊する唐船。
その船に乗る神頭有右生(こうず ゆうせい)髙嶋政宏 から、立ち退きの条件に水と食料を要求された長崎奉行:井戸対馬守覚弘(いどつしまのかみさとひろ)石黒賢 は、神頭が交渉人に指名した森山栄之助(もりやま えいのすけ)小池徹平 に交渉を任せ、いざという時は砲撃も辞さないで欲しいという栄之助の進言を受け入れることにした。
夕暮れが迫る頃、神頭の仲間である吉次(きちじ)サンディー海 が、船内に降りてくる。
神頭と伊嶋壮多(いじま そうた)永瀬廉 に
知り合いだというもんが、2人に会いたかと。
そう知らせに来たのだ。
放して!
中国語で聞こえてくる女性の声、それはトリ(都麗)久保田紗友 だった。
唐人屋敷の人間と一緒に来たらしい。
壮多がどうしてここに来たのか尋ねると、「自分だって船くらい漕げる」と思いつめた様子で話す。
壮多にしがみつき
なして、なしていきなりおらんことになったと。
そう言って、涙声で壮多の胸を叩く。
その様子を眺める神頭、自分の好きな長崎(人)もまだ残っていると感じる。
すまん、どうするつもりだ。こんなとこまで来て。
解らん、夢中やったけ、ようわからん。
ばってん、もう置き去りとはいやばい。
うちも行くっ!
壮多、その言葉に驚く。
ダメだという壮多と押し問答になるトリ。
すると唐人屋敷の男が、
また船が来た、今度は奉行所の使いだ。
そう言って、奉行所手配の船が近づいていることを知らせる。
お奉行所の船。
その言葉に、神頭は自分への交渉に奉行所が動き出したことを察する。
栄之助が交渉人として、奉行所手配の小舟に乗ってやってくる。
吉次の案内で、栄之助が船内に入って来た。
蝋燭の明かりの元、テーブルを挟んで栄之助と壮多が座り、奥には挑むような顔の神頭がいた。
森山さん、俺は長崎を出ます。
アナタにはそれを告げようと思って・・・。
たったそいだけのこと、なしてこげん大事にせんといけんとか。
こうでもしなければ、この町はまた全て無かったことにする。
俺のことも、父のことも・・・。
長崎ば恨んどるとか。
お前の父親ば亡かもんにした。
ずっと思ってた、なんで俺はこの町に来たんだろう。
異国の船と、異国の言葉と、嗅いだことのない匂い。
よそ者が入ってはいけない島、路地。
でも、俺はここで神頭さんに会った。
トリや未章(みしょう)トラウデン都仁 や 清十郎(おおた せいじゅうろう)浅香航大 にも会った。
同じことで怒ったり笑ったり、助けに来てくれる仲間に会った。
そのときふと思ったんです。
あぁ、きっと父も同じものを見ていたんだろうなぁ。(壮多はにかむように微笑む)
そのときやっと、この町に来て良かったと。
俺は確かにこの町にいた、父もここで生きた。
だからここから船出がしたいんです。
改めて言う、速やかにここを去れ。
船ば明け渡せ。
明け渡すぅ~?
先生(神頭、ロウソクの灯でパイプに火をつける)これ、俺の船なんですよ。
知っとる、こん船はマカオでお前が住んどった船たい。
マカオ?
こん船が家?
昔、マカオで聖書ば和解した男がおった。(栄之助、神頭の座る部屋に進み出る。)
男は、日本からの漂流民やった。
神頭さん、アンタのことたい。(神頭、渋い顔をする。)
先生が、漂流民?
神頭さんは渡さないっ。
ならんっ!
こん男は、長崎の内情ば広め日本ばかく乱させようという反逆者たいっ。
この人は、船乗りだっ!
流された海の上でなにもかも失くして、それでも生きようとした。
森山さん、日本に大砲は向けない。異国にこの国の内情は売らない。
俺がこの人にそんなことはさせない。
だから、ただ沖へ。ただ遠くへ漕ぎ出そうとするこの船に、水と食べ物を与えてくれませんか。
そげん港はこの日本の何処にもなかっ。
もう一度言う、奉行所は・・・
国や奉行に言ってるんじゃないっ、森山栄之助・・・俺はアナタに言ってるんだ。
その頃、奉行所では
長崎奉行所の船掛:白井達之進(しらい たつのしん)宮川一朗太 から、対馬守に「神頭の船に火薬が持ち込まれそうだった。」という一方が入る。
白井が一刻も早く手を打つべきだと対馬守に進言するが、奉行は栄之助に任せたのだからまだ攻撃するべきではないという。
だが、このままでは町が危うくなると言う白井に、大通詞で蘭語通詞会所の長:杉原尚蔵(すぎはら しょうぞう)矢島健一 が森山は元より覚悟の上なので、配慮は無用であると白井に強く同調する。(だから、おまいう?)
船内では
おいはこん町で生まれて育った。
お前のような、こん男のような悲しみも痛みも、おいにはなか。
やけん、オマエの傷はおいにはよう解らん。
ばってん・・・
おいはもっと、オマエと話がしたか。
違う生まれ・違う言葉・違う目の色、通詞ていうのは違うもんをひとつひとつ繋いでいくのが生業たい。
おいはもっと、オマエと語りたか。
おいのことが、こん町のことが憎かなら尚更、刀や鉄砲ばで向き合うとやなか。
言葉で近づきたかっ。
おいは通詞やけん。
帰れ、船出す。
水も食い物も要らねえ。
おめえ(壮多)も降りろっ!
俺は施しが欲しいんじゃねぇ、ぶんどりたいんだよっ!
神頭はいきがって見せ、壮多に肩でぶつかって行く。部屋中のものを蹴散らして、荒んでみせる。
オメエらに解るかぁ~、海の上を漂うってことがどういうことかよぉぉ~っ、んぁぁぁ~っ!
嵐ん中、帆柱切り倒して己の手で行き先絶つんだよっ!
仲間を失くし、望みを失くし、涙を失くし、心を失くす。
このとき、船に向かって火のついた矢が放たれていた。
物と交換され、船底で言葉覚えて・・・下等な言葉でっ。(膝まづいて物乞いの仕草をする。)
食い物くれ、水が飲みてぇ、小便さしてくれぇ、売らないでくれぇ、殺さないでくれぇ~この通りだぁあぁ。
(そう言って土下座する神頭、止めて欲しいとトリは泣き出す。)
言葉で近づくだとぉ、お前らに俺の言葉が解るのかぁ、俺の下等な言葉が通じんのかよっ、んぁぁぁっ!
生きるための言葉が、下等な筈ないっ!
何だとぉ。
生きようとしたアナタが、卑しい筈ない。
食べ物をくれ、水をくれ、小便がしたい、殺さないでくれ。
全部、全部生きるために大切な言葉じゃないかっ!
その時、船に向かって大砲の音が鳴り響き、船上から上がる火の手で
船内は煙が立ち込めてくるのだった。
甲板に上がる神頭に、吉次はこの船が囲まれていることを告げる。
船にはもう、あちこちに火のついた矢が刺さっており、危険な状態となっていた。
本日はここまで
第4話の4になって、やっと吉次に台詞がついてきました。
結構流ちょうに喋るし(ぇ、吹替かもよ
アクションも様になってましたね。
次回は松本いよいよラストです。