Light in June

文学やアニメ、毎日の生活についての日記。

ももへの手紙

2012-04-24 22:46:49 | アニメーション
『人狼 JIN-ROH』の沖浦啓之の監督作『ももへの手紙』を観てきました。とても丹念且つ丁寧に作られていて、好感を持てますが、とりわけ前半はやや退屈で進行のテンポが緩やか過ぎるきらいもあります。そこが好悪の分かれ目ともなっているようでもありますが、しかし退屈な映画が全て悪い映画ではないように、この作品も非常に完成度の高い佳品であることは確かです。退屈だからつまらない、駄作だ、と決めつけるのは、さすがに稚気じみていますからね。

『ももへの手紙』を水の表象と絡めて論じた(たぶん専門家の)レビューがネットに上がっていましたが、それはぼくも強く感じました。作画監督の安藤雅司は、かの『千と千尋の神隠し』でも作画監督を務めた超優秀なアニメーターですが、この『千と千尋』という作品でも重要なモチーフとなっていたのは「水」でした。この点について既にぼくはブログで記事にしたこともありますが、ハクが河の主であったことに思いを致せば、少なくともそこに水との何らかの関わりを予想できるのではないかと思います。しかし今はこの点は措き、『ももへの手紙』について。『千と千尋』と『もも』との間には、元来テーマ上の類縁性はないはずなので、そこはあえて強調しませんが、『もも』における水のイメージの氾濫は余りにも明瞭です。瀬戸内海に抱かれる島、通過儀礼としての飛び込み、藁舟の海への奉納、クライマックスの嵐、そして海洋調査をしていた父。海で亡くなった父親からの便りが、海からもたらされるのも必然で、水に関する事象が全てこの映画では有機的に繋がっています。

この点を踏まえた上で、ぼくはこれから飛躍に飛んでいるかもしれない解釈をしたいと思います。別に研究しているわけではないのだから、自由な感想くらいいいよね。

映画全編に漲るこうした「水」のイメージは、結局のところ「涙」に集約されるのではないかと感じました。いわば、この映画は母娘が素直に涙を流すことができるまでの過程を描いているのではないか、と。喧嘩したまま父を失くしてしまったももは、映画の前半ではほぼ常に憮然としていて、涙も笑顔も見せない。その硬直した表情が崩れるのは「3人の妖怪」との出会いによってです。一方で母親も、娘には決して涙を見せようとせず、無理をして生活をしている。彼女たちが自然に涙を流せるようになるのは、「妖怪」たちが去った後です。つまり、「3人の妖怪」は母娘に涙をもたらしたと言えるのではないでしょうか。というより、もっと正確に言うならば、この「妖怪」たちは涙そのものでした。彼らがいわゆる妖怪ではないことは作中で説明されていますが、ではその実体は何なのか、ということはついに解き明かされません。ぼくは、彼らは父の涙なのだという思いを払拭することができません。亡き人の代わりに地上に残された人を見守る彼らは、水滴となって落ちてきましたが、それは父親の零した涙であるように思われて仕方ないのです。父親の涙が母娘の心を溶かしてゆく。したがって、「ももへ」とだけ書かれた手紙の続きは、涙=「妖怪」たちとの心の交流に全て言い尽くされており、最後に認められた父の言葉は、涙が乾くように跡形もなく消えてしまいます。

他にも多くの論点や視座があると思いますが、ぼくの感想の要点はこのくらいで。前半はいささか退屈かもしれませんが、よい映画ですよ。

apology

2012-04-24 00:47:10 | 音楽
amazarashiのニューアルバム『ラブソング』のジャケットから、ついにテルテルが姿を消した。これは何を意味するのだろうと思って、新曲『アポロジー』を聴いた。

新境地、と言えば分かりやすいけど、つまるところこれは、世界との和解だ。アポロジー、すなわち「ごめんなさい」をちゃんと言えるかどうか。世界に「ごめんなさい」と言えるかどうか。「どんなに嫌ってもただぼくを受け入れてくれた世界に ごめんなさい ちゃんといえるかな ごめんなさい ちゃんといえるかな ごめんなさい ちゃんといわなくちゃ」。

これで、ライブのタイトルの意味も明瞭になった。もしかしたら、まもなく秋田ひろむさんは文字通りヴェールを脱ぐかもしれないな。

『千年幸福論』がこれまでの集大成だったとしたら、『ラブソング』はたぶん新たな出発点になるはず。「やさしいラブソングをBGMに ラジオのパーソナリティが言う」と『カルマ』では皮肉に歌われたラブソングが、ここではどのように歌われるのだろう。とても気になる。

誰かのために生きるなんてできなかったぼくらのアポロジー
自分勝手に生きるぼくを全て許してくれたあの娘に
いつまでたっても変われない平凡なぼくらのアポロジー
どんなに嫌ってもただぼくを受け入れてくれた世界に

それにしても、聞き取りやすい声。最後の絶叫は鳥肌ものです。