おはなしきっき堂

引越ししてきました。
お話を中心にのせてます。

ラーメンの神様、再び

2023年03月26日 | 神様シリーズ
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会社を辞めた。
営業課長という名ばかりの役職で残業はつかず毎日深夜まで働かされる。
ところが、一人の社員が辞めたのがきっかけで次々と退職者が出た。
手に職がある現場の社員が主だったが、俺もある時ふと
「なにやってるんだろう」と言う気持ちになった。

残業ばかりで、また給料も安く妻はパートで働きながら一人で子育てを頑張っていた。
子どもが小学生になったのを機にその働きを認められて社員にとなった時点で、俺は多分彼女にとってお荷物になったらしい。
ある日、家に「しばらく少し考えたい」というメモを残して子どもと一緒に実家に行ってしまった。
実家と言っても近く、今までどうやら実家の両親に子育ての事も手伝ってもらっていたらしい。

メモを見て慌てて迎えに行くも、彼女の両親に「娘と孫はしばらくこっちで見るから」と言われて追い返された。

一人深夜に帰り、コンビニの弁当を開く。
しばらくその生活が続くと口の中が荒れてくるようになった。
洗濯物もたまりまとめて休日にするが、1週間置いた洗濯物の臭いはなかなかとれない。

妻はパートで働いているから、俺より働いている時間が少ないと思っていたのは大間違いだった。
コンビニ弁当にあき、たまに自分で料理を作ろうと思うも手際が悪く時間がかかりすぎる。
洗濯物はそういえば、彼女は毎日俺と子どもと自分のを毎日仕事前に干していた。
毎日の食事は欠かさず作り、子どもの世話を見て、掃除をする。
そして、パートとはいえ働いていた。
なんともすごい。

俺は帰宅して子どもと遊んでいる彼女を見て
「いいよな。遊んでいる時間があって」
などとひどい言葉を言った事も思い出した。

あれは遊んでなくはなく、子どもの面倒を見ていたのだ。
それを彼女が作った料理を食べながら、テレビを見て「疲れているんだから静かにしろよ」とかも言った事もあった。

叫びだしたい気分になった。

その時会社を辞めようと思った。
他の企業から即戦力として雇ってもらえる現場職ではなく、何もない営業職。
「取引先」というお土産を持っていけるほどの実績もない。

でも、辞めようと思った。

会社に退職届をだしたが、かなり引き留められた。
それでも、今までの「サービス残業」の記録をだし、辞めさせてもらえなければこれを持って訴えると言うと渋々受け取った。

辞めてから数日間は、どっと疲れが出て1日中寝ていた。
その寝てばかりの日からやっと復活をしてあたりを見回すと家の中がものすごくあれていた。
大掃除をした。
料理を頑張ってみた。
特にはまったのがラーメン作り。
焼き豚やだしなども一から作り、かなり自分でも美味しく出来て、妻や子どもにも食べさせてみたいと思った。
なぜ、今までしなかったのか?
よく「子育て・家事を協力している」と言うのも聞くがそれは大間違いだった。
なぜ、妻が主でしないと駄目だと思ってしまったのか。
本当は一緒にしないと駄目だったのだ。

家の中が綺麗になり、心の中もすっとしてやっと出かける気持ちになった。
出かけると行ってもハローワークだ。

いろいろな手続きをして、端末で求人の検索をする。
俺のような何のスキルもない男の条件でヒットするのは本当に少ない。

とりあえず今日はここまでにしておこうと建物の中を出ると同僚だった山藤君の姿が見えた。
そういえば、前の会社の最初の退職者が彼だった。
彼がきっかけでどんどん退職者が出たような感じだった。

向こうも気が付いたようで近づいてきた。
いろいろな情報交換をしようという事でそこにあったマックに入る。
喫茶店にと思ったが、今無職の状態で1杯何百円もするのはちょっといたい。

安いコーヒーを注文してお互いの状況を確認する。
彼は、どうやら結婚するらしい。
そして、彼女の実家の農園の仕事を手伝うのだと言っていた。
彼の顔は明るかった。

「軌道に乗ったらぜひ遊びに来てくださいね」と言う彼の言葉でお互いの連絡先を交換した。

帰路につくともうかなり遅くなっていた。
コンビニ弁当を買って帰ろうかと思ったが、ふと目に入った店に吸い寄せらせるように入っていった。

「中華そば 神林」

本当はこういった外食も控えた方がいいんだが、なんだか無性に食べたい。
店から誰かが呼んでいる感じがする。
ただ、メニューを見るとかなり安くコンビニ弁当を買うよりいいかと思った。
このところ自分でラーメンを作っているせいもあるかもしれない。

メニューはシンプルにラーメンとチャーハンと餃子だけ。
町中華って言うのかな。

「ラーメンとライス」と注文をすると70代ぐらいのおやじが

「はいよ!」と威勢よく言った。
出てきたラーメンはとてもシンプルだった。
でも、すごくほっとする味だった。
やはり自分で作るよりずっと美味しい。

ふうーと満足げなため息が出たときだった。

横から声がした。

「君、ラーメンを作りなさい?」

えっ?

ふと横を見ると・・・

仙人のようなじいさんがいた。

「えっ?」

じいさんが言った。

「わしはラーメンの神様じゃ」

えっ?えっ?えっ?

じいさんが俺の肩をポンポンたたいた。

「わしが一から教えるからラーメンを作りなさい」

俺はその手を振り払った。

その時店主がこっちを向き言った。

「あー、ごめんねーお客さん。そいつたまに現れてラーメン作りが好きそうなお客さんに声かけるんだ。厄介だから断って。それでそいつお客さん以外には見えてないから」

はあ???
また、じいさんが言う。

「ラーメン作れ、わしの言う通りラーメン作れ」

厨房の奥から若い男性が出てきた。

「俺も声かけられたんすよ。あっ、この店の息子です。親父から聞いていたから相手にしないできっぱり断ったんだですけどね。断ったら見えなくなりますよ」

店主が話してくれた。
なんでも店主は一時期このじいさんの言う通りのラーメンを作り続けていそうだが、ある日疑問を持って決別したらしい。
このじいさんの言う通りに作っていたらコストがかかりすぎるし、寝る暇もなくなる。
そして、流行っていた店をたたみ一から修行をやり直してこの店を作ったらしい。

「人間ね、いくら好きだと行ってもバランスが必要なんですよ」

息子さんが店主の年齢にしては若いと思っていたら、その修行が終わるころに結婚したそう。

配膳をしている50代ぐらいの女性が奥さん。

修行していたお店で働いていた女性なのだとか。

奥さんが言った。
「家族でやってますが、それが楽しんですよ」と。

息子さんが
「店は忙しかったけど親父もおふくろも俺も面倒をよく見てくれたんだ。常連さんたちにもかわいがってもらったし。俺は親父の味と自分の味でこの店を継ぐつもり」

いい家族だなと思った。
そして、ラーメンはシンプルなのに奥の深い味がした。

その話を聞いている間、じいさんは「ラーメン作れ、ラーメン作れ」とうるさい。

横にいた別の客が言った。

「俺も誘われたぜ、断ったけどさ」

常連のお客さんたちは結構声をかけられているらしい。
でも、ここのラーメンで満足しているのであえて作りたくないと言っていた。

こんな不思議なラーメン屋うわさになりそうなものだけど、みんな常連だから暗黙の秘密なのか。

ふと考える。
このじいさんの言う通り始めて見たら、成功するんだろうか?
店主は一時期行列の出来る店になったと言っていた。
でも、彼はサラリーマン時代に貯めた開業資金があり、他の知識もあったようで今の店の開業資金も出来たよう。
俺はと言えば、今無職でコーヒー1杯もけちる生活。
おまけに妻子と別居状態。
とてもとても無理だ。

それに店主も言っていたじゃないか。
寝る暇もなくなったって。
それなら、何のためにあのブラックな会社を辞めたのか。

じいさんがまだ言っている。

「ラーメン作れ、ラーメン作れ」

「断る!」

俺はきっぱり言った。

「あっ、そう」

と言ってじいさんはすーっと消えた。

「ごめんよ、お客さん。なんかわからんけどうちが気に入っていてたまに出るんだ。俺にはもう見えないけど」と店主。

「気配はなんとなく感じるけどさ」と息子さん。

「迷惑よね~.。でもラーメン好きな人がふらっと来てくれるのよ。きっと呼び込んでいるのね」と奥さん。

「俺も声かけられたよ。でもおやじさんの話を聞いたし、ラーメンはここのラーメンで満足だ。」
と少しあいた席にいた男性も言った。

なるほど常連たちも知っていてそれでこの店を守っているのか。

「たまに空いた席にラーメンを『おい、神様食えよ』と声かけて置いてやるんだ。いつのまにか半分ぐらい無くなっているけどきっと気に入らないんだろうな。その後新しい常連さんになる人がやってきて出来る」
と親父がふふっと笑う。

それにしてもこの家族この変な神様を上手く利用しているような気もする。
俺もきっとここの常連になる。
他のお客さんも交えて皆で笑った。

ちゃんと払うと言ったのに今回は迷惑かけたと言って、店主はただにしてくれた。
ありがたく好意を受け、今度妻と子と一緒に来ますと言って店を出た。

帰りに妻の実家に行き、帰ってきてくれるように頭を下げた。
妻の親父さんにはとことん説教をされる。
今、無職になった俺に妻は言った。

「しばらくの間、家事は任せたわよ。私も正社員になってまだ慣れてないし。でも、あなたが職をえたらまたちゃんと話し合いましょう。役割分担を」と。

娘がひょこっ顔を出した。
「私ね、パパはいるのよってママに言ったの」

俺は涙がポロポロ流れた。

「パパね、ラーメン作れるようになったんだ。帰ったら作ってあげるからね」
と言うと

「わーい!楽しみだ!」と娘が笑う。

「ただね、パパのラーメンより美味しいラーメン屋さんもあるからそこにも一緒に行こうな」と言うと娘は笑顔で抱き着いた。

「うん!パパとママと一緒なのは楽しみだ!」

俺はそのまま子どものようにワンワン泣き娘に頭をよしよしと撫でてもらった。
幸せってどこにあるのか?
俺の場合は会社ではなかった。

しかしそのまま、仕事が見つからないままもう少しすると失業保険の給付金の支給が切れそうになるころだった。

俺に2通の連絡が来た。
1つはあの山藤君から農業体験ツアーがプレオープンするので来ませんか?と言う招待だった。
正式にオープンする前に知り合いを呼んでいろいろと意見をもらいたいらしい。

娘も喜び「ぜひ!」と返事をした。

そして、もう1通は・・・

前の会社からの連絡だった。
社長からでもなく実権を握っていた奥さんからではなく、その娘からだった。
正直言うとあまりいい印象はない。
ダラダラといやいや仕事をしているような感じだった。
就職活動をろくにしないで入社したと思う。

あけると・・・時候の挨拶などに続いて

「お話させていただきたいことがありますのでご連絡いただけないでしょうか?」と言う字が目に入った。

俺は即削除をしようと思った手をふと止めた。
今頃になってどういう事だろう。
腹が立つことが多かったから、文句を言いに行ってもいいかもしれない。
聞くだけ聞いてやろう。


俺は電話をかけてみることにした。
何度かの呼び出し音の後、出た第一声が

「申し訳ありませんでした!」だった。

あまりに大きな声でスマホを落としそうになった。
なんなんだいったい?

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えーっと連作なので次の話と連携します。
今回、イラストもかけずまた誤字脱字、文章のチェックが出来ずそのまま掲載してます。
ちょっと忙しく後日それをしようと思うのですが、置いていたらそのままになるのでとりあえずこのままで。



コメント
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