きの書評

備忘録~いつか読んだ本(読書メーターに書ききれなかったもの)~

備中高松 (高校修学旅行編)

2018-12-03 14:29:08 | いつかの思い出
 今まで、道などにあまり迷ったことはない。
が、桜上水の駅と、高校の修学旅行だけは記憶に残る迷走ぶりだった。
 
 高校は今は進学校になってしまったが、昔は私服で校則はなく、
守らなければならないのは日本国憲法だけという、ユニークな学校だった。
しかし、修学旅行だけは、何の理念に突き動かされたのか大真面目で、
まわりの私立は海外へ行く中、
わが母校は平和学習をすべく、広島に向かった。
本当に「修学」旅行だった。
行程は、朝から講演を聞き、夜に旅館でレポートをまとめることの繰り返し。
 
 最終日は自由行動で、最後は四国の高松に集合。
翌日そこからバスで帰る予定だった。
班員は比較的真面目で、しっかりとした生徒達で構成されていたように思う。
倉敷の美観地区を散策して、ビイドロ細工などを眺め、
非日常の和の雰囲気にのまれた誰かが「和菓子を買って帰って旅館で食べよう」と言い出し、
そうだそうだ、と敷居の高そうな老舗に旅行者の気軽さでドヤドヤ入って行き、
ああでもない、こうでもないと真剣に練り切りを選んだりした。
 
 さて、四国の高松に渡るには・・・今のようにヤフー乗り換えもなく、
もちろん携帯電話もなかった。
指示された駅に向かい、ふと見ると、
次に出る電車の行き先が「備中高松」となっていて、
もうすぐにでも出るような気配だった。
 
 備中とは何だろうとは思ったが、高松の文字より若干小さく書いてあり、
「元祖・村正」のような形容詞ではないかと思ったので、特に疑問は持たなかった。
だいたい高校生は、この世に同じ地名が2か所あるとは思っていない。
乗り遅れてはいけないと構内を走り、とにかく急いでホームに走りこんだ。
 
 念のため改札の突端で切符を切っていた駅員に、大急ぎで通り過ぎるかたわら
今から乗る電車の方を指さし聞いてみた。
(きの)「ええええと、こっち高松っっ!?」 
駅員は、そうだという顔で頷いた。
 
 全員で乗り込み、人心地着いた。
あとは旅館に帰るだけだ!と景色を楽しむ。
途中で日が暮れてきて、大きな川のようなところを渡った。
瀬戸大橋を通るはずと聞いていたので、全員で「おぉこれが!」などと堪能した。
当時、瀬戸大橋はできたばかりで、どんな規模かもわからず、
勝手に決めつけたが最後、誰も疑わない。
 
 真っ暗な駅に着いてみると、そこは駅舎もなく駅員もいなくて、
ホームがひとつしかなかった。
ここにきて、なんかおかしいと思い始める。
一学年13クラスもある学校の全員を、収容できそうな旅館は見当たらない。
 
 後に、共に学級委員を務めることになる聡明で清潔そうな女子が、
とりあえず先生に電話をかけてみようと発案し、
公衆電話から旅館にかけて、
ここではない、ということがはっきりした。
 
さぁて、どうするか。
 
 四国に行くはずが、岡山県の内陸に来てしまった。
そこから香川県の真の高松までの道順は聞いたが、
次の折り返しの電車は1時間半後だそうだ。
 
 班長が責任を感じて不安にならないよう、
全員がホームの椅子の上に立って、備中高松の看板と笑顔で記念撮影大会を行い、
旅館に帰ったら、枕投げを装い他の班のイヤなやつに
合法的に枕をぶつける算段を整えたり、
無意味にホームを走り回ったりして、時間をすごした。
 
 やっとのことで旅館にたどり着くと、まず担任が両手を広げて
「ああぁぁ」と言いながらまろび出てきた。
残りの先生は、腕組みか腰に手を当て玄関にVの字に展開して仁王立ちだ。
自分たち用の食事が、大広間の端の方に残されていて、
枕投げどころではなかった。
 
次の年は、注意事項に入っていることだろう。
くれぐれも、備中高松には行かないようにと。
 
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関西弁がわからない

2018-11-06 14:22:12 | いつかの思い出

 日本に着いて最初の頃は、関西空港から近かったので

連れ合いの実家にしばらく居た。

 
初めて会ったが、全員関西弁で(当たり前か)、
関東出身の自分には、よくわからなかった。
 
 愛猫の検疫に空港まで行きたいのだが、
と道順を聞いたところ、全員で話し合って、
知らない沿線名、知らない地名を次々に出してきて、
そこに至るまでの道のりを、可能性も含めて長々と説明した上で、
 
「そして最後、最大時まで行くよ。」 自信たっぷりに締めくくった。
 
 
 
 
何が?
 
 今、クライマックスになるみたいなこと言ってなかったか。
どういう意味だろう。
西武線みたいに、途中で各停をやめて猛スピードになるのか。
 
 
 後日、西大寺という名前の駅であることが判明。
(きの)「それにしても西大寺って何?聞いたこともない。
東大寺ならあるけど。修学旅行で」
(連れ)「東に東大寺があったら、西には西大寺があるの!」
 
はぁ。
 
いだいじ」でしょ、「さいいじ」じゃなくて、と言ったら、
うるさいと言われた。
 
 
 
 
 
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ここがいやだと思った暗い夕方

2018-10-15 11:46:38 | いつかの思い出
 アメリカから引っ越して来てしばらくして、
娘と西日本の地方の、古いショッピングモールに行った。
 
 細長いフロアの両側に店があり、
通路の真ん中にプラスチックとクッションでできた
こぎれいな城みたいなものが並んでいた。
 
 子供を遊ばせるものだろうなとは思ったが、
大きい子たちが奥でヒソヒソやっているだけで、
自分が入って行って、どうやって遊ぶかやって見せるわけにもいかず、
行って来れば?とは言ってみたものの、
初めて見た娘は何をするものかわからなかったようで
(もしかしたら建設中の人んちかもしれないし)、
いまいち遠巻きにして遊ばなかった。
 
アメリカで住んでた町は田舎すぎて、モールにそんなものなかった。
 
 側にいた、いかにも良い人そうなおばさんが、
「お友達と一緒に遊びたかったのに、やっぱりできなかったねー。
かわいそうに。」というような、
余計なことを言ってきたので、さりげなく娘を遠ざけ、
「ああいう、周りの見当違いの共感が変な暗示をかけるんだ。
よし次週、リベンジだ!」とばかりに次の週に、同じ場所へ行って遊んだ。
 
 余計なことを言う人どころか、夕方で幸い誰も人がいなかったので、
心ゆくまでクッションの手触りを楽しんで、
自分は脇のベンチにぼ~っと座ってそれを見ていると、
 
館内のアナウンスで「先程、専門店でめだかカレーをご注文の〇〇様~
めだかカレーを・・・」と聞こえてきて、
 
そうか、この地では食べるのだな。
 
ウエっっ。
 
 
 しかし自分が食べないからといって、否定するのは良くない。
ニボシのようなものかもしれないし、などと考えているうちに
余計に気持ち悪くなり、
こんな所には住めないんじゃないのか?!と、うすら寒い心もちになったが、
 
後で聞いたら、目高カレイのお造りの注文だったし、
その後10数年住んだ。
 
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話が全然かみあってない

2018-02-11 13:14:59 | いつかの思い出
 大学の英語学校に不思議な人がいた。
みんなからは晴春くん(仮名)と呼ばれていて、
まわりの噂では親は医者で、背が高くて空手が得意だそうで、
日本人の事務局の人からは、ジャニーズに応募したらいいのにと言われていた割に、
本人は着飾る気はないらしく、いつもランニングシャツにズルズルのルームウエアーとサンダルで教室に来ていた。
 
 全体的にチンピラのような立ち振る舞いで、
誰かを殴ったとかいう話が聞こえてきてはいたが、
人を馬鹿にしたり、荒んだ目で世の中を見たり、小狡く勝機を狙っているような暗い焦りは見られなかった。
大人に怒られてものん気な感じで、朝会うと爽やかな笑顔で挨拶してくる。
恵まれた人はこうも違うものかと、こっちは物陰から荒んだ目で見ていた。
 
 偶然授業で隣の席になった時に、話しかけてきた。
授業中に喋っていると注意されるので、ノートの端に書いてきた。
今度車を買うんだとかいう内容で、
(きの)「どんな車を買うのか」
(晴春)「丈夫なやつ」 
(きの)「何で?」 何に使うのか。
(晴春)「こわれへんの」 
字が汚くて「へ」がゆがんでた上に、関西弁がよくわからなかった。
 
はぁ? こわれてんの!?
 
最初から壊れてるやつを買うとはどういう料簡だ? さては改造でもするつもりか。
 
そういえば別のクラスの怪しげなダボダボファッションのラスタヒゲが、
ドアが反対方向に開く平べったい車を買ってきて、ジャマイカの国旗色に塗っていた。
 
ではきっと、そいつの友人である晴春くんも、改造した装甲車のような「丈夫な」車で、
そこらの駐車場をモンスタートラックのように乗り回して遊ぶにちがいない。
 
(きの)「ぜひ見せてくれ」
 
 
後日、彼が買ってきたのは小綺麗なアウディーだった。
確かにドイツ車は丈夫だが。
 
教訓:上品なやつはどこまでいっても無駄に上品だ!
 
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エレベーターガール

2018-02-02 17:28:29 | いつかの思い出
 日本に帰って間もなく、飛行機に乗せてアメリカから連れてきた小枝ちゃんの検疫を
空港でしていた。
 
2週間の検疫期間の間に、世話を頼んだ空港付きの業者が
(電話)「小枝ちゃんがご飯を食べてくれません!
しかもケージの下の狭い所に無理に逃げ込んで爪を負傷!」 
やれやれ、来たか神経質め。
 
 慣れ親しんだアメリカのキャットフードなら、食べるのではないだろうかと踏んで、
輸入ペットフードを置いている店を探したら、
高島屋の屋上にペットショップがあり、
アボキャットを売っていたので、買って持って行ったところ案の定、食べたじゃないか。
(小枝)「フンっ見知らぬ人からもらう異国の食事はイヤ」 だそうだ。
 
 結局、何度か買って持って行くはめに。
何度目かの買い物の時に、エレベーターに乗り、しげしげとよく見ると、
エレベーターガールがいた。
昔はいっぱいいたらしいが、近年は大都市の老舗デパートでしかお目にかかれないような
希少な存在なのでは。
 
 慣れたパネル操作の中にも品があり、白い手袋もとても良かった。
その時、エレベーター内は空いていたので、これ幸いと奥の方に陣取り、
ジロジロとその美しい所作を観察していた。
流れるような口調で説明が始まり、各階ごとに順に紹介していく。
(ガール)「2階、なんたらかんたら。3階は紳士服
      ・・・7階、特設会場は、私の部屋です」
 
え?
私の部屋?
 
 表示を見たら「私の部屋」という題の、手作り雑貨の展示会だったらしいが、
(きの)「ぐふっ」 私の部屋にご招待か。
 
 
ガラっと開いたらもろ私室!
見せてくれるか、お前の居室!
 
 
 などと、妙に韻を踏んだ余計なつっこみが、次々と頭をかすめてきて呼吸が苦しくなり、
こんなとこで笑い出したら不審に思われる、と必死で息をととのえようとするが、
どこにも止まらない上になかなか屋上に着かなくて、
清廉なお姉さんの後ろで、
不自然に姿勢を変えながらも、精神は極限まで張りつめているという、
地獄のような道行きだった。
 
忠告:罠はどこに潜んでいるかわからない。気をつけよう。
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