きの書評

備忘録~いつか読んだ本(読書メーターに書ききれなかったもの)~

雪(いつかの思い出)

2018-01-13 09:13:11 | いつかの思い出
  大学時代に体育のスキー授業で、シルバーマウンテンという山に行った。
住んでいたところはそれほど雪が深い街ではなかったが、
2時間ぐらい離れると雪原を切り取っただけの雪道となり、
スキー場に着くころには、毎回もう引き返せないのではという不安にさいなまれた
(実際引き返す道などない)。
 
 午前中は授業で、午後には自由時間があった。
自由時間にはクロスカントリー・スキーをすることになった。
リフトで山の頂上付近まで行くと、よく晴れていて
そこには電線やロッジなどの人工物は一切なく、
針葉樹がまばらに生えているだけで、緩やかな長いカーブが下まで続いていて、
そこでじっくり自然との対話を楽しむのだそうだ。
 
 最初は「ヤッホー」などと叫んで騒いでいたが、
だんだん各自自分のペースで下りて行くので距離が離れて行き、
大自然の中に自分だけという気分は、現実離れしていて不思議な感じがした。
誰かが(主に自分)ビックフットが出そうとか言い出したので、
リラックスした中にも程よい緊張感を持って滑ることができた。
よく考えたらあそこはオレゴンだったか。
 
 クロスカントリー・スキーで速さを競う人はいないので、
下のゲレンデのように「かっこいいオレを見てくれ」という
うっとおしい奴らもいなくて大変気分が良い。
 
  早く着いたので、同じクラスの生徒達が後から到着するのを待っている時に、
ヒマだったから(これがよくないくせだ)雪道沿いに積み上げてある柔らかそうな新雪に、
ボスっと自分の型を付けようとして
走っているような体勢を作って勢いよく倒れ込んだところ、
予想外に硬くて跳ね返され、「ガンッッ」と左側頭部を強打しただけだった。
あまりに痛かったので「・・・いたい」と言うと、
周りにいた東北地方から来た人達にとっては常識だったようで、
当たり前だと笑われた。
あんまり心配してもらえなかった。
くそう。それにしても痛かった。
 
 突然氷の壁に倒れ込んでうめいていた雪初心者は、
それから別の冬に別の山で、川下り用のゴムボートに大勢乗って雪面を滑り降りるというしょうもない遊びをやっていた時にも、
到着地点でゴムボートがひっくり返って、またしたたかに左側頭部を打ち付ける不運に見舞われたが、
なぜかこれも事なきを得た。
 
その呪われた左側を、数年後に事故で車のヘッドレストにもぶつけたが、
夢日記で気がふれるどうこうを心配するよりも、
もっと物理的な側面に気をつけた方がいい。
 
教訓:雪の壁は固い。
 
 
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門司の朝の無謀な冒険

2017-12-30 21:14:25 | いつかの思い出
 以前、旅行で九州の門司港にあるホテルに知り合いと4人で泊まり、
窓の外の関門海峡に、頻繁に船が行き来するのを眺めて楽しんだりした。
そのホテルは、デザイナーがデザインしたという(他に誰がデザインするんだ?)奇抜な建物で、
なんというか、その・・・建物の真ん中に穴が空いていた。
わかる人はわかるだろうが、そう表現するしか。
 
 エジプト王朝のようなエントランスを抜け、オシャレな市松模様の大理石で平衡感覚を失いつつロビーに進むと、
涼し気な透明ケースに、フルーツいっぱいの解毒用の水が用意されていた。
清めてから 来いということか。
のぞむところだ。
グイっと1杯勢いよくあおり、チェックインを済ませ部屋へ。
 
 いつも旅では、宿屋に着いたら、まず逃げ道を地図で確認するが、
その時はかなり上の方の階だったのと、
着いて早々カードキーの不具合で、
同行者たちのツインルームのドアが開かないというトラブルに見舞われ、
出てきたマネージャーの妙なてんぱり具合いから、
「こんなホテル人災的に信用ならん」となり、
後で、一人で非常口の場所を実際に探しに行った。
 
 
 大体、そのマネージャーは見栄えばかり立派だが、
ドアを開けることに集中しすぎたのか、
客をずっと立たせたまま15分ぐらいガチャガチャやった上に、
修理を呼んできます!と言って逃走。
なぜここで下のロビーでお待ちください、とか言えないのか。
しかもミステリー好きな同行者の(男)「こういう時はだいたい部屋に死体がある」 
などと余計なことを言いだし、
(きの)「ぎゃははは。」 
推理小説など読まない優しいその(妻)「えぇっ!?死体が?」 
完全に怯え切ってしまい、疲れも相まってその場の雰囲気は最悪。
 
 そこに戻ってきて「修理が来るまで時間がかかります!」と言って、
すがるような目でこっちを見ても知らんよ。
しょうがないから、2人をこっちの部屋に招いてドアを開けてクサビで止め、
隣の気配がわかるようにして、(主に青ざめたお嫁さんの方を)ソファーに座らせて熱いお茶を振る舞った。
まるで自分は、高い壷を割ってしまったレディーに
まずお茶をふるまった英国紳士のようだと思いながら待っていると、
まだ隣でいつまでもガチャガチャ聞こえるので、
見ると渾身の力でドアレバーをねじり、ヒザでギュウギュウ押していた。
そんなんで開くかい。
 
 ソファーに座り直し(きの)「ゴホン」 
聞こえよがしに「混んでる時期でもないのだから逆隣りの部屋が空いているのではないだろうかー。
まずその部屋にチェックインさせて、後は好きなだけそっちで修理でも何でもすればいい」と大声で会話していたら、
どこかへパタパタと駆けていく音がして、
5分後、「新しいルームキーです。お隣の部屋をお取りいたしました」
と慇懃無礼にご登場だ。
 
高級を気取るなら、非常時にまず客を気遣う余裕を見せろよ。
 
 
 そんなことを思いながら、ちょっと出てくると言って非常口を探した。
ホテル・ニュージャパンの火災報道をリアルタイムで見た者は、
すべからくこのように疑い深くなる。
それらしい扉に「非常時のみ」と書いてあったが、
今も開かないなら、非常時にも開かないだろうなと思いノブを回してみたら開いた。
何か警報のようなものが鳴るかと覚悟したが、鳴らなかった。
かなり丈夫な重い扉だった。
 
 これは内側から開いたが、外からも開いたら泥棒が入り放題だろうから、
構造上オートロックに違いないと踏んで、
意味ありげに転がっていたクサビのような木片を、
扉にはさんでその先の非常階段を登った。
 
 屋上は眺めの良いだだっ広い空間だった。
海側と街側の景色が両方一挙に見えて、ここで一番良い眺めだと思うが、
今、自分の他に誰もこれを見ていないのだろうかと思うと、愉快でたまらない。
しばらくそこから外を眺め、写真を撮り満足してクサビを戻して、
部屋に帰って晩飯を食いに出かけた。
晩飯は、対岸でフグをたらふくいただいて船で帰ってきて、その日はよく寝た。
 
 
 次の日、朝はワインなども出るスペシャル・バイキングだというから、
楽しみにして部屋を出た。
こっちの同室者の用意が遅いので、
ヒマになってまたあの非常口に遊びに行った。
 
 朝の門司港は空気も澄んで、すぐ目の前に関門大橋が見えた。
海面も、昨日の夕方よりもキラキラと眩しく光っていた。
あまりにすがすがしいので、そのまま踊り場に出て
後ろで何やら「フスっ」という重たいものがこすれるような不吉な音がしたが、
気にも留めなかった。
 
 ドアが閉まったかなとはチラリと思ったが、
昨日の疑心暗鬼は、自分しか見てないこの素晴らしい景色の前では
些細な杞憂にすぎない。
さんざん景色も見て、さて戻ろうとすると、
本当にドアは閉まっていた。
 
 あはは、冗談だよね?と思いながらレバーを下げてみるが、
分厚いドアはうんともすんとも言わず、
叩いてもきっと誰にも気づかれなそう。
(風)「ひょおおぉぉ」 なぜか急に風も強くなり、
そこに至って、自分は携帯電話を部屋に置いてきたことに気づく。
そういえば、昨日の冒険を誰にも言ってなかった。
ということは、こんなとこに居るとは誰も予想しないだろう。
真剣にやばいかもと思い始めた。
 
 開いているドアはないかと下の階に下りても、
その下の階に下りても、そのまた下の階も、
無情な古びたクサビが点々と転がっているだけだった。
同行者からしてみれば、
着替えて出たら忽然と姿を消していたという、摩訶不思議な現象だ。
 
 なぜ楽観視した?
クサビをはさむ手間を惜しんだのか。
あの時クサビさえ挟んでいればと、
クサビのことばかり考えながら8階分下りていくと、
だいぶ地面も近づいてきた。
しかし地面に到達するには、外に面した踊り場が半階分高すぎる。
 
飛び降りるか?
 
 身を乗り出して下の花壇との距離を目測で測っていると、
イヌを連れた散歩の人が通って行った。
近所の住民か。
朝から人が花壇に降って来たら驚くだろうからやめておこう、
と気を取り直し、一番下まで下りて、
見覚えのあるノブをひねったら開いた!
地下駐車場に通じるドアだった。
 
 急いで駐車場を抜け、ガードマンに笑顔で会釈し、
猛ダッシュで正面階段を駆け上り、
エレベーターを連打して乗り込んで息せき切って出たら、
ちょうど隣の部屋の2人が、用意を終えて部屋から出てくるところだった。
身だしなみを整え、何食わぬ顔で
(きの)「おはようございます( ◠‿◠ ) 」 
さりげなく合流。
 
 
 天井に南国風のプロペラがまわるカフェテリアで、
なごやかな朝食会も無事に済んだので、
もう言ってもいいだろうと思い、おもむろに顛末を話すと、
同行者の常識人の(お嫁さん)「勝手にうろうろしちゃダメ!」
怒られた。
 
もう大人なのに。
 
教訓:クサビをかまそう。
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いつかの思い出(高校通学編)

2017-11-11 15:21:45 | いつかの思い出
  高校の時、引っ越した先の家からは、
卒業までの半年間だけ自転車で駅まで行き帰りしていた。
駐輪場は、駅から少し離れたところにあった。
 
 冬の学校の帰りに、暗くなってから駐輪場まで歩いて行った。
目の前に、OL風の女の人がいてトロトロ歩いて邪魔だった。
駐輪場の入り口に着いてもモサモサしている。
 
 追い抜かす時に近くで見たらキレイなお姉さんだったが、
いかんせん遅すぎる。
フッ、どいてくれよ、ぐらいの目線で一瞥し、
自分の自転車を引っ張り出してまたがり、颯爽と夜の街へこぎ出した。
 
 家に帰るには橋を渡る。
まとめて開発されたわけでもないような町で、歩道がない道も多かった。
橋のたもとまで来た時、向こうから大きなダンプカーが曲がってきた。
避けようとしてダンプの反対側に右足をついたら、そこにはなぜか地面がなかった。
 
 暗いからよく見えなかったが、
個人宅の横の、橋のたもとから川へ降りる古いコンクリート階段らしく、
結果的にはその頂上に自転車を倒したまま、
「うわああぁぁぁ」と叫びながら、
ダダダダダッと階段を勢いよく下までかけ下りてしまった。
 
 ようやく我に返り、なぜ自分は急に川のふちに立ってるのかわからないまま
呆然としていると、
上の方から長い髪の影が見下ろしてきて、
もったりした口調で「大丈夫ですか~ぁ?」
 
さっきのトロい姉ちゃんだ。
 
 無視するわけにもいかず、助けを求めようにも
よく見たら自分は無事で、さっさとこの階段を上って行けばいいだけだ。
しかし、さっきあれだけ邪魔だとかバカにしておいて、
こんなとこ見られて心配されて、今さらどんな顔して会えばいいのか。
なんてなさけないんだ。
 
 迷った挙句、とりあえずここから無事だけは知らせようと思い、
軽やかに手を上げて落ちついた声で
 
「やあ!どうも。」 知り合いかよ!!
 
 どうしてあんな川面の暗がりから、キザったらしい挨拶をしてしまったんだろう。
親切なお姉さんは上から無事を確認して去って行ったが、
彼女の中では、自分は夜道で奇声をあげながら
大急ぎでどこかへかけ下りて行った謎の人物だ。
 
こういうことをたまにふと寝る前に思い出し、恥ずかしさで寝苦しいので、
ここに書いて置いといて、自分からはあまり積極的に思い出さないようにしよう。
 
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