きの書評

備忘録~いつか読んだ本(読書メーターに書ききれなかったもの)~

『1万年の旅路』~ネイティブ・アメリカンの口承史~

2017-06-03 10:06:45 | 書評
 この方法でなら、人類が一人でも生きてる限り、紙がなかろうが石が風化しようが、どこに移動しようが情報は残る。
なんて賢いんだ。
物もないのによくやった!と、すごく感激した。
 
1万年分の記憶を持った部族ってことでしょ。すごすぎる。
誰かが指示したわけでもないのに、その1万年前の最初の人達が覚えておこうと思ってくれなかったら、その記憶は蓄積され始めることがなかったわけだから。
 
南へ物見に行った人は戻らなかったとか、二手に分かれたもう片方のその後の消息は知らないとか、あっさり書いてある。
知りようがないけど、それが大昔の暮らしの現実で、
同時多発的に、いろんな別の部族が居て、すでに海を渡ったことなどを伝え合ったりしているとすると、
もっと前の記憶も、どこか別の部族に伝わってたかもしれないけど、厳しい冬を乗り越えられなくて途絶えたのかな、とか想像すると恐ろしい。
 
それにしても、この人達は、どうしてこんなにどんどん移動していってしまうんだろう。
行ってダメだったらとか、恐れはないのだろうか。
動機も、向こうの大陸が見たいという、ただそれだけのもので、直前に失敗して壊滅した他の部族を見てもあきらめないし。
むしろ対策を練ったりしてメンタルが強すぎる。
 
海辺の渡りの部分は、読んでて
「もうやめなよ!全滅したらどうするんだ!?雪の冠も死んじゃったし(泣)手前の海辺でいいじゃん。とどまれよ」って、ハラハラした。
しかも、後で知ったらたったの52人て!ほぼひとクラスじゃん!
もし、クラスの中で一番体格のいい奴らに自分らの命運(先頭)をまかせて、全員で岩場を綱渡りをしてくださいなんて言われたらゼッタイ嫌だ!!
 
どうしたのか珍しく物語に入り込み過ぎたけど、彼らは衝動的とか無謀な訳でもなく、むしろ目標達成のための計画と歩みは慎重で堅実って感じで、新しい事に対する興味と意欲が半端ない。
定住したら農耕でもしない限り食料は尽きてしまうのだろうけど、土地に全然固執したりしてない。
意見が合わなくても、争ったりしないでただ立ち去るだけ。
あまりに身軽で、これが狩猟採取生活の気風なのか?地球全部が住所ってことなのか??
それでは荷物(書物)なんて、とても持っては行けないだろうな。
 
 この本を手にした時点で、聞く用意のある耳を持っているとみなされ、「あなたもこの学ぶ部族の一員」と言ってくれそうな気がして、ちょっと嬉しい。
原題の「Walking People(歩く人達)」というより、「学ぶ人達」という名前の方がしっくり来ると思う。
こんな真摯に学ぼうとする人達なら、文化が煮詰まって腐敗したりすることもなく、柔軟に決めて生き延びて行けそう。
もし人類が火星に行って、科学技術が途絶えたら先進国の人間なんてあっという間に死に絶えそうだけど、この人達なら100年後にも余裕で生き残ってそう。
今年の豆は豊作だ!なんて笑いながら。
 
よくこの手の本の批判にある、話の信憑性がどうのなんていう疑念は、自分にとってはどうでもいいし、そんなことは本当に微細なことだ。
物語だっていいじゃないかと思う。
人類みんなを大切に思ってくれるやさしいおばあちゃんの言ってることを信じたって、誰も損はしないだろうに。

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