妖怪大魔王・コバ法王日記

オートバイを分解して磨き、正確に組み立て独自理論でラインを探り、ストップウォッチと頭脳で感性を磨き、日々の想い語ります

ヤマハ NIKEN 妄走記

2019-06-25 06:33:41 | オートバイのアレコレ

ある休日、街へぷらりと走りに出た。

ホンダ専門店は見学済みだったから、カワサキ専門店へ部品注文を兼ねて行って、ヤマハ専門店へ向かった。 すると、店頭に NIKEN 君 が展示してあった。
記事では色々と知ってたけど、現物を観るのは初めてだったから、勝手にその走りを妄想してみた。


『 こんにちは、NIKEN 君 』

僕がオートバイを見る時は、車体寸法、軸離、車重、トレール量(1G時)から性格を想像する事から始めて、車体の細部の造りから設計者の愛情レベルや触り易さを判定して、感情移入が出来る車両かどうかを見るけど、この NIKEN は別だ。

  「 NIKEN 君、君はどんな目的で誕生したのかな? 」  
  「 NIKEN 君、君は家族からどれだけ愛されてるのかな? 」
  「 君は人生を楽しめているのかい? 」


 
 
 
『 フロントタイヤは、15インチ 』


オートバイに限らず、タイヤで走る乗り物は、どれほどタイヤ性能を発揮させられるのか、そのフレームやサスペンションの作りによって決まる。
NIKEN 君は、120/70 R15 サイズの フロントタイヤ(2本)採用しているので、接地面積は確実に増えている筈だ。しかし、通常の 17インチサイズの 2倍にはならない。
ラフな計算では、左右合わせて 約 50% 増えているので、メーカー曰く、「 制動性能が向上 」の売り文句は、増えてしまった車重のネガを差し引いても、“ 制動感 ” は向上しているだろう。
   
しかし、本当の制動性能は 車体の制動安定性があって発揮できるモノで、残念ながら 15インチタイヤ 自体の方向安定性は低く、トレール量 の 74mmは 普通の 二輪だと失格レベルの数値だ。
きっと、そこに 前二輪システムの 秘密や苦労、苦心の跡があるだろう。
   
  
 
『 苦心の操舵システム 』

操舵システムの基本は、100年以上の歴史の自動車用操舵システムを踏襲して、それを二輪車、いや 三輪車用にアレンジするという、経費や期間、そしてコストの制約を踏まえた設計になっている。


    
15インチタイヤ 1本では確実に不足する方向安定性も、2本になって多少救われるが、バンク時や操舵時のジオメトリー設計次第では “顎” を出してしまう。
2本の前輪で、左右路面状況の違いがあっても安定性を失う訳にはいかないから、その点は間違いを起こさない様にオーソドックスな設計手法が採られているようだ。
   
先ず、キャンバー設定、外観から 2本の前輪には 1度程度の ポジティブキャンバーがつけられ、それに併せて トーイン角度もついているだろう。それで、左右のタイヤそれぞれで サイドスリップ量を 0 にしつつ、方向安定性を高める手法だ。
が、構造を見る限り、前輪のトーイン規制を行なうタイロッドには、四輪車の様なターンバックル形式の調整機構は無く、単純化されている。
   
トレッド幅の狭さからの省略か、販売店に サイドスリップテスターを備えさせるコスト計算などから省かれているのだろう。
特性を触って調整したい者からすれば、ちょっとモノ足りない点だ。
 

     
  
  
『 独特の旋回性 』

  
前輪2輪の回転中心軸の角度、キングピン角度を観て推測する限り、タイヤ接地中心の外側へ外れる ネガティブオフセット になっている様だ。ここが 4輪とは違って、ターン時に内側バンクする NIKEN には有利に働いていると推測できる。
   
タイヤの接地中心点とジオメトリー上の接地点との差・スクラブ半径の大きさが 旋回性 などの特性を左右するが、NIKEN 君の場合、バンク時にはタイヤもバンクして、接地中心点は ターン方向の内側に移動するから スクラブ半径も変化する。
しかし、ここが肝心な点、NIKEN 君の設定だと、バンク時の 左右の前輪の スクラブ 半径には違いが発生して、外側が大きくなり内側が小さくなるから、単純ジオメトリー観点から 外側タイヤの旋回性(力)が大きく作用する設計だ。
 

 
 
 
『 女の子、一人分の代償 』


普通の 二輪には無い キングピン角度をつけた為、フロントタイヤのジャッキアップ現象を防ぐためにも、通常の二輪の限界以下の キャスター角は 20度 とせざるを得ず、重量とコスト面から15インチタイヤの採用と相まって、トレール量が 74㎜ と 大変に小さくなってしまった。
それでも、小トレッドとは云え、安定性を高める ジオメトリー設定で 二輪ライダーの感覚に合わせて作り込んだ作品だと思う。
   
けれど、そのシステムの重量は 約 70㎏ (通常 2輪との差は 50+ ㎏か)、車両重量(整備重量)263 ㎏ というスペックから、NIKEN 君、僕の トラ君の フロントフェンダーの上に、女の子 が一人座っている様なものだ。
どう考えても フロントの軽快感は期待できないし、女の子なら 後に座っていて欲しいモノだ。
   
それに、コストと設計期間、スペース面で努力を重ねたフロント周りと較べると、ステム軸周りとそこから後方に伸びていくフレームの作りが微妙な雰囲気だ。
女の子 一人を前に乗せて、小さい靴(タイヤ)を上手に働かせて、フロント周りで大きな仕事・エネルギーをこなしているにしては、リア周りは不安な作りなのだ。


    
見れば、センタースタンドを標準装着していな車両で、リアタイヤ直前 の 車体下部には “ 補強用 ” フレームが走っている。
きっと、フロント周りを頑張って走らせると、頑張る程にフロント側に抵抗・ブレーキング現象が現れ、それを押す リアタイヤは “ 嫌気 ” が差すのだろうね。


   
『 未来への試金石 』

オートバイの未来は決して明るくない。
エンジン(ICE)は、四輪同様に、ハイブリッドから 電動へと確実に変わるが、変わるのが難しいのが 安全性 だ。
四輪自動車が、1970年代以降、シートベルト装備に始まり、耐衝突安全性の高い車体設計やエアバッグ室内全面装備など、安全性を各段に高めてきたのと較べ、二輪は 一事故当たりの死亡率は高いままだ。
オートバイは転倒する可能性の高い仕組みだからこそ、軽快な操縦性が生まれている、などと社会的な要求を無視し続ける事はできないからだ。
          
将来的には、誰が乗っても転倒せず、自動運転機能で危険回避性能を高めて、その安全性のアピールで各国の二輪免許制度を緩和させ、安全で環境特性にも優れた車両へと進化させる必要がある。
その為の研究結果であり、未来に向けての “ 試金石 ” が NIKEN 君の生い立ちなのだと思う。
他メーカーが、ショーモデルとか、研究車とか言って、市販さえしない事と較べれば、やっぱり、首脳陣の頭の柔らかさと先見性は評価したい。
次の機会は、テストチームの評価をもっと汲み上げた車両を、ヨロシク。



番外 『 MT-10 と MT-09 』
   
店内に MT-10 と MT-09 の両車 が展示してあったので、滅多に無い機会、じっくりと較べてみた。
MT-09 は 初対面ではなかったけど、MT-10 君とは初めてだった。

やっぱりと言うか、MT-10 君は、FZ-1 系の流れを汲んだ フレーム周りや ジオメトリー設計、しっかりとした 作り込みが見て取れて、差があり過ぎる程だ。
戦略的なコーポレイティッドカラー、イメージスタイリングカラーで、MT-07 とも 統一感を演出し てあるけど、並べて展示するのは 酷 に見えた。  


以上、試乗もせずの 妄走記 でした。