蒲田耕二の発言

コメントは実名で願います。

AI

2023-05-14 | 文化
AIの進歩、止めどなし。ついに人間の脳内を読むことまで成功したそうだ。

オレはワリと新しもの好きなので、こういう事態に生理的反発を覚えたりすることはない。それでもこれは、パソコンが出現したりスマホが普及したりといったこととはちょっと次元が違うような気がする。AIが人間の心の中を覗き込みだしている。

ニュースを読んで、反射的に思い出したのが韓国映画の名作『オアシス』だ。ヒロインは重度の脳性マヒを患っていて、うまく言葉を発することができない。家族にほとんど見捨てられ、同様に家族に疎まれている前科持ちの青年と心を通わせ合っている。二人が愛し合っているところを女性の家族が見つけ、青年にレイプの疑いが掛かる。

警察の取り調べに家族が適当に返事をし、ウーウーと懸命に否定するヒロインの声は無視され、青年は無実の罪で収監されてしまう。

誤った調書作成の因になったのは、前科者に対する警察の先入観と家族のヒロインに関する知識、すなわち過去データだった。人間の脳内を読む基礎も、AIが学習した過去データである。

AIの脳内イメージ解読は将来、病気などで意思疎通ができなくなった患者の治療に役立つ、と記事は伝える。しかし、過去データに基づくAIの情報は、個々の患者の意思をすべて正確に伝えるものだろうか。人間は一人ひとり、考えが異なる。

オレなんか、植物人間になってベッドで無意味に生き続ける気はないから、AIに勝手に延命治療を指示されるなんて真っ平だ。

ちなみに、画像生成AIの Stable Diffusion に "『椿姫』のヴィオレッタを演じるマリア・カラスのポートレート" を描かせてみた。出来上がってきたのは、二目と見られない肖像画だった。大きすぎる鼻やアーモンド型の目などカラスの身体的特徴を捉えてはいるが、全体としてゾッとするほど醜く品がない。アーティストの気品など、薬にしたくもない。アートに品格をもたらすものはデータではなく描き手の品性であることを、改めて確認した。
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トランスジェンダー

2023-03-31 | 文化
今日3月31日は「国際トランスジェンダー可視化の日」なのだそうで、当事者のメッセージ動画を東京新聞が掲載している。

オレは無論、同性婚の法制化に大賛成である。法制化されて困ることは、何もない。社会が変わる、ことなどありえない。大体、基本的人権に係ることだ。

だから、このメッセージ動画にも称賛を送りたいところなのだが、見ていて一つ、引っ掛かるところがあった。トランスジェンダー女性の一人が、子供時代に野球を強制されて辛かった、でもおかげでバットとボールの扱いは上手くなりました、などと言っている。

はっきり言う。嫌悪感を覚えた。

女性は見たところ風営関係の人らしい。その世界では、こういう類のジョークが日常的に語られているのだろう。

しかし、時と場所をわきまえないジョークは、恥知らずでしかない。この下品さがみずからの顔に泥を塗っていることに、どうして気がつかないのだろうか。

彼らへのヘイトがいつまでもしつこく絶えないのは、単に偏見のためだけではないことを自覚してもらいたいと思う。
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有名税

2022-10-22 | 文化
昨日終わったが、少し前から漫画家の楳図かずおが回顧談を朝日に連載していた。大阪で個人展が開かれたり、朝日に連載で登場したりするぐらいだから大した人物なんだろうな、と思う。

だけどオレはこの人に、ちょっと負のイメージがあるんだよな。

ずいぶん昔のことで、たしか60年代の半ばだったと思うが、彼の作に能面か何かの面打ち職人の話があった。お面製作のために次々人を殺して顔面を剥ぎ、果てはゲラゲラ笑いながら自分の顔面まで切り取るというホラー漫画である。

なんか凄い独創的アイディアに聞こえるかもしれないが、これ、ジョルジュ・フランジュの詩的ホラー映画『顔のない眼』にそっくりなんだよね。

で、オレの中で楳図かずおはパクリ漫画家ということなってしまった。

同じころ、平凡パンチか何かに小中陽太郎が連載していた対談に浅川マキが登場した。対談の中身は忘れたが、対談終了後にマキが即興でササッと書いてくれたと言って小中が紹介した「ディレクターに捧げる歌」なる詩は、強く印象に残った。

小中は、さすが天才詩人と感じ入っていたが、実はこれ、ピエール・バルーの同名シャンソンの丸写しだったんだよね。印象に残ったのは、他ならぬこのオレがバルーのレコードの歌詞対訳をやったからだった。

で、オレの中で浅川マキは中身のないニセモノ歌手ということになってしまった (実際、彼女の歌に感銘を受けたことは一度もなかった)。

たった一つのマイナスポイントを因に人格と業績を全否定することは、たしかにフェアではない。しかし、人々の記憶に強く残るのは、往々にして善いことよりも悪いことの方である。特に有名人の場合は。これぐらい大したことあるまい、というのがあとあと祟ったりする。心されたし。

音楽評論の世界でも、先人の文章をパクってあたかも自分の発見みたいな顔をしている奴がいるが、世間は意外にちゃんと見てるもんだよ。ナメない方がいい。

四季の『美女と野獣』に呼んでもらったので、恐るおそる舞浜まで足を伸ばす。街にはディズニーランド帰りとおぼしい親子連れがゾロゾロ。レストランやカフェは若い女性グループ (どういうわけかカップルより多い) でいっぱい。劇場もほぼ満員。みなさん、マスクはしているが、もうほとんど日常が戻ってるんだね。第8波の襲来を前に小康状態、でしかないのかも知れないが。
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足もとの記念碑

2021-09-17 | 文化
ハリウッドにウォーク・オブ・フェイムという有名な通路がある。ハリウッドで活躍したスターの名前を星形のプレートに刻んで歩道に埋めてある。その数2000あまり。中には三船敏郎やドナルド・トランプの名前もあるそうな。

もう一つ、ウォーク・オブ・フェイムから2キロ弱離れたグローマンズ・チャイニーズ・シアターの前庭には、スターの手型足型を取ったタイルが敷き詰められている。マリリン・モンローが異常にはしゃぎまくって手型を取った時の映像は、これまでに何度も放送されたので、覚えておられる方もおいででしょう。

ハリウッドの俳優にとって、ウォーク・オブ・フェイムやチャイニーズ・シアターに名前を残すことは、力士が横綱に昇格するぐらいの名誉なのだ。

どちらも全米屈指の観光名所だから、コロナ以前は観光客が大挙押し寄せた。そして遠慮なくスターの名前や手型を踏んづけた。誰も悪いと思わないし、誰も文句を言わなかった。

報道によると、15日、熊本市内の広場に埋め込まれた歴史サインのプレートを、市当局が一時撤去することにしたという。プレートには明治天皇行幸や加藤清正入国の文言があり、歴史が「踏みにじられる」ことに市民から反発が出たそうな。

映画俳優と歴史的人物は、違うと言えば違う。アメリカ人と日本人の考え方の違いもある。だから一概に反発や撤去が間違いとは言わない。でもさ、オレとしちゃ、足で親しんでいる人々の方が余裕だなあ、って感じ。一々カリカリするの、シンドくない?
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心の中のモンスター

2021-09-13 | 文化
奥山佳恵という女優さんは、写真で見ると円満な笑顔の美しい人である。だが失礼ながら、これまでは取り立ててドラマないし映画での印象はなかった。

それが、朝日のインタビュー記事でダウン症のお子さんの子育てについて語っているのを読んで、彼女の笑顔以上に心を捉えられてしまった。

出生前の胎児検査について彼女はこう語る。

「赤ちゃんの顔まで立体的に映し出す4Dの検査は、4千円かかると言われました。4千円あれば近所のスシローで家族3人でおなかいっぱい食べられます。4Dかスシローか……。家族で悩んだ結果、スシローを選びました」

もちろんこれは、レトリックである。4000円が彼女に負担できないわけがない。だが、出生前の検査という、ある意味、生命の尊厳に触れかねない不遜な振る舞いを彼女は避けた。そのことを大げさに深刻ぶることもなく、回転寿司の話にすり替えて鮮やかに切り抜けた。

この爽やかな語り口、軽妙なセンスにオレはつくづく感じ入ったね。誰でも出来るようでいて、誰にも出来ることじゃない。

彼女は当初、ダウン症の子を持ったことに、当然ながら強い不安を抱いていた。「えたいの知れないモンスターで家がぐちゃぐちゃになるのでは」と怖れた。だが、実際に子育てをして得た結論は、「本当のモンスターは、わからない・知らないことによる不安そのもの」だった。聡明な知性のうかがえる結論だろう。

子育てに限らず、モンスターはいつも心の中にいる。人間同士の敵意、国家間の敵意。その多くは双方の思い込みによるものだ。そういう見えないモンスターを殲滅する武器は唯一、奥山佳恵さんが持っているような知性だけであろう。
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