蒲田耕二の発言

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町田康訳『コブ取り爺さん』

2025-02-02 | 文化
町田康の奔放な口語訳は数年前にネットで公開されて評判になり、当時天声人語で紹介されたりしたが、文庫本になったせいか、最近また話題になっている。で、改めて読んでみた。何度読んでもおかしい。

特に、前半のスピード感ある鬼の群れの描写が秀逸。オレにとってとりわけ印象的なのが「かと思うと目が二十四もあって、おまえは二十四の瞳か、みたいな奴もおり、」という、一見ナイーブなフレーズだ。

日本語の文章は通常、同語反復を嫌うから、センスの悪いライターだとここのところ、間違いなく「目が十二対もあって、」と書く。すると文章は途端に理屈に落ち、ナイーブなフレーズが持つおおらかなおかしみが失われてしまう。町田康とは、そういう微妙な感覚を知っているライターだと思う。

編集者も同じレベルで鋭い文章センスを持っているかと言うと、これがはなはだ心許ない。河出クラスの文芸出版ならまず問題はないだろうが、オレがかつて仕事の場にしていた音楽関係の出版社やレコード会社の文芸部はほとんど絶望的に無神経だった。いちいち具体例を挙げたら愚痴になるからやめておくが、無知なヤツほど意味なく人の文章をいじりたがる。いじった結果、すべて悪くなる。どころか、間違っていたりする。

いつだったか、宮藤官九郎が皮肉っぽく言っていた⎯ ⎯ NHKには優秀なスタッフがいて、あらゆる台本をNHKで放送するに相応しい状態にする。そのおかげで、歴代の大河ドラマ中、視聴率最低を記録した『いだてん』はオリジナルをズタズタに改変されてしまったらしい。それでもなお、あれは傑作だったと言う意見もあるが、作者のクドカンとしてはよほど口惜しかったのであろう。気持ち、分かるなあ。

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