蒲田耕二の発言

コメントは実名で願います。

母親業

2012-12-27 | 文化
朝日のネット版に春口祐子が連載していた「ぽれぽれサファリ」が終わってしまった。好きな連載だったが、まあやむを得んだろうなあ。ここ数年は、モチベーション低下でサンタンたる有様だったもの。

初めのころは、瑞々しい感覚が行間からあふれ出るようで、それはもうチャーミングなことこの上ないエッセイだった。甥っ子に袖にされて髪を切りに出掛けたエピソードなど、サラリと人生の機微を切り取っていた。いま読み返しても、力の入れ加減、抜き加減がいい塩梅で微笑が出る。

実は、彼女の本業のホラー小説は1篇も読んだことはないのだが、この連載エッセイでオレは彼女のファンになった。初期の記事は毎回、せっせとクリップしていたほどだ(あ、当時はダウンロード規制法などというアホな法律はありませんでしたので。念のため)。

それが筆者が結婚し、子供が生まれると、見る見るつまらなくなった。かつて多彩な方面へ生き生きと向かっていた彼女の関心が急激に子供に一極集中し、彼女の私的空間とは縁もゆかりもないこっちは、まるで興味を持てない話ばかりになった。

しかしそれは、たとえばコトブキ退社した女子社員が生まれた子供を連れて元の勤め先を訪ねるような、わが子かわいさの押し売り、といったものではない。つまらなくなったのは、長年(5年以上?)書き続けて初心が薄れたってのもあるだろうが、いちばん大きいのは育児の苦労だろう。

生まれたばかりの乳児は朝から晩まで24時間、母親がつきっきりで保護養育しなければならない。しないと死んでしまう。少し育った幼児は不用心に動き回るので、つきっきりで監視しなければならない。しないと、やっぱり死んでしまう(悪くすると)。何を口に入れたり、どんな危険な行動を採ったりするか分からない。

いきおい、彼女の視野は限られる。広く世間に目を向けたいと思っても、その余裕がない。したがって、自分の子供のこと以外に書くネタがなくなる。

子供を産み育てるって想像を絶するくらい大変なことなんだろうな、と改めて思う。イクメンなんぞという流行語ができても、育児は相変わらず大体において母親の仕事なのだ。こういう女の大変さを間接的にリアルタイムで教えてくれたのが、「ぽれぽれサファリ」だったとも言える。

まあ憎まれ口も書いたが、何年も楽しませてくれてありがとう、春口さん。何はともあれ、ご苦労様でした。
コメント
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