蒲田耕二の発言

コメントは実名で願います。

ムーヌ・ド・リヴェル

2015-11-11 | 音楽
ワタシかつてはシャンソン評論家の看板出してたんですけど、論語読みのナントカなんだよね。シャンソン・クレオールは、ほとんど聴いてなかった。自慢にはならないけど。

そのシャンソン・クレオールにムーヌ・ド・リヴェルという、すばらしく心地よく聴ける歌手がいると知ったのは、つい最近のことだ。ひとえに原田尊志さんのおかげである。原田さんのお店、エル・スールのウェブサイトで歌の断片を聴いて魅了された。グァドループ系の移民二世だそう。

中村とうようさんが亡くなったあと、自分の耳で隠れた名演、名歌手を発掘しているのは事実上、原田さんぐらいじゃないかな。人の後追いで知ったかぶりをかますヤツは、ほかにいるけど。

この人の肝煎りで復刻されたのが、『島々や海岸線』というアルバムだ。半音進行を多用した曲調はちょっとバルバラを連想させるが、もちろんあんな貧血症みたいな頼りない歌ではなく、あたたかく滑らかなアルトが芳醇なメロディをのびのび歌う。

全盛期のマラヴォワがそうだったように、豊かな生命力を漲らせながら、隅々まで神経のかよった繊細な歌だ。

LPからのトランスファーらしいが、音質も目覚ましい。レコードよりもマスター・テープからトランスファーしたメーカー製CDの方がプロセスが一段階少ないから音がいいと、いまだに多くの人が信じているが、そういうのを観念論という。

アナログ録音は磁気テープの宿命で、時間の経過とともに劣化する。磁力の減衰に連れて微小信号が徐々に失われるのだ。高音は特に減衰が早く、鈍化した高音を補正するとノイズが増加する。

レコード会社は60年代以前の古い録音をCD化するとき、CDは開発当初ノイズが少ないことを売り文句にしていた手前、マスターに入っているノイズを目のカタキにして削除しまくる。これが曲者で、ノイズの道連れに音楽信号も大量に抹消してしまう。

だから大手のレコード会社が発売する復刻CDは、たいていストリングスやヴォーカルがギスギスに痩せて耳をつんざくような音質に変わっている。

録音直後にプレスされたLPは、もっとも鮮度の高い音を凍結保存している。大体、レコード製造はカンと経験がモノを言う工芸品に近い世界だから、ベテラン技師ともなると録音のアラを上手に抑えてマスターより美しい音に仕上げる、なんて手品みたいな芸当ができたのだ。

そのため、録音後何十年も経ったマスターよりも、初期プレスのLPから制作されたCDの方が音がいい。

この『島々や海岸線』は、そういうCDの典型だ。たっぷり響きの乗った声が目の前にぐんぐん迫り出してくる。まるで、レコードを直接聴いているみたい。

LPの泣きどころのスクラッチ・ノイズも、ごく目立たないのが1か所で聞こえただけだった。

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする