胃と食道の摘出手術による身体の変調と食事方法について管理栄養士からレクチ
ャーするので、妻と二人で受けるように言われた。ダンピングや逆流の症状や具体
的な食事内容を事細かく教えてもらえた。胆嚢、胃の機能はないに等しいから、淡
泊で消化のいいものを更に良く噛んで食べることだそうだ。歯抜けの早飯食い爺さ
んに、こんな説明しても無駄とは言わぬが、多分、味の濃いものを食べると言い出す
に違いないから、やはり無駄な事か。胃の噴門部は食べたものが逆流しないように口
を塞ぎ、幽門部は食べた物が消化されるまで腸に行かないよう閉じる役目をしている。
噴門部を取ると口が無くなるから食べた後すぐ横になったりすると逆流してゲロのよう
になる。だから夜、寝る時には頭を高くしないと逆流が起きる。この場合、胃酸も一緒
に上がって来ると喉にへばり付きそれは苦しい思いをする。一度へばり付いた胃酸は
最低15分くらいしないと痛みから解放されない。
胃酸を取るためにと水を飲んでも全く効果はない。人間の胃袋はとてつもなく恐ろしい
ものだと思う。白魚の踊り食いは生きたままのものを酢醤油に一寸つけて食べる。あん
なか細い魚だから食道の辺りで意識が遠のき胃袋に到達した頃には意識はなくなっ
ているだろが、強烈な胃酸で意識が戻った途端、酸にやられる、こんな風だろう。白魚
ならまだ可愛いものだ。サラリーマン時代、先輩から教えられちょこちょこ出かけていた
店は、通好みの食材で趣向を凝らした料理が得意だった。ここでは泥鰌の踊り食いが
出る。それは白魚の何倍もある大物も交じっており、本当にこれを生きたまま食べる
の?と聞きたくなる。『頭を少し噛んでからつるっと食べる』
本当は頭を噛んで弱らせなくても、胃袋に到達した時には動かなくなっているから大丈
夫だ。つまり、生きたまま胃の中で暴れるなんてことは不可能なほど人の胃は恐ろしい
ものだ。そんな胃酸に対して喉や口の中は防備する術を持たないから、自分の体のも
ので自分の身体を痛めるという不思議な現象が起こるものだ。
入院中には逆流もダンピングの兆候もなく折角、説明を受けても実感がないから、他人
事のように聞こえており、自分にも起こりうるのか疑問視していた。さりとて、いい加減に
聞いていたのではなかったから、後日その説明の有難さに気づかされた。