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霧のおじいさん(1)

2020-01-02 08:06:56 | 小説
霧の朝は不思議だ。
霧の中を歩いていると
雲の中にいて、ふんわりと浮かび上がりそうな感じがするだ。

僕が学校へ歩いて行っている時に右側のクツが脱げた。
あれっ、足の裏に何も当たらない。
今度は左側のクツが脱げたが、やっぱり足の裏に何も当たらないで、ふわふわとしている。

『早く起きないと、学校に遅刻するわよ。』
とお母さんに起こされた。
『ああっ、夢か。』
僕は急いで歯を磨き、顔を洗って朝ご飯を食べた。
そして、僕が学校へ歩いて行っている時に右側のクツが脱げた。
あれっ、足の裏に何も当たらない。
今度は左側のクツが脱げたが、やっぱり足の裏に何も当たらないで、ふわふわとして、夢と同じようになった。

学校に着いて、僕は友達にふわふわとしていた話をすると、友達も同じようにふわふわとしていたと言った。
学校から帰る時間には霧は無かったので、ふわふわとはしなかった。
そして、何日間か霧は出なかったので、ふわふわする感じは忘れかけていた。


ある日の朝に霧が出た。僕が学校へ歩いて行っている時に、また右側のクツが脱げた。
あれっ、足の裏に何も当たらない。
今度は左側のクツが脱げたが、やっぱり足の裏に何も当たらないで、ふわふわとしている。
『早く起きないと、学校に遅刻するわよ。』
と、またお母さんに起こされた。
『ああっ、今度も夢か。』
僕は急いで歯を磨き、顔を洗って朝ご飯を食べた。
そして、僕が学校へ歩いて行っている時に、また右側のクツが脱げた。
あれっ、足の裏に何も当たらない。
今度は左側のクツが脱げたが、足の裏に何も当たらないで、ふわふわとして、前と同じようになった。
一緒に歩いている友達も同じようにふわふわするねと言った。

セミの終わる頃(27)

2017-01-17 21:17:41 | 小説
第十四章 セミの終わる頃

そして、今年の夏も終わろうとしている時に、一匹のセミが遅れてきたようにけたたましく鳴き始めたのを聞き、リミカは今年の夏はどのように終わるのだろうかと考え、活と凛とで暮らしている治子もまた、今年の夏はどのように終わるのだろうかと考えているのが目に見えるようである。

毎年もセミの終わる頃に、リミカは治子や凛との思い出や、治子から聞いていた活の治子への強烈な慕情と勇ましい行動によって、治子がこの地で生きていた時の幸せが思い起こされてくる。

また、治子の後を追っている自分も天との暮らしが、治子を鏡に映したように容易に推察され、今年のセミの終わる頃も去年と同じで、リミカの膝の上に頭を乗せて愛情を表現している天と心で会話を交わしている。

「お前はかわいいねえ。だけれど、お前に子供ができても、その子供が愛情を捧げる女性はまだ現れないね。」

そして、夏が終わろうとしているが、この地は相変わらず夏の暑い日に木々の間を渡って来る風が心地良く、温泉宿の人情味溢れる土地柄と、おかみさん達の飾らないもてなしとで、湯治に来た年配者は、帰って来たという親しみから、リピーターが多いのは今も変わらない。

また、夏になると多くのセミが種の存続のために力強く雌を求めて叫び始めるが、一方で猟師による鹿の間引きはこの夏も行われるという。

何頭かの母鹿も猟師の手にかかり、一人ぼっちとなる小鹿がでると思われるが、猟師の
「最近は鹿が増えて畑の野菜や森の木の芽が被害を受けているので、頭数を減すようにしているんだよ。」
と言う言葉が耳に残る。

リミカは、誰か私の後を追いかけて傷ついた小鹿を助けることにより、その小鹿から自分の死への願望から生きることの使命を教えられ、この地でたくましく生きる女性が現れるのではないかとの予感がして、リミカは自分を追いかけている誰かを確かめるために、セミが終わる頃になると毎年自分の後ろを振り返って見ている。

               完

セミの終わる頃(26)

2017-01-16 21:11:14 | 小説
そして、治子さんが目を覚ますと十時になっていて、白石さんがいつも十時頃に高台から全体を見回して、それから現場事務所で説明を受けることにしていた時間だったの。治子さんは急いで高台へ行っている時に救急車とパトカーのけたたましいサイレンの音を響かせて高台に向って行ったそうです。

治子さんが工事現場に着くと息絶えた白石さんが救急車で運ばれるところで、近くに鹿の活が息をしない状態で横たわっていたので、抱き抱えて、現場監督の人に状況を聞いたんだそうです。

現場監督さんは、高台から『ギュルギュル、ギュ~イ。』と動物の吠える声が聞えた直後に、白石さんと鹿の活が落ちてきたのだと説明してくれたみたいです。」

「白石さんは強引だったわよね。」
「それから、治子さんは違う湯治場の温泉宿でおかみさんとして働き始めたんだけれど、治子さんの人柄で常連客が常連客を呼ぶという状況となって、温泉宿の経営は順調になっていったみたいです。

そして、ある秋に大きな台風が湯治場を通過する危険性がでてきたので、温泉宿の中でじっと台風の通過を待っていると、玄関の雨戸がトントン、トントンと誰かが叩く音がしたので、隙間から覗いてみると、鹿の凛が前足で叩いていて、治子さんの袖をくわえて玄関の外へ引っ張ったそうです。

そして、台風が去るのを待って治子さんは凛と一緒にリゾート施設に向って行ったんだけれど、リゾート施設の変わり果てた状況に目を奪われたそうです。
小高い丘を無理な造成を行なったことによって、がけが崩れてリゾート施設全体が土砂で押し潰されていたんだったそうです。

凛のお父さんの活が命を掛けて反対していたのに無理に工事をしたかららしいの。
だけれど、ここは古くからの地山のままなので災害は免れていたみたいです。」
「それで、その崩れてしまったリゾート施設はどうなったの?」
「会社はリゾート施設建設をあきらめて別の会社に売却し、その売却した会社が計画を見直して自然との調和を図ったリゾート施設を完成させたの。」

「治子さんは、私達と比べると人生の起伏が大きいのね。でも、活と凛に囲まれて過ごしているみたいだから幸せよね。」
「そうねえ。」

セミの終わる頃(25)

2017-01-15 11:33:25 | 小説
「あらっ、そんなことがあったの。」
「それから、治子さんは湯治場で働き始めて、毎年セミの鳴くのを聞き始めた時と、セミの鳴かなくなった時で、季節を感じていたみたいです。そして、介抱した鹿の活は春子さんを慕い、鹿の寿命の十五年以上の年数を治子さんと一緒にいたみたいです。そして、治子さんはいつも鹿の活に対して
『私が今生きているのは、あなたのお陰なのよ。あなたと出会わなかったら、私は自殺していたのよ。』
と言っていたみたいです。」

「この鹿の活とはそんなことがあったの。」
「だけれど、治子さんがお世話になっていた温泉宿は経営が難しくなって、他の会社からお金を借りていたんだけれど、その会社が、治子さんが前に働いていた会社に売り渡したそうです。」
「そういえば、会社でそんなことがあったわよね。」
「そして、その会社は湯治場の温泉宿ではなくリゾートホテルにする提案をしてきたみたいですの。」
「そうそう、そんなことがあったわ。」

「しかし、その温泉宿のおかみさんは常連客がくつろげなくなるようなリゾートホテルにすることに反対していたのだけれど、会社の方針は変わらなくて、素晴らしい自然を破壊して工事を始まってしまったの。鹿の活は、それを許せなかったみたいですの。」
「そうねえ、白石さんが社長になってリゾートホテル建設の計画があったわよね。」
「そして、白石という人が乗ったタクシーが温泉宿に来るたびに鹿の活は「ギュルギュル、ギュ~イ。ギュルギュル、ギュ~イ。」と激しく威嚇するように吠えたみたいです。
そして、白石さんの会社は温泉宿の取り壊しや、近隣の丘の造成、広大な平地となった場所の整地等を行って、この素晴らしい自然を壊していったみたいです。
治子さんは変わり行く風景に悲しんでいて、心の張りを失ってしまって風邪をひいて寝込んでしまったそうですの。
そして、熱でうなされている時に、治子さんの夢の中に鹿の活が出てきて

「治子さん、僕を助けてくれてありがとう。しかし、僕を介抱してくれた温泉宿は壊されてしまったね。僕は助けてもらったおかげでお嫁さんをもらって子供もできました。
僕は、猟師に殺されたお母さんの代わりに、治子さんをお母さんだと思って甘えていました。だけれど、僕の心の中の治子さんはお母さんから恋しい人に変わっていきました。
鹿の僕が人間の治子さんをお嫁さんにすることができないのは分りますが、僕の治子さんを想う気持ちが押さえ切れません。
そして、治子さんを悲しい思いにさせている白石という男を、僕は許せません。明日、白石に仕返しをします。そして、僕の治子さんを愛する気持ちを、僕の子供の鹿に引き継がせさせます。」

と言ったそうです。
治子さんは、
「待って、止めて。あなたの私を愛する気持ちは前から気付いていたわ。だけれど、私の代わりに仕返しをしなくてもいいの、あなたは奥さんや小鹿のために生きなさい。」
と言ったみたいです。

セミの終わる頃(24)

2017-01-14 11:11:28 | 小説
そして、その凛は治子さんが亡くなってからは、ずっと治子さんのお墓に寄り添っていて、治子さんのお墓の横で死んでしまったの。
そして、その凛が今度は私への愛を子供の天に受け継がせたのです。」
「そう、治子さんは幸せね。」
「ええ、ある夜、夢の中に治子さんと活と凛の二匹が現われ、鹿も人間も関係の無い所で愛しあっていると話しをしていたの。私が「愛を受け継いだ天を大切にするわ。」
と言うと、治子さんに
「私の後を追いかけているわね。」
と言われたの。」

「ところで、あなたは治子さんの実の娘さんなの?」
「いいえ、血の繋がりはありませんわ。だけれど、治子さんも自分の若い頃にソックリだとおっしゃっていましたわ。」
「そうよねえ、私たちが治子さんと一緒に働いていたころの治子さんにあなたはソックリだわ。」
「本当に私達が商社で頑張っていた頃の治子さんにソックリだわ。」
「治子さんは頑張り屋だから、ここでも頑張っていたんでしょうね。」
「そうだったらしいですわ。」

 そして、リミカは治子から教えてもらった治子の思い出を二人に語り始めた。

「小さい頃の治子さんは頑張り屋さんで、何でも自分でやってきたようで、勉強も運動もみんなに負けないように頑張っていたそうです。そして、一緒に仕事をしている白石さんという男性と仲良くなってしまったんだけれど、本当にその人を好きになったのではなくて、現実をごまかしていたみたいでしたの。」
「そうね、社内でも噂になったわよね。」
「そして、忙しい時にミスをして会社に損失を被らせてしまった時に、自分は一人ぼっちで恋人ごっこで自分の心をごまかしていたのに気が付いたみたいで、すごく寂しかったと言っていたわ。
その後、あまり忙しくない部署に配属となって時間を持て余すようになった時に、一生懸命に仕事をやってきたのにと、寂しさのあまりに、抜け殻のようだったみたいです。」
「そうねえ、あのころの治子は寂しそうだったわよね。」

「そして治子さんは死ぬ場所を探す旅行に出たみたいで、この場所にたどり着いたみたいです。夢も目標も失っていた治子さんが、猟銃によって母鹿を失い、頭にケガをした小鹿を見た時に助けなくちぁと思い、死ぬ事だけを考えていた治子さんが、小鹿に生きて、生きて、と叫んだみたいです。その小鹿を治子さんが一生懸命に介抱をしたみたいですの。その鹿が活で、怪我も治り、治子さんを母親のように甘えて、治子さんの生きる目標ができたみたいです。」