僕は自転車(4)

2021-04-30 10:10:47 | 童話
次の日から、自転車の練習が始まった。
『ほらほらっ、下を見ないで前を見て。』
僕は、練習する時に大人はみんな同じ事を言うのだなぁと思った。
『お父さん、手を離さないでね、離したらダメだよ。』
前の男の子の時と同じようにグラグラ、グラグラとしている。僕は必死になってこらえて転ばないようにしていた。しかし、おじさんが手を離した時に僕は転んでしまった。そして、この子もひざをすりむいてしまった。
『うわ~ん、痛いよ~。』
おじさんは
『少しケガするくらいでないと自転車に乗れないよ。』
また僕は前の男の子のお父さんと同じ事を言っていると思った。

毎週、練習をして、グラグラするが、やっと転ばないようになった。
この子も僕を大事にしてくれる。転んだ時は家に帰ってから、僕を綺麗に洗ってくれる。この子も大きくなって、大きな自転車を買っても、僕を大事にしてくれると思う。

そして、外から帰って来た時に、何も言わないでサドルをボンポンと叩いてくれると嬉しいなぁ。
そう思いながら、この子と練習を続けている。

この子も僕に乗れるようになるのはもうすぐだと思う。
そして、この子と公園を走れるのが楽しみだ。

おしまい

僕は自転車(3)

2021-04-29 08:59:56 | 童話
少し経って、僕の仲間ができた。男の子が大人になって、自分のお金でカッコいいマウンテンバイクを買ったのだ。そして、今迄乗っていた大きな自転車もきれいにして、僕の隣りに置いてある。
2台の自動車で時々お話しをするので僕は寂しくない。

ある日、僕は他の家に貰われて行くことになった。小さな子供が居る家で、自転車の練習をしたいというのだ。
僕は昔を思い出した。転びながら練習をしたよね。僕は今度の小さな子供も上手く乗れるようにしてあげようと思った。

僕が貰われて行く日に、男の子がやって来て、サドルをボンポンと叩いた。僕は涙をこらえるのが大変だった。僕は幸せだったし、今も幸せだ。

僕が他の家に貰われて行く日、今度の家のおじさんが自動車でやって来た。おじさんが僕を自動車に積む時に、僕を大事にしてくれた男の子が、サドルをボンポンと叩いて『今迄ありがとう。』と言った。僕はみんなに見つからないようにして涙を流した。

『バイバイ。』男の子と男の子のお父さんに見送られて、走り出した自動車の中から手を振った。いや、手ではなくハンドルを振った。

ほどなく、自動車は今度僕に乗ってくれる子供の家に着いた。
『わ~い自転車だ、ピカピカの自転車だ。』
『大事に乗るんだよ。』と言っておじさんが僕を自動車から降ろした。
『うん、大事にするよ。』
『明日の日曜日に、公園で乗る練習をさせてやるよ。』
『うん。』と言って僕をずっと眺めていた。

僕は自転車(2)

2021-04-28 08:47:46 | 童話
友達は『なんだ、乗れるじゃないか。』
男の子は嬉しそうに
『うん、そうだね。』
と言って公園の中をぐるぐると、いつまでも僕に乗って走っていた。だんだん上手くなり、僕はグラグラしなくなった。
お父さんさんが
『おぅ、乗れるようになったじゃないか。』
と言い、男の子以上に嬉しそうにしていた。

男の子は、夕飯の時にお母さんに
『あのね、僕、自転車に乗れるようになったよ。』
『あらそう、頑張ったのね。良かったわね。』
と喜んでくれた。
そして、しばらくお父さんや友達と一緒に僕に乗って楽しんだ。

ある日、お父さんが男の子に
『大きくなったので新しい自転車を買ってやろうか?』
と言った。男の子は嬉しそう『うん。』と言った。
だけれど、男の子は
『要らない、僕が自転車に乗れるようになったのは、この自転車だったからなんだ。僕はこの自転車が大好きなんだ。僕がこの自転車を乗らなくなると自転車がかわいそうだから。』
と言ったので、僕は
『ありがとう、だけど僕は違う子供に乗ってもらうから大丈夫だよ。』
と涙を抑えて言った。

お父さんが
『それでは、新しい自転車を買ってやるが、この自転車も家に置いておくから、時々この自転車にも乗ってやればいい。』
と言ったので、男の子は
『うん、そうする。』
と応えた。僕は嬉しくなり、
『ありがとう、ありがとう。』
と何度も言った。

そして僕は、綺麗に磨かれて、油もさしてもらって元気にしている。新しい自転車で帰って来た男の子は必ず僕の所に来て、サドルをボンポンとたたいてくれる。何も言わないが僕は嬉しい。

僕は自転車(1)

2021-04-27 09:22:16 | 童話
僕は自転車、この家の男の子の自転車。
男の子のお父さんの自転車は古いが、僕は新しい。もう一つ、お父さんのとは違うところが有る。僕には補助輪が付いている。
男の子は頑張っているが、なかなか補助輪が外せない。今日も補助輪を外して、お父さんと公園で練習をしている。

『お父さん、手を離さないでね。』男の子が乗った僕がグラグラ、グラグラ。なかなか上手くならない。お父さんが『下ばかり見ているからだ、もっと遠くを見ないとダメだよ。』
だけれど男の子は遠くを見ることができない。
『ほらほらっ、前を見て、遠くを見て。』
お父さんの声は聞こえるが、顔が自然に前の車輪の地面を見てしまう。急に僕がグラグラして転んでしまった。お父さんが手を離したのだ。男の子は血のにじんだひざを見ながら泣くのをがまんしている。
『少し乗れるようになってきたから、もう少しだよ。』お父さんが励ましているが、男の子はひざが痛くて仕方がない。
『男だろっ、頑張れ。』
男の子は『僕は男でなくてもいい。』と思った。

そこへ、男の子の友達が自転車でやって来た。
『なんだ、まだ乗れないのかよ。』と言った。自転車の僕は男の子が乗れるように頑張る
ことにした。グラグラしていても、僕が倒れ
ないようにすればいいのだ。

僕は男の子に『一緒に頑張ろうよ、僕も倒れないようにするから。』といって励ました。
『うん、頑張る。』と言って、友達の前で僕を
漕ぎ始めた。僕はグラグラしながらも倒れな
いように男の子を支えた。

夢のおじさん(7)

2021-04-26 08:56:17 | 童話
広い草原に有る学校の夢を見てからは、僕は夢を見なかった。
いや、夢のおじさんに会っていると思うのだが、夢を見ていないから夢のおじさんのことを覚えていないのです。

そして、何年かしてから夢のおじさんに会いました。
『やあ、しばらくだね。』
『そうですね、おじさん。』
『今日も夢は無いんだけれど、君に会いたくて来てもらったんだよ。』
『僕もおじさんに会いたかったよ。用事はな~に?』
『君はもう大きくなったので、夢は自分で作るんだよ。楽しい夢や悲しい夢や普通の夢をいっぱい作って、楽しい夢だけを友達みんなにあげるんだよ。』
『うん、分かったよ。』

『それでは、これからこの高い階段を一緒に上がって行こうか。』
『この階段の上には何が有るの?』
『何も無いよ。』
『それでは、どうして階段を一緒に上がって行くの?』
『何か夢を見ないと私のことを覚えていないからだよ。こうして階段を一緒に上がっているのを夢で覚えていられるんだよ。』
『そうだね、これは夢だね。そしてこれが、おじさんが作ってくれた最後の夢だね。』
『そうだよ。明日から楽しい夢をたくさん作りなさい。』
『うん、分かった、おじさん元気でね。』
『ああ、ありがとう。君も元気でな。』
『バイバイ。』

僕は次の日、学校へ行った時に夢のおじさんのことを友達に教えてあげました。
『へえ~、夢はおじさんが作っているのか、すごいね。』
『そうよね、すばらしいわよね。』
『僕の夢にも、夢のおじさんが来るかなあ。』
『ああ、おじさんが最後の夢だと言うまで来るんじゃないかな。』
『楽しみだなあ。』

こうして、みんな夢のおじさんが夢の中に来るのを楽しみにして待っています。

     おしまい