カタツムリの富士登山(4)

2018-11-30 05:44:50 | 童話
ある日、チョウチョさんが
『これ以上、富士山の高い所へ登って行くと、他のチョウチョの友達と会えなくなってしまうので、これから高い所はトンボさんと登ってね。』
と言って、富士山のふもとへ帰って行きました。
『バイバ~イ。僕がここに降りてきたら、また一緒に山から下りようね。』
『待っているね、バイバ~イ。』

そして、今度はトンボ君が高い所から僕のために水の付いている草やお花のある所を教えてくれました。
そして、太陽が出ていない朝と夕方は少し寒くなってきました。
『朝と夜は少し寒くなってきたけれど、トンボ君は平気なの?』
『僕達トンボは秋にも飛んでいるので、まだ平気だよ。』
『そうなの、それでは、まだ一緒に登れるね。』

そして、僕とトンボ君は、また歌いながら富士山を登り始めました。
僕は
『ランランラン、ランランラン。』
トンボ君が
『ピッピピピ、ピッピピピ。』
ずっと登っていると草やお花の生えていない所に出た。そこはゴツゴツとした岩だけだった。
『トンボ君、草が生えている所は無いの?』
『うん、高い空から見ているけれど、そこだけ草やお花が無いね。もう少し登って行くと草の生えている所が有るよ。気を付けて登って来てね。』
『うん、わかった。』

少し登って小さな石の上にいる時に、僕が乗っている石がグラグラして、僕は石と一緒に下へ転がり落ちてしまった。
『うわっ。』
『カタツムリ君、大丈夫?』
『うん、草の生えている所で止まったから大丈夫だけれど、岩の上を転がっていたら、背中のカラが壊れるところだったよ。今度は気を付けて登るよ。』
『そうだね、気を付けてね。』
『うん。』
そして、僕は何日かトンボ君と一緒に登って行きました。

カタツムリの富士登山(3)

2018-11-29 05:28:30 | 童話
『あっ、雨だ。』
雨粒が僕の目に当たりました。
『チョウチョさん大丈夫?』
『ええ、これくらいの雨なら大丈夫だけれど、きつく降ってきたら雨宿りしないといけないわね。』
『そうなの? 僕は雨がたくさん降っていてもへいきだよ。』
『わぁ、たくさん降ってきだした。わたしは大きな葉の裏側で雨宿りするわ。』
『じゃぁ、僕も葉っぱの裏側で休憩するよ。』
『カタツムリさんは1日10メートル歩くんでしょ。』
『うん、だけれど、雨がやんでから一杯歩くよ。』

こうして、僕とチョウチョさんは歌いながら、何日も富士山を登って行きました。
僕が
『ランランラン、ランランラン。』
チョウチョさんは
『ルンルンルン、ルンルンルン。』
『楽しそうだけれど、何をやっているの?』
僕とチョウチョさんが見上げるとトンボ君が話しかけてきました。

『チョウチョさんと山登りしているんだよ。』
『カタツムリ君はふもとからずっと登って来たの?』
『登山口まで自動車で送ってもらったけれど、登山口からはずっと歩いて登っているんだよ。途中でチョウチョさんと友達になって一緒に登っているので楽しいよ。』
『いいなぁ、僕も友達に入れてよ、僕も一緒に登りたいなあ。』
『いいよ、たくさんで登ると楽しいよ。』
『決めた。僕はカタツムリ君とチョウチョさんの友達になる。』

こうして3匹で
僕が
『ランランラン、ランランラン。』
チョウチョさんは
『ルンルンルン、ルンルンルン。』
そして、トンボ君も
『ピッピピピ、ピッピピピ。』
と歌いながら何日も何日も富士山を登って行きました。

カタツムリの富士登山(2)

2018-11-28 05:37:42 | 童話
僕は、登るのに2年で、下るのに2年かかるから、僕が今度お花畑に帰るのは4年後になるんだなぁと思った。
さあ、ガンバルぞ、僕の始めての大冒険の始まりだ。
今はまだ低い所なので草やお花が一杯だ。僕は体が乾燥しないように、水が残っている草の上を歩いて行った。

『どこへ行くの?』
僕のうしろから声がしたので頭をうしろにまわすとチョウチョが飛んでいた。
『僕はね、これから富士山に登るんだよ。』
『ふぅ~ん、すごいね。ひとりで登っているの?』
『うん、お父さんとお母さんはお家に帰ったよ。』
『わたしが途中まで一緒に行ってあげようか?』
とチョウチョが言ったので、仲良く一緒に登って行った。チョウチョはカタツムリの僕の体が乾燥しないように、水のある所や、水の付いている草の場所を、高い所から探して僕に教えてくれました。
そして、夜は仲良く一緒に寝ました。

『カタツムリ君、もう朝だよ、早く起きなよ。』
『ああ、おはよう。昨日はいっぱい歩いたから疲れちゃった。』
『まだ1日でしょ。4年間歩くのだから、がんばらなければダメだよ。』
『そうだね、よしガンバルぞ。』
僕は草の上の水を飲んだあとで、大きなあくびをした。
そして、僕はまた歩きだし、チョウチョは僕の上を飛び始めた。
『ランランラン、ランランラン』
僕はチョウチョと一緒なので楽しくなり、歌をうたいながら歩きました。
チョウチョも
『ルンルンルン、ルンルンルン。』
と楽しそうにヒラヒラと飛んで、一緒に富士山を登って行きました。

カタツムリの富士登山(1)

2018-11-27 05:43:27 | 童話
『お母さん、僕、富士山に登りたい。』
僕達が住んでいるお花畑の持ち主さんが、テレビで世界遺産になった富士山を見ていた時に、カタツムリの僕は急に富士山に登りたくなった。
『何を言っているの、あんな高い山に登れるはずが無いでしょ。』
お母さんがあきれて言った。
『富士山の高さは3776メートルでしょ、1日に10メートル登ると377日だから、1年ちょっとで登れると思うんだ。』
『だけれどね、高い山は雪が降ってすごく寒いんだよ。私達カタツムリは寒さに弱いので生きていられないのよ。』
『それでは、寒い時は背中にある家に入って、温かくなるのを待っているよ。そうすると、2年で登れると思うんだ。』
お父さんが、『絶対に登るという気持ちが有るなら、やってみるといいよ。だけれど、寒くなってきたら家から出たら絶対ダメだよ。』
『うん、わかった。』

そして、僕は今日から体力をつける運動を始めた。僕達の住んでいるお花畑を、今までは1日で1廻りしていたが、今日からは1日に3回まわることにした。
最初は疲れて、休憩ばかりしていたが、何日かすると休憩しないで、まわれるようなった。
そして、たくさん練習して富士山に登れる自信がついたので、明日出発することにした。
すると、お父さんが、このお花畑の持ち主さんに、富士山の登山口まで自動車で送ってもらえるようにお願いをしてくれた。
そして、お花畑の持ち主さんが、僕とお父さんとお母さんを入れた虫かごを富士山の登山口まで自動車で運んでくれた。
自動車の外に置いてくれた虫かごから僕だけが外に出た。お父さんとお母さんは、虫かごに残って、もとのお花畑に連れて帰ってもらうことにしていたのだ。

『お父さん、お母さん、行ってきます。』
『気を付けてな。絶対ムリしたらダメだよ。』
『うん、わかった。バイバイ。』
『バイバイ。』
そして、お父さんとお母さんは、お花畑の持ち主さんの自動車で帰って行った。

僕は自転車(3)

2018-11-26 05:28:48 | 童話
僕が他の家に貰われて行く日、今度の家のおじさんが自動車でやって来た。
おじさんが僕を自動車に積む時に僕を大事にしてくれた男の子が、サドルをボンポンと叩いて『今迄ありがとう。』と言った。
僕はみんなに見つからないようにして涙を流した。
『バイバイ。』男の子と男の子のお父さんに見送られて、走り出した自動車の中から手を振った。いや、手ではなくハンドルを振った。

ほどなく、自動車は今度僕に乗ってくれる子供の家に着いた。
『わ~い自転車だ、ピカピカの自転車だ。』
『大事に乗るんだよ。』
と言っておじさんが僕を自動車から降ろした。
『うん、大事にするよ。』
『明日の日曜日に、公園で乗る練習をさせてやるよ。』
『うん。』と言って僕をずっと眺めていた。

次の日から、自転車の練習が始まった。
『ほらほらっ、下を見ないで前を見て。』
僕は、練習する時に大人はみんな同じ事を言うのだなぁと思った。
『お父さん、手を離さないでね、離したらダメだよ。』
前の男の子の時と同じようにグラグラ、グラグラとしているので僕は必死になってこらえて転ばないようにしていた。
しかし、おじさんが手を離した時に僕は転んでしまって、この子も膝を擦りむいてしまった。
『うわ~ん、痛いよ~。』
おじさんは
『少し怪我するくらいでないと自転車に乗れないよ。』
また僕は前の男の子のお父さんと同じ事を言っていると思った。

毎週、練習をして、グラグラするが、やっと転ばないようになった。
この子も僕を大事にしてくれていて、転んだ時は家に帰ってから、僕を綺麗に洗ってくれる。この子も大きくなって、大きな自転車を買っても、僕を大事にしてくれると思う。
そして、外から帰って来た時に、何も言わないでサドルをボンポンと叩いてくれると嬉しいなぁ。そう思いながら、この子と練習を続けている。

    おしまい