この場所から(5)

2015-05-31 21:20:58 | 童話
『今度はどこへ行こうか?』
『アメリカのカーネギーホールに行きたいわ。』
『カーネギーホールなんて、よく知っているね。』
『歌の好きなお父さんに聞いたことがあったの。』
『お父さんも歌が好きなんだね。』
『あっ、日本の若い女の人が歌っているわ。いい声ね。』
『そうだね、素晴らしい歌声だね。』
『遅くなると困るから、もう帰るよ。』

そして、この場所に帰ってきました。
『もう家に帰らないといけないのでバイバイね。』
『また明日会いに来てくれるかい?』
『また明日、この場所に来るわね。』

そして、わたしはシロと一緒にいろいろな国へ行きました。

何年か経って、急にシロが夢に出て来なくなって、公園にもシロはいなくなってしまったのです。

シロがいなくなってしばらくしてから、シロからわたしに手紙が届きました。

『元気かい? シロだよ。
ずっと会えなくてゴメンね。
君はもう大きくなったので僕とは会えなくなってしまったんだよ。
永い間、一緒にいてくれてありがとう。
僕はまた別の小さな子供の夢の中にいるんだ。
この子も君みたいに大きくなると会えなくなるけれど、それまでの間、この子の夢の中にいてあげるんだ。
僕と一緒に遊んでくれてありがとう。シロより』

わたしは、今度の子供も、わたしのように、シロとたくさんの楽しい事が有ると良いなぁ、と思っています。

おしまい

この場所から(4)

2015-05-30 09:47:14 | 童話
『シロは、いつもここにいるの?』
『そうだよ、この場所は夢の入口だから、君の夢の中へはここから行くんだよ。』
『この場所が、わたしとシロとの秘密の場所ね、すてきだわ。』
『この場所は特別な場所だから、どこでも行けるんだよ。』
『富士山でも、外国でも?』
『うん、行けるよ。』
『では、サンタさんに会いにフィンランドへ行きたい。』
『フィンランドという国をよく知っているね。』
『絵本で見たことがあったの。』
『ではフィンランドに行ってみようか。』
『うれしいわ。』

わたしとシロはフィンランドの一番北にある町に立っていました。

『もうフィンランドに着いたの?』

『そうだよ、ここは、フィンランドのサーリセルカという街だよ、きれいな街だね。
ここはオーロラが良く見える町なんだよ。
ほら、オーロラが見えるでしょ。』

『わぁ、きれい。』
『日本よりも空気がきれいなので、オーロラもきれいに見えるんだよ。
こんどはサンタさんに会いにロヴァニエミという町のサンタクロース村へ行ってみようね。』
『あっ、サンタさんがいる、サンタさんに会えるなんてうれしいわ。』

この場所から(3)

2015-05-29 21:40:36 | 童話
わたしは、お買い物から帰ってからお母さんに
『公園に行ってくるから。』
と言ってシロに会いに行きました。

『ねぇシロ、さっき「うん、わかった。」と言わなかった?』
『うん、言ったよ。』
『シロはお話しができるの? すごいわね。』
『本当はお話しをしてはいけないのだけれど、君にだけお話しをするね。』
『わぁ、うれしい。夢の中と同じだわ。』
『そうだね、夢の中と同じだね。』
『シロは、いつからお話しができるの?』
『生まれた時からだよ。』
『シロ以外の犬も、みんなお話しができるの?』
『犬はみんなお話しができないよ。僕だけだよ。』
『ねぇ、ずっとわたしとお話しをしてくれる?』
『いいよ、大切な友達だからね。』
『わぁ、うれしい。』
『だけどシロは、どうしてここにいるの?』
『人間の友達を探しに来たんだよ。犬にやさしい友達をね。』
『では、わたしはずっと友達でいられるの?』
『そうだよ。』
『良かった。』

この場所から(2)

2015-05-28 21:53:22 | 童話
『わぁ、すごい。本当にシロなのね。わたしの友達のシロなのね。』
『そうだよ、僕は君の夢の中にいつもいるよ。』
『では夢の中でいつでも会えるの?』
『うん、会えるよ。』
『わぁ、うれしい。』

急にシロが小さくなって遠くへ行ってしまった。
『今日は一緒に買い物に行くのだから早く起きなさい。』
わたしはお母さんに起こされたのです。
周りを見ましたがシロはいませんでした。

お母さんと一緒にお買い物に行く時に、途中に有る公園でシロに
『今はお母さんとお買い物だからあとでね。』
と言いました。
その時、シロが
『うん、わかった。』
と言ったように聞こえました。
わたしはもう一度
『あとでね。』と言いましたが、シロは
『ワン』とだけ言いました。

この場所から(1)

2015-05-27 21:41:56 | 童話
ある春の日に、わたしは近くの公園で子犬を見つけました。

目のクリクリした白い犬で、捨て犬らしく、首輪は付けていません。

シッポを振って近付いて来て、わたしと遊ぼうよと言っているみたいでしたので、わたしはその子犬にシロと言う名前を付けました。

わたしの家は動物を飼えないと、お母さんに言われているので家には連れて帰れません。

仕方なく、わたしは少しの時間、シロと遊んだ後で、バイバイして帰りました。

『僕はシロだよ、今日は遊んでくれてありがとう。』
『本当にシロなの?』
『そうだよ、君が名前を付けてくれたシロだよ。』
『シロはいつも、あの公園にいるの?』
『公園と夢の中の両方にいるんだよ。』
『今は夢の中だよ。だから、僕はどんなに大きくも、どんなに小さくもなれるんだよ。』

そう言ってゾウのように大きくなってわたしを背中に乗せてくれました。
そして、次は小さくなってわたしの人差し指の上に乗りました。