武器はガチャ、そして(27)

2016-11-25 21:00:04 | SF小説
直之は、このように、父と小さな望遠鏡を交代でのぞきこんでいた会話が有ったから、今の自分が有るのだと確信している。

大学院に進んだ直之は、果てしない宇宙の知られざる領域の解明と、太陽のように近くに在りながら寄せ付けない過酷な環境から生じる、人類存亡の危機となる事象への対応に取り組んでおり、自分の未来の子供や孫も、自分の研究を引継いで行くことを期待している。

惑星間飛行が行われている今も、天の川銀河の中心あると確認されている巨大なブラックホールは、その起源および地球への影響は解明されていない。

その後、直之は国連の委託機関で宇宙ゴミに対する世界プロジェクトに参画し、捕獲および消滅技術確立に取り組んでいる。

広大な宇宙空間に秒速8㎞という高速で飛び交う大小の浮遊物は、国際宇宙ステーションにとっては重大な脅威であり、何度か衝突の危険性から国際宇宙ステーション内のシェルターに待避する事態も発生している。

地球に落下して燃え尽きる以前の運用の終わった人工衛星や、打ち上げロケットの破片等の宇宙ゴミは、今まで無秩序に放置されてきた結果、国際宇宙ステーション運用にとって解決すべき喫緊の課題となっている。

捕獲技術は最高強度を保持する蜘蛛の糸の応用が中心となっており、確立しつつある。

しかし、消滅に関して今までは、地球上空で燃焼させるのが一般的であったが、酸素の消費による地球環境の破壊が懸念される。
また、広大な宇宙空間の彼方への放出は地球人としての無責任過ぎるのではないかと思われる。

できるのであればゴミを凝縮して、地球へ帰還させ再利用するのがベストである。
膨大な費用が必要となるが、我々の子孫が降り注ぐ宇宙ゴミの恐怖におののくよりも、安定した生活を確保できるというものである。

こうしたポリシーの下、直之の研究は続いており、今より未来を見据えたものである。
過去に地球存亡をかけたブラックホール消滅作戦を行った技術が応用できると確信して日々没頭している。

そして、永遠のテーマがダークマターとダークエネルギーと言われている暗黒物質である。
これらは宇宙空間の95パーセントを占めると想定されているが、今は手がかりが皆無である。
しかし、重力波の立証に続く永遠のテーマとして、直之が生存している間に確立される事を願っている。

                完

武器はガチャ、そして(26)

2016-11-24 21:02:59 | SF小説
第十九章 永遠の研究テーマと回想

再び、太陽の活動が活発となり、地球上では厳戒態勢で黒点の捕獲の準備が整えられた。
しかし、今回はフレアの規模は小さくて、黒点は地球に到達せず厳戒態勢は解除されたが、常に対応ができるように、国立天文台太陽観測所の太陽フレア望遠鏡で太陽観測が続けられている。

そして、十一年周期で太陽活動が活発化する備えとして、より効率でより安全な消滅方法の研究が継続されている。

しかし、太陽系の中心に存在しているとされている巨大なブラックホールの脅威には対処できる技術は確立されていない。

それは宇宙の大きさと人間の大きさとの関係であり、人間は地球上では霊長類として君臨しているが、宇宙の年齢に比べて、人間の存在年齢はほんのわずかな所以である。

火山の噴火や地震の発生に至る時間は、人間の生活している時間とはスケールが桁違いなので、宇宙空間に存在するブラックホールには対応できない。
太陽系で発生して地球上に到達した新たな黒点が発見されれば、運搬用のロケットで小惑星に設置された黒点の永久保管場所に運ばれることになっている。

しかし、その対応は地球上に到達したブラックホールに限られていて、広い宇宙のどこかでブラックホールが発見されても人間の力は及ばない。
それが宇宙であり、ハワイ観測所のすばる望遠鏡やハッブル宇宙望遠鏡で観測できる世界である。
              
そして、直之は大学院の理学部天文学科へ進み、宇宙の神秘を解き明かす研究をしている。
これは、今は亡き父の新二郎によるところが大きいのであった。

父の新二郎と渓谷へルアーフィッシングに来ている時に
「ねえお父さん、ここだと空気が綺麗だから星がはっきり見えるよね。」
「そうだね。うちで見るより綺麗に見えるだろうね。」
「今度、望遠鏡を持ってきて泊まろうよ。」
「テントを買わないといけないね。」
「お父さん、昨日の夜は土星の輪が少し見えていたよ。」
「うちの望遠鏡もハワイ観測所のすばる望遠鏡やハッブル宇宙望遠鏡みたいだと、もっともっと遠くの星が見えるんだけれどね。」
「お父さん、うちも八十ミリの望遠鏡よりもっと大きい反射望遠鏡にしようよ。」
「直ぐには買えないけれど、もっと口径の大きい百五十ミリくらいの反射望遠鏡が欲しいね。」
「そうだね、お父さん買ってよ。」
「お小遣いを貯めて来年買おうか。」
「うん、僕もお小遣い貯めるようにするよ。」
「そうだね、もっと大きい望遠鏡が買えるまで家にある望遠鏡を使って今夜も星を眺めようか。」
「うん、そうしようよ、お父さん。」
「昼間はルアーフィッシングをやって、夜は星を見るなんて、最高の一日だね。」
と会話していたことが今も思い出される。

武器はガチャ、そして(25)

2016-11-23 09:12:09 | SF小説
これによりブラックホールが呑み込むものは、ホワイトホールから吐き出されたものであり、外部への影響が無くなり、衝突による閃光も呑み込まれること無く外部へ放出されたものであった。

その閃光が終わった時に、管制センターの全員がモニターに映し出された映像に注目した。

それは期待していたとおり暗黒の部分が無くなり、重力レンズによる画像の歪も無くなっていた。
ブラックホールは消滅できないが、無害化することに成功した結果であった。

直之は父の新二郎と目の前で起きた現象を振り返りながら

「やっぱり黒点はブラックホールの赤ちゃんだったんだ。家の中でこぼしたご飯粒やイクラはこの赤ちゃんブラックホールが呑み込んでいたんだね。」

「そうだね。天体のブラックホールは大きくて危険だけれど、発生したばかりのブラックホールは危険性が低いと思うが、いつ巨大化するかわからないから、注意しないといけないね。それにしても、遠い宇宙の現象が地球上で起きていたことには驚いたね。もっとも、地球上も宇宙の一部だからな。」

「もう黒点は残っていないのかなあ?」

「残っているかもしれないし、また宇宙から飛んでくるかもしれないね。」

「今度も見つけたらガチャの容器で捕まえるよ。」

「ああ、だけれど危険だから注意をしないといけないよ。」

「うん、分かった。」

武器はガチャ、そして(24)

2016-11-22 21:39:39 | SF小説
ロケットが小惑星に到着したのに併せて、地上からのレーザー光線で固定されているチタン容器の基礎の溶融を行い、保管場所の建設コントロール用に使用したロケットのロボットアームで、攻撃用ロケットへの積み込みが行われた。

「格納容器の積み込みを完了したので、ロケットを噴射しブラックホールに向かいます。」

そして、ブラックホール攻撃用ロケットは、推進エンジンでブラックホールへ向かった。

「これから超電導モーターにより、回転を加えていきます。」

やがて格納容器が宇宙の真空状態でチタン容器の回転はブラックホールとは逆回転の光速に達し、地上のレーザー光線発射の準備が整えられた。

「格納容器搭載カプセルが光速に達しましたのでブラックホールに向かって放出します。」
「これより、カメラを搭載した監視装置を放出します。」

そして、ブラックホールに向かって放出された格納容器搭載のカプセルに向かって、地上からレーザービームを照射してカプセルの破壊を行った。
そして、格納容器から解放されたブラックホールは、次々とチタン合金容器を呑み込み、次第に質量を増大させていった。

格納容器搭載のカプセルは巨大なブラックホールになりつつ、宇宙にあるブラックホールに突入していった。

可視光線はブラックホールに呑み込まれているので暗黒の世界では目で観測はできないが、エックス線観測によると二本の逆回転する高速のジェットが交錯しながら、お互いの重力レンズによる歪みで複雑な渦巻き状となっていった。

そして、格納容器搭載のカプセルのブラックホールは宇宙に有るブラックホールに衝突したと思われる時間に、地上の管制センターのモニターに、中心部分から延びる強烈な渦巻き状の閃光が映し出された。

それを見た科学者たちは、地球からのブラックホールが相反する位相のためにホワイトホール化して、ブラックホールとホワイトホールとの間で高速のジェットが行き来しているのではないかと考えた。

それから間もなく、強烈な光が地球上に降り注ぎ、夜間であるが衝突した二つのブラックホールは太陽の倍以上の明るさがあり、地球の昼間の地帯は、太陽の倍の明るさとなり、まるで太陽が二つになったようであった。

その明るさが半日続いたが、やがて通常の明るさが回復した。

武器はガチャ、そして(23)

2016-11-21 21:15:10 | SF小説
第十八章 ブラックホール攻撃

追加の80個のガチャの容器によりブラックホールとのマイナス質量のバランスが取れたので、地球を救うブラックホール消滅プロジェクトが開始された。

そして、エックス線望遠鏡で噴出しているエックス線ジェットの回転状況から、ブラックホールの正確な位置の特定と、ブラックホールの回転方向が慎重に確認され、併せて、ロケット衝突時のブラックホールの位置の変化予測も行われた。

最も重要視されたのは、消滅するブラックホールからの閃光エネルギーの影響であり、ブラックホールが変化した後から生じる閃光の地球上の照射範囲の予測であり、予測される照射範囲への遮光対策の通知と指導であった。

そして、小惑星に保管されているチタン容器に入れられたガチャの容器の黒点をブラックホールまで運搬する攻撃用ロケットの製造が進められた。

その工程は、
一、小惑星の基礎に固定されているチタン
容器を地上からのレーザー光線で基礎を溶融して取り外す。
二、ロボットアームで黒点を運搬するため小惑星の基地のカプセルを攻撃用ロケットに積み込む。
三、ブラックホール攻撃用ロケットに積み  込まれた全てのカプセルに回転を与える。そのために超電導モーターで光速になるまで回転させるカプセルは、ロケット本体とは別構造で、回転可能な軸でロケット本体に接続されるようにし、回転を与える超電導モーターと、回転による軌道のズレを解消させる姿勢制御用のロケットエンジンも追加搭載した。
となっていた。

そして、攻撃用ロケットの製造は順調に進められ、回転性能は地上実験で光速の60パーセントまでの性能が得られ、これは真空状態の宇宙空間に換算すると、ほぼ100パーセントの光速回転に値するのであった。

完成した攻撃用ロケットの性能確認が取れたので直ちにロケット発射の準備が進められ、 地球存亡を賭けたブラックホール攻撃用ロケットは、種子島ロケット発射場に運び込まれ、発射の秒読みが開始された。

「燃料タンク異常なし。」
「格納容器転送用のカプセル異常なし。」
「格納容器搭載カプセルとの回転軸異常なし。」
「回転軸駆動用超電導モーター異常なし。」
「軌道制御ロケット異常なし。」
「回転計測装置異常なし。」
「地上の高エネルギーレーザー光線照射装置も異常なし。」
「秒読みを開始します。」
「10、9、8,7、6、5、4、3、2、1、発射。」
「1分経過、5分経過、10分経過、順調に上昇しています。」

そして、発射されたブラックホール攻撃用のロケットがどんどんと高度を増していき、火星によるスイングバイの高度を目指して飛行していった。

「制御装置および実験装置の動作確認を開始します。」
「格納容器搭載カプセル異常なし。」
「格納容器搭載カプセルとの回転軸異常なし。」
「回転軸駆動用超電導モーター異常なし。」
「軌道制御ロケット異常なし。」
「回転計測装置異常なし。」
「地上の高エネルギーレーザー光線照射装置も異常なし。」
「予定高度に達しました。これより軌道修正を行います。」
「軌道修正ロケット点火。」
「軌道修正完了。」
「このまま小惑星を目指します。」
「これで地球存亡を賭けたブラックホール攻撃という、今だかつて試みられなかった画期的なプロジェクトが実行される時が来たな。」
「そうですね、この実験には人類の存亡がかかっていますからね。」