切れたメビウスの輪(21)

2016-12-16 21:04:28 | 怪奇小説
  第九章 シックスシグマ

その後、会社からシックスシグマ手法を活用した業務改善を命ぜられた横顔生夫は、会議の効率化プロジェクトを立ち上げた。

 シックスシグマとは、アメリカのモトローラ社が日本のQC活動の素晴らしさに目をつけ、アメリカ流に確立させたもので、欠陥ゼロを目指すのではなく、百万回に3.4回のミスしか発生しないようなバラツキの極端に少ない、正確さを求める手法であり、

カンと、経験と、度胸で「エィ!ャー!」と一時的な改善を行うのではなく、
誰が行っても同じ精度となる様に、
仕組みそのものを改善する経営活動である。

・問題をもっと掘り下げ                  
・いろいろな角度から同時に見て       
 ・問題を数値化して                      
 ・誰でも理解し合える様に図示して          
 ・誰もが同じ物差しで判断する事により、   
問題解決しようという手法である。

QC活動は現場主導型で、その現場独自の活動であるが、シックスシグマは経営者の指示の下、横断的に行う経営活動であって、その改善目標は、COPQ(低品質に起因するコスト)である。

そのプロセスを安定させ、バラツキによるロスを低減すればCOPQを削減する事ができる。

また、平均値は大部分のプロセスの中心傾向を最もよく示しているので、平均値はデータのバランスポイントであり、プロセスが安定していれば管理されているので、予測は可能なのだ。

そして、シックスシグマでは、平均値の移動と平均値からのズレを監視し、データの山型が左右対称なベル型カーブの正規分布がプロセス全体を予測するのに使われる。

なお、分布が均一であっても、上限・下限共に規格からはみ出している場合は、安定はしているが、有能ではないので、まず、バラツキを改善し、次に、目標値からのずれを修正するのです。

このようなシックスシグマ手法を、製造ラインではなく会議効率の改善にどのように当てはめるのか疑問があるが、横顔生夫は次のように適用させたのであった。

まず、会議効率を数値化することを考え、
改善すべき内容も数値化し、その数値化したものを改善前後で三か月間データを取って比較をすることとした。

 ・会議出席者の給与の時間単価を算出し、会議別の費用合計を算出
 ・会議効率の指標として、会議資料の前日までの配布率、出席者の発言率、会議の趣旨とは異なる所要時間数、前回会議の議事録の確認有無を数値設定
 ・各指標の重要性に応じたウェイトを設定

この様にして、会議ごとの効率化を数値化して比較を行った。

これにより、資料を読み上げるのみで、発言をしない者が減少し、会議資料も前日までに配布されて、会議内容の把握が進み、会議終了後の無駄な時間の短縮が講じられた。
こうして、会議の効率化プロジェクトは、三か月間の効果の継続をデータで確認して完成となった。

切れたメビウスの輪(20)

2016-12-15 19:30:26 | 怪奇小説
「これからどうします?」
「私は営業に行きます。」
「それでは、わたしは自分の家に帰ります。」
「分かりました、それではまた、ノックしますから宜しく。」
「こちらこそ宜しく。」

それから数日は、お互いにノックすることはなかった。

「ところで、俺は営業にでているが、タクシーに跳ねられて死んでいるのではなかっただろうか?
確かに、『横顔生夫 交通事故』と名札の付いた台車で、寒い部屋に入れられた。 
病気ではないので、死んだのが治るハズがない。
死んだまま会社に来ているのか?
本当に死ぬのは何時なのか?」
と、横顔生夫は呟いた。

そして、
「今度、縦顔死郎と縦顔生郎たちの世界へ行くと、もう帰ってこられないのではないか?」
と続けた。

横顔生夫は趣味で童話を作って、出版社へ応募しているが入選せず、自分のブログに載せているが、評価が得られない。
しかし、読み聞かせであれば子供たちの反応がストレートに伝わってくるので、もう帰ってこられなくなるのではないかとの不安があるが、賭けてみる魅力はある。

その頃、縦顔死郎は、横顔生夫と一緒に横顔生夫の世界に行ってきたことを縦顔生郎に話していた。
「横顔生夫と一緒だったので帰ってこられたが、今度行くともう帰ってこられなくなるのではないか?」
と縦顔生郎が心配していた。
しかし、一緒に行ったテーマパークの楽しさは格別であった。

切れたメビウスの輪(19)

2016-12-14 21:20:59 | 怪奇小説
「今日は、これから会議がありますので出席します。」
「何時からですか?」
「九時から十一時までの予定です。」
「会議では何をするのですか?」
「前月の実績と今月の見込み、そして、今年度の着地見込みの報告をします。」
「会議資料に書いてありますね。」
「そうです、これを報告します。」
「みんなが、会議資料を見ればいいのではないですか?」
「会議資料は会議の時に配られますから、説明が必要なのです。」
「会議資料は、なぜ会議の前の日までに配られないのですか?」
「会議資料を忘れて会議に出席する人がいるので、会議の場所で配るのです。」
「会議の時にもらうから説明が必要なので、会議の時間が無駄になってしまっているのです。だから、事前に配布しましょう。」
「提案してみますが採用されないと思いますよ。」
「どうしてですか?」
「書いてある事を説明されるのが好きな人が多いんですよ。」

「みんなの資料の説明が終わりましたね。次は何をするのですか?」
「次回の会議の日程確認をします。」
「それも会議資料に書いてありますね?」
「確認をするのです。」

「会議資料に書いていることが全部終わりましたが、これからどうするのですか?」
「まだ、会議終了時間の十一時まで十五分有りますね。」
「会議の目的以外の事を話し合います。」
「会議が終わるのではないのですか?」
「会議時間は十一時で終わるので、そのまま、ここに居ます。」
「不思議な会議ですね。効率の良い会議に変えませんか?」
「提案しても、なかなか採用されないのです。」

「やっと会議が終わりましたね。」
「そうですね。会議はいつも長くて疲れます。」
「効率の良い会議に変えましょう。」
「そう思っている人が多いのですが、会議は出席するのが目的の偉い人も居るので、変更は難しいのですよ。」

切れたメビウスの輪(18)

2016-12-13 21:02:14 | 怪奇小説
「この駅で下りて、会社まで歩いて行きます。」
「会社までどれくらい歩くのですか?」
「私の行く会社は十分ほどです。」
「会社は、なぜもっと近くにないのですか?」
「わが社はあまり儲かっていないので、高い事務所家賃は払えないのですよ。」
「なぜ儲かっている会社と、儲かっていない会社があるのですか?」
「経営者の、運と少しの努力と、大きなハッタリの結果ですよ。」
「あなたは、ハッタリは得意ですか?」
「いいや、私はコツコツとやるタイプですから、ハッタリはすぐバレてしまいます。」
「それでは、あなたは経営者になれないですね。」
「自分でも分かっています。」
「努力をしないのですか。」
「ハッタリは嫌いだから努力しません。」
「仕事だから、ハッタリは嫌いとは言えないのではないですか?」
「いいのです。嫌いなことはやりません。」

そして、二人は会社のあるビルに着き、
「ここの十階が会社です。ところで、会社には社員以外は入れないですよ。」
「わたしは、あなた以外には見えませんから大丈夫です。」
「えっ、あなたのお兄さんを探している時に、お兄さんがワープした場所の文房具屋さんには見えていたのではないですか。」
「あの時は、見える必要があったので、見えるようにしていたのです。」
「へぇー、そういうことができるのですか。」
「ええ。」

「では、エレベーターに乗って十階へ行きましょう。」
「エレベーターは便利ですね。」
「五階以上の建物はエレベーター設置が義務付けられていますからね。」
「たくさんの人が乗ってくるのですね。」
「そうですね、たくさんの会社がはいっていますからね。時々、乗りすぎて、重量オーバーとなり、最後に乗ってきた人が降りないといけない時があるのですよ。」
「大変ですね。」
「どこのビルでも同じだと思いますよ。」
「そうですか。」
「さあ、十階に着きました。ここが会社です。」
「きれいな事務所ですね。だけれど、社員が少ないですね。」
「いや、まだ社員が来ていないのですよ。」
「何時ごろに来るのですか?」
「始まる五分前くらいに来ますよ。」
「ギリギリに来るのですね。」
「遅れなければいいのですよ。」

「さあ、朝礼が始まりますよ。」
「朝礼では何を話すのですか。」
「朝の挨拶と、会社の予定と自分たちの今日の行動予定を連絡しあって、情報共有を図るのです。」
「情報共有を図ってどうするのですか?」
「本人が居ない時に連絡があった場合に、応えられるようにするのです。」
「応えられるのですか?」
「全ては応えられないですね。」

切れたメビウスの輪(17)

2016-12-12 21:12:09 | 怪奇小説
第八章 横顔生夫の住む世界

暫くして、横顔生夫が縦顔死郎の世界の招待のお返しとして、自分の世界を招待するためにドアをノックした。

「縦顔死郎さん、明日、私と一緒に会社に行ってみませんか?」
「面白い所ですか?」
「面白くはありませんが、人によっては活気が有って素晴らしい所ですよ。しかし、人によってはギスギスした所で足の引っ張りあいが全ての所ですよ。」
「あなたは、どちらだと思うのですか?」
「半分半分ですね。」
「なぜ半分半分なのですか?」
「うまくいっているときは活気がある場所ですが、一度つまずくと、周りから攻撃されて、つぶされます。会社はそういう場所なのですよ。」
「良い方向に直さないのですか?」
「みんな逃げているのですよ。」
「どうして、みんな逃げるのですか?」
「火の粉を被りたくないんですよ。」
「火の粉を被ると、どうなるのですか?」
「叩かれた者の仲間のように見られ、ピンチになる可能性が高くなるんですよ。」
「それで、みんな逃げるのですか?」
「口では優しく声をかけますが、本心はどうかなあ?」
「そうですか、会社はイヤな所ですね。」
「いやいや、みんながそうじゃないですよ。気の会う奴もたくさん居て、そいつらと一緒だと、仕事も楽しいし飲みに行っても酒が旨いですよ。」

「それでは、気の合う人が居る所へ、少しだけ行ってみましょうか。」
「会社へはどうやって行くのですか?」
「駅までバスに乗って、次は電車に乗り換えます。」
「私の記憶にあるバスは、運転席の前が鼻のようになっていましたが変わったのですね。」
「ボンネットバスは、今は遊園地くらいしか走っていませんよ。」
「駅も電車もきれいですね。」
「お客さんが多いドル箱路線は綺麗ですが、人口の少ない地方は、ドル箱路線の古い車両が使われるので、こんなに綺麗ではないですよ。」
「なんで、お客さんが多い少ないで、電車が新しかったり、古かったりするのですか?」
「お客さんが少ないと経費がかけられないんですよ。」
「だけれど、少ないお客さんでもお客さんにはかわらないですよね。どうして人口の少ない地方の人は我慢しているんですか?」
「我慢強いんですよ。」
「我慢強い人に押し付けているのですか?」
「結果的に、そうなっていますね。」
「良くないですね。」
「そうですね。」