大学名誉教授 渡植貞一郎(東京都 83)

 1947(昭和22)年に、日本国憲法が施行され、第9条に戦争放棄条項が定められた。国際的には常識的でないこの条項を、わずか数年前まで熱狂的軍国主義者だった多くの国民が、支持したのはなぜか?

 占領軍に押しつけられたと言い張る人々がいるが、その評価は当時の成人世代をおとしめる考えだと思う。当時、多くの大人たちは、侵略戦争に加担した責任を感じていたはずだ。そして戦後、原子爆弾が一瞬にして広島、長崎を焼き尽くし、赤ん坊までが無差別に殺された惨状を多くの日本人は目の当たりにして、戦争の大義などというものが、無意味なことを、直感的に悟った。

 いかなる口実や理由があろうと国家による武力行使が、人類の滅亡と文明の崩壊を招く時代になったことにいち早く気づいたのだ。日本人はそのことを平和憲法によって、世界に示した。当時、私は10代だったが大人たちの受け止め方、姿勢をはっきりと記憶している。憲法第9条は広島、長崎の被爆犠牲者が、人類に残した尊い遺産である。ノーベル平和賞は逃したが、このことにようやく世界中の人々が注目し始めている。