何かをしたら、他の何かが反応した感じなので、そこには関係性はあるじゃないの、と経済理論は推論します。経済は無数の人々の『心理』が複雑にからみ合いながら動くので、こうした関係性はいつも推論です。ここに、経済専門家の話をうのみにせず、私たちがチェックする最大のポイントがあるのです。
「この道しかない」と、安倍さんは鼻息を荒くしています。そして、消費増税は批判しても、経済理論はほとんど批判できない一部の野党と、かなりの国民がこれに飲み込まれています。それほど精密で大胆な理論なのでしょうか。
アベノミクス理論の核心中の核心は『予想インフレ率』です。量的緩和を異次元的に行うと、世の中の人々は「インフレがはじまると予想する、インフレになるとお金の価値が下がるから、今のうちに投資や購買をしようと考える」と、私たちの『心理』を推論して組み立てています。この「インフレがはじまると予想する」人々の心理を『予想インフレ率』(=期待インフレ率)と言います。
実際はこれを数値化して観測する必要があります。そこで『物価連動国債』というものを発行して、これと普通の国債との価格差を見ます。この差が予想物価上昇(インフレ)分となります。そして、「金融関係者はプロだから、真剣に将来の物価を予想して値付けする、だから数値は妥当になる」と、ここでも推論します。
こうして、アベノミクスは『心理』の連鎖理論を組み立てます。確かに金融のプロは国債の売買で利益を得るために、いろいろ予想するでしょう。しかし、いくら金融のプロが予想インフレ率を高く弾いても、庶民は賃金が上がらないとモノを買わない心理にかたむくし、庶民がモノを買わないのなら企業は新たな設備投資はできないと考えるでしょう。ここに、経済専門家が用いる数値と生活者の『心理』の間に大きな断絶が生じています。
しかも、金融のプロは原油価格なども予想に中に入れるでしょうから、数値に含まれるいろいろな意味は見えないまま、安倍さんは推論をすすめるでしょう。それでも、実際のインフレ率が上がらないと、異次元的な量的緩和がまだまだ足りないと推論し、さらに追加緩和を要求するでしょう。現実は、すでにそうしたサイクルに入っています。いつまで経っても実際のインフレ率に効果がないと、さすがに今度は量的緩和に賛成していた一部の野党も騒ぐでしょうが、選挙はその前に行われます。
現在の問題は、供給能力よりも需要が少ないことです。それなら、需要そのものを喚起する経済政策が必要です。GDPの6割は国民の支出なのです。企業の内部留保や富裕層の資産はふところに入ったままで、経済活性化への期待できません。一方で、毎日お金を使う国民の実質賃金は14ヶ月連続して著しく低下し、お金など使えないのです。
量的緩和は金利を下げる効果もあるので、株高と円安も起こします。これについて経済専門家は「株価が上がると、景気が良くなりはじめた感じが出てくるので、消費が増え、投資がはじまる」と、ここでも私たちの心理を説明します。そうでしょうか、「景気が良くなりはじめた感じ」は周りには、ひとつもありません。
さて、日銀は選挙にめがけて、毎週、日経株価が下がらないように株式市場に直接資金投入し、すっかり管制相場の流れです。それは、私たちの『心理』を、安倍さんにとって有利にするためでしょうか。みなさん、自分のこころは、あなたのもの。大きなものに操作されないようにしましょう。
(注)図右上の「国民93%」とは、株式相場上昇で富全体から自分の比率を落とした国民です。そして、「景気が良くなりはじめた感じ」など何もない国民です。