ポスドク夫婦の海外珍道中:ヨーロッパ生活あれこれ日記

4年3ヶ月の週末婚(イギリス&ドイツの2カ国4都市)を経て、現在ブレーメン在住。旅行、子育て、日々の生活など。

お行儀が悪いのは悪いこと?

2011-02-16 21:11:13 | ドイツ生活

Rotaより是非掲載してほしいとの強い要請がありましたため、本日の記事はRota氏による特別寄稿です。

-------------------------

[日英独比較文化論]

イギリス・ブリストルからドイツ・ブレーメンに移ってきたばかりの頃,「ああ,ここはドイツなんだ(イギリスじゃないんだ)」と初めて実感=痛感した出来事です.

ある晩,僕はブレーメンの中央駅にあるB級中華レストランで持ち帰りの焼きそばを買い,それをズルズル食べながら、家に帰る路面電車の停留所に向かっていました。


今思い返すと,もうこの時点で勘違いが始まっています.ドイツでもそういうことしてる人いるよ?というあなた,ええ,確かにいます.でも,イギリスでそういう人がいるのとはちょっと意味が違うように思います.たとえば,ブレーメン大学の毛並みの良い(?)同僚たちは,そういうことをしないと思います.しているところがとてもイメージしにくい,もしくは人によっては全く想像できません.でも,ブリストル大時代の同僚はどうか?実際にしているかは知りませんが,あの人もこの人も歩きながら焼きそばを食べているところのイメージが簡単に浮かんできます.極端な話,仮にあの紳士だったプロフェッサーがそうしているのを目撃しても,「あ,意外にカジュアルね♪」程度の印象でしょう(さすがに実際にはしないかな?).でも,今のブレーメン大のプロフェッサーは絶対にしないでしょうね


僕はその焼きそばを持ったまま路面電車に乗るつもりでいたのです.ここで,ふと思い当たりました.「待てよ?ドイツの路面電車の中でこれを食ってたらヒンシュクものかな??うん,そういう気がするな」と思い直して,駅の中で(立ったまま)食べ終えてから乗ることにしました.


実際には,イギリスでも乗り物によっては暖かい食べ物禁止(匂い対策?)の場合がありますし,ロンドンの地下鉄の中で中華の匂いをプンプンさせて顰蹙をかっている人も見たこともあります.しかし,仮にブレーメンと全く同じあの路面電車がもしブリストルを走っていたら(ブリストルには路面電車がなかったのでこれは想像するしかないのですが),何というか社会の風潮=ノリとして,僕は焼きそばを持ったまま乗っていたと思います.ブリストルがイギリスの中で特にお行儀の悪い街なのではありません.むしろ良いほうだと思います


「ノリ」という言葉は具体的ではないですが,フィーリングをよく表しているとは思います.ドイツ(ブレーメン)社会はそういうノリじゃないんですね.いや~あぶないところでした.もし路面電車に乗っていたら,とりあえず白い目で見られて,乗客のおばあさん等に注意されていたでしょう(これがドイツなノリ).それに上に書いた通り,歩き食いしていた時点で,既に大学人としては感心できないお行儀の悪い部類の人間に入っていたのだと思います(チョイ悪を気取るつもりなど毛頭なかった!).というわけで,それ以来そんな行為はしていません.

実は,これは一つのエピソードに過ぎず,ドイツに来てから数ヶ月の僕は、「お外ではお行儀よく」してなくてはならないドイツ社会を窮屈に感じていました.週末に帰るイギリスで何とリラックスできることか.空港から乗る電車の中で,バッグを軽く放り投げるように座席に置き,ドッコイショと声も出んばかりにドカッと座り,サンドイッチをほおばりだす(空いている電車ですけどね).イギリス人だったら,土足のまま足を前の座席に乗せるところです(かかとを乗せるのではありません.靴の裏で前の座席を押すように乗せるんです.若いお嬢さんがこれをしているのも頻繁に見かけます.イギリスに慣れた僕は,他人がやっているのを見ても嫌悪感を感じなくなりましたが,自分がすることはありませんでした).

ところが,今や逆に感じるようになりました!イギリスに行くと「こいつらなんてだらしねーんだ」と内心思います.ドイツ人は日本的お行儀良さやデリカシーを持っていていいな,と(笑) 車内では節度ある声の大きさで話しますしね.勝手なようですが,人間は環境に順応するんだなと実感する一コマではあります.

ひるがえって日本はどうでしょうか?東京圏のロングシート通勤電車の中だったら,飲み物すら一瞬迷うところですか?ポテトチップは完全にアウトですかね.日本人のお行儀の良さは折り紙つきかもしれませんが,もう少しリラックスしてもバチは当たらないように思います(バチが当たってしまうのだとしたら,やはり東京は人が多過ぎるように思います).

さて,ここまでを読むと,日本(ドイツ)のお行儀の良い社会を,そのまま平行移動してお行儀の悪い方向にシフトするとイギリス社会になるという風に思われるかもしれません.

実は,それはちょっと違います.

より正確に言うと,イギリス社会は,お行儀の良い人と悪い人の差=振れ幅が広いということになると思います.その結果,どの程度のお行儀の良さが「普通」なのかよくわかりません.言い方を変えれば,お行儀の良い人が悪い人のことを気にせず,悪い人が良い人のことを気にしていない社会とも表現できるかもしれません.つまり,いわゆる「多様性に富んだ社会=多様な状態を触れずにそのままにしておく社会」ということだと思います(人種構成と無関係ではないでしょう).

なので,日本は特に,ドイツも,人々のお行儀の良さの粒がそろっているんですね.これが「普通」の人の行動です,というのが明瞭です.イギリスの場合は,はるかにばらついているように思います.また,イギリス社会の気楽さは,お行儀の良い人につき合う必要のない気楽さとも言えます.僕は,その点はすごく気に入っているのです(その精神はお行儀に限ったことではないように思いますから).

--------------------------


Rotaによる比較文化論、基本的にKapiも同感です。「イギリス社会の気楽さ」をとても気に入っています。とくにロンドンにおいては、公共の場でいろんな人がいろんなことをしていてもお互いにそれを受け入れてしまうという許容範囲の広さが顕著だと思います。多民族人種が集まっている大都市ならではの現象とも言えるでしょう。

しかし、個人的にいつも気に留めていることがあります。自分たちはヨーロッパにおいて「外国人」なんだということ。イギリス人が電車の中でお行儀の悪い行動をとっている場合と、日本人(アジア人全般含む)が同じ行動をとっている場合だと、周囲の印象は違ってくるだろうなと思うのです。どの国でも外国人というのはやはり目立ちます。たとえヨーロッパ生活が長くなり、自分はヨーロッパの生活にすっかりなじんだと本人が思っていても、「自分はこの国において外国人」ということをある程度気にとめておく必要があるのではないでしょうか。

「電車の中で座席に靴を履いたまま足をなげかける」=これは日本的には非常にお行儀が悪いことです。でも、家の中で靴を脱ぐ習慣がない文化圏の場合、靴をはいたまま椅子に乗ることはよくあることで、とくに気にならない行為(つまり、行儀が悪いとは思わない)と考えられている可能性があります。土足OKの「下」と土禁の「上」、「家の外」と「家の中」という区別が非常に曖昧なため、日本的文化で育った我々には「行儀の善し悪し」として映る行動が、現地の人にとっては「特になんとも思わない」行為であり、そこがまた日本人的視点でみると「許容範囲が広い」というように見えるのかもしれません。ドイツ人についてはまだ観察経験が少ないため、なんとも言えませんが、どちらかというとイギリス人よりは「上」と「下」、あるいは「中」と「外」の違いをより認識しているように感じています。今後、観察例を増やし、考察を深めようと思っています。もしドイツ人が日本的な「上」と「下」の違いをある程度持っているとすると、この「上」「下」の感覚の違いが西洋社会においてどのように発展してきたのか、興味がわくところです。民族の違いなのか、地理的な違いなのか、はたまた他に要因があるのか。。。

海外で暮らすということは、今まで自分が培ってきた「常識」「普通」「一般」という感覚は自分の育った文化圏だけで通用するものであり、世界には多種多様な文化が存在するということを発見し、経験し、受け入れて行くということではないでしょうか。これからも、世界の文化の違いに着目して、日々人間ウォッチングをしていきたいと思います。

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする