7/18(Wed)
ツェルマット滞在最終日。夕方には次の宿泊地へ移動するため、今日はハイキングはお休み。ケーブルカーや登山鉄道を使って、まだ行っていない有名観光ポイント巡りへ。
以前、ツェルマット情報を収集しているときに見つけた美しい写真に感動し、必ず見たいと思っていた「逆さマッターホルン」@Riffelsee が本日最初の行き先です。
午前の早い時間の方が綺麗な風景が見られることが多いとの情報を得ていたので、朝ご飯は食べずに出発。
ゴルナーグラード鉄道駅では予想通り日本人盛りだくさん。というか、90%日本人ツアー客。奇しくも大量の日本人に囲まれてしまった欧米人は苦笑いしてました...
車窓からみたマッターホルン。なんかスフィンクスのように見えるのは私だけ?
Riffelseeが目的だったので、終点のゴルナーグラードまでは行かず、手前のRotenbodenで下車。ここで降りたのは数人だけでした。
まずは羊さんたちにご挨拶。
ガングロ親子もお出迎えしてくれました。
そして。。。
雲ひとつない完璧なコンディション!これが見たかったのだ。
湖わきで写真撮影をしていると、一人でご旅行されているパワフルなおばさまにお会いしました。世界中を旅しているらしく、タクラマカン砂漠などの僻地も経験済みとのこと。しばし、おしゃべりしながらお互いに写真撮影。
逆さマッターホルンを見ながら、岩に座ってKapiはバナナとシリアルバーで朝ご飯。Rotaは特にいらないとのことで、バナナひとくちだけ。
山頂を見終わって降りて来た日本人ツアー客の隊列を高見の見物。
逆さマッターホルンに満足した後は、そのまま鉄道で町へ戻りました。
車窓風景。
次なるポイントはKlein Matterhorn(3883m)山頂。ツェルマットの町を縦断し、ケーブルカー乗り場へ。Zermatt - Furi - Schwarzsee - Furgg と経由し、Trockener Stegへ(ケーブルカーは乗りっぱなし@2012年夏)。そこで大型ゴンドラに乗り換えて、いざ山頂へ。山頂に着くのにトータル50分くらいはかかったかも。
今まで見て来た景色と違う荒涼とした風景。なによりマッターホルンが別の山に見える。東南壁だとイマイチ。
山頂へ着くと、一面雪景色!
スキーをしている人たちがいたり、隣の山Breithornまでの雪山トレッキングをしている人たちがいたり。
いい天気でモンブランもよく見えました。
いい景色だったので、あっちでもこっちでも写真をとりまくりのKapi。圧搾されていない場所ではズボッと足がはまるくらい雪がつもっていました。
そのころRota氏はというと、去年のイタリア/オーストリアアルプスでもそうだったのですが、高度が高い場所にくると息苦しさを感じるとのことで、呼吸を意識的にしながらゆっくりゆっくり歩いてました。少し早く動くと立ちくらみのようなめまいがするとのこと。
それでも、写真撮影の時には笑っていたので、少しすれば慣れてくるかもしれないし、山頂に長居をしなければ大丈夫だろうと思い、そう大事にはとらえていませんでした。
そろそろ帰ろうかということで、展望台とゴンドラ乗り場を結ぶ250mの長いトンネルをゆっくりと戻りました。ちょうどトンネルの中間あたりにクラインマッターホルンの本当のてっぺんへ出られるエレベータがあり、山頂に着いた時には閉っていたエレベータが今は動いているのを発見。せっかく来たから、ささっと見てきたいなと思い、Rotaに尋ねると「うーん、僕はやっぱりやめておこうかな」とのこと。そこで、一人でちゃちゃっと見てくることにし、Rotaはエレベータ前のベンチに座って待つことに。
なるべく早く下山した方がいいだろうとは思っていたので、本当に超特急で山頂見物。
行き帰りのエレベータの時間を合わせて、往復4分。
その4分の間に、Rota氏の体調が急変!!!!
いっそいで帰って来たら、エレベータ前にはベンチに仰向けで寝転がっているRota。その姿をみた瞬間は「あらあら、こんなところで寝そべっちゃって」と思ったのですが、近づいてみると「これはただ事ではない!」と認識。
「は~、思ったよりも早く帰ってきた」とホッとした表情を一瞬みせたものの、思ったようにしゃべれず、体も動かない様子。
「どうしたの!大丈夫!?」
と声をかけたものの、全然大丈夫そうではありません。ひたすら一生懸命スーッスーッと早い呼吸をしてるRota。
こりゃ大変だ。まず人を呼びに行かねば!と走り始めました。
運悪くここは250mという長いトンネルのちょうど中間地点。右と左のどちらに行くべきか、一瞬迷いましたが、スタッフが多いであろう展望レストラン側へダッシュ@3883m。レストラン兼ショップに入り、一番近い所にいたスタッフの若いお兄ちゃんをつかまえて、再びRotaのところへ。
体が動かず、手はギュッと力が入ったまま硬直し、口もほとんどしゃべれない。。。でも意識ははっきりしている模様。
と、スタッフのおにいちゃんが「すぐ戻ってくる」と言い残して、どこかへ。ほどなくして手になにかを握って、戻ってきました。
「これを食べて」
と大きめのハイチュウのようなものをRotaの口に突っ込みました。ただでさえ息苦しいだろうに、大きなハイチュウを口につっこまれたRota、すぐに口からポイしようとしたため「食べなきゃダメ!」と言われ、がんばって噛み始めました。
お兄さんに聞いた所、薬ではなくて糖分を含んだお菓子のようです。
とにかく下山しようにも体が動かないRota、「担架っ!」とひと言。
(実は展望台出口に担架が置いてあるのを二人とも見ていました)
「担架」の英単語がとっさに出てこなかったKapi、「Can we use...」と言いながら思わず何かを運ぶジェスチャーでお兄さんに聞いた所、すぐに取りに行ってくれました。(正解はストレッチャー。日本語でも言うのに。。。(汗))
しばらくして車いすを押してお兄さんが戻ってきてくれました。お兄さんを待つ間にも、通りすがりの観光客が心配して声をかけてくれたり、「足を高くするといいんだ」と手伝ってくれたり、持っていたコーヒーシュガーをくれようとしたり。いろんな人が心配してくれました。
Rotaを車いすに乗せようとした際にも、周りにいた人が手を貸してくれました。とにかく本人はまったく体が動かないので、重いのなんの。
お兄さんと一緒に車いすを押しながらゴンドラ乗り場へ。運悪く、ちょうど行ってしまったばかり。普段なら何気なく待つゴンドラも、こういうときの待ち時間は非常に長く感じました。
と、お兄さんが「〇〇を呼んでくる」と言って、どこかへ(イマイチ聞き取れず)。車いすのRotaを何気なく遠巻きに見てる下山待ちの観光客の中、この後どうすればいいのか、何をすべきかなど頭の中はフル回転。
と、ひとりの男性が声をかけてきました。
「医者は呼んだのか?」と聞かれ、「さっきのお兄ちゃんは『ここには医者はいない』と言っていたのに」などと思っていたところ、そのおじさんはRotaの脈をとったりして、症状を確認しはじめました。そして、持って来たリュックを開くと酸素ボンベを取り出しました。
この時点でようやく、「あー、よかった」と少々安心したKapi。というのも、スタッフ証をつけていたわけではなかったので、単なる親切な通りすがりの医師免許を持つおじさんなのか、この山のスタッフなのかわからなかったのです。
どうやらレストランのお兄ちゃんは、このおじさんに連絡をしてくれていたようです。
その後、一般のお客さんたちと一緒にゴンドラに乗り、着いた先には別のおじさんが待機してくれていました。ゴンドラに乗り合わせた人たちは、変な形のまま固まっている指やだらんとした頭で酸素マスクをして車いすに乗っているRotaを見てびっくりしたことでしょう。
乗り換えのケーブルカー乗り場まで二人目のおじさんと一緒に行き、今度はまた別の若い兄ちゃん2人が一緒にケーブルカーに乗り込んでくれ、車いすの乗り入れを手伝ってくれました。(後から思うに、この二人の兄ちゃんはたまたま下山するタイミングだったスタッフさんだと思われます)
このケーブルカーが長かった~。本来ならばマッターホルンが目の前に見えるいい景色ですが、それどころではありません。若い兄ちゃん達に「話しかけた方がいい」と言われ、でも何を話したらいいかよくわからず、とりあえず「今どこどこらへんだよ」「もうすぐシュバルツゼーだよ」などと話しかけてました。
対するRotaは、
「腕が~。。。」「足が~。。。」
と訴えてくるものの、腕をどうして欲しいのか、足が何なのか、こちらにはうまく伝わりません。
どうやら足が車いすから落ちそうになっていると言いたいらしいことがわかり、片足を持ち上げてひっぱり上げようとすると、重くてびっくり。
「介護って大変だ」と心底思いました。
長い苦痛のケーブルカーがようやく終わり、ツェルマットの町に到着すると、山頂から連絡を受けていた救急車が待機してくれていました。若い女性と男性の救急隊員です。
女性の隊員さんにまず言われたのが「呼吸の仕方がよくないから、ゆっくり吸って、1-2秒息止めて、ゆっくり吐いて~」という呼吸法。
それをしばらく続けた後、「どう?気分は?」と聞かれ、
「あなたに会ったら、楽になった」
まるで口説き文句のような発言に思わず吹き出しそうになってしまったKapiです。
それから朝食に何を食べたかを聞かれた際、バナナひと口しか食べていないことを告げると、高い山に行く時にはしっかり食べて、しっかり水分も取って行かないとダメだと言われてました。Kapiはバナナとシリアルバー食べてたし、そもそも高度変化には比較的強いらしく体調の変化は全くありませんでしたが、高度に敏感なRotaは今後気をつけないとダメですね。
そんなこんなで少しは状態がましになったRota、山頂のときよりもしゃべれるようになり、自分で状況を説明(私は何が起こったのか目撃していなかったし)。しかし、体はまだうまく動かないようです。
救急車付属のでっかいストレッチャーに乗せられ、町のお医者さんの所へ。
Kapiは助手席に乗ったのですが、後部とのしきりにある小窓から女性隊員さんと雑談しているのが聞こえてきました。ドライバーの男性隊員さんも「大丈夫だと思うよ」と話しかけてくれました。後からきいたところ、雑談しながら血中酸素濃度のチェックなどをしていたとのこと。
数分でお医者に到着。見た目は普通のお家のような小さな医院です。Rotaはストレッチャーに乗ったまま診察室へ。
Kapiは男性隊員さんとお会計の話と相成りました。救急車の出動料金として250スイスフランをクレジットカードで支払いました。医療費にかかるすべての料金は事後清算となるとのことで、領収書など保険の請求に必要な書類をまとめて封筒に入れてくれました。
その後、Rotaがいる診察室に入ると、ベッドに横になってましたが、すでに初期診察を終えており、本人もだいぶ楽になったようです。その後、血液検査と心電図をとり、一本注射を打たれました。何の薬かと聞くと、アスピリンとのこと。どういう効果があるのか、そもそも効果があったのかは、本人曰く不明でしたが。
血液検査の結果が出るまで、しばらく待っててと言われ、そのまま診察室で待機。部屋があったかいし、バタバタが一段落したこともあり、二人ともウトウトしちゃいました。
心電図も血液検査も問題なし。山頂にいるときに、腕のしびれがひどく動かせない状態を見て「心臓発作かもしれない」なんて言われてたのですが、これでひと安心です。診断は、高山病ではなくて「過呼吸」とのこと。「息を一生懸命吸わなくちゃ」という思いが強すぎたために起こった過呼吸でしょうか。しかし、過呼吸であんな重病人のような状態になってしまうとは怖いですね。
帰る時には若干の手のしびれがあるものの、普通に歩けるようになっていました。お医者さんにも明日からハイキングしてもいいとお墨付きをもらいました。
会計を終え、タクシーを呼んでもらってホテルへ。本人は歩いて帰れると言っていましたが、途中で座り込まれてもこちらが困るし。
ホテルへの道中、今後の予定を相談。当初の予定では夕方に次の宿泊地Fieschへ移動し、そこで2泊することになっていましたが、こんな状態で強行する気はありません。そこで、Fiesch行きを今回はやめて、ツェルマットに2泊延泊することにしました。明日一日ゆっくりして、気持ちも新たに旅行を再開することに。
ホテル到着後、すぐにフロントで2泊延長できるかを聞いた所、今日はひと部屋空いているけれど、明日は満室とのこと。荷物はこのホテルに預かってもらっていたし、ひとまず今晩はこのまま宿泊することに。
部屋に帰って来たのが、夕方5時すぎ。今夜の食料を調達すべく、Rotaを部屋に残し、買い出しへ。その前にホテルのフロントで、この周辺で高すぎない料金で泊まれるホテルはないかと聞いた所(ツェルマットは高級ホテルが多い!)、快く調べておいてくれるとのお返事。そして、Fieschの宿にキャンセルの電話をし、スーパーで買い物して帰ってくると、フロントの人が同じランクのホテルで今泊まっている料金と同じ金額という特別料金(!)で明日のホテルを予約してくれていました。フロントの人がいい人でよかった~。
そんなこんなで予想外のツェルマット6泊となりました。
それにしても、いろいろと写真撮ってないで、もっと早くに下山していたらRotaがこんなに辛い状況にはならなかっただろうに。。。とひとり猛省。今思い返しても、あんな姿はもう見たくないです。
ひとり密かに反省していたKapiにさらなる追い打ちが。
夜、Rota氏がこう言ってきました。
「昼間、相当あせっていたようだね。英語がむちゃくちゃだったよ。」
。。。。。。。
ダブルパーンチ!!!!!!!
たしかにそうかもしれません。自分が何をしゃべったのか全く覚えてないのです。でも、(いつも以上に)言葉がうまくでてこなくてもどかしく思っていたのは覚えています。
緊急時に役に立たないようではダメですね。
突然のアクシデント発生に脳みそフル回転、しかもトンネルダッシュ@3883m。どうやら脳の言語分野が活性化するには酸素が薄すぎたようです。(と、言い訳しておきます)
かたや、体は動かない&口も動かないRotaは酸素が脳に集中して送り込まれていたようで、頭は非常にクリアーだったそうな。自分では「こう言えばいい」「こう説明しよう」と思っているにも関わらず、口が動かない。しかも、相方の会話を聞いていると「それじゃ通じない!」とイライラ。
すんません。
言葉で伝えようとすると、Kapiが思ったほど顔を近づけてこないためにイライラ。後からこのことを指摘されて思い返してみると、音ではなくて唇の動きで何を言おうとしているのかを読み取ろうとしていたことに自分で気がつきました。
体力勝負や双方にフラストレーションが溜まること等、介護の大変さを垣間みるいい体験になりました。
ま、とにかく無事に帰ってこられてよかったということで、この日の出来事を終わりにしましょう。
参考までに、救助経費情報:
医療費(診察費、検査費等) 427CHF
山岳救助費(人件費、酸素ボンベ等だと思われる)250CHF(一律)
救急車 250CHF
総額 927CHF
旅行後、すぐに保険の手続きをしたらなんと4営業日で全額が振り込まれました。早すぎるくらい早い対応でびっくり。旅行保険(ひとり21ユーロ)に入っておいて本当によかった~。