もう一度、ニューヨーク時間
に合わせてある猫の置時計に
目をやる。長針と短針を、じ
っと見つめる。見つめだって、
どうにもならないと、わかっ
ているのに、それでも見る。
ねえ、どうして。
どうして、メールをくれない
の?
あなたは今、どこで、何をし
ているの?
必ずメールを送るって、あの
約束を忘れたの?
それとも、もうわたしのこと、
忘れてしまったの?
空しい疑問符に搦めとれたま
ま、ベットにどさっと倒れ込
む。失望がぐるぐると、全身
を駆け巡っている。両手で
抱え込んだ枕に顔を押し付け
て、悲しくて泣いている女の
子のふりをしてみる。
まるで、水槽から外に飛び出し
てしまった金魚のよに、なす
術もなく、足掻いている心を
持てあましながら。
ああ、泣きたい、と思う。
「泣き虫詩音」になって、思い
きり泣きたい。涙で洗い流して
しまいたい、息苦しいまでの、
この想い。 たぶんあのひとは、
わたしがこんなにも烈しい気持
ちを抱えていることを、知ら
ない。知ったらきっと、驚いて
しまうだろう。
電話したいと思う、電話して、
声が聞きたい。この気持を伝え
たい。だけど、できない。だって
わたしは、あのひとの電話番号を
知らない。
新しい住所と電話番号が決まった
ら、すぐにメールで知らせるね。
うん、待ってる。
そんな約束をした空港で、別れる
前に、あのひとは言った。
「淋しくなる」と呟いたわたしに
対して。
「大丈夫。どんなに遠く離れてい
ても、つながるのは心と心なんだ
から。心の中で相手を想っていれ
ば、それはつながってることに
なるんだよ」
想ってる。こんなに、想って
る。恋よりも、烈しく。一分、
一秒ごとに。張り裂けて、ば
らばらになり、砕け散ってしまい
そうなほどに。でも、淋しい。
想っているだけでは、わたしは
幸せになれない。
目を閉じると、二十二歳のわた
しが見える。
走り過ぎて、息を切らしている肩。
メールが来なかっただけで、まる
でこの世の終わりみたいに悲観し
て、ベットに倒れ込んでいる背中。
情熱と苦悩の綯(な)い交ぜになった
彼女の貝殻骨のあたりを、そっと、
この手のひらで撫でてあげたくなる。
今のわたしには、ゆるやかな痛み
のように、わかっている。
あのひとの言った通りなのだ。
つながるのは心と心。それ以外
では、人はつながることなどで
きないのだと。
に合わせてある猫の置時計に
目をやる。長針と短針を、じ
っと見つめる。見つめだって、
どうにもならないと、わかっ
ているのに、それでも見る。
ねえ、どうして。
どうして、メールをくれない
の?
あなたは今、どこで、何をし
ているの?
必ずメールを送るって、あの
約束を忘れたの?
それとも、もうわたしのこと、
忘れてしまったの?
空しい疑問符に搦めとれたま
ま、ベットにどさっと倒れ込
む。失望がぐるぐると、全身
を駆け巡っている。両手で
抱え込んだ枕に顔を押し付け
て、悲しくて泣いている女の
子のふりをしてみる。
まるで、水槽から外に飛び出し
てしまった金魚のよに、なす
術もなく、足掻いている心を
持てあましながら。
ああ、泣きたい、と思う。
「泣き虫詩音」になって、思い
きり泣きたい。涙で洗い流して
しまいたい、息苦しいまでの、
この想い。 たぶんあのひとは、
わたしがこんなにも烈しい気持
ちを抱えていることを、知ら
ない。知ったらきっと、驚いて
しまうだろう。
電話したいと思う、電話して、
声が聞きたい。この気持を伝え
たい。だけど、できない。だって
わたしは、あのひとの電話番号を
知らない。
新しい住所と電話番号が決まった
ら、すぐにメールで知らせるね。
うん、待ってる。
そんな約束をした空港で、別れる
前に、あのひとは言った。
「淋しくなる」と呟いたわたしに
対して。
「大丈夫。どんなに遠く離れてい
ても、つながるのは心と心なんだ
から。心の中で相手を想っていれ
ば、それはつながってることに
なるんだよ」
想ってる。こんなに、想って
る。恋よりも、烈しく。一分、
一秒ごとに。張り裂けて、ば
らばらになり、砕け散ってしまい
そうなほどに。でも、淋しい。
想っているだけでは、わたしは
幸せになれない。
目を閉じると、二十二歳のわた
しが見える。
走り過ぎて、息を切らしている肩。
メールが来なかっただけで、まる
でこの世の終わりみたいに悲観し
て、ベットに倒れ込んでいる背中。
情熱と苦悩の綯(な)い交ぜになった
彼女の貝殻骨のあたりを、そっと、
この手のひらで撫でてあげたくなる。
今のわたしには、ゆるやかな痛み
のように、わかっている。
あのひとの言った通りなのだ。
つながるのは心と心。それ以外
では、人はつながることなどで
きないのだと。