――――また、会えたね。
あのひとのうしろに隠れる
ようにして、俯(うつむ)き
加減の少年が立っている。
―――驚いた!こんなことって、
あるのね?
―――僕は驚かなかった。全然。
と,あのひとは言う。その時、書棚の
陰から、ひとりの少女が小鹿のよう
に飛び出してきて、わたしの姿に気
づき、はっと姿勢を正す。あのひと
笑顔を向けながら、話しかける。
―――ほら、章子ちゃん。ご挨拶して。
この人が『はるになったら』のお姉さん
だよ。
―――こんにちは、高田章子です。この
子は、弟の登です。
―――ああ、ほんとに、驚いちゃった。
こんなことって、あるのね
―――さっきから、驚いてばかりいる。
そう言って、あのひとは笑う。
―――あなたはどうして、驚かないの?
―――驚かないよ。だって、絶対
会えるってわかってたから。
―――どうして、わかるの、そんなこ
とが、
―――理由なんて、ないよ。ただ、わかっ
ただけ。決まってたんだよ。ここで、
こうしてまた会えるって、最初から
決まってた。
それからあのひとは、わたしの胸
もとに、まっすぐ右手を差し出す。
大きな手のひらだ。わたしは知って
いる。
大きくて、ごつごつしていて、温
かい。
わたしに手紙を書いてくれた手。
電話をかけてくれた手。あの日、
成田で、わたしを抱きしめてくれた
手だ。
そう、これがあのひとの「忘れ物」
だった。
わたしは繰り返す。
強く、強く、もう絶対に離さないと、
自分に言い聞かせながら。
あのひとのうしろに隠れる
ようにして、俯(うつむ)き
加減の少年が立っている。
―――驚いた!こんなことって、
あるのね?
―――僕は驚かなかった。全然。
と,あのひとは言う。その時、書棚の
陰から、ひとりの少女が小鹿のよう
に飛び出してきて、わたしの姿に気
づき、はっと姿勢を正す。あのひと
笑顔を向けながら、話しかける。
―――ほら、章子ちゃん。ご挨拶して。
この人が『はるになったら』のお姉さん
だよ。
―――こんにちは、高田章子です。この
子は、弟の登です。
―――ああ、ほんとに、驚いちゃった。
こんなことって、あるのね
―――さっきから、驚いてばかりいる。
そう言って、あのひとは笑う。
―――あなたはどうして、驚かないの?
―――驚かないよ。だって、絶対
会えるってわかってたから。
―――どうして、わかるの、そんなこ
とが、
―――理由なんて、ないよ。ただ、わかっ
ただけ。決まってたんだよ。ここで、
こうしてまた会えるって、最初から
決まってた。
それからあのひとは、わたしの胸
もとに、まっすぐ右手を差し出す。
大きな手のひらだ。わたしは知って
いる。
大きくて、ごつごつしていて、温
かい。
わたしに手紙を書いてくれた手。
電話をかけてくれた手。あの日、
成田で、わたしを抱きしめてくれた
手だ。
そう、これがあのひとの「忘れ物」
だった。
わたしは繰り返す。
強く、強く、もう絶対に離さないと、
自分に言い聞かせながら。
あなたのことを好きでいようと
決めたら
とても穏やかな気持ちになった
友だちのままでいられませんか?
愛にいちばん近い友だちのままで
好きになってしまったことを
もう私の人生から消せないから
だから友だちのままで
一度だけくちぢけをかわし
一度だけ胸に抱かれて眠った
その短い時間の中で
何年も何十年も生きようと思った
決めたら
とても穏やかな気持ちになった
友だちのままでいられませんか?
愛にいちばん近い友だちのままで
好きになってしまったことを
もう私の人生から消せないから
だから友だちのままで
一度だけくちぢけをかわし
一度だけ胸に抱かれて眠った
その短い時間の中で
何年も何十年も生きようと思った
聖なる場所は雲の上や天国
にあるのではなく、自分の
立っているこの場所である
はずなのに、どうして人は
そのことを忘れてしまうの
だろう。
楽園は私の胸の中にある。
あなたのことが大好きで
たまらない、この胸の中に。
にあるのではなく、自分の
立っているこの場所である
はずなのに、どうして人は
そのことを忘れてしまうの
だろう。
楽園は私の胸の中にある。
あなたのことが大好きで
たまらない、この胸の中に。
気持ちはまだ、テーブルの上あた
りを彷徨(さまよ)っていた。
それなのに、夜空を埋め尽くす
星の光に照らされて、ベットは
明るい海のようだった。二枚の
シーツは、寄せては返す、白い
波。
わたしたちは裸になって、ただ、
そこに飛び込んでいけば良かった。
この秋の終わりに、わたしが
求めていたのは一瞬のきらめ
きで、彼が求めていたのは、
永遠だった。
けれど、わたしはその夜、
はっきりと知ることになる。
わたしの体で、理解することに
なる。一瞬と永遠はつまるところ、
同じひとつの輝きなのだと。
りを彷徨(さまよ)っていた。
それなのに、夜空を埋め尽くす
星の光に照らされて、ベットは
明るい海のようだった。二枚の
シーツは、寄せては返す、白い
波。
わたしたちは裸になって、ただ、
そこに飛び込んでいけば良かった。
この秋の終わりに、わたしが
求めていたのは一瞬のきらめ
きで、彼が求めていたのは、
永遠だった。
けれど、わたしはその夜、
はっきりと知ることになる。
わたしの体で、理解することに
なる。一瞬と永遠はつまるところ、
同じひとつの輝きなのだと。
「素顔の幸福は、しみもあれば
涙の痕もあります。
思いがけない片隅に、
不幸のなかに転がっています。
“屑ダイヤより小さいそれに”
気がついて掌にすくい上げること
の出来る人を、幸福というのかも
しれません。
涙の痕もあります。
思いがけない片隅に、
不幸のなかに転がっています。
“屑ダイヤより小さいそれに”
気がついて掌にすくい上げること
の出来る人を、幸福というのかも
しれません。