自分の言葉を噛みしめ、味わ
った。
私は今、恋をしている。
その恋の行く手には霧が流れて
いる。私はしあわせなのだろう
か。
悲しい疑問が心に滑り込んで
きたとき、窓の外の風景は私
にとってとてつもなく荒涼と
したものになった。
淋しい。またひとつ、私の
心の中で言葉になった。
った。
私は今、恋をしている。
その恋の行く手には霧が流れて
いる。私はしあわせなのだろう
か。
悲しい疑問が心に滑り込んで
きたとき、窓の外の風景は私
にとってとてつもなく荒涼と
したものになった。
淋しい。またひとつ、私の
心の中で言葉になった。
:畳の数と建坪は同じ数が
理想の住まい。
つまり、25坪の家なら、
畳25枚ということ。
八畳三間、八畳一間と
六畳三間、六畳なら
四間といった勘定。
これが、坪数より極端に
畳の数が多くなると、
収納や廊下、水回り、
台所部分などが狭く
なって、
やたら、窮屈で使い勝って
が悪くなる。
理想の住まい。
つまり、25坪の家なら、
畳25枚ということ。
八畳三間、八畳一間と
六畳三間、六畳なら
四間といった勘定。
これが、坪数より極端に
畳の数が多くなると、
収納や廊下、水回り、
台所部分などが狭く
なって、
やたら、窮屈で使い勝って
が悪くなる。
「わたしの名前は、サクラギといい
ます。東京から、彼に会うために、
アメリカに来ました。わたしは彼
の友だちです」
「そう、彼の友人なのね?あなた
の名前、もう一度言って」
「サクラギです。シオン・サクラ
ギといいます。東京から、彼に
会うために、アメリカに来ました。
わたしは彼の友だちです」
相手は一瞬、押し黙った。わたしは
次の言葉を待った。
「あなた今、どこにいる?どこから
電話をかけてる?東京から?」
「違います。今は、ラインクリフの
駅からかけています」
「あなた、ラインクリフにいるの?
今?本当に?」
驚きが伝わってきた。
「はい」
わたしは、ここにいます。
「マイガーッド、信じられない。
なんてことでしょう。あなたは
運が悪い。なぜなら彼はきょう、
日本に行きました。今朝の飛行機
でシカゴへ飛んで、シカゴで乗り
換えて、成田には、あしたの夕方
着くでしょう。あなたはいつ、
ニューヨークに来ましたか?」
背筋から1本、神経がすーっと
抜けていくのがわかった。抜けて
いったのは、魂だったのかもしれ
ない。急に、膝ががくがくしてき
た。
躰はそんな風だったけれど、心は
不思議あなくらい、落ち着いてい
た。だってわたしには、わわかって
いたから。わたしはすでに知ってい
た。 彼女より聞かされるよりも
前に、あのひとはここにはいない
と。
「わかった。じゃあ、ここで待って
る。場所がわかるのね?ではすぐ
あとで、会いましょう。ひとまず
今は、さよなら」
あのひとの暮らす家は、ひっそりと
静まった住宅街の中にあった。
チェストナット・ストリート。12
12番地。
右側のドアの前に、猫を抱いた、髪
の長い女の人が立っていた。
「こんばんは」
わたしの方から先に挨拶をした。
「わたしの名前は、チェンユーといい
ます。これは中国名ね、英語ではどう
ぞジェーンと呼んでください。さ。
中に入って」
彼女はわたしと同じくらいの年、ある
いは少しだけ下のようにも見えた。
細身の長身をゆったりとしたニット
のワンピースに包んで、その上から、
ざっくりと編まれた丈の長い藤色の
カーディガンを着ていた。
玄関先で彼女の姿を間近に見た瞬間
から、わたしは「たったひとつの印
象」に釘づけになっていた。
彼女は妊娠していた。おなかの膨らみ
は、それが臨月に近いことを物語って
いた。
ます。東京から、彼に会うために、
アメリカに来ました。わたしは彼
の友だちです」
「そう、彼の友人なのね?あなた
の名前、もう一度言って」
「サクラギです。シオン・サクラ
ギといいます。東京から、彼に
会うために、アメリカに来ました。
わたしは彼の友だちです」
相手は一瞬、押し黙った。わたしは
次の言葉を待った。
「あなた今、どこにいる?どこから
電話をかけてる?東京から?」
「違います。今は、ラインクリフの
駅からかけています」
「あなた、ラインクリフにいるの?
今?本当に?」
驚きが伝わってきた。
「はい」
わたしは、ここにいます。
「マイガーッド、信じられない。
なんてことでしょう。あなたは
運が悪い。なぜなら彼はきょう、
日本に行きました。今朝の飛行機
でシカゴへ飛んで、シカゴで乗り
換えて、成田には、あしたの夕方
着くでしょう。あなたはいつ、
ニューヨークに来ましたか?」
背筋から1本、神経がすーっと
抜けていくのがわかった。抜けて
いったのは、魂だったのかもしれ
ない。急に、膝ががくがくしてき
た。
躰はそんな風だったけれど、心は
不思議あなくらい、落ち着いてい
た。だってわたしには、わわかって
いたから。わたしはすでに知ってい
た。 彼女より聞かされるよりも
前に、あのひとはここにはいない
と。
「わかった。じゃあ、ここで待って
る。場所がわかるのね?ではすぐ
あとで、会いましょう。ひとまず
今は、さよなら」
あのひとの暮らす家は、ひっそりと
静まった住宅街の中にあった。
チェストナット・ストリート。12
12番地。
右側のドアの前に、猫を抱いた、髪
の長い女の人が立っていた。
「こんばんは」
わたしの方から先に挨拶をした。
「わたしの名前は、チェンユーといい
ます。これは中国名ね、英語ではどう
ぞジェーンと呼んでください。さ。
中に入って」
彼女はわたしと同じくらいの年、ある
いは少しだけ下のようにも見えた。
細身の長身をゆったりとしたニット
のワンピースに包んで、その上から、
ざっくりと編まれた丈の長い藤色の
カーディガンを着ていた。
玄関先で彼女の姿を間近に見た瞬間
から、わたしは「たったひとつの印
象」に釘づけになっていた。
彼女は妊娠していた。おなかの膨らみ
は、それが臨月に近いことを物語って
いた。
“心の水”はとかく楽なほうへと
流れたがるが・・・
たとえば、雪山で吹雪に遭ったと
します。ものすごい風速で粉雪が
飛んできて、息ができなくなる
ほど苦しい。
雪の中に穴を掘って首を突っ込
む。呼吸が確保できるようにな
って、「ああ、助かった。これで
生きられる」と、ほっとする。
穴を大きくして、その穴の中に
収まると、居心地のよい極楽
のような場所になる。
三十分もすると、氷がゴツゴツ
して寝心地が悪いとか、風が
吹いてテントが騒がしいとか、
いろいろな不満が出てきて最
低の場所になる。
そこで、次の日、ベースキャ
ンプまで下がってくると、そ
こでは電気がつき、エアーマ
ットがあり、ゲームや雑誌も
あり、雪洞やテントに比べ
たら快適そのものだ。
でも、すぐに「もう麓(ふもと)
へ帰りたい」と思い始める。
人間は、限りなく少しでも楽な
ほうへと流れていく。でも、
それでは人間は変れない。
流れたがるが・・・
たとえば、雪山で吹雪に遭ったと
します。ものすごい風速で粉雪が
飛んできて、息ができなくなる
ほど苦しい。
雪の中に穴を掘って首を突っ込
む。呼吸が確保できるようにな
って、「ああ、助かった。これで
生きられる」と、ほっとする。
穴を大きくして、その穴の中に
収まると、居心地のよい極楽
のような場所になる。
三十分もすると、氷がゴツゴツ
して寝心地が悪いとか、風が
吹いてテントが騒がしいとか、
いろいろな不満が出てきて最
低の場所になる。
そこで、次の日、ベースキャ
ンプまで下がってくると、そ
こでは電気がつき、エアーマ
ットがあり、ゲームや雑誌も
あり、雪洞やテントに比べ
たら快適そのものだ。
でも、すぐに「もう麓(ふもと)
へ帰りたい」と思い始める。
人間は、限りなく少しでも楽な
ほうへと流れていく。でも、
それでは人間は変れない。