シェークスピアの四代悲劇のうち、『ハムレット』、『マクベス』、『オセロー』といったものは、基本的に話の筋は一本なのだが、この『リア王』に限り、筋が二本あって、しかもそれぞれが独立して話が進んでいき、共有する登場人物を通して二つの話が合わさるという凝ったな内容になっている。
しかもその二つの話が、お互いに作用し、悲劇としての効果をより一層引き立てて、結末へと進んでいくのだ。これが、シェークスピアの悲劇の中で最高峰の作品と言われる所以の一つである。
しかもその二つの話が、お互いに作用し、悲劇としての効果をより一層引き立てて、結末へと進んでいくのだ。これが、シェークスピアの悲劇の中で最高峰の作品と言われる所以の一つである。
多くのシェークスピアの劇において、これから始まる劇全体の動きの謎を解く鍵が一幕一場に暗示されている。もちろん『リア王』も例外ではない。
リア王の宮殿、王座の間。ケント伯爵、グロスター伯爵、エドマンドが登場。
この二人は、急に国王の気が変わったことを話題にしている。
Kent: I thought the king had more affected the Duke of Albany than Cornwall. Gloucester: It did always seens so to us : but now, in the division of the kingdom, it appears not which of the dukes he values the most. ケント:王にはコーンウォール公爵よりもオルバニー公爵の方がお気に入りと思っていたが。 グロスター:事実、誰の目にもそのように思われました。ですが、こうして領地を分配するに 当たってどちらを重んじておられるのか、よく分かりませんですな。
この二人は、急に国王の気が変わったことを話題にしている。
つまり主人公リアは気が変わりやすい気質の持ち主であることを示していた。
次に話題は転じて二人の傍に立っていた青年エドマンドの事に及ぶ。
グロスターは、彼を嫡子が生まれた後に正妻ではない側室に生ませた庶子であると紹介する。
グロスターは、彼を嫡子が生まれた後に正妻ではない側室に生ませた庶子であると紹介する。
この時、グロスターがエドマンドを紹介するときに、かなり上品でない言葉で、息子の出生を辱めるのだが、そうした野卑さと軽薄さが、リア王の宮殿の空気の特色であるようだ。
ケント伯爵が息子のエドマンドの紹介を終えた頃にリア王が廷臣を引き連れて登場する。
リアは、秘密の意図を明らかにすると言って、老齢に及んだことから一切の国事を若い者に委ねて、安楽な余生を送ることを宣言する。
そして国王は、三人の娘に国を分け与えることにしたが、二人の姉娘たちのゴネリルとリーガンが嫁いでいるオルバニー公爵とコーンウォール公爵は、グロスター伯爵が言っている通りに、リアから同じ程度に寵愛を受けているので、同程度の領土を分けてもううことになる。
次いで残りの領土は末娘のコーディリアへ行くわけだが、移り気なリアが、父である自分に対する愛情を最も深く披瀝した者に、最も多くの領土を与えると言い出したのだった。
そして国王は、三人の娘に国を分け与えることにしたが、二人の姉娘たちのゴネリルとリーガンが嫁いでいるオルバニー公爵とコーンウォール公爵は、グロスター伯爵が言っている通りに、リアから同じ程度に寵愛を受けているので、同程度の領土を分けてもううことになる。
次いで残りの領土は末娘のコーディリアへ行くわけだが、移り気なリアが、父である自分に対する愛情を最も深く披瀝した者に、最も多くの領土を与えると言い出したのだった。
'Tell me … Which of you shall we say doth love us most ? That we our largest bounty may extend Where nature doth with merit challenge.' (誰が一番この父を愛しておるのか、それを問うてみたい、 ……そうすれば、余の一番の贈り物を、孝心と長所によって 当然それを受けるべき者に授けよう)
いわゆる「愛情比べ」の場なのだが、ここで言う(nature)とは、「親を思う自然の情愛」という意味である。
こんなつまらない不自然な競争が全ての不幸の始まりだった。