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「リア王」 舞台内容 一幕一場(4)

2010-01-30 13:58:19 | 「リア王」

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 コーディリアに対するリアの仕打ちを見かねてケント伯爵が口を出すが、反ってリアの怒りの炎に油を注ぐ形になってしまう。
 'Kent, on thy life, no more.'
 (ケント、命が惜しくば、それ以上言うな)


 リアはコーディリアに与えるはずだった領土を全部取り上げて、二人の姉娘に分けてしまい、彼女たちの夫たちに国の支配権と収入を与え、自分は国王の称号と百人の家来だけを留めることにした。そしてこの家来たちは姉娘たちの手で養われることとし、リアは一ヶ月交代で娘のところに住むことに決めた。


 このリアの気まぐれから出た常軌を逸した決定に、ケントは厳しく抗議する。
 'Kill thy physician, and the fee bestow
   Upon thy foul disease. Revoke thy doom;
   Or, whilst I can vent clamour from my throat,
   I'll tell thee thou dost evil.'
 (医者を殺して、治療代を悪い病気(梅毒)にお出しになるがいい。
 今のご宣告をお取り消し下さい、でなければ、この喉から
 声の出る限り、愚かな所業とお諌め申し上げ続けますぞ)


 ついに、堪忍袋の緒が切れたリアは、ケントを追放してしまう。
 こうして彼にとって良心の役目をしていた忠臣を追い出してしまったのだ。




 ケントが立ち去ると、フランス国王とバーガンティ公が登場する。この二人はコーディリアの求婚者としてリアの宮殿に来ていたのだった。


 リアは、持参金のない娘とでも結婚する気があるのかと二人に尋ねる。
持参金が目当てであったバーガンティは、即座に権利を放棄したが、高貴な心の持ち主であるフランス王は、リアが娘を呪う言葉を受けて、次のように応酬してコーディリアの手を取るのだった。
Lear:                        Better thou
    Hast not been born than not to have pleased me better.

France:        Is it but this, ――a tardiness in nature
      Which often leaves the history unspoke
      That it intends to do.

リア:           父親を喜ばせないくらいならば、
   おまえなど生まれて来ぬほうがましだったのだ。

フランス王:  たった、これだけの事ですか――つまり口下手で、
     こうしようと思ったことでも、人に伝えられない
     生まれつきの無口がいけないということですか。


 かくしてリアは、自身の宮廷において二人しかいなかった愛情と誠実の持ち主であるコーディリアとケントを追い出してしまった。
 リアさん、いくらなんでも、親が子供に掛ける言葉じゃないですよ。

 ここまでで、リアの頑固で、言葉と行為との区別も、正直と不正直の判別も出来ない性格がが明らかにされてきたのだが、さらに、この後にゴネリルとリーガンの会話を入れることで、一層のリアの性格を明らかにさせている。

 ちなみにフランス王の台詞の中で(nature)が出てくるが、この部分は、心で思っていることをなかなか言うことが出来ない、「生まれながらの性格」という意味で、つまり口下手ということである。

 ただし、これは以前に述べた「どんなに多くの言葉を弄しても心の真実を完全に語ることが出来ないのであって、少なからず取りこぼされる想いが残ってしまう」に通じると思う。


Goneil: You see how full of changes his age is; the observation we have made
      of it hath not been little: he always loved our sister most; and with what
      poor judgement he hath now cast her off appears too grossly.

Regan:   'The infirmity of his age: yet he hath ever but slenderly known
       himself.

Goneil: The best and soundest of his time hath been but rash; then must we
      look to receive from his age, not alone the imperfections of long-engraffed
      condition, but therewithal the unruly waywardness that infirm and choleric
      years bring with them.

ゴネリル:この頃は、お年のせいで、大層むら気が多くなったわね。気が付いただけでも
    かなりの数よ。これまで妹を一番可愛がっていらしたのに、それをあんな風に
    放り出してしまうなどと、それこそ分別が無くなってきた証拠だわ。

リーガン:やはり、お年には勝てないもの、尤もこれまでだってご自分のことというと殆ど
    何もお見えならなかった気性だったけれど。

ゴネリル:一番お元気な分別の盛りだった時でも、結構、激しかったもの。
    その上、お年なのだから、私たちも覚悟しておかなくては駄目よ、長年の間に
    凝り固まってしまった気質の歪みはもちろん、体の自由が利かず、気ばかり焦る
    老人にはありがちの、始末の悪い我儘まで背負い込まなければならないことをね。


 リアがコーディリアとケントを追い出した場面を目の前で見たばかりのゴネリルとリーガンの意見は一致していた。そこで二人は……
Goneil: ...Pray you, let's hit to-gether: if our father carry authority with such
      dispositions as he bears, this last surrender of his will but offend us.

Regan: We shall further think on't.

Goneil: We must do something, and i' the heat.

ゴネリル:よくて、お互いに手を取り合っていきましょう。お父様に今までのような気分で権力を
   振り回されたのでは、幾ら隠居されたといっても、私たちにとって煩わしいだけですもの。

リーガン:その事については、もっと十分に案を練っておきましょうよ。

ゴネリル:とにかく何とか手を打っておかなければ、鉄は熱いうちに。


 さすがと言うべきか、実直なコーディリアと違って、姉たちは一筋縄では行かないようである。