(2023年5月31日投稿)
【はじめに】
今回のブログでは、高校世界史において、古代ギリシア・ローマを、どのように記述されているかについて、考えてみたい。
参考とした世界史の教科書は、次のものである。
〇福井憲彦、本村凌二ほか『世界史B』東京書籍、2016年[2020年版]
〇木村靖二ほか『詳説世界史 改訂版』山川出版社、2016年[2020年版]
また、前者の高校世界史教科書に準じた英文についても、見ておきたい。
〇本村凌二ほか『英語で読む高校世界史 Japanese high school textbook of the WORLD HISTORY』講談社、2017年[2018年版]
補足として、古代ギリシアの哲学者アリストテレスの生涯について、解説しておく。
〇荻野弘之『哲学の饗宴』日本放送出版協会、2003年
【本村凌二ほか『英語で読む高校世界史』(講談社)はこちらから】
本村凌二ほか『英語で読む高校世界史 Japanese high school textbook of the WORLD HISTORY』講談社
〇本村凌二ほか『英語で読む高校世界史 Japanese high school textbook of the WORLD HISTORY』講談社、2017年[2018年版]
【目次】
本村凌二『英語で読む高校世界史』
Contents
Introduction to World History
1 Natural Environments: the Stage for World History
2 Position of Japan in East Asia
3 Disease and Epidemic
Part 1 Various Regional Worlds
Prologue
The Humans before Civilization
1 Appearance of the Human Race
2 Formation of Regional Culture
Chapter 1
The Ancient Near East (Orient) and the Eastern Mediterranean World
1 Formation of the Oriental World
2 Deployment of the Oriental World
3 Greek World
4 Hellenistic World
Chapter 2
The Mediterranean World and the West Asia
1 From the City State to the Global Empire
2 Prosperity of the Roman Empire
3 Society of the Late Antiquity and Breaking up
of the Mediterranean World
4 The Mediterranean World and West Asia
World in the 2nd century
Chapter 3
The South Asian World
1 Expansion of the North Indian World
2 Establishment of the Hindu World
Chapter 4
The East Asian World
1 Civilization Growth in East Asia
2 Birth of Chinese Empire
3 World Empire in the East
Chapter 5
Inland Eurasian World
1 Rises and Falls of Horse-riding Nomadic Nations
2 Assimilation of the Steppes into Turkey and Islam
Chapter 6
1 Formation of the Sea Road and Southeast Asia
2 Reorganizaion of Southeast Asian Countries
Chapter 7
The Ancient American World
Part 2 Interconnecting Regional Worlds
Chapter 8
Formation of the Islamic World
1 Establishment of the Islamic World
2 Development of the Islamic World
3 Islamic Civilization
World in the 8th century
Chapter 9
Establishment of European Society
1 The Eastern European World
2 The Middle Ages of the Western Europe
3 Feudal Society and Cities
4 The Catholic Church and the Crusades
5 Culture of Medieval Europe
6 The Middle Ages in Crisis
7 The Renaissance
Chapter 10
Transformation of East Asia and the Mongol Empire
1 East Asia after the Collapse of the Tang Dynasty
2 New Developments during the Song Era ―Advent of Urban Age
3 The Mongolian Empire Ruling over the Eurasian Continent
4 Establishment of the Yuan Dynasty
Part 3 Unification of the World
Chapter 11
Development of the Maritime World
1 Formation of the Three Maritime Worlds
2 Expansion of the Maritime World
3 Connection of Sea and Land; Development of Southeast Asia World
Chapter 12
Prosperity of Empires in the Eurasian Continent
1 Prosperity of Iran and Central Asia
2 The Ottoman Empire; A Strong Power Surrounding
the East Mediterranean
3 The Mughal Empire; Big Power in India
4 The Ming Dynasty and the East Asian World
5 Qing and the World of East Asia
Chapter 13
The Age of Commerce
1 Emergence of Maritime Empire
2 World in the Age of Commerce
World in the 17th century
Chapter 14
Modern Europe
1 Formation of Sovereign States and Religious Reformation
2 Prosperity of the Dutch Republic
and the Up-and-Coming England and France
3 Europe in the 18th Century and the Enlightened Absolute Monarchy
4 Society and Culture in the Early Modern Europe
Chapter 15
Industrialization in the West and the Formation of Nation States
1 Intensified Struggle for Economic Supremacy
2 Industrialization and Social Problems
3 Independence of the United States and Latin American Countries
4 French Revolution and the Vienna System
5 Dream of Social Change; Waves of New Revolutions
Part 4 Unifying and Transforming the World
Chapter 16
Development of Industrial Capitalism and Imperialism
1 Reorganization of the Order in the Western World
2 Economic Development of Europe
and the United States and Changes in Society and Culture
3 Imperialism and World Order
World in the latter half of 19th century
Chapter 17
Reformation in Various Regions in Asia
1 Reform Movements in West Asia
2 Colonization of South Asia and Southeast Asia,
and the Dawn of National Movements
3 Instability of the Qing Dynasty and Alteration of East Asia
Chapter 18
The Age of the World Wars
1 World War I
2 The Versailles System and Reorganization of International Order
3 Europe and the United States after the War
4 Movement of Nation Building in Asia and Africa
5 The Great Depression and Intensifying International Conflicts
6 World War II
Part 5 Establishment of the Global World
Chapter 19
Nation-State System and the Cold War
1 Hegemony of the United States and the Development of the Cold War
2 Independence of the Asian-African Countries and the "Third World"
3 Disturbance of the Postwar Regime
4 Multi-polarization of the World and the Collapse of the U.S.S.R.
Final Chapter
Globalization of Economy and New Regional Order
1 Globalization of Economy and Regional Integration
2 Questions about Globalization and New World Order
3 Life in the 21st Century; Time of Global Issues
The Rises and Falls of Main Nations
Index(English)
Index(Japanese)
さて、今回の執筆項目は次のようになる。
・古代ギリシア・ローマの記述~『世界史B』(東京書籍)より
・古代ギリシア・ローマの記述~『詳説世界史』(山川出版社)より
・英文の記述~本村凌二ほか『英語で読む高校世界史 Japanese high school textbook of the WORLD HISTORY』(講談社)より
・【補足】アリストテレスの生涯~荻野弘之『哲学の饗宴』より
古代ギリシア・ローマの記述~『世界史B』(東京書籍)より
〇福井憲彦、本村凌二ほか『世界史B』(東京書籍、2016年[2020年版])では、古代ギリシア・ローマの記述は次のようにある。
第1編 さまざまな地域世界
第1章 オリエント世界と東地中海世界
3 ギリシア世界
【ギリシアの古典文明】
ギリシア人はオリエントの先進文明を受けいれつつ、人間中心の考え方にもとづいて合理的な精神をつちかいながら、独自の文明を生みだした。
ギリシア人の心にはオリンポス12神を中心とする神話の世界が生きていた。人間の姿をした神々はそれぞれが豊かな個性をもち、喜怒哀楽をあらわに人間に働きかけると考えられた。特定の経典はなかったが、現世を肯定する神話の物語は芸術のさまざまな分野に大きな影響を与えた。
前8世紀のホメロス(Homeros、前8世紀ごろ)をまとめた叙事詩『イーリアス』と『オデュッセイア』には、トロヤ戦争の英雄たちとともに神々が登場する。前700年ごろには、ヘシオドス(Hesiodos、前700ごろ)が神々の系譜をまとめた『神統記』と農耕生活の教訓詩『労働と日々』を著した。前7世紀ごろから個人の心情をうたう叙情詩もつくられ、女流詩人サッフォー(Sappho、前612ごろ~?)やオリンピア讃歌のピンダロス(Pindaros、前518~前438)などがあらわれた。前5世紀のアテネでは、人間の運命などをテーマにした三大悲劇詩人のアイスキュロス(Aischylos、前525~前456)、ソフォクレス(Sophokles、前496ごろ~前406)、エウリピデス(Euripides、前485ごろ~前406ごろ)、現実の社会を風刺した喜劇作家のアリストファネス(Aristophanes、前450ごろ~前385ごろ)らの作品が祝祭日に上演された。
神々はまた人体美を理想化した彫像としても刻まれ、フェイディアス(Pheidias、前490ごろ~前430ごろ)やプラクシテレス(Praxiteles、前4世紀)らが活躍した。建築でも、神殿が重視され、パルテノン神殿に代表される重厚なドーリア式、優美なイオニア式、繊細なコリント式などの様式で建てられた。
オリエントの先進文明に接するイオニアのギリシア人の間では、いち早く前6世紀に、世界を合理的な思考によって理解しようとする自然哲学が生まれた。万物の根源を水であるとしたタレス(Thales、前624ごろ~前546ごろ)、万物流転を唱えたヘラクレイトス(Herakleitos、前544ごろ~?)をへて、デモクリトス(Demokritos、前460ごろ~前370ごろ)は万物の根源を原子(アトム)と考えるにいたった。このような自然哲学の潮流から自然科学の思考がめばえている。万物の根源を数とみなしたピタゴラス(Pythagoras、前582ごろ~前497ごろ)は数学の基礎をきずき、病因を究明したヒッポクラテス(Hippokrates、前460ごろ~前375ごろ)は「医学の父」といわれた。弁論術の教導を職業とするソフィスト(Sophist)のなかからプロタゴラス(Protagoras、前485ごろ~前415ごろ)があらわれ、「人間は万物の尺度である」とする相対主義を唱えた。これに反対したソクラテス(Sokrates、前469~前399)は、真理の絶対性と知徳の合一を主張した。弟子のプラトン(Platon、前427~前347)は、イデア論にもとづく理想主義哲学を説き、哲人の指導する理想国家論を唱えた。その弟子アリストテレス(Aristoteles、前384~前322)は、哲学、論理学、政治学、自然哲学などの諸学を集大成し、のちのイスラーム世界の学問や中世ヨーロッパのスコラ学に大きな影響を及ぼしている。
ギリシア人は、年代記風ではない自由な歴史叙述を行った最初の民族であった。ヘロドトス(Herodotos、前484ごろ~前425ごろ)は、ペルシア戦争の歴史を興味深い物語風に描き、トゥキディデス(Thukydides、前460ごろ~前400ごろ)は、ペロポネソス戦争の歴史を、その因果関係を批判的に考察して教訓的に記述した。
(福井憲彦、本村凌二ほか『世界史B』東京書籍、2016年[2020年版]、42頁~43頁)
第1編 さまざまな地域世界
第1章 オリエント世界と東地中海世界
4ヘレニズム世界
【ヘレニズム文明】
ヘレニズム時代には、ギリシア文明とオリエント文明が融合してヘレニズム文明が生まれた。ギリシア語は共通語(コイネー、Koine)となり、オリエントとギリシアの諸科学がギリシア語で集大成されて発達した。とくに自然科学では、地球の自転と公転を指摘したアリスタルコス(Aristarchos、前310ごろ~前230ごろ)、「ユークリッド幾何学」を大成したエウクレイデス(Eukleides、前300ごろ)、浮体の原理で知られるアルキメデス(Archimedes、前287ごろ~前212)、地球の周囲の長さを計測したエラトステネス(Eratosthenes、前275ごろ~前194)など、すぐれた科学者が輩出した。エジプトのアレクサンドリアには大図書館をそなえたムセイオン(Museion、研究所)がつくられ、学問の中心となった。
この時代には、ポリスや民族といった旧来の枠をこえて人々が活動したので、世界市民主義(cosmopolitanism、コスモポリタニズム)や個人主義の風潮がめばえた。ゼノン(Zenon、前335ごろ~前263)を祖とするストア派(Stoa)は禁欲を説き、エピクロス(Epikuros、前342ごろ~前271)を祖とするエピクロス派は精神的快楽を唱えたが、いずれも個人の平穏な生き方と心の平静さを求める新しい哲学であった。「ミロのヴィーナス」や「ラオコーン」に代表されるヘレニズム美術は感情や運動の表現にすぐれた躍動的なものであり、ローマやガンダーラの美術に大きな影響を及ぼした。歴史叙述においては、政体循環史観の立場からローマの興隆史を書いたポリビオス(Polybios、前201ごろ~前120ごろ)があげられる。
【ミロのヴィーナス】
・1820年にメロス(ミロ)島で出土した美の女神アフロディテ(ヴィーナス)像。高さ204cm。
【ラオコーン】
・トロヤ戦争の物語に題材をとったヘレニズム彫刻の代表作。躍動的な表現がすぐれている。ローマ出土。高さ184cm。
(福井憲彦、本村凌二ほか『世界史B』東京書籍、2016年[2020年版]、45頁)
ローマ文明について
第2章 地中海世界と西アジア 2 ローマ帝国の繁栄
【ローマの文明】
ギリシア人は原理や理論を重んじ、思想や芸術にすぐれていたが、ローマ人は実践や実用にすぐれ、法律や土木建築において独創性を発揮した。ローマ人は自由人と奴隷とを区別したが、自由人の間では、ローマ市民権をもつ者ともたざる者の区別があった。ローマ法は、当初はローマ市民権者を対象とする市民法であったが、ローマ市民権にあずからない属州民が増加するにつれて、ヘレニズム思想や各地の慣習法をとりいれて万民法としての性格を強めた。これらの法令や学説は、やがて6世紀のユスティニアヌス帝の命令で『ローマ法大全』にまとめられ、ヨーロッパを近代法にまで影響を与えた。
ヘレニズム思想はローマ人にもひろく影響を及ぼし、文人政治家キケロ(Cicero, 前106~前43)は『国家論』など膨大な著作を残した。やがてストア派などの実践哲学が衆目を集め、セネカ(Seneca, 前4ごろ~後65)、エピクテトス(Epictetus, 55ごろ~135ごろ)、マルクス=アウレリウス=アントニヌス帝(Marcus Aurelius Antoninus, 在位161~180)などが出た。
文芸においては、紀元前後のころがラテン文学の黄金時代といわれ、建国叙事詩『アエネイス』を著したウェルギリウス(Vergilius, 前70~前19)、叙情詩人ホラティウス(Horatius,
前65~前8)、恋愛や神話を題材とした詩人オウィディウス(Ovidius, 前43~後17ごろ)などがあらわれた。歴史家では、リウィウス(Livius, 前59~後17)が『ローマ史』を記し、タキトゥス(Tacitus, 55ごろ~120ごろ)は『ゲルマニア』や『年代記』を著した。また、古代の百科全書ともいうべき『博物誌』がプリニウス(Plinius, 23~79)によって書かれている。
ラテン語は、ローマ字とともに帝国の西半に普及し、後世にいたるまで西ヨーロッパの学問や教会で使われる言語として重視された。帝国の東半ではギリシア語が優勢であり、『対比列伝』を書いたプルタルコス(Plutarchos, 46ごろ~120ごろ)、『地理誌』のストラボン(Strabon,
前64~後21)、『天文学大全』で天動説の体系を説いたプトレマイオス(Ptolemaios, 2世紀)らが出た。
アーチ構造を用いたローマ人の石積み建築法は、きわめてすぐれたもので、高度な土木建築技術によって、快適な施設をそなえた都市が帝国の各地につくられた。都市の中心には広場があり、市街地には、公衆浴場、円形闘技場(コロッセウム)、万神殿(パンテオン)、劇場などの公共施設や、上水道施設が配置された。
(福井憲彦、本村凌二ほか『世界史B』東京書籍、2016年[2020年版]、52頁~53頁)
古代ギリシア・ローマの記述~『詳説世界史』(山川出版社)より
〇木村靖二ほか『詳説世界史 改訂版』(山川出版社、2016年[2020年版])では、古代ギリシア・ローマの記述は次のようにある。
「第1章 オリエントと地中海世界」
【ギリシアの生活と文化】
ギリシア人は明るく合理的で人間中心的な文化をうみだし、その独創的な文化遺産はのちのヨーロッパ近代文明の模範となった。ギリシア文化の母体は、市民が対等に議論することができるポリスの精神風土にあった。市民たちは、余暇をアゴラや民会での議論や体育場での訓練などにもちい、公私ともにあらゆる方面にバランスよく能力を発揮することを理想とした。
ギリシア人の宗教は多神教で、オリンポス(Olympos)12神らの神々は、人間と同じ姿や感情をもつとされた。ギリシアの文学は、そうした神々と人間との関わりをうたったホメロス(Homeros, 前8世紀)やヘシオドス(Hesiodos, 前700頃)の叙事詩から始まった。しかしその一方で論理と議論を重視するギリシア人の気風は、自然現象を神話でなく合理的根拠で説明する科学的態度にあらわれ、前6世紀にはイオニア地方のミレトスを中心にイオニア自然哲学が発達した。万物の根源を水と考えたタレス(Thales, 前624頃~前546頃)や、「ピタゴラスの定理」を発見したピタゴラス(Pythagoras, 前6世紀)が有名である。その後、前5世紀以降文化の中心地となったのは、言論の自由を保障した民主政アテネである。民主政の重要な行事である祭典では悲劇や喜劇のコンテストがもよおされ、これを鑑賞することはアテネ市民の義務でもあった。「三大悲劇詩人」と呼ばれたアイスキュロス(Aischylos, 前525~前456)・ソフォクレス(Sophokles, 前496頃~前406)・エウリピデス(Euripides, 前485頃~前406頃)や、政治や社会問題を題材に取りあげた喜劇作家アリストファネス(Aristophanes, 前450頃~前385頃)が代表的な劇作家である。
民会や民衆裁判所での弁論が市民生活にとって重要になってくると、ものごとが真理かどうかにかかわらず相手をいかに説得するかを教えるソフィスト(sophist)と呼ばれる職業教師があらわれた。「万物の尺度は人間」と主張したプロタゴラス(Protagoras, 前480頃~前410頃)がその典型である。これに対しソクラテス(Sokrates, 前469頃~前399)は真理の絶対性を説き、よきポリス市民としての生き方を追究したが、民主政には批判的で、市民の誤解と反感をうけて処刑された。彼が始めた哲学を受け継いだプラトン(Platon, 前429頃~前347)は、事象の背後にあるイデア(Idea)こそ永遠不変の実在であるとし、また選ばれた少数の有徳者のみが政治を担当すべきだという理想国家論を説いた。彼の弟子アリストテレス(Aristoteles, 前384~前322)は、経験と観察を重んじ、自然・人文・社会のあらゆる方面に思索をおよぼした。「万学の祖」と呼ばれる彼の学問体系は、のちイスラームの学問やヨーロッパ中世のスコラ哲学に大きな影響を与えた。またヘロドトス(Herodotos, 前484頃~前425頃)やトゥキディデス(Thukydides, 前460頃~前400頃)は、ともに歴史記述の祖と呼ばれ、過去のできごとを神話によってではなく、史料の批判的な探究によって説明した。
調和と均整の美しさが追求されたのは、建築・美術の領域であった。建築はおもに柱の様式により、ドーリア式・イオニア式・コリント式などに分類される。ペリクレスの企画のもと15年をかけて完成したアテネのパルテノン神殿は、ギリシア建築の均整美と輝きを今に伝えるドーリア式の神殿である。彫刻家フェイディアス(Pheidias, 前5世紀)に代表される彫刻美術は、理想的な人間の肉体美を表現したものであった。
<ギリシアの劇場>
ペロポネソス半島のエピダウロスにある前4世紀建造の大劇場跡。
客席最上階にも舞台からの声がとどくよう音響効果が計算した設計になっている。収容人員1万4000人。
<パルテノン神殿>
アテネのアクロポリスの丘の上に輝く代表的なギリシア建築。
前5世紀後半の建造で、アテネ民主政の最盛期を象徴する。かつては青・赤・黄色などで鮮やかに彩色がほどこされていた。
<ギリシア建築の柱の3様式>
荘厳で力強いドーリア式、優美なイオニア式、華麗なコリント式の柱頭。
ヘレニズム時代にはいるとギリシア文化は東方にも波及し、各地域の文化からも影響をうけて独自の文化がうまれた。これをヘレニズム文化という。この時代にはポリス中心の考え方にかわって、ポリスの枠にとらわれない生き方を理想とする世界市民主義(コスモポリタニズム, cosmopolitanism)の思想が知識人のあいだにうまれた。そこから哲学もポリス政治からの逃避と個人の内面的幸福の追求を説くようになり、精神的快楽を求めるエピクロス(Epikuros, 前342頃~前271頃)のエピクロス派や、禁欲を重視するゼノン(Zenon, 前335~前263)のストア派が盛んになった。
ヘレニズム時代にはとくに自然科学が発達した。エウクレイデス(Eukleides, 前300頃)は今日「ユークリッド幾何学」と呼ばれる平面幾何学を集大成し、また「アルキメデスの原理」で知られるアルキメデス(Archimedes, 前287頃~前212)は、数学・物理学の諸原理を発見した。またコイネー(koine)と呼ばれるギリシア語が共通語となり、エジプトのアレクサンドリアには王立研究所(ムセイオン, Museion)がつくられて自然科学や人文科学が研究された。ギリシア美術の様式は西アジア一帯に広がり、インド・中国・日本にまで影響を与えた。
<「ミロのヴィーナス」>
エーゲ海のミロス(ミロ)島から出土した、美と愛の女神アフロディテ(英語でヴィーナス)像。女性の理想美を表現したヘレニズム彫刻の代表的作品。高さ214cm。
(木村靖二ほか『詳説世界史 改訂版』山川出版社、2016年[2020年版]、36頁~40頁)
ギリシア文化一覧表(※はヘレニズム文化)
【文学】
ホメロス 『イリアス』『オデュッセイア』
ヘシオドス 『神統記』『労働と日々』
アナクレオン 叙情詩人
ピンダロス 叙情詩人
サッフォー 女性叙情詩人
アイスキュロス 悲劇『アガメムノン』
ソフォクレス 悲劇『オイディプス王』
エウリピデス 悲劇『メデイア』
アリストファネス 喜劇『女の平和』『女の議会』
【哲学・自然科学】
タレス イオニア学派の祖
ピタゴラス 「ピタゴラスの定理」を発見
ヘラクレイトス 「万物は流転する」と説く
デモクリトス 原子論
ヒッポクラテス 西洋医学の祖
プロタゴラス ソフィスト。普遍的真理を否定
ソクラテス 西洋哲学の祖。知徳合一を説く
プラトン イデア論を説く。『国家』
アリストテレス 万学の祖。『政治学』
※エピクロス 精神的快楽主義。エピクロス派の祖。
※ゼノン 精神的禁欲主義。ストア派の祖。
※エラトステネス 地球の円周を計測
※アリスタルコス 太陽中心説
※エウクレイデス 「ユークリッド幾何学」の創始者
※アルキメデス 「アルキメデスの原理」を発見
【彫刻美術】
フェイディアス パルテノン神殿のアテナ女神像
プラクシテレス ヘルメス神像
※「ミロのヴィーナス」 ヘレニズム彫刻。作者不詳
※「ラオコーン」 ヘレニズム彫刻
【歴史】
ヘロドトス 『歴史』。ペルシア戦争史
トゥキディデス 『歴史』。ペロポネソス戦争史
(木村靖二ほか『詳説世界史 改訂版』山川出版社、2016年[2020年版]、39頁)
【ローマの生活と文化】
ローマ人は高度な精神文化ではギリシアの模倣に終わったが、ギリシアから学んだ知識を帝国支配に応用する実用的文化においては、すぐれた能力をみせた。ローマ帝国の文化的意義は、その支配をとおして地中海世界のすみずみにギリシア・ローマの古典文化を広めたことにある。たとえばローマ字は今日ヨーロッパの大多数の言語でももちいられているし、ローマ人の話したラテン語は、近代にいたるまで教会や学術の国際的な公用語であった。
ローマの実用的文化が典型的にあらわれるのは、土木・建築技術である。都市には浴場・凱旋門・闘技場が建設され、道路や水道橋もつくられた。コロッセウム(Colosseum, 円形闘技場)・パンテオン(Pantheon, 万神殿)・アッピア街道など今日に残る遺物も多い。都市ローマには100万人もの人々が住み、そこに享楽的な都市文化が花開いた。「パンと見世物」を楽しみに生きていた都市下層民は、有力政治家が恩恵として配給する穀物をあてに生活し、闘技場での見世物に歓声をあげた。
国家支配の実用的手段として後世にもっとも大きな影響を与えたローマの文化遺産は、ローマ法である。ローマがさまざまな習慣をもつ多くの民族を支配するようになると、万人が従う普遍的な法律の必要が生じた。十二表法を起源とするローマ法は、はじめローマ市民だけに適用されていたが、やがてヘレニズム思想の影響をうけて、帝国に住むすべての人民に適用される万民法に成長した。6世紀に東ローマ帝国のユスティニアヌス大帝がトリボニアヌス(Tribonianus, ?~542頃)ら法学者を集めて編纂させた『ローマ法大全』がその集大成である。ローマ法は中世・近世・近代へと受け継がれ、今日のわれわれの生活にも深い影響をおよぼしている。また現在もちいられているグレゴリウス暦は、カエサルが制定したユリウス暦からつくられたものである。
精神文化では、ローマ人はギリシア人の独創性をこえられなかった。アウグストゥス時代はラテン文学の黄金期といわれるが、ウェルギリウス(Vergilius, 前70~前19)らの作品にはギリシア文学の影響が強い。散文ではカエサルの『ガリア戦記』が名文とされた。ギリシアに始まった弁論術はローマでも発達し、すぐれた弁論家キケロ(Cicero, 前106~前43)をうみだした。歴史記述の分野ではリウィウス(Livius, 前59頃~後17頃)やタキトゥス(Tacitus, 55頃~120頃)が有名であるが、政体循環史観で知られるポリビオス(Polybios, 前200頃~前120頃)、ギリシア・ローマの英雄的人物の生涯を描いたプルタルコス(Plutarchos, 46頃~120頃)、当時知られていた全世界の地誌を記述したストラボン(Strabon, 前64頃~後21頃)のようなギリシア人による歴史書・地理誌も重要である。
哲学の分野ではとくにストア派哲学の影響が強く、その代表者であるセネカ(Seneca,
前4頃~後65)やエピクテトス(Epiktetos, 55頃~135頃)の説く道徳哲学は上流階層に広まった。皇帝マルクス=アウレリウス=アントニヌスはストア派哲学者としても有名である。自然科学では、プリニウス(Plinius, 23頃~79)が百科全書的な知識の集大成である『博物誌』を書いた。またプトレマイオス(Ptolemaios, 生没年不詳)のとなえた天動説は、のちイスラーム世界を経て中世ヨーロッパに伝わり、長く西欧人の宇宙観を支配した。
ローマ人の宗教はギリシア人同様多神教であった。帝政期の民衆のあいだにはミトラ教やマニ教など東方から伝わった神秘的宗教が流行したが、そのなかで最終的に国家宗教の地位を獲得したのがキリスト教である。ローマ帝政末期には、エウセビオス(Eusebios, 260頃~339)やアウグスティヌス(Augustinus, 354~430)らの教父と呼ばれるキリスト教思想家たちが、正統教義の確立につとめ、のちの神学の発展に貢献した。
<ローマ時代の水道橋>
前1世紀末頃建設されたガール水道橋(南フランス)。全長270m、高さ50mの石造。
ローマの土木技術の高い水準を示す好例である。
<コロッセウム>
古代ローマ最大の円形闘技場で、80年に完成した。剣闘士をたたかわせるなどの見世物がおこなわれた。高さ48.5m、周囲527m。
※ギリシア・ローマの古典文化
ギリシア・ローマの古典文化は、近世・近代のヨーロッパ人により古典中の古典として尊重された。そこでギリシア・ローマ時代は「古典古代」とも呼ばれる。
(木村靖二ほか『詳説世界史 改訂版』山川出版社、2016年[2020年版]、49頁~51頁)
ローマ文化一覧表
【文学】
ウェルギリウス 『アエネイス』(ローマ建国叙事詩)
ホラティウス 『叙情詩集』
オウィディウス 『転身譜』『恋の技法』
【歴史・地理】
ポリビオス 『歴史』
リウィウス 『ローマ建国史』
カエサル 『ガリア戦記』(ラテン散文の名文)
タキトゥス 『年代記』『ゲルマニア』
プルタルコス 『対比列伝』(『英雄伝』)
ストラボン 『地理誌』
【哲学・思想】
キケロ 弁論家。『国家論』
セネカ ストア派哲学者。『幸福論』
エピクテトス ストア派哲学者
マルクス=アウレリウス=アントニヌス ストア派哲学者。『自省録』
ルクレティウス エピクロス派の影響をうけた詩人・
哲学者。『物体の本性』
【自然科学】
プリニウス 『博物誌』(自然科学の集大成)
プトレマイオス 天動説を説く。『天文学大全』
【キリスト教思想】
『新約聖書』(『福音書』『使徒行伝』など)
エウセビオス 教父。『教会史』『年代記』
アウグスティヌス 教父。『告白録』『神の国』
【法学】
トリボニアヌス 『ローマ法大全』(編纂)
(木村靖二ほか『詳説世界史 改訂版』山川出版社、2016年[2020年版]、51頁)
英文の記述~本村凌二ほか『英語で読む高校世界史 Japanese high school textbook of the WORLD HISTORY』(講談社)より
〇本村凌二ほか『英語で読む高校世界史 Japanese high school textbook of the WORLD HISTORY』(講談社、2017年[2018年版])では、古代ギリシア・ローマの記述は次のようにある。
①【ギリシア文明】 Classical Civilization of Greece
The Greeks created an original civilization, accepting the advanced civilization of the
Orient and cultivating the rational spirit based on a human-centered view. In the minds of the Greeks, the belief in the world of the mythology centered on the 12 Olympian Gods
was alive. They thought that each god had a human personality in their image, influencing
emotionally the people. Although they had no scripture, the tales of mythology that
affirmed this world had great influence on various fields of art.
The gods and goddesses appeared along with the heroes of the Trojan War in the epics
Iliad and Odyssey, which were arranged by Homer in the 8th century BC. In about 700 BC,
Hesiod wrote the Theogony about the genealogy of the gods, and the didactic poetry of
peasant life, Works and Days.
Lyrical poetries with individual feelings represented began to appear around the 7th
century BC. Since then, a poetess Sappho, Pindar, a hymnist of Olympia, etc. wrote their
works. In Athens in the 5th century BC, there appeared the three major poets of tragedy
(Aeschylus, Sophocles and Euripides) about the fate of men and women, and the comedy
satirist Aristophanes. Their works were staged on public holidays.
Gods and goddesses were carved as statues which represent the idealized human beauty
as well; Pheidias and Praxiteles were active in this field. People put much value on temples, which were constructed in the heavy Doric style (typified by the Parthenon), in the graceful
Ionic style, or in the delicate Corinthian style.
Among the Greeks in Ionia, who were in contact with the advanced civilizations of the
Orient, the natural philosophy for understanding the world by rational thinking came out
in the 6th century BC. Thales described the water as the source of everything, Heraclitus taught that everything flows and nothing stands still, and then Democritus considered that the origin of the universe could be atoms.
The idea of natural science came from the movement of this natural philosophy.
Pythagoras described the source of everything as numbers, built the base of mathematics,
and Hippocrates, who studied the causes of diseases, was called the “father of medicine”.
In the Athens of the democratic period, people began to turn their eyes to the human beings and society rather than the nature.
Protagoras appeared out of the Sophists, who were teaching the rhetoric, and he
advocated the relativism, saying “Man is a measure of everything”. Socrates opposed
the relativism, insisting on the absoluteness of truth and the unification of knowledge
and virtue. His disciple, Plato, expounded the philosophy based on idealism, advocating
a theory of the idealistic state led by a philosopher. One of his disciples, Aristotle,
systematized various studies such as philosophy, logic, politics, and natural science, etc.,
and he had great influence on Islamic scholarship and Scholasticism of medieval Europe
later.
The Greeks were the first people who tried to describe history, not in chronological style
but in free style. Herodotus wrote a history of the Persian Wars as an interesting tale, and
Thucydides didactically described a history of the Peloponnesian War, considering the
relationship of its causes and effects.
(本村凌二ほか『英語で読む高校世界史 Japanese high school textbook of the WORLD HISTORY』講談社、2017年[2018年版]、33頁~34頁)
【語句】
the 12 Olympian Gods オリンポス12神
Homer ホメロス
Hesiod ヘシオドス
Sappho サッフォー
Pindar ピンダロス
Aeschylus アイスキュロス
Sophocles ソフォクレス
Euripides エウリピデス
Pheidias フェイディアス
Praxiteles プラクシテレス
the Parthenon パルテノン神殿
the natural philosophy 自然哲学
Thales ターレス
Heraclitus ヘラクレイトス
Democritus デモクリトス
Pythagoras ピタゴラス
Hippocrates ヒッポクラテス
Protagoras プロタゴラス
the Sophists ソフィスト
Socrates ソクラテス
Plato プラトン
Aristotle アリストテレス
Herodotus ヘロドトス
Thucydides トゥキディデス
②【ヘレニズム文明】Hellenistic Civilization
■Hellenistic Civilization
During the Hellenistic period, Greek and Oriental civilization were blended together,
and the Hellenistic civilization was born. Greek became a common language (the Koine),
and various sciences of the Orient and Greece were compiled in Greek, and further
developed. Particularly in the field of natural sciences, many great scientists emerged
one by one, such as Aristarchus who pointed out that the earth is rotating on its axis and
revolving around the sun, Euclid who accomplished “Euclidean geometry”, Archimedes
who is known for the principle of floating bodies, and Eratosthenes who measured the
length around the earth, etc.
The Museum (a research institute) with the great library was founded in Alexandria of
Egypt, and became the center of learning.
During this period, since people worked actively beyond the traditional citizens of
polis or the ethnic groups, the tide of cosmopolitanism (the principle of the world citizen) or
individualism grew.
The Stoics, followers of a philosophy founded by Zenon, advocated an ascetic life, and
the Epicureans founded by Epicurus advised people to live with mental pleasure. Both
of them were new philosophies to seek a peaceful way of life or a peace of mind for the
individuals.
The Hellenistic arts, represented by Venus of Milo and Laocoon, were filled with
dynamism of excellent expressions of emotion and movement. These arts went on to
give great influence on the Roman arts or the Gandharan arts. In the field of the historical
description, Polybius, who wrote a history of the rise of Rome from the historical view of
circular regimes, was remarkable.
(本村凌二ほか『英語で読む高校世界史 Japanese high school textbook of the WORLD HISTORY』講談社、2017年[2018年版]、36頁)
【語句】
the Koine コイネー
Aristarchus アリスタルコス
Euclid エウクレイデス
Archimedes アルキメデス
cosmopolitanism 世界市民主義
individualism 個人主義
The Stoics ストア派
the Epicureans エピクロス派
Polybius ポリビオス
③【ローマの文明】Roman Civilization
■Roman Civilization
Although the Greeks, respecting the principle and theory, were excellent thinkers and
artists, the Roman were good at practical activity and demonstrated originally in law,
technology and construction. The Romans distinguished between the freeman and the
slave, and there were people with or without Roman citizenship among freemen. Originally
the Roman law was “jus civile” (civil law) for people with Roman citizenship. Gradually
population increased there, people began adopting the local customs and the Hellenistic
thoughts, and the Roman law came to be “jus gentium” for all people in the Empire. These
regulations and theories were soon organized as the Corpus Juris Civilis under the emperor Justinian in the 6th century, and have affected even the modern law of Europe and others.
Hellenistic thoughts also widely affected the Romans, and the literary politician Cicero
wrote vast works such as On the Republic. Then practical philosophy, or ethics, of the
Stoics, etc. attracted public attention. Seneca, Epictetus, and the emperor Marcus Aurelius,
etc. were prominent Stoics.
In literature, the times of the emperor Augustus is called the golden age of Latin
literature, there appeared Vergil who wrote the epic poem of Roman foundation Aeneis,
lyrical poet Horace, and romantic poet Ovid dealing with mythology and love affairs. As
historians, Livy described the History of Rome, and Tacitus wrote Germania and Annals.
Then Pliny wrote the Natural History, which should be called an ancient encyclopedia.
Latin spread with the Roman alphabet through the western half of the Empire, and it
was thought as important as the language was used also for learning and church in western Europe in later ages. Greek was dominant language in the eastern half of the Empire, and there appeared Plutarch who wrote the Parallel Lives, Strabo of Geography and Ptolemy of the geocentric theory and others.
The Roman building techniques using arch structures was extremely outstanding; cities
with comfortable facilities were built throughout the Empire with advanced technology.
There were forums at the city center, and in urban area lay the public facilities such as
public bath houses, amphitheaters, circuses, pantheons, and theaters, as well as a water
supply and drainage.
(本村凌二ほか『英語で読む高校世界史 Japanese high school textbook of the WORLD HISTORY』講談社、2017年[2018年版]、43頁)
【語句】
“jus civile” 市民法
“jus gentium” 万民法
the Corpus Juris Civilis ローマ法大全
Cicero キケロ
the Stoics ストア派
Vergil ウェルギリウス
Horace ホラティウス
Ovid オウィディウス
Livy リウィウス
Tacitus タキトゥス
Plutarch プルタルコス
Strabo ストラボン
Ptolemy プトレマイオス
【補足】アリストテレスの生涯~荻野弘之『哲学の饗宴』より
アリストテレスの生涯を簡単にみておこう。
〇荻野弘之『哲学の饗宴 ソクラテス・プラトン・アリストテレス』日本放送出版協会、2003年
この本の「第8章 万学の祖とその時代~アリストテレス哲学の体系」で、次のように紹介されている。
前6世紀以来の古代ギリシア哲学の歩みは、アリストテレスによって古典的完成の域にもたらされることになった。
・アリストテレスは、ギリシアの北方マケドニア地方のカルキディケ半島にあるスタゲイロスという町に生まれた(前384年)。
ソクラテスの死後すでに15年ほど経っている。
早世した父ニコマコスは、マケドニアの宮廷に仕える医者である。こうした家庭環境が後になって、生物学、特に動物学への強い関心を養う下地になったのであろう。
・17歳でアテナイに上京し、プラトンの開いた学園アカデメイアに入学(前367年)。
当時プラトンは60歳。長編『国家』を書き上げた後、弟子たちとともに、イデア論をめぐる論理的問題に取り組んでいた時期にあたる。
アカデメイアでは約20年間を過ごす。
・生涯独身だったプラトンが80歳で亡くなると(前347年、アリストテレスは37歳)、学園ではプラトンの甥が後継者となり、第二代学頭に就任した。
このとき、アリストテレスは、友人クセノクラテス(前396~314)とともに、学園を去って小アジアのアッソスに移住する。
この地で結婚し、父と同名のニコマコスという男子が生まれる。
やがて、友人のテオフラストスの故郷レスボス島に移住し、その地で集中的に生物学の研究に取り組んだ。
・やがて故郷のマケドニアのフィリッポス王に招かれて、当時13歳の皇太子(後のアレクサンドロス大王)の家庭教師に就任(前342年、42歳)。
約3年間にわたり、教授する。
カイロネイアの戦いに勝利したマケドニアは、全ギリシアの覇権を確立したが(前338年)、フィリッポス王が暗殺されると、アレクサンドロスが弱冠20歳で即位する(前336年)。
※このアレクサンドロス大王こそは、やがて全ギリシアを支配し、インダス河にいたるオリエント世界全体を含む世界帝国を建設し、ギリシアの文物が世界を席巻する新しいヘレニズム時代の幕を開けることになるのである。
・ほどなくアテナイに戻り、マケドニア宮廷の支援のもとで、町の東郊リュケイオンの地に学園を創設した(前335年、49歳)。
リュケイオンでは、午前中は教室から出て学園の中庭を散歩しながら弟子たちと専門的な問題について検討し、午後は比較的一般向きの講義を行った。
アリストテレス自身は舌がもつれて、あまり話がうまくなかった。そのためもあってか、彼は綿密な講義草稿を準備し、これが今日アリストテレスの「著作」として伝えられる内容の相当部分を占めることになるそうだ。
・さて、東方遠征中のアレクサンドロス大王急死の知らせが届くと、アテナイの町では一斉に激しい反マケドニア暴動が蜂起した(前323年、61歳)。
アリストテレスは、マケドニア政府との親しい関係のゆえに、自分の身にも危険が及びそうだと察知すると、(ソクラテス裁判に続いて)「アテナイに再び哲学を冒瀆させないために」という言葉を残して、学園を弟子のテオフラストスに委ね、自らはエイボイア島カルキスに亡命する。
そして、翌年、亡命先で62歳の生涯を終えた。
※アリストテレスの生涯は、三分される。
①マケドニアで過ごした幼少期を除けば、17歳から37歳まで、約20年に及ぶアカデメイアにおける修業時代
②その後、12年間にわたってギリシアの各地を遍歴した時代
③そして50歳以降、約12年に及ぶアテナイのリュケイオンで学頭として、教育・研究生活をしていた時期
※アリストテレスは、13世紀以降には、文字どおり「哲学者の代名詞」となった。
・ダンテの『神曲』地獄編(第4歌132行)では、キリスト教以前の哲学者たちの中で、最高位を占める者として描かれる。
・また、ラファエロの大作『アテネの学堂』(バチカン「署名の間」)では、画面中央にプラトンの右側に立ち、鬚をたくわえ青い上着を纏って右手を突き出し、大地を示唆している姿で描かれている。
(荻野弘之『哲学の饗宴』日本放送出版協会、2003年、186頁~189頁、193頁)
「日本のおかげで、アジアの諸国は全て独立した。日本というお母さんは、難産して母体をそこなったが、生まれた子供はすくすくと育っている。今日東南アジアの諸国民が、米英と対等に話ができるのは、一体誰のおかげであるのか」
と書き記しています。この言葉が、あの戦争が何であったか、そのすべてを表わしているでしょう。