≪囲碁の攻め~牛窪義高氏の場合≫
(2024年9月15日投稿)
今回も引き続き、囲碁の攻めについて、次の著作をもとに、考えてみたい。
〇牛窪義高『碁は戦略』マイナビ、2009年[2013年版]
牛窪義高氏は、囲碁の“言語化”に優れている棋士という印象を受けた。
例えば、有名な実戦訓<攻撃は最大の防御なり>とは、よく言われるが、“色即是空”をもじって、“攻即是守”という。
そして、囲碁戦略の一番の要諦は、ここにあるという(82頁)。
その他にも、次のような表現がこの著作に散見される。
・「無くても有る」…禅的発想(76頁)
・一種玄妙の世界を作り出すことができるのも、碁の醍醐味の一つ(78頁)
・名工・左甚五郎が、361路の大地に至芸をふるい、最後の槌音を響かせた…そんな感じの一手(156頁)
また、この著作の特徴として、往年の囲碁棋士の名局を取り上げていることが挙げられる。
【牛窪義高(うしくぼ よしたか)氏のプロフィール】
・昭和22年5月24日生。高知県出身。
・窪内秀知九段門下。
・昭和34年院生。38年入段、40年二段、41年三段、42年四段、43年五段、45年六段、
47年七段、49年八段、52年九段。
・大手合優勝2回。
・著書に「碁の戦術」「やさしいヨセの練習帳」(共にマイナビ)がある。
【牛窪義高『碁は戦略』(マイナビ)はこちらから】
さて、今回の執筆項目は次のようになる。
【アマチュアの上達と勝利へのポイント】
①ヨミの訓練
②棋理の学習
①ヨミの力をつけるためには、詰碁に取り組むこと。
②棋理の習得には、常に疑問を持つことが大切。
※つきつめて一つだけ挙げれば、①ヨミの訓練に尽きるという。
➡ところが、ヨミの訓練は、詰碁などで独り黙々と地道に力をつけていかなければならない。
(アマチュアがヨミの壁を突破するには至難の業)
②棋理の学習は容易だという。
➡ごく当たり前のことを(そうでないと一般的な棋理にならない)、基本原則として、いくつか勉強すればよいから。
※棋理の習得は、またヨミに筋道をつけるものである。
(ヨミの訓練にも役立つ)
※前著『碁の戦術』と本著『碁は戦略』は、ともに棋理について、分かりやすく説明した本。
➡アマの碁とプロの碁を対比させながら、学習の手伝いをしたもの。
➡前著が部分的な棋理を取り扱った
本著は、全局的なテーマを対象にしたものが多い。
(後者がやや程度の高い意味があるという)
(牛窪義高『碁は戦略』マイナビ、2009年[2013年版]、3頁~4頁、339頁)
【テーマ図】白1に、あなたならどう打つ?
・著者の指導碁から(六子局)
・白は、丸印の白の一団が治まっていない。
なんとか手を打たなければと、白1の二間トビすると、黒はノータイムで2にツケてきた。
左辺に侵入されては大変、と…
〇腰の伸びたときがチャンス
【4図】
・白1の二間トビには、決然、黒2のツケ!
※周囲の強力な援軍を、無用の長物で終わらせないためにも、ここは白を強引に切っていくところ。
【5図】
・白3には、むろん黒4!
・白5に黒6ノビとなって、黒4の一子はつかまらない。
➡白困窮の図となった。
・4図黒2に対して……
【6図】
・白3なら、黒4から6で、これも白お手上げの形。
【7図】
・なお、黒2にツケるのもあるが(白aには黒b切りで、やはり白困る)、2よりcツケのほうが筋が良さそう。
【8図】
・二間にトブと切られる恐れがある…それなら、なぜ白1と一間にトバなかったのか、となるが、こういう「普通の手」を打つと、黒も2トビと「普通の手」で応じて、白はいつまでも重苦しい。
※弱石をかかえていると、早く治まりたいという気持ちから、どうしても腰が伸びる、すなわち「普通でない手」を打つ。
攻める側は、そこを突かなければならない。
(牛窪義高『碁は戦略』マイナビ、2009年[2013年版]、41頁~44頁)
〇次のような例もある。
【25図】よくある形
・いま、三角印の白とケイマにあおってきたところ。
ここで、いきなり黒aとツケコシて、戦いを挑むのは、いかにも無理。
【26図】
・黒1トビから3と構えて(白2はこんなもの)、aのツケコシをねらうのも一策。
・あるいは三角印の白ケイマの間隙に乗じたサバキとして、次図のような打ち方も、ときには面白いだろう。
【27図】黒1、3の連携プレー
・すなわち、黒1、白2と換わって、黒3のツケ。
・白4に、黒5の切り違い!
【28図】
・白6にカカエるのは、黒7、9で、丸印の黒と白の交換がちょうど働いてくる。
➡これは白いけない。
【29図】
・白6の引きがやむを得ず、そこで黒7カカエが一法。
・次いで白8、黒9から、
【30図】
・白10が必然。
・一子を抜いて、右上を荒らした黒、こんどは11にハネ、こちらのサバキにかかる。
・白12の切りには、……
【31図】
・黒13とアテ、白14抜きに、
【32図】
・黒15から17ツギ。
※すでに右上で得をしているので、少々の石は捨てる要領。
【33図】黒7、9も一型
・29図白6のとき、黒7と引くのもある。
・白も8に引き(aのシチョウは黒有利)、黒9ノビまで。
※この形、黒は三角印の黒の一子の動き出しをみて、白としては、なかなかうるさいところ。
黒は、白のケイマの薄みに小技をふるい、一クセつけることに成功した。
(牛窪義高『碁は戦略』マイナビ、2009年[2013年版]、53頁~56頁)
【派手な攻め方】
【24図】<黒>立徹・<白>丈和
〇もう一例、古碁をお目にかけよう。
・三角印の白を照準に、黒1。
・白2トビ……これも中央の黒を攻める気分。
・黒3と変則のカカリ。
※いい感じの手。隅の白に迫りつつ、はるかに三角印の白をにらんでいる。
【25図】こういう攻め方もある
・白4と逃げたのに対し、黒は5のカケを利かして、7の急所へ。
・白8を待って、黒9から11の肩と、目を見張るばかりのダイナミックな攻め。
実に見ごたえがある。
※24図黒3、25図黒5、11と、できるだけ包囲網を大きく、遠巻きに攻めている点に注意せよ。
(牛窪義高『碁は戦略』マイナビ、2009年[2013年版]、71頁~72頁)
【1図】必争のポイント(急場)を逃す―黒1
・アマ高段者同士の実戦で、黒1と構えたところ。
丸印の黒の星から、三角印の黒と辺にヒラいた形は、黒1によって確かにキリっとし、好形になる。
しかし、それは<局部の要点>に過ぎず、<全局の要点>は、また別にある…
【2図】
・黒1には、白2から4を利かし、6のトビ。
これで黒窮する(実戦では白はこう打たなかったが…)。
※ご覧のように、丸印の白は強化され、逆に上の黒は棒石になった。
また、丸印の白の一団が強くなると、白は平気でaの打ち込みや、bの三々などをねらうことができる。
つまり、黒1と守った手自体が、効果の薄いものになる。
【3図】正解
・黒1と、先制攻撃!
これにより、丸印の黒の一団は安定し、逆に丸印の白は弱体化する。
【4図】黒好調
・白は2とツキアタり、黒3に、白4トビぐらいのもの。
・黒は5のケイマと、攻めを続行。
※こうなると、丸印の黒はまったく心配がなくなったうえに、右方・三角印の黒の友軍とともに、黒は大きな地模様さえ形成する勢いである。
白は、まだ左の一団が治まっていないので、黒模様に飛び込むわけにもいかない。
※黒3から5と肉薄しておけば、白がシノぐ調子で、中央の黒はさらに強化されるはず。
そうなると、黒aなどの守りを省略して、このまま黒地となる可能性も出てくる。
※2図と4図、よく見比べてほしい。
2図は、黒1と守ったようでも、たいした守りになっていない。
それに対して、4図は、黒aと守らなくても、黒3や5が十分にその役目を果たしているし、最終的には黒aを省いて、大きな地がまとまる期待も持てる。
両図の差は、天地雲泥というべきである。
(牛窪義高『碁は戦略』マイナビ、2009年[2013年版]、73頁~75頁)
【5図】
〇置碁でよくできる形。
【6図】
・黒1と、隅を守っても白2と打ち込まれるし(ただちに打つかどうかはともかく)、
【7図】
・黒1とこちらを守っても、白2と、三々侵入の余地がある。
※要するに、黒は、右上一帯を一手で地にするような手はない、ということである。
考え方を180度転換させて、<白を攻める>ことを主眼としてみよう。
【8図】
・黒1のコスミツケ。
・白2はやむを得ない。
・そこで黒3のハサミ!
※黒1、白2の交換によって、白は重たくなった、つまり、黒は攻めの目標を大きくした。
【9図】
・白は、4のトビなどと、すぐ動くことになるだろう。
・これには、黒5の二間トビといった要領。
※この形、白からのねらいであるaの打ち込みやbの三々は、依然として残っている。
黒は、上を直接守るというような手を全然打っていないので、それは当然。
しかし、白は三子がまだ治まっていないので(=大きな負担)、ここで白aに打ち込んだり、bと三々に侵入するわけにはいかない。
すなわち、黒はa、bの二つとも、これで守っていることになるし、極端にいえば、守りの手を二手連打できた理屈。
実際には打たれていないのに、そこに打たれたのと同じような効果が認められる。
いわば、石が無くても有る――禅問答のようなことになったが、攻撃を旨とすることによって、そういった一種玄妙の世界を作り出すことができるのも、碁の醍醐味の一つだろう。
・9図に続いて、
【10図】
・白6トビなら、調子で黒7と、自然に守ることができる。
※黒7は、上辺の守備にとどまらず、白四子への“攻めの意思”も強いことに注意せよ。
やはり白は、続いてaと三々を襲ったりはできない。(黒bのサガリで白四子が著しく弱化)。
黒はここでも、実際には隅を守っていないのに、守ったのと同じような状況を作り出している。
【11図】
・四子以上置いた置碁でも、手数が進むにつれて、いつの間にか黒のほうが攻められるといった珍現象が、よく起こる。
五つも六つも置かれると、白が攻勢に立つということは常識では考えられない。ところが、その“非常識”が、現実にはよくある。まさに珍現象。強い上手にかかって、苦い体験を持つ読者も多いだろう。
・なぜ、そういう理不尽なことが起こるのか?
ズバリいって、それは、黒が自陣の守りを優先させたから。
まず自陣の守備を固めて、それから攻めよう、そういう作戦を立てたから。
(作戦を立てたというよりも、置碁の場合、黒はどうしても萎縮してしまい、つい、守りを固めるほうに目が行くということもあるだろう)
・それはともかく、ここで、守りに偏した手の欠点を、三つ挙げてみる。
①一手では守りきれないので、手段の余地を残す、ないし、味が悪い。
②完全に守るためには、手数を要するので、一手あたりの価値は存外小さい。
③相手に手を渡す(=守ると後手を引く)
【12図】
(牛窪義高『碁は戦略』マイナビ、2009年[2013年版]、73頁~81頁)
・結局、碁というものは、守ろうとしても守りきれるものではない、といえる。
なぜなら、ある局部を完全に守ろうとすれば、三手も四手もかかるし、そのたびに後手を引いたのでは、他方面で弱石を作って、守勢に陥り、あげくのはてに、三手、四手と費やした確定地にも悪影響が及ぶからである。
このような悲劇的光景を、よく見かける。
・要は、着手の優先権を、第一番に「攻め」に置くこと。
これに尽きる。
上手との力の差、技術の差がある置碁において、このことはとくに大切。
上手にいったん攻勢に立たれると、下手側はシノギに難渋し、まずその碁は勝ち目がないと知るべき。
守りに偏した手の欠点を、先に三つ挙げた。
<攻める手のメリット>
その裏返しとして、攻める手のメリットをまとめると、次のようになる。
①攻撃することによって自然にできた地は、味が良く、手段の余地を残さないことが多い。
②相手に迫っていれば、守る手自体、不要となることもある。きわめて効率が良い。
(前掲・4図のようなケース)
③攻めているかぎり、先手を堅持できるので(主導権)、相手の作戦の幅を狭くできる。
〇有名な実戦訓<攻撃は最大の防御なり>。これはまさに真実。
“色即是空”をもじれば、“攻即是守”。囲碁戦略の一番の要諦は、ここにあるという。
・攻めと守りに関して、次のようなことも重要。
アマチュアの人は一般に、攻めるときはムキになり、なにがなんでも取ってしまおうといった、非常に無理な打ち方をすることが多い。その大きな原因は、「先に守る」ことにある。
・守る手というのは、当然、得な手に違いない。
その得な手を先に打ち、それから攻めて、なおかつ得を収めようとすると、敵石を取ってしまうような大戦果をあげないと、攻めの効果が出ないということになりがち。
そうではなく、守りを省略して先に攻め、その効果は、攻める調子で自陣が固まる程度でいいと、このぐらいの小欲で処するほうが本筋であり、成功率も高いといえる。
(牛窪義高『碁は戦略』マイナビ、2009年[2013年版]、81頁~82頁)
【13図】黒1は緩着。どう打つべきか?
〇院生の対局から。
・黒1は、右辺がなんとなく薄いとみて、こうオサエたのであろう。一見、大きそうだが…。
【14図】
・黒1に対し、白は2、4、6と決めた。黒7まで。
※丸印の白の一団が治まっていないので、白としてはこんなもの。
ところで、黒が、3、5、7と受けた形は、黒1のオサエが、不急の一手となっていないだろうか?
【15図】黒1、3が正解―先に攻める
・黒1のノゾキから3と、先に攻めてみる。
【16図】白10となれば、黒aはいそがない
・白は、やはり4、6、8と上から利かすぐらいのもの。
・黒9に、白10と形について、これではほぼ治まり形となった。
※さて、ここで黒はaにオサエるだろうか?
5、7、9に石がきた現在、黒aの守りは不要。また、黒aとオサエても、右下の白にそれほど響くわけでもない。
すなわち、黒aは単なるヨセの手である。
白bのスベリとの出入りは、かなりの大きさとはいえ、中盤に打つ手でないのは、はっきりしている。
・白10に続いて、例えば左辺黒11など、より値打ちのある積極的な手を繰り出して、局面をリードしていくべきだろう。
・14図黒1と、先に<守りの手>を打ったため、あとでそれが不急の駄着になった。銘ずべき反省点である。
〇最後に、専門家の実戦例を一つ。
【17図】<黒>橋本宇太郎・<白>苑田勇一
文字通りの“攻即是守”ではなく、更に高級な意味を含んだ例であるという。
・まず、白1のコスミ!
※黒の根拠を脅かしつつ、白は右辺の大模様侵略の機をうかがっている。
【18図】実戦
・黒2に、白3と裂いたのは当然。
・次いで黒4のオサエ。こう治まった手が、下方の白陣へ臨む手がかりともなっている。
・白は上辺に転じ、5と割っていった。
※三角印の黒二子の動静を見ながら、白はやはり黒の大模様を注視。
あくまで「攻め」をめぐって、局面が動いている。
(牛窪義高『碁は戦略』マイナビ、2009年[2013年版]、73頁~86頁)
・実戦で、岐路に立ったとき、どういう考えで、<次の一手>を決めるか。
その基準(優先順位)が、次の3つである。
①攻め
②守り
③局部の大小関係
①まず、相手の弱石をとらえ、それに対する攻めを考えること。これが第一である。
②次に、その裏返しとして、自陣を点検し、弱石があれば補強すること。
③三番目に、自他ともに弱石がない場合…そのときに初めて、局部の大小関係に注目すること。
・実戦において、迷いはつきものであるが、攻め→守り→局部の大小関係と、原則としてこの優先順位で処していけば、総じて適切な方向に石が行き、マチガイの少ない、活気に満ちた碁を打つことができるはずである、と著者はいう。
(牛窪義高『碁は戦略』マイナビ、2009年[2013年版]、125頁)
・局部の大小関係に注目するケースとは、例えば、こういう局面である。
【26図】弱石なく、平和な局面…大ヨセの感覚で
・ご覧のとおり、双方、弱石がない。
・従って、ここで黒aのオサエは、有力な一案。
・他に、黒bと肩を突いて、消しにいくのもあり(これも局部の大)、このほうが点数が上かもしれないが、少なくとも、黒aのオサエは、この場合、叱られない手といえる。
☆26図は、両者安定の局面であったが、反対に、双方弱石を抱えているときは、どうするか?
➡その場合も、原則として<攻め>を第一義としてほしい。
※つねに、積極果敢な姿勢を持つこと。それが勝利への近道だから。
(牛窪義高『碁は戦略』マイナビ、2009年[2013年版]、126頁)
【2図~8図】
<厚み>が<薄み>に変わった
【10図】黒、上が弱く、下が強くなった
〇8図白21のスベリまでの局面。
※7図白1とボウシした段階では、上の丸印の黒は確かに厚みであり、攻めに活用すべき外勢だった。
しかし、それから20手進んだ本図では、丸印の黒の11子は、もはや厚みとは認定しがたくなっている。
中央にもう少し白石が加わると完全に攻守逆転し、丸印の黒の一団が白の標的になりかねない。
・反面、三角印の黒の一団は非常に強くなっている。
白に三々侵入を許し、その代償として、ここに相当な厚みを得たわけである。
※要するに、7図白1のボウシから20手進むうちに、社会情勢が大変化して、かつての厚みは薄みと化し、逆に、薄みが厚みに変わったのである。
7図黒2とツケたときから、時代は移り世の中が変わった…そう認識して、
【11図】正解
・黒1と、こちらから打つ
※これが、「時代の変化」に柔軟に対応した、正しい石の方向である。
次いで、
【12図】事態の変化に即応して…黒1、3、5
・白は2ぐらいのもの。
・そこで、黒3とオシ、白4に黒5のケイマ
※過去にとらわれることなく、現時点の状況にマッチさせた、正しい石運びである。
黒1、3、5を打つことによって、
①丸印の黒の一団の不安が解消した
②中央から右辺へ、大勢力圏を構築
③三角印の黒の堅陣が光ってきた(白をまだ攻めている)
※このように、黒には「いいこと」が三つも重なった。
前掲9図の“難戦模様”に比し、本図は、黒が快勝を収めそうである。
【13図】
・最初に、黒の<次の一手>(1図)を問われた人は、それまでの流れを知らないので、固定観念のようなものを持つことなく、冷静に局面を観察して、正しい方向(12図黒1ないしその近辺)に、眼が行きやすかったかもしれない。
・本局の当事者=黒のX氏も、実戦を離れた<次の一手問題>であれば、おそらく12図黒1、3と、この方向に石を持っていったことと思う。
・ところが、【13図】白1のボウシされたとき、上の丸印の黒を厚みと認識して、黒2とこちらにツケ、白を厚みの方に追い込もうとした。
※実戦では、この作戦・方針から、一つの流れが生じ、その流れに乗っているうちに、いつのまにか「上の丸印の黒は厚み」という考えが、一種の固定観念として定着してしまい、機に臨んで応変の戦略を描く柔軟性をなくしたといえるだろう。
強い石が弱くなったり、弱い石が強くなったり、事態は常に流動的である。
その変化の相を敏感にとらえ発想を切りかえて的確に対処することは、専門家にとっても時にむずかしいテーマとなる、と著者は解説している。
(牛窪義高『碁は戦略』マイナビ、2009年[2013年版]、129頁~138頁)
大竹英雄VS加藤正夫
≪棋譜≫(1-50)138頁、大竹英雄VS加藤正夫
【14図】<黒>大竹英雄・<白>加藤正夫
・右下の応接・黒17まで。
※実利対外勢のワカレ
・白はここに蓄えた力をバックに、18とハサみ、攻勢に出た。
・黒19コスミに、白20トビ。
※左辺の二連星とも呼応した、スケールの大きな攻めの構想。
【15図】白、次の一手は?
・続いて、黒21のトビに、白は22を利かして、24トビ。
・黒もまた25とトビ。
〇さて、ここで白はどう打ったか?
碁の流れは、白の攻め…。
その流れに沿って、さらに急攻を企てるか。それとも…
≪棋譜≫140頁、16図
【16図】実戦―渋さが光る
・加藤名人は、ここで白1と守りについた。
※なかなか打てない手…思いもよらなかった、という人も多いのでは?
しかし、よく考えてみると、状況の変化に対応した、素晴らしい一手であることがわかる。
※ちょっと前まで、右下の丸印の白の一団は強い石で、攻勢の基盤となっていた。
ところが、数手進んで、丸印の黒のトビがくると、丸印の白は弱体化し、少し薄くなった。
そこで、白1とガッチリ打って補強し、白aのツメや、白bのボウシなど、色々な含みを見る。
➡まことに、<攻・防>両面によく心配りされた、輝く名手、と著者はいう。
【17図】黒ありがたい
・ハサんだ石を攻めるという、これまでの一連の流れに安易に乗ると、つい、白1のケイマから3とトビと、こういう打ち方をしがち。
・黒は4とトビ。
➡白、どうもまずいようだ。
※白は、1、3といたずらに腰を伸ばしただけで、丸印の白の一団がそれほど強化されたわけでもなく、従って、上の黒への攻めも、多くを期待できなくなった。
※白の打ち方は一本調子であり、直接的に攻めようとしている。
それがかえって、迫力を欠くことになっている。
【18図】実戦
・16図以降の進行。
・中央・黒39にトンだとき、白40の肩から46まで、今度はこちらを補強した。
・黒47のスベリに、白50のボウシ!➡満を持した強打
※本局は立ち上がから、「黒の実利/白の勢力」という骨格が決まり、碁の大きな流れとして、白の攻めがポイントになった。
しかし、白は決して一本調子で攻めることなく、黒の動きに応じて、自軍をよく点検・整備し、慎重に打ち進めている。
流れに乗りっぱなしでなく、ときどき岸にあがり、流れを冷静に観察している、そんな感じだろうかという。
※前回のテーマで、着手の決定の基準(優先順位)を
①攻め ②守り ③局部の大小関係とし、「攻め」の重要性を強調したが、これを補足する意味で、今回のテーマ=切りかえを著者は選んだという。
・取るものを取り、あとをシノいで打つという実利先行作戦は、本質的に非常にむずかしいので、とくにアマチュアの人は攻め本位の作戦をとるのが得策である。
この考えから、先の基準を示したが、攻めを重視するあまり、勢いのおもむくまま、どんどん行き過ぎてもいけない。今回述べたかったのは、これである、と著者はいう。
・「攻め」を第一義としながらも、彼我の強弱の変化によく注意して、ときに自陣を整備・補強すること、また、総じて100手を過ぎたあたりから、局部の大小関係、つまり<ヨセ>が大きな比重を占めるようになること。
このへんの切りかえをうまく行うことも、勝利への大切な要素であるとする。
(牛窪義高『碁は戦略』マイナビ、2009年[2013年版]、138頁~143頁)
<黒>藤沢秀行VS<白>石田芳夫
【7図】
・黒1のトビに、白2のノビ。
黒、次の一手は?
【8図】英断
・黒3!
※「さすがに…」と、話題になった手である。
こう打つと、目前、白aの出がある―黒bは白cに切られて苦しい―
・黒の対策は?
【9図】
・白4(実戦ではこう打たなかった)には、黒5と応じ、白6にも、黒7にノビよう、という意図である。
※三角印の黒二子を放棄した損は小さくないものの、スケールの大きな黒模様を構成しつつ、7の剣先が左辺の白模様を消すという、一石二鳥の働きをしている点、上の損を差し引いても、十分にオツリがくる図となっている。
【10図】黒1、3は凡庸
・白2のとき、出切りに備える手としては、黒3のケイマが形(定石型)であり、例の<部分の最善>といえる。
・しかし、白4とケイマに出られては、黒の右辺の構えは影の薄いものになる。
※8図黒3のオサエは、一見常識外れの手ではあるが、9図と10図を比較すれば、大局的見地からの素晴らしい英断(真の最善)であることが分かる。
※10図黒3のような、石の姿・形、あるいは手筋といったものに明るいことは、碁の強さの大切な要件であり、それなりに評価されるが、それにも増して重要なのは、“大局を見る眼”である。
対局中、少なくとも3回ぐらいは背筋を伸ばし、姿勢を正して、盤上全体を大きく視野に収める習慣をつけると良いという。
そこから、全体にマッチする妙計も生まれる。
(牛窪義高『碁は戦略』マイナビ、2009年[2013年版]、148頁~150頁)
〇「呉清源布石」の教材として、呉先生が採用された局面である。
【16図】白番
・いま、三角印の黒に打ち込んだ。
白の、19路四方を視野に収めた構想は如何。
【17図】失敗Ⅰ
・白1トビ…19路四方ならぬ、10路四方ぐらいしか視野に収めていない打ち方である。
・白1と逃げた以上、黒2に白3トビもやむを得ない。
・以下、黒6までを想定。
※黒にとって、2、4、6は、白の右方の厚みの消しになっている。
同時に、まだ左の三子への攻めも見ている。
―一子を逃げたため、白は全体が崩れた。
なお、白5のナラビは、黒aのオキを防いだものである。
【18図】失敗Ⅱ
・白1とコスんで、三角印の黒を攻めたいという人もいるだろう。
しかし、黒2のツケから10トビまで(相場の進行)となって、とても攻めがきくような石ではなく、逆に左の白のほうが不安である。
前図同様、右の厚みも消えて、白サッパリ。
≪棋譜≫19~21図
【19図】正解
・呉先生推奨の手は、白1のケイマ。
この際、三角印の白の一子を献上しようというもの。
・黒2のコスミに続いて、
【20図】
・白3のツケから、5のツキアタリも利かし、一転7のオサエ。
これも、先手(権利)である。
【21図】芸術の香気
・黒8、10の受けを待って、今度は下辺に転じ、11の大ゲイマ。
こう五線に打った手に、なんともいえない味がある。
名工・左甚五郎が、361路の大地に至芸をふるい、最後の槌音を響かせた…そんな感じの一手であろうかという。
<碁の調和>
・これは呉先生の言葉で、非常に深い意味がある。
本図も、白の全軍が相和した、一つの調和的世界だろうという。
【22図】
(牛窪義高『碁は戦略』マイナビ、2009年[2013年版]、153頁~156頁)
〇弱点が一つになったときが“いいタイミング”
<黒>呉清源VS<白>坂田栄男
【14図】
・この局面―右上方面の黒陣へ、白はどういう“策”で臨んだのだろうか?
【15図】
・丸印の黒の構えに対して、白としては、
aの打ち込み、bのカカリ、cの三々、dの肩ツキなど、さまざまな作戦が考えられる。
・ところが、白の次の一手は、a~dのいずれでもなかった。
≪棋譜≫16~18図
【16図】
・白1と、中央からの「消し」…黒2の受けに、白3の打ち込み!
※黒2と、ここに石がくると、15図白bのカカリは、“ない手”になった。
(攻められるだけで、苦しい)
また、15図a、dなども消えたことは、もちろんである。
つまり、16図黒2と受けたとたんに、黒の弱点は三々だけになった。
そこで、白3と飛び込んだのが、まさにグッド・タイミングというわけである。
【17図】
【18図】
・黒14までとなれば、三角印の白と黒の交換が、白にとって最高の利かしとなっている。
※黒は相当なコリ形で、上辺にできた地も、わずかなものである。
・先に16図白3と三々に入り、18図黒14までとなったあと、
【19図】
・白1に打っても、黒aとは絶対に受けてくれない。
・黒2ツケ、あるいはbコスミなどと反発される。
※16図白1、3の理想的なタイミングを、よく味わってほしいという。
【20図】実戦
〇なお、実戦では、17図白7のとき、
・黒8とツギ、白9に黒10のツメとなった。
※黒8は、いわゆる定石にない手であるが、この際の好手である。
(牛窪義高『碁は戦略』マイナビ、2009年[2013年版]、163頁~165頁)
【見合いの考え方】
・「打たずの戦術」というテーマで、二つの実戦例をあげたが、いわゆる見合いというものに着目すれば、この戦術はいっそう光彩を放ち、面白くなる。
・黒Aと打てば、白Bに打たれる。逆に黒Bと打てば、白Aに打たれる――
これが見合いの関係であるが、黒としては、A・Bにはあえて打たず、他方面の好所=Cを占め、A・Bのところは、反対に黒のほうから見合いにする。
これが見合いの考え方であり、序盤・中盤・終盤にいたるまで、非常に応用範囲の広いものである。
・AまたはB、どちらを選ぼうかと迷う――
迷うぐらいだから、A・Bはいずれ劣らぬ好点のはずであるが、それらを見合いとしてとらえれば、あわてて一方に打ったり、迷ったりする必要はない。
悠々と第三の好所=Cを占めて、「さあ、どういらっしゃいますか」と、相手に手を渡してほしい。
A・Bは見合いだから、相手が先着しても、片方は打てるわけである。
・<分からないときは手を抜け>という実戦訓も、見合いの考え方に一脈通じている。
投げやりで、無責任な響きがあるが、実は深い意味のあることばである。
・さて、見合いの考え方をうまく活用した棋士として、まっさきにあがる名前は、明治期の巨峰・本因坊秀栄。
かつて、本因坊秀哉は、「秀栄に対すると、打ちたいところがたいてい見合いになっていて、いつも迷わされた」と語っていたそうだ。
以下、秀栄の“見合いの名局”を鑑賞してみよう。
【6図】<黒>田村保寿・<白>本因坊秀栄
※黒の田村保寿は、のちの本因坊秀哉その人。
・立ち上がり早々次の白の手に注目。
・もっとも常識的な手といえば、白aのシマリ。
しかし、白aには、黒bのヒラキが見え見え。
・しからば、白aを撤回して、bに先着?
➡そういう発想は落第
☆秀栄はどう打ったのだろうか?
【7~12図】
【7図】秀栄の青写真は?
・白1―秀栄はこのカカリから持っていった。
・黒2の大ゲイマに、白3といきなり三々へ!
☆どういう構図を描いたのだろうか?
【8図】
・黒4は当然。
・次いで白5から黒12まで、定石型。
※ここで、白a(5, 十四)のトビが、左上隅の三角印の白をバックにして、一級品の好点であることに注意。
【9図】白13から、aと15が見合い
・ところが、白は右下隅13。
➡これは特級品ともいうべきシマリ。
・こう打つと、右辺白15が、一級品のヒラキ=必争点となることは、6図で述べた通り。(右下隅が小ゲイマジマリ、大ゲイマジマリにかかわらず)
・白は、13とシマることによって、左右の一級品を見合いにしたわけである。
・黒は、白a(5, 十四)を嫌って、14と手を加え、白15のヒラキとなった。
※左下隅の定石を打って、白aという好点を作り、それとの嚙み合わせで、シマリとヒラキ(白13、15)を打った……実にうまいもの。
・続いて、黒16のカカリ。
※白はここでも、「見合い作戦」を繰り出す。
【10図】
・白17のコスミツケから19の大ゲイマ。
※通常、こういう打ち方は悪いとされている。
なぜなら、……
【11図】左辺と右辺が見合い
・黒1(局面によってはa(3, 十))という、“二立三析”の好形を与えるからである。
※ただし、本局では、左下の丸印の黒の厚みが強大で、白から打ち込みをねらうわけにはいかない。
こういう場合は、黒1を打たせてもいいのである。
※そして、もし黒が1と左辺の大場を占めれば、白は右上の2のヒラキヅメを打とうという作戦。
※要するに、10図白17、19によって、白は左辺への打ち込みと右上のヒラキヅメを見合いにしたわけである。
白に手を渡され、若き本因坊秀哉の迷っている様子が、目に見えるよう。
【12図】白、間然するところなし
・思案のすえ、黒は20のヒラキヅメを選んだ。
・白21とトンだのは、利かしの気分。
・黒22トビを待って、白は予定通り23と二間に迫り、三角印の黒二子の挟撃に回ることができた。
※黒が左を打てば、右(黒が右を打てば、左)。
まさに格調高い名曲の調べで、白はごく自然に主導権を得ている。
(牛窪義高『碁は戦略』マイナビ、2009年[2013年版]、209頁~215頁)
・<黒>石井千治 <白>本因坊秀栄
本局にも秀栄の至芸を見ることができる。
≪棋譜≫216頁、13~19図、石井千治VS秀栄
【13図】白番 <黒>石井千治 <白>本因坊秀栄
・手番の白…目につく大場は、右辺と上辺、さてどちらにしようか、と迷いそう。
ところが、秀栄の着眼はまた別にあった。
【14図】白1から、右辺と上辺が見合い
・白1のオシ!
※左辺の模様を盛り上げる意味で、黒a(8, 十六)のカケが相当な手、という判断のもとに打たれた手。
白1は、黒aを防ぎつつ、右辺と上辺の大場を見合いにしている。
・実戦では、黒2のワリ打ちから4、6と、黒が右辺を打ったので、白7と上辺へ。
※このあと、上辺と下辺がまた見合いになっている。
すなわち、次いで黒b(7, 三)なら、……
【15図】
・白1から3と下辺を占めて、模様で対抗する碁になる。
・14図白7につづいて、……
【16図】黒8なら→白15
・黒は8と打ち込み、下辺を荒らしにきた。
・以下、黒14と中央へ逸出。
・それならと、白は15のヒラキヅメ。
※まことに悠揚迫らぬ石運び。
さらに、白はここでも<見合い>を考えている。
・すなわち、黒16、18から、17図~18図の応接を経て、……
【17図】
【18図】
【19図】黒も打ち回しているが…
・黒36のトビまで、白陣の一角を破られたので、「今度は私の番」と、白37に打ち込み、黒陣を荒らしにいった。
※黒が打ち込めば、白も打ち込む。やはり見合いの関係になっていたわけである。
14図黒2から19図黒36まで、黒に方々を十分に打たせているが、白はその都度、見合いの箇所を占めて、決して遅れていない。
よく「三手考えよ」というが、このような打ち方が最高の模範である。
AとB、どちらにしようかと迷って、いたずらに時を過ごすことなく、もう一つ・Cに着目して、AとBを見合いにする…碁の極意であるという。
(牛窪義高『碁は戦略』マイナビ、2009年[2013年版]、216頁~219頁)
藤沢秀行VS半田道玄
<白>藤沢秀行VS<黒>半田道玄
【23図】
・黒1の二間高バサミに、白2と三々へ。
・以下の応接は基本定石である。
(黒21でa(14, 十四)のノビが多いが、譜のカケツギも一策)
・黒25まで一気呵成に進んだところで、白の妙計は?
≪棋譜≫24~29図
【24図】嘆賞
・白1のボウシ!
これぞ名手…通常のハザマトビ=a(11, 十二)の地点から、一路進んでいるので、いわば“ハザマ二間トビ”とでも呼べるだろう。
※丸印の白の二子との間を、黒に割らせようという点で、着意は普通のハザマトビと同じ。
【25図】
・白1トビの凡策は、黒の意中を行くもの。
・白2の大ゲイマぐらいから大きく攻められ、難戦必至となる。
さて、24図以降も、実に見ごたえがある。
【26図】白、サバキに出る
・黒は2にツケて、白二子を“いっぱいの形”で取りにいった。
・一転、白3のハネから5、7の二段バネが冴えている。
ヨミ筋は?
【27図】
・黒8、10のアテツギは、やむを得ない。
・そこで白11切り。
(続いて黒a(17, 十三)と逃げ出せば、どうなるか―それを考えてほしい)
【28図】
・実戦は、黒12にマガり、白13抜きとなった。
※ここで、白a(17, 十五)の切りがあることに注意が必要。
【29図】快打成功
・結局、黒14切りに白15のスベリとなった。
※黒の鋭鋒をかわした、白の鮮やかな太刀サバキ…見事というほかない。
三角印の白と黒の交換が、ぴりっとワサビの利いた、文字通りいい利かしになっている。
(牛窪義高『碁は戦略』マイナビ、2009年[2013年版]、263頁~266頁)
四子局
〇四子局の布陣は40目強(281頁)
【総譜】1譜~16譜(1-197手)(284頁~334頁)
≪棋譜≫334頁、総譜
(牛窪義高『碁は戦略』マイナビ、2009年[2013年版]、284頁~334頁)
【6譜】6譜(1-63手)(313頁)
・黒60のトビは緩着。
※右下隅に、白a(16, 十七)と打たれると眼がなくなる……その心配によるものか(いま検討した丸印の黒と白の交換をもし打っていなければ、白も少し眼が心配になり、黒60の点数が上がる)
・譜の形なら、白は黒60にそれほど脅威を感じることなく、左上、61、63のハネツギに回ることができた。これが非常に大きい。
左上は、出入り17目
左上を、白がハネツいだ図(白61、63)と逆に黒が61にサガった図と比較して、実際に算定してみる。
【10図】
・白がハネツげば、1のハサミツケが権利となる。
白a(5, 四)の出を含みにしているので、黒b(3, 一)と遮ることはできない。
【11図】
・黒2、4と、これが相場。
・後に、黒a(1, 二)、白b(2, 一)で、×印はダメ。
(牛窪義高『碁は戦略』マイナビ、2009年[2013年版]、314頁)
【8譜】8譜(1-79手)(317頁)
・黒70と、あまり実を期待できないところに石が行き、反面、白は71から73コスミと、出入りの大きな要点(実質の手)に回っている。
・黒74、76は権利。
・続く黒78オサエは、やむを得ないところ。
・一転、白79サガリ。
※これがまた大きな手。
【16図】
・逆に、黒1、3とハネツがれると、白地は大幅に減る。
※黒a(2, 十)のハサミツケが、権利となるから。
【17図】
・白2、4ぐらいのもの。
・次いで黒5がうまく、以下、
【18図】
・白10まで、黒先手。
(牛窪義高『碁は戦略』マイナビ、2009年[2013年版]、318頁)
【19図】
・白が1とサガった図とを比べてほしい。
・白1から、さらに白a(2, 六)とトビコむ図を考慮すると、前図との出入りは16目前後にもなる。
【9譜】9譜(80-87手)(319頁)
・白のサガリに、黒a(2, 七)と受けるのはシャクということで、黒80のボウシ。これは不問とする。
・黒82も、80への応援をかねて、まあまあの手であるが、大きさからいえば、上辺・黒b(12, 二)のサガリのほうが上だろう。
・白83、85は、81にともなう権利である。
・続く白87のケイマは、左上の黒への攻めを見つつ、80の一子もにらんでいる。
・これに対して……
(牛窪義高『碁は戦略』マイナビ、2009年[2013年版]、319頁)
【10譜】10譜(88-101手)(320頁)
・白99まで。
※黒はともかく先手で完全な生きを確保したが、感じのいい打ち方ではない。
左上の黒は、いざとなれば、黒a(1, 六)から符号順に、黒e(1, 二)で生きがある。
・従って、黒92では、単に100とトンでいたかった。
※実戦は白を厚くさせて、少しマイナス点がつく。
(牛窪義高『碁は戦略』マイナビ、2009年[2013年版]、320頁)
【20図】
・さて、黒100トビに白101と打ったところで、4回目の形勢判断を行う。
・第3回の形勢判断(黒28目リード)から、50手進んだが、その間、黒には実質に乏しい手が散見され、また、損な交換もあった。
・反対に、白のほうは、7譜61、63のハネツギ、8譜73のコスミ、79のサガリなど、実のある手に恵まれた。
・当然の帰結として、形勢もそうとう接近したはず。
〇白101の時点におけるそれぞれの地の目数(試算値)は次のようになる。
【黒地】
・右上方面=32目
・左上方面=5目
・下辺左=10目
・右下隅=7目
【白地】
・上辺=12目
・左辺一帯=19目
・下辺右=8目
・右辺=5目
➡黒地総計「54目」、白地総計「44目」
その差・10目と縮まった。
第3回の形勢判断から、白は18目も追い込んだわけである。
なお、中央一帯は、この段階では、双方ゼロと見なす。
力関係が、ほぼ互角と見られるから。
(牛窪義高『碁は戦略』マイナビ、2009年[2013年版]、321頁~322頁)
(2024年9月15日投稿)
【はじめに】
今回も引き続き、囲碁の攻めについて、次の著作をもとに、考えてみたい。
〇牛窪義高『碁は戦略』マイナビ、2009年[2013年版]
牛窪義高氏は、囲碁の“言語化”に優れている棋士という印象を受けた。
例えば、有名な実戦訓<攻撃は最大の防御なり>とは、よく言われるが、“色即是空”をもじって、“攻即是守”という。
そして、囲碁戦略の一番の要諦は、ここにあるという(82頁)。
その他にも、次のような表現がこの著作に散見される。
・「無くても有る」…禅的発想(76頁)
・一種玄妙の世界を作り出すことができるのも、碁の醍醐味の一つ(78頁)
・名工・左甚五郎が、361路の大地に至芸をふるい、最後の槌音を響かせた…そんな感じの一手(156頁)
また、この著作の特徴として、往年の囲碁棋士の名局を取り上げていることが挙げられる。
【牛窪義高(うしくぼ よしたか)氏のプロフィール】
・昭和22年5月24日生。高知県出身。
・窪内秀知九段門下。
・昭和34年院生。38年入段、40年二段、41年三段、42年四段、43年五段、45年六段、
47年七段、49年八段、52年九段。
・大手合優勝2回。
・著書に「碁の戦術」「やさしいヨセの練習帳」(共にマイナビ)がある。
【牛窪義高『碁は戦略』(マイナビ)はこちらから】
〇牛窪義高『碁は戦略』マイナビ、2009年[2013年版]
【目次】
テーマ1 戦う場所の問題
テーマ2 厚みを生かす
テーマ3 腰伸びをとがめる
テーマ4 攻めの要諦
テーマ5 攻即是守
テーマ6 息が切れる
テーマ7 一路の違い
テーマ8 大きな手とは?
テーマ9 切りかえ
テーマ10 部分と全体
テーマ11 タイミング
テーマ12 返し技
テーマ13 反発と気合い
テーマ14 打たずの戦術
テーマ15 相手を迷わせる
テーマ16 大模様の消し方
テーマ17 機略<ハザマトビ>
テーマ18 形勢判断
テーマ19 上達と勝利へのポイント
さて、今回の執筆項目は次のようになる。
・はしがき~アマチュアの上達と勝利へのポイント
・テーマ3 腰伸びをとがめる
・テーマ4 攻めの要諦
はしがき~アマチュアの上達と勝利へのポイント
【アマチュアの上達と勝利へのポイント】
①ヨミの訓練
②棋理の学習
①ヨミの力をつけるためには、詰碁に取り組むこと。
②棋理の習得には、常に疑問を持つことが大切。
※つきつめて一つだけ挙げれば、①ヨミの訓練に尽きるという。
➡ところが、ヨミの訓練は、詰碁などで独り黙々と地道に力をつけていかなければならない。
(アマチュアがヨミの壁を突破するには至難の業)
②棋理の学習は容易だという。
➡ごく当たり前のことを(そうでないと一般的な棋理にならない)、基本原則として、いくつか勉強すればよいから。
※棋理の習得は、またヨミに筋道をつけるものである。
(ヨミの訓練にも役立つ)
※前著『碁の戦術』と本著『碁は戦略』は、ともに棋理について、分かりやすく説明した本。
➡アマの碁とプロの碁を対比させながら、学習の手伝いをしたもの。
➡前著が部分的な棋理を取り扱った
本著は、全局的なテーマを対象にしたものが多い。
(後者がやや程度の高い意味があるという)
(牛窪義高『碁は戦略』マイナビ、2009年[2013年版]、3頁~4頁、339頁)
テーマ3 腰伸びをとがめる
【テーマ図】白1に、あなたならどう打つ?
・著者の指導碁から(六子局)
・白は、丸印の白の一団が治まっていない。
なんとか手を打たなければと、白1の二間トビすると、黒はノータイムで2にツケてきた。
左辺に侵入されては大変、と…
〇腰の伸びたときがチャンス
【4図】
・白1の二間トビには、決然、黒2のツケ!
※周囲の強力な援軍を、無用の長物で終わらせないためにも、ここは白を強引に切っていくところ。
【5図】
・白3には、むろん黒4!
・白5に黒6ノビとなって、黒4の一子はつかまらない。
➡白困窮の図となった。
・4図黒2に対して……
【6図】
・白3なら、黒4から6で、これも白お手上げの形。
【7図】
・なお、黒2にツケるのもあるが(白aには黒b切りで、やはり白困る)、2よりcツケのほうが筋が良さそう。
【8図】
・二間にトブと切られる恐れがある…それなら、なぜ白1と一間にトバなかったのか、となるが、こういう「普通の手」を打つと、黒も2トビと「普通の手」で応じて、白はいつまでも重苦しい。
※弱石をかかえていると、早く治まりたいという気持ちから、どうしても腰が伸びる、すなわち「普通でない手」を打つ。
攻める側は、そこを突かなければならない。
(牛窪義高『碁は戦略』マイナビ、2009年[2013年版]、41頁~44頁)
〇次のような例もある。
【25図】よくある形
・いま、三角印の白とケイマにあおってきたところ。
ここで、いきなり黒aとツケコシて、戦いを挑むのは、いかにも無理。
【26図】
・黒1トビから3と構えて(白2はこんなもの)、aのツケコシをねらうのも一策。
・あるいは三角印の白ケイマの間隙に乗じたサバキとして、次図のような打ち方も、ときには面白いだろう。
【27図】黒1、3の連携プレー
・すなわち、黒1、白2と換わって、黒3のツケ。
・白4に、黒5の切り違い!
【28図】
・白6にカカエるのは、黒7、9で、丸印の黒と白の交換がちょうど働いてくる。
➡これは白いけない。
【29図】
・白6の引きがやむを得ず、そこで黒7カカエが一法。
・次いで白8、黒9から、
【30図】
・白10が必然。
・一子を抜いて、右上を荒らした黒、こんどは11にハネ、こちらのサバキにかかる。
・白12の切りには、……
【31図】
・黒13とアテ、白14抜きに、
【32図】
・黒15から17ツギ。
※すでに右上で得をしているので、少々の石は捨てる要領。
【33図】黒7、9も一型
・29図白6のとき、黒7と引くのもある。
・白も8に引き(aのシチョウは黒有利)、黒9ノビまで。
※この形、黒は三角印の黒の一子の動き出しをみて、白としては、なかなかうるさいところ。
黒は、白のケイマの薄みに小技をふるい、一クセつけることに成功した。
(牛窪義高『碁は戦略』マイナビ、2009年[2013年版]、53頁~56頁)
テーマ4 攻めの要諦
【派手な攻め方】
【24図】<黒>立徹・<白>丈和
〇もう一例、古碁をお目にかけよう。
・三角印の白を照準に、黒1。
・白2トビ……これも中央の黒を攻める気分。
・黒3と変則のカカリ。
※いい感じの手。隅の白に迫りつつ、はるかに三角印の白をにらんでいる。
【25図】こういう攻め方もある
・白4と逃げたのに対し、黒は5のカケを利かして、7の急所へ。
・白8を待って、黒9から11の肩と、目を見張るばかりのダイナミックな攻め。
実に見ごたえがある。
※24図黒3、25図黒5、11と、できるだけ包囲網を大きく、遠巻きに攻めている点に注意せよ。
(牛窪義高『碁は戦略』マイナビ、2009年[2013年版]、71頁~72頁)
テーマ5 攻即是守
【1図】必争のポイント(急場)を逃す―黒1
・アマ高段者同士の実戦で、黒1と構えたところ。
丸印の黒の星から、三角印の黒と辺にヒラいた形は、黒1によって確かにキリっとし、好形になる。
しかし、それは<局部の要点>に過ぎず、<全局の要点>は、また別にある…
【2図】
・黒1には、白2から4を利かし、6のトビ。
これで黒窮する(実戦では白はこう打たなかったが…)。
※ご覧のように、丸印の白は強化され、逆に上の黒は棒石になった。
また、丸印の白の一団が強くなると、白は平気でaの打ち込みや、bの三々などをねらうことができる。
つまり、黒1と守った手自体が、効果の薄いものになる。
【3図】正解
・黒1と、先制攻撃!
これにより、丸印の黒の一団は安定し、逆に丸印の白は弱体化する。
【4図】黒好調
・白は2とツキアタり、黒3に、白4トビぐらいのもの。
・黒は5のケイマと、攻めを続行。
※こうなると、丸印の黒はまったく心配がなくなったうえに、右方・三角印の黒の友軍とともに、黒は大きな地模様さえ形成する勢いである。
白は、まだ左の一団が治まっていないので、黒模様に飛び込むわけにもいかない。
※黒3から5と肉薄しておけば、白がシノぐ調子で、中央の黒はさらに強化されるはず。
そうなると、黒aなどの守りを省略して、このまま黒地となる可能性も出てくる。
※2図と4図、よく見比べてほしい。
2図は、黒1と守ったようでも、たいした守りになっていない。
それに対して、4図は、黒aと守らなくても、黒3や5が十分にその役目を果たしているし、最終的には黒aを省いて、大きな地がまとまる期待も持てる。
両図の差は、天地雲泥というべきである。
(牛窪義高『碁は戦略』マイナビ、2009年[2013年版]、73頁~75頁)
「無くても有る」…禅的発想
【5図】
〇置碁でよくできる形。
【6図】
・黒1と、隅を守っても白2と打ち込まれるし(ただちに打つかどうかはともかく)、
【7図】
・黒1とこちらを守っても、白2と、三々侵入の余地がある。
※要するに、黒は、右上一帯を一手で地にするような手はない、ということである。
考え方を180度転換させて、<白を攻める>ことを主眼としてみよう。
【8図】
・黒1のコスミツケ。
・白2はやむを得ない。
・そこで黒3のハサミ!
※黒1、白2の交換によって、白は重たくなった、つまり、黒は攻めの目標を大きくした。
【9図】
・白は、4のトビなどと、すぐ動くことになるだろう。
・これには、黒5の二間トビといった要領。
※この形、白からのねらいであるaの打ち込みやbの三々は、依然として残っている。
黒は、上を直接守るというような手を全然打っていないので、それは当然。
しかし、白は三子がまだ治まっていないので(=大きな負担)、ここで白aに打ち込んだり、bと三々に侵入するわけにはいかない。
すなわち、黒はa、bの二つとも、これで守っていることになるし、極端にいえば、守りの手を二手連打できた理屈。
実際には打たれていないのに、そこに打たれたのと同じような効果が認められる。
いわば、石が無くても有る――禅問答のようなことになったが、攻撃を旨とすることによって、そういった一種玄妙の世界を作り出すことができるのも、碁の醍醐味の一つだろう。
・9図に続いて、
【10図】
・白6トビなら、調子で黒7と、自然に守ることができる。
※黒7は、上辺の守備にとどまらず、白四子への“攻めの意思”も強いことに注意せよ。
やはり白は、続いてaと三々を襲ったりはできない。(黒bのサガリで白四子が著しく弱化)。
黒はここでも、実際には隅を守っていないのに、守ったのと同じような状況を作り出している。
【11図】
<守る手>には、欠点が多い
・四子以上置いた置碁でも、手数が進むにつれて、いつの間にか黒のほうが攻められるといった珍現象が、よく起こる。
五つも六つも置かれると、白が攻勢に立つということは常識では考えられない。ところが、その“非常識”が、現実にはよくある。まさに珍現象。強い上手にかかって、苦い体験を持つ読者も多いだろう。
・なぜ、そういう理不尽なことが起こるのか?
ズバリいって、それは、黒が自陣の守りを優先させたから。
まず自陣の守備を固めて、それから攻めよう、そういう作戦を立てたから。
(作戦を立てたというよりも、置碁の場合、黒はどうしても萎縮してしまい、つい、守りを固めるほうに目が行くということもあるだろう)
・それはともかく、ここで、守りに偏した手の欠点を、三つ挙げてみる。
①一手では守りきれないので、手段の余地を残す、ないし、味が悪い。
②完全に守るためには、手数を要するので、一手あたりの価値は存外小さい。
③相手に手を渡す(=守ると後手を引く)
【12図】
(牛窪義高『碁は戦略』マイナビ、2009年[2013年版]、73頁~81頁)
置碁はとくに速攻が肝要
・結局、碁というものは、守ろうとしても守りきれるものではない、といえる。
なぜなら、ある局部を完全に守ろうとすれば、三手も四手もかかるし、そのたびに後手を引いたのでは、他方面で弱石を作って、守勢に陥り、あげくのはてに、三手、四手と費やした確定地にも悪影響が及ぶからである。
このような悲劇的光景を、よく見かける。
・要は、着手の優先権を、第一番に「攻め」に置くこと。
これに尽きる。
上手との力の差、技術の差がある置碁において、このことはとくに大切。
上手にいったん攻勢に立たれると、下手側はシノギに難渋し、まずその碁は勝ち目がないと知るべき。
守りに偏した手の欠点を、先に三つ挙げた。
<攻める手のメリット>
その裏返しとして、攻める手のメリットをまとめると、次のようになる。
①攻撃することによって自然にできた地は、味が良く、手段の余地を残さないことが多い。
②相手に迫っていれば、守る手自体、不要となることもある。きわめて効率が良い。
(前掲・4図のようなケース)
③攻めているかぎり、先手を堅持できるので(主導権)、相手の作戦の幅を狭くできる。
〇有名な実戦訓<攻撃は最大の防御なり>。これはまさに真実。
“色即是空”をもじれば、“攻即是守”。囲碁戦略の一番の要諦は、ここにあるという。
・攻めと守りに関して、次のようなことも重要。
アマチュアの人は一般に、攻めるときはムキになり、なにがなんでも取ってしまおうといった、非常に無理な打ち方をすることが多い。その大きな原因は、「先に守る」ことにある。
・守る手というのは、当然、得な手に違いない。
その得な手を先に打ち、それから攻めて、なおかつ得を収めようとすると、敵石を取ってしまうような大戦果をあげないと、攻めの効果が出ないということになりがち。
そうではなく、守りを省略して先に攻め、その効果は、攻める調子で自陣が固まる程度でいいと、このぐらいの小欲で処するほうが本筋であり、成功率も高いといえる。
(牛窪義高『碁は戦略』マイナビ、2009年[2013年版]、81頁~82頁)
守った手が駄着化
【13図】黒1は緩着。どう打つべきか?
〇院生の対局から。
・黒1は、右辺がなんとなく薄いとみて、こうオサエたのであろう。一見、大きそうだが…。
【14図】
・黒1に対し、白は2、4、6と決めた。黒7まで。
※丸印の白の一団が治まっていないので、白としてはこんなもの。
ところで、黒が、3、5、7と受けた形は、黒1のオサエが、不急の一手となっていないだろうか?
【15図】黒1、3が正解―先に攻める
・黒1のノゾキから3と、先に攻めてみる。
【16図】白10となれば、黒aはいそがない
・白は、やはり4、6、8と上から利かすぐらいのもの。
・黒9に、白10と形について、これではほぼ治まり形となった。
※さて、ここで黒はaにオサエるだろうか?
5、7、9に石がきた現在、黒aの守りは不要。また、黒aとオサエても、右下の白にそれほど響くわけでもない。
すなわち、黒aは単なるヨセの手である。
白bのスベリとの出入りは、かなりの大きさとはいえ、中盤に打つ手でないのは、はっきりしている。
・白10に続いて、例えば左辺黒11など、より値打ちのある積極的な手を繰り出して、局面をリードしていくべきだろう。
・14図黒1と、先に<守りの手>を打ったため、あとでそれが不急の駄着になった。銘ずべき反省点である。
〇最後に、専門家の実戦例を一つ。
【17図】<黒>橋本宇太郎・<白>苑田勇一
文字通りの“攻即是守”ではなく、更に高級な意味を含んだ例であるという。
・まず、白1のコスミ!
※黒の根拠を脅かしつつ、白は右辺の大模様侵略の機をうかがっている。
【18図】実戦
・黒2に、白3と裂いたのは当然。
・次いで黒4のオサエ。こう治まった手が、下方の白陣へ臨む手がかりともなっている。
・白は上辺に転じ、5と割っていった。
※三角印の黒二子の動静を見ながら、白はやはり黒の大模様を注視。
あくまで「攻め」をめぐって、局面が動いている。
(牛窪義高『碁は戦略』マイナビ、2009年[2013年版]、73頁~86頁)
テーマ8 大きな手とは?
着手決定の基準 攻め→守り→大小
・実戦で、岐路に立ったとき、どういう考えで、<次の一手>を決めるか。
その基準(優先順位)が、次の3つである。
①攻め
②守り
③局部の大小関係
①まず、相手の弱石をとらえ、それに対する攻めを考えること。これが第一である。
②次に、その裏返しとして、自陣を点検し、弱石があれば補強すること。
③三番目に、自他ともに弱石がない場合…そのときに初めて、局部の大小関係に注目すること。
・実戦において、迷いはつきものであるが、攻め→守り→局部の大小関係と、原則としてこの優先順位で処していけば、総じて適切な方向に石が行き、マチガイの少ない、活気に満ちた碁を打つことができるはずである、と著者はいう。
(牛窪義高『碁は戦略』マイナビ、2009年[2013年版]、125頁)
局部の大小関係に注目するケース
・局部の大小関係に注目するケースとは、例えば、こういう局面である。
【26図】弱石なく、平和な局面…大ヨセの感覚で
・ご覧のとおり、双方、弱石がない。
・従って、ここで黒aのオサエは、有力な一案。
・他に、黒bと肩を突いて、消しにいくのもあり(これも局部の大)、このほうが点数が上かもしれないが、少なくとも、黒aのオサエは、この場合、叱られない手といえる。
☆26図は、両者安定の局面であったが、反対に、双方弱石を抱えているときは、どうするか?
➡その場合も、原則として<攻め>を第一義としてほしい。
※つねに、積極果敢な姿勢を持つこと。それが勝利への近道だから。
(牛窪義高『碁は戦略』マイナビ、2009年[2013年版]、126頁)
テーマ9切りかえ~<厚み>が<薄み>に変わった
【2図~8図】
<厚み>が<薄み>に変わった
【10図】黒、上が弱く、下が強くなった
〇8図白21のスベリまでの局面。
※7図白1とボウシした段階では、上の丸印の黒は確かに厚みであり、攻めに活用すべき外勢だった。
しかし、それから20手進んだ本図では、丸印の黒の11子は、もはや厚みとは認定しがたくなっている。
中央にもう少し白石が加わると完全に攻守逆転し、丸印の黒の一団が白の標的になりかねない。
・反面、三角印の黒の一団は非常に強くなっている。
白に三々侵入を許し、その代償として、ここに相当な厚みを得たわけである。
※要するに、7図白1のボウシから20手進むうちに、社会情勢が大変化して、かつての厚みは薄みと化し、逆に、薄みが厚みに変わったのである。
7図黒2とツケたときから、時代は移り世の中が変わった…そう認識して、
【11図】正解
・黒1と、こちらから打つ
※これが、「時代の変化」に柔軟に対応した、正しい石の方向である。
次いで、
【12図】事態の変化に即応して…黒1、3、5
・白は2ぐらいのもの。
・そこで、黒3とオシ、白4に黒5のケイマ
※過去にとらわれることなく、現時点の状況にマッチさせた、正しい石運びである。
黒1、3、5を打つことによって、
①丸印の黒の一団の不安が解消した
②中央から右辺へ、大勢力圏を構築
③三角印の黒の堅陣が光ってきた(白をまだ攻めている)
※このように、黒には「いいこと」が三つも重なった。
前掲9図の“難戦模様”に比し、本図は、黒が快勝を収めそうである。
執着を離れ、発想を切りかえる
【13図】
・最初に、黒の<次の一手>(1図)を問われた人は、それまでの流れを知らないので、固定観念のようなものを持つことなく、冷静に局面を観察して、正しい方向(12図黒1ないしその近辺)に、眼が行きやすかったかもしれない。
・本局の当事者=黒のX氏も、実戦を離れた<次の一手問題>であれば、おそらく12図黒1、3と、この方向に石を持っていったことと思う。
・ところが、【13図】白1のボウシされたとき、上の丸印の黒を厚みと認識して、黒2とこちらにツケ、白を厚みの方に追い込もうとした。
※実戦では、この作戦・方針から、一つの流れが生じ、その流れに乗っているうちに、いつのまにか「上の丸印の黒は厚み」という考えが、一種の固定観念として定着してしまい、機に臨んで応変の戦略を描く柔軟性をなくしたといえるだろう。
強い石が弱くなったり、弱い石が強くなったり、事態は常に流動的である。
その変化の相を敏感にとらえ発想を切りかえて的確に対処することは、専門家にとっても時にむずかしいテーマとなる、と著者は解説している。
(牛窪義高『碁は戦略』マイナビ、2009年[2013年版]、129頁~138頁)
プロの実戦から~大竹英雄VS加藤正夫
大竹英雄VS加藤正夫
≪棋譜≫(1-50)138頁、大竹英雄VS加藤正夫
【14図】<黒>大竹英雄・<白>加藤正夫
・右下の応接・黒17まで。
※実利対外勢のワカレ
・白はここに蓄えた力をバックに、18とハサみ、攻勢に出た。
・黒19コスミに、白20トビ。
※左辺の二連星とも呼応した、スケールの大きな攻めの構想。
【15図】白、次の一手は?
・続いて、黒21のトビに、白は22を利かして、24トビ。
・黒もまた25とトビ。
〇さて、ここで白はどう打ったか?
碁の流れは、白の攻め…。
その流れに沿って、さらに急攻を企てるか。それとも…
≪棋譜≫140頁、16図
【16図】実戦―渋さが光る
・加藤名人は、ここで白1と守りについた。
※なかなか打てない手…思いもよらなかった、という人も多いのでは?
しかし、よく考えてみると、状況の変化に対応した、素晴らしい一手であることがわかる。
※ちょっと前まで、右下の丸印の白の一団は強い石で、攻勢の基盤となっていた。
ところが、数手進んで、丸印の黒のトビがくると、丸印の白は弱体化し、少し薄くなった。
そこで、白1とガッチリ打って補強し、白aのツメや、白bのボウシなど、色々な含みを見る。
➡まことに、<攻・防>両面によく心配りされた、輝く名手、と著者はいう。
【17図】黒ありがたい
・ハサんだ石を攻めるという、これまでの一連の流れに安易に乗ると、つい、白1のケイマから3とトビと、こういう打ち方をしがち。
・黒は4とトビ。
➡白、どうもまずいようだ。
※白は、1、3といたずらに腰を伸ばしただけで、丸印の白の一団がそれほど強化されたわけでもなく、従って、上の黒への攻めも、多くを期待できなくなった。
※白の打ち方は一本調子であり、直接的に攻めようとしている。
それがかえって、迫力を欠くことになっている。
【18図】実戦
・16図以降の進行。
・中央・黒39にトンだとき、白40の肩から46まで、今度はこちらを補強した。
・黒47のスベリに、白50のボウシ!➡満を持した強打
※本局は立ち上がから、「黒の実利/白の勢力」という骨格が決まり、碁の大きな流れとして、白の攻めがポイントになった。
しかし、白は決して一本調子で攻めることなく、黒の動きに応じて、自軍をよく点検・整備し、慎重に打ち進めている。
流れに乗りっぱなしでなく、ときどき岸にあがり、流れを冷静に観察している、そんな感じだろうかという。
※前回のテーマで、着手の決定の基準(優先順位)を
①攻め ②守り ③局部の大小関係とし、「攻め」の重要性を強調したが、これを補足する意味で、今回のテーマ=切りかえを著者は選んだという。
・取るものを取り、あとをシノいで打つという実利先行作戦は、本質的に非常にむずかしいので、とくにアマチュアの人は攻め本位の作戦をとるのが得策である。
この考えから、先の基準を示したが、攻めを重視するあまり、勢いのおもむくまま、どんどん行き過ぎてもいけない。今回述べたかったのは、これである、と著者はいう。
・「攻め」を第一義としながらも、彼我の強弱の変化によく注意して、ときに自陣を整備・補強すること、また、総じて100手を過ぎたあたりから、局部の大小関係、つまり<ヨセ>が大きな比重を占めるようになること。
このへんの切りかえをうまく行うことも、勝利への大切な要素であるとする。
(牛窪義高『碁は戦略』マイナビ、2009年[2013年版]、138頁~143頁)
テーマ10 部分と全体~プロの実戦から 藤沢秀行VS石田芳夫
<黒>藤沢秀行VS<白>石田芳夫
【7図】
・黒1のトビに、白2のノビ。
黒、次の一手は?
【8図】英断
・黒3!
※「さすがに…」と、話題になった手である。
こう打つと、目前、白aの出がある―黒bは白cに切られて苦しい―
・黒の対策は?
【9図】
・白4(実戦ではこう打たなかった)には、黒5と応じ、白6にも、黒7にノビよう、という意図である。
※三角印の黒二子を放棄した損は小さくないものの、スケールの大きな黒模様を構成しつつ、7の剣先が左辺の白模様を消すという、一石二鳥の働きをしている点、上の損を差し引いても、十分にオツリがくる図となっている。
【10図】黒1、3は凡庸
・白2のとき、出切りに備える手としては、黒3のケイマが形(定石型)であり、例の<部分の最善>といえる。
・しかし、白4とケイマに出られては、黒の右辺の構えは影の薄いものになる。
※8図黒3のオサエは、一見常識外れの手ではあるが、9図と10図を比較すれば、大局的見地からの素晴らしい英断(真の最善)であることが分かる。
※10図黒3のような、石の姿・形、あるいは手筋といったものに明るいことは、碁の強さの大切な要件であり、それなりに評価されるが、それにも増して重要なのは、“大局を見る眼”である。
対局中、少なくとも3回ぐらいは背筋を伸ばし、姿勢を正して、盤上全体を大きく視野に収める習慣をつけると良いという。
そこから、全体にマッチする妙計も生まれる。
(牛窪義高『碁は戦略』マイナビ、2009年[2013年版]、148頁~150頁)
テーマ10部分と全体~「呉清源布石」
〇「呉清源布石」の教材として、呉先生が採用された局面である。
【16図】白番
・いま、三角印の黒に打ち込んだ。
白の、19路四方を視野に収めた構想は如何。
【17図】失敗Ⅰ
・白1トビ…19路四方ならぬ、10路四方ぐらいしか視野に収めていない打ち方である。
・白1と逃げた以上、黒2に白3トビもやむを得ない。
・以下、黒6までを想定。
※黒にとって、2、4、6は、白の右方の厚みの消しになっている。
同時に、まだ左の三子への攻めも見ている。
―一子を逃げたため、白は全体が崩れた。
なお、白5のナラビは、黒aのオキを防いだものである。
【18図】失敗Ⅱ
・白1とコスんで、三角印の黒を攻めたいという人もいるだろう。
しかし、黒2のツケから10トビまで(相場の進行)となって、とても攻めがきくような石ではなく、逆に左の白のほうが不安である。
前図同様、右の厚みも消えて、白サッパリ。
≪棋譜≫19~21図
【19図】正解
・呉先生推奨の手は、白1のケイマ。
この際、三角印の白の一子を献上しようというもの。
・黒2のコスミに続いて、
【20図】
・白3のツケから、5のツキアタリも利かし、一転7のオサエ。
これも、先手(権利)である。
【21図】芸術の香気
・黒8、10の受けを待って、今度は下辺に転じ、11の大ゲイマ。
こう五線に打った手に、なんともいえない味がある。
名工・左甚五郎が、361路の大地に至芸をふるい、最後の槌音を響かせた…そんな感じの一手であろうかという。
<碁の調和>
・これは呉先生の言葉で、非常に深い意味がある。
本図も、白の全軍が相和した、一つの調和的世界だろうという。
【22図】
(牛窪義高『碁は戦略』マイナビ、2009年[2013年版]、153頁~156頁)
テーマ11 タイミング
〇弱点が一つになったときが“いいタイミング”
<黒>呉清源VS<白>坂田栄男
【14図】
・この局面―右上方面の黒陣へ、白はどういう“策”で臨んだのだろうか?
【15図】
・丸印の黒の構えに対して、白としては、
aの打ち込み、bのカカリ、cの三々、dの肩ツキなど、さまざまな作戦が考えられる。
・ところが、白の次の一手は、a~dのいずれでもなかった。
≪棋譜≫16~18図
【16図】
・白1と、中央からの「消し」…黒2の受けに、白3の打ち込み!
※黒2と、ここに石がくると、15図白bのカカリは、“ない手”になった。
(攻められるだけで、苦しい)
また、15図a、dなども消えたことは、もちろんである。
つまり、16図黒2と受けたとたんに、黒の弱点は三々だけになった。
そこで、白3と飛び込んだのが、まさにグッド・タイミングというわけである。
【17図】
【18図】
・黒14までとなれば、三角印の白と黒の交換が、白にとって最高の利かしとなっている。
※黒は相当なコリ形で、上辺にできた地も、わずかなものである。
・先に16図白3と三々に入り、18図黒14までとなったあと、
【19図】
・白1に打っても、黒aとは絶対に受けてくれない。
・黒2ツケ、あるいはbコスミなどと反発される。
※16図白1、3の理想的なタイミングを、よく味わってほしいという。
【20図】実戦
〇なお、実戦では、17図白7のとき、
・黒8とツギ、白9に黒10のツメとなった。
※黒8は、いわゆる定石にない手であるが、この際の好手である。
(牛窪義高『碁は戦略』マイナビ、2009年[2013年版]、163頁~165頁)
テーマ14 打たずの戦術~見合いの考え方
【見合いの考え方】
・「打たずの戦術」というテーマで、二つの実戦例をあげたが、いわゆる見合いというものに着目すれば、この戦術はいっそう光彩を放ち、面白くなる。
・黒Aと打てば、白Bに打たれる。逆に黒Bと打てば、白Aに打たれる――
これが見合いの関係であるが、黒としては、A・Bにはあえて打たず、他方面の好所=Cを占め、A・Bのところは、反対に黒のほうから見合いにする。
これが見合いの考え方であり、序盤・中盤・終盤にいたるまで、非常に応用範囲の広いものである。
・AまたはB、どちらを選ぼうかと迷う――
迷うぐらいだから、A・Bはいずれ劣らぬ好点のはずであるが、それらを見合いとしてとらえれば、あわてて一方に打ったり、迷ったりする必要はない。
悠々と第三の好所=Cを占めて、「さあ、どういらっしゃいますか」と、相手に手を渡してほしい。
A・Bは見合いだから、相手が先着しても、片方は打てるわけである。
・<分からないときは手を抜け>という実戦訓も、見合いの考え方に一脈通じている。
投げやりで、無責任な響きがあるが、実は深い意味のあることばである。
・さて、見合いの考え方をうまく活用した棋士として、まっさきにあがる名前は、明治期の巨峰・本因坊秀栄。
かつて、本因坊秀哉は、「秀栄に対すると、打ちたいところがたいてい見合いになっていて、いつも迷わされた」と語っていたそうだ。
以下、秀栄の“見合いの名局”を鑑賞してみよう。
【6図】<黒>田村保寿・<白>本因坊秀栄
※黒の田村保寿は、のちの本因坊秀哉その人。
・立ち上がり早々次の白の手に注目。
・もっとも常識的な手といえば、白aのシマリ。
しかし、白aには、黒bのヒラキが見え見え。
・しからば、白aを撤回して、bに先着?
➡そういう発想は落第
☆秀栄はどう打ったのだろうか?
【7~12図】
【7図】秀栄の青写真は?
・白1―秀栄はこのカカリから持っていった。
・黒2の大ゲイマに、白3といきなり三々へ!
☆どういう構図を描いたのだろうか?
【8図】
・黒4は当然。
・次いで白5から黒12まで、定石型。
※ここで、白a(5, 十四)のトビが、左上隅の三角印の白をバックにして、一級品の好点であることに注意。
【9図】白13から、aと15が見合い
・ところが、白は右下隅13。
➡これは特級品ともいうべきシマリ。
・こう打つと、右辺白15が、一級品のヒラキ=必争点となることは、6図で述べた通り。(右下隅が小ゲイマジマリ、大ゲイマジマリにかかわらず)
・白は、13とシマることによって、左右の一級品を見合いにしたわけである。
・黒は、白a(5, 十四)を嫌って、14と手を加え、白15のヒラキとなった。
※左下隅の定石を打って、白aという好点を作り、それとの嚙み合わせで、シマリとヒラキ(白13、15)を打った……実にうまいもの。
・続いて、黒16のカカリ。
※白はここでも、「見合い作戦」を繰り出す。
【10図】
・白17のコスミツケから19の大ゲイマ。
※通常、こういう打ち方は悪いとされている。
なぜなら、……
【11図】左辺と右辺が見合い
・黒1(局面によってはa(3, 十))という、“二立三析”の好形を与えるからである。
※ただし、本局では、左下の丸印の黒の厚みが強大で、白から打ち込みをねらうわけにはいかない。
こういう場合は、黒1を打たせてもいいのである。
※そして、もし黒が1と左辺の大場を占めれば、白は右上の2のヒラキヅメを打とうという作戦。
※要するに、10図白17、19によって、白は左辺への打ち込みと右上のヒラキヅメを見合いにしたわけである。
白に手を渡され、若き本因坊秀哉の迷っている様子が、目に見えるよう。
【12図】白、間然するところなし
・思案のすえ、黒は20のヒラキヅメを選んだ。
・白21とトンだのは、利かしの気分。
・黒22トビを待って、白は予定通り23と二間に迫り、三角印の黒二子の挟撃に回ることができた。
※黒が左を打てば、右(黒が右を打てば、左)。
まさに格調高い名曲の調べで、白はごく自然に主導権を得ている。
(牛窪義高『碁は戦略』マイナビ、2009年[2013年版]、209頁~215頁)
「三手」を考える
・<黒>石井千治 <白>本因坊秀栄
本局にも秀栄の至芸を見ることができる。
≪棋譜≫216頁、13~19図、石井千治VS秀栄
【13図】白番 <黒>石井千治 <白>本因坊秀栄
・手番の白…目につく大場は、右辺と上辺、さてどちらにしようか、と迷いそう。
ところが、秀栄の着眼はまた別にあった。
【14図】白1から、右辺と上辺が見合い
・白1のオシ!
※左辺の模様を盛り上げる意味で、黒a(8, 十六)のカケが相当な手、という判断のもとに打たれた手。
白1は、黒aを防ぎつつ、右辺と上辺の大場を見合いにしている。
・実戦では、黒2のワリ打ちから4、6と、黒が右辺を打ったので、白7と上辺へ。
※このあと、上辺と下辺がまた見合いになっている。
すなわち、次いで黒b(7, 三)なら、……
【15図】
・白1から3と下辺を占めて、模様で対抗する碁になる。
・14図白7につづいて、……
【16図】黒8なら→白15
・黒は8と打ち込み、下辺を荒らしにきた。
・以下、黒14と中央へ逸出。
・それならと、白は15のヒラキヅメ。
※まことに悠揚迫らぬ石運び。
さらに、白はここでも<見合い>を考えている。
・すなわち、黒16、18から、17図~18図の応接を経て、……
【17図】
【18図】
【19図】黒も打ち回しているが…
・黒36のトビまで、白陣の一角を破られたので、「今度は私の番」と、白37に打ち込み、黒陣を荒らしにいった。
※黒が打ち込めば、白も打ち込む。やはり見合いの関係になっていたわけである。
14図黒2から19図黒36まで、黒に方々を十分に打たせているが、白はその都度、見合いの箇所を占めて、決して遅れていない。
よく「三手考えよ」というが、このような打ち方が最高の模範である。
AとB、どちらにしようかと迷って、いたずらに時を過ごすことなく、もう一つ・Cに着目して、AとBを見合いにする…碁の極意であるという。
(牛窪義高『碁は戦略』マイナビ、2009年[2013年版]、216頁~219頁)
テーマ17 機略<ハザマトビ>
藤沢秀行VS半田道玄
<白>藤沢秀行VS<黒>半田道玄
【23図】
・黒1の二間高バサミに、白2と三々へ。
・以下の応接は基本定石である。
(黒21でa(14, 十四)のノビが多いが、譜のカケツギも一策)
・黒25まで一気呵成に進んだところで、白の妙計は?
≪棋譜≫24~29図
【24図】嘆賞
・白1のボウシ!
これぞ名手…通常のハザマトビ=a(11, 十二)の地点から、一路進んでいるので、いわば“ハザマ二間トビ”とでも呼べるだろう。
※丸印の白の二子との間を、黒に割らせようという点で、着意は普通のハザマトビと同じ。
【25図】
・白1トビの凡策は、黒の意中を行くもの。
・白2の大ゲイマぐらいから大きく攻められ、難戦必至となる。
さて、24図以降も、実に見ごたえがある。
【26図】白、サバキに出る
・黒は2にツケて、白二子を“いっぱいの形”で取りにいった。
・一転、白3のハネから5、7の二段バネが冴えている。
ヨミ筋は?
【27図】
・黒8、10のアテツギは、やむを得ない。
・そこで白11切り。
(続いて黒a(17, 十三)と逃げ出せば、どうなるか―それを考えてほしい)
【28図】
・実戦は、黒12にマガり、白13抜きとなった。
※ここで、白a(17, 十五)の切りがあることに注意が必要。
【29図】快打成功
・結局、黒14切りに白15のスベリとなった。
※黒の鋭鋒をかわした、白の鮮やかな太刀サバキ…見事というほかない。
三角印の白と黒の交換が、ぴりっとワサビの利いた、文字通りいい利かしになっている。
(牛窪義高『碁は戦略』マイナビ、2009年[2013年版]、263頁~266頁)
テーマ18 形勢判断~四子局
四子局
〇四子局の布陣は40目強(281頁)
【総譜】1譜~16譜(1-197手)(284頁~334頁)
≪棋譜≫334頁、総譜
(牛窪義高『碁は戦略』マイナビ、2009年[2013年版]、284頁~334頁)
【6譜】6譜(1-63手)(313頁)
・黒60のトビは緩着。
※右下隅に、白a(16, 十七)と打たれると眼がなくなる……その心配によるものか(いま検討した丸印の黒と白の交換をもし打っていなければ、白も少し眼が心配になり、黒60の点数が上がる)
・譜の形なら、白は黒60にそれほど脅威を感じることなく、左上、61、63のハネツギに回ることができた。これが非常に大きい。
左上は、出入り17目
左上を、白がハネツいだ図(白61、63)と逆に黒が61にサガった図と比較して、実際に算定してみる。
【10図】
・白がハネツげば、1のハサミツケが権利となる。
白a(5, 四)の出を含みにしているので、黒b(3, 一)と遮ることはできない。
【11図】
・黒2、4と、これが相場。
・後に、黒a(1, 二)、白b(2, 一)で、×印はダメ。
(牛窪義高『碁は戦略』マイナビ、2009年[2013年版]、314頁)
【8譜】8譜(1-79手)(317頁)
・黒70と、あまり実を期待できないところに石が行き、反面、白は71から73コスミと、出入りの大きな要点(実質の手)に回っている。
・黒74、76は権利。
・続く黒78オサエは、やむを得ないところ。
・一転、白79サガリ。
※これがまた大きな手。
【16図】
・逆に、黒1、3とハネツがれると、白地は大幅に減る。
※黒a(2, 十)のハサミツケが、権利となるから。
【17図】
・白2、4ぐらいのもの。
・次いで黒5がうまく、以下、
【18図】
・白10まで、黒先手。
(牛窪義高『碁は戦略』マイナビ、2009年[2013年版]、318頁)
【19図】
・白が1とサガった図とを比べてほしい。
・白1から、さらに白a(2, 六)とトビコむ図を考慮すると、前図との出入りは16目前後にもなる。
【9譜】9譜(80-87手)(319頁)
・白のサガリに、黒a(2, 七)と受けるのはシャクということで、黒80のボウシ。これは不問とする。
・黒82も、80への応援をかねて、まあまあの手であるが、大きさからいえば、上辺・黒b(12, 二)のサガリのほうが上だろう。
・白83、85は、81にともなう権利である。
・続く白87のケイマは、左上の黒への攻めを見つつ、80の一子もにらんでいる。
・これに対して……
(牛窪義高『碁は戦略』マイナビ、2009年[2013年版]、319頁)
【10譜】10譜(88-101手)(320頁)
・白99まで。
※黒はともかく先手で完全な生きを確保したが、感じのいい打ち方ではない。
左上の黒は、いざとなれば、黒a(1, 六)から符号順に、黒e(1, 二)で生きがある。
・従って、黒92では、単に100とトンでいたかった。
※実戦は白を厚くさせて、少しマイナス点がつく。
(牛窪義高『碁は戦略』マイナビ、2009年[2013年版]、320頁)
黒のリードは10目に
【20図】
・さて、黒100トビに白101と打ったところで、4回目の形勢判断を行う。
・第3回の形勢判断(黒28目リード)から、50手進んだが、その間、黒には実質に乏しい手が散見され、また、損な交換もあった。
・反対に、白のほうは、7譜61、63のハネツギ、8譜73のコスミ、79のサガリなど、実のある手に恵まれた。
・当然の帰結として、形勢もそうとう接近したはず。
〇白101の時点におけるそれぞれの地の目数(試算値)は次のようになる。
【黒地】
・右上方面=32目
・左上方面=5目
・下辺左=10目
・右下隅=7目
【白地】
・上辺=12目
・左辺一帯=19目
・下辺右=8目
・右辺=5目
➡黒地総計「54目」、白地総計「44目」
その差・10目と縮まった。
第3回の形勢判断から、白は18目も追い込んだわけである。
なお、中央一帯は、この段階では、双方ゼロと見なす。
力関係が、ほぼ互角と見られるから。
(牛窪義高『碁は戦略』マイナビ、2009年[2013年版]、321頁~322頁)
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