≪囲碁の攻め~藤沢秀行『基本手筋事典』より≫
(2024年9月29日投稿)
今回のブログでは、囲碁の攻めについて、次の文献を参考に考えてみたい。
〇藤沢秀行『基本手筋事典 上(中盤の部)』日本棋院、1978年[1980年版]
<お断り>
・図のイロハ…は、入力の都合上、abc…に変更させてもらった。
【藤沢秀行氏のプロフィール】
・1925年横浜市に生まれる。
・1934年日本棋院院生になる。1940年入段。
・1948年、青年選手権大会で優勝。その後、首相杯、日本棋院第一位、最高位、名人、プロ十傑戦、囲碁選手権戦、王座、天元などのタイトルを獲得。
・1977年から囲碁界最高のタイトル「棋聖」を六連覇、名誉棋聖の称号を受ける。
・執筆当時、日本棋院棋士・九段、名誉棋聖
<著書>
・「芸の詩」(日本棋院)
・「碁を始めたい人の本」(ごま書房)
・「秀行飛天の譜」(上・下、日本棋院)
・「囲碁発陽論」(解説、平凡社)
・「聶衛平 私の囲碁の道」(監修、岩波書店)
【藤沢秀行『基本手筋事典 上』(日本棋院)はこちらから】
さて、今回の執筆項目は次のようになる。
・石の連絡を断ち切る手筋。
・大きく二つに割っていけば分断、侵入してきた石の退路を断てば遮断、さまざまな呼びかたはあっても、要は相手の石の連絡を断ち切ることによって、さまざまな利得を生み出そうとするのである。
・ただし、切断はごく基礎的な手段であって、手筋と呼ぶほどの微妙な手順や形を必要としないばあいが多い。
まず、部分的な手筋を要しない切断の例を二、三挙げ、切断の手筋の準備知識としよう。
(藤沢秀行『基本手筋事典 上(中盤の部)』日本棋院、1978年[1980年版]、14頁)
・封鎖より緩やかで、相手の石の一方に退路があるばあいの手法
・必然的に地を固めるが、それ以上に中央の勢力が有効な局面に用いられる。
・ごく基礎的な手筋であって、一般的な定石や布石のなかで多用される。
ふつうは、第三線の石に対して行使され、第四線の石を圧迫しても確定地が大き過ぎて、損になることが多い。
・相手が反撃したときには乱戦。
シチョウ問題が生ずるケースもあるので、周囲の状況に注意が必要。
(藤沢秀行『基本手筋事典 上(中盤の部)』日本棋院、1978年[1980年版]、36頁)
・相手の石を封鎖し、包囲するのは、相手の地を限定し、自分の石を外部に働かせようとする全局的観点からの手法である。
・もちろん包囲したことで、逆に自分の弱点をねらわれたり、包囲した外勢がまったく働かなかったりするような形ならば、封鎖の着想そのものを考え直さなければならない。
・包囲するためには、包囲する石より多くの石数を要する。
手数の差と、外勢の効率をつねに比較する必要もある。
(藤沢秀行『基本手筋事典 上(中盤の部)』日本棋院、1978年[1980年版]、58頁)
・形を崩す手筋とは、多くのばあい相手の形の急所に一撃して、石の働きの効率の悪い愚形に追い込む手法をいう。
愚形には、アキ三角、陣笠、集四、ダンゴ形など、さまざまな種類があって、そのいずれも石の働きの重複形である。
・ただし、相手の形を崩すことに成功しても、そのため自分の形がより崩れたり、弱点が生じたりしては、なんにもならない。
また、形を崩したあとの事後処理をどうするか、二、三の例題で説明しておく。
(藤沢秀行『基本手筋事典 上(中盤の部)』日本棋院、1978年[1980年版]、84頁)
・相手が右に受けるか、左に受けるか、ようすを見て、次の手を決める手筋である。
・まだ形の熟していない時期には、文字通り、ようすを見る手法となるが、石が混んできたときには、多くのばあい、左右の受け手に損得の差が生じ、一方の受けを強制する手段となることも少なくない。
・ただし、継続する手段との連係を誤れば、相手を固めただけ不利。
手筋を行使する時期と相手の反撃には、十分注意する必要がある。
(藤沢秀行『基本手筋事典 上(中盤の部)』日本棋院、1978年[1980年版]、111頁)
・石の重い、軽いは碁の難解用語の一つだが、簡単にいってしまえば、「重い」とは、石のかたまりが大きく捨てにくい形のこと。
攻めようとするときには、できることなら重い形にして、フリカワリの可能性を奪い、攻めのレールに乗せてしまいたい。
ややもすれば、等閑視される手筋だが、技術が向上するにつれて、重要性を増すだろう。
・ただし、重くするつもりで、相手を強化し、厚い形にしては、攻めがきかなくなることに注意。
(藤沢秀行『基本手筋事典 上(中盤の部)』日本棋院、1978年[1980年版]、133頁)
・弱点を咎める手筋は理解しやすいが、うっかりしがちなのは、その前段階、弱点を作る手筋である。
・弱点を作る目的は、相手の守りを強制して、先手で利を得ることにあるが、その守りが以後の利得を約束するような好形ならば、弱点を作る意味がない。
・補いにくい弱点を作り、あるいは二つの弱点を作って、一方を守らせるようにすれば、のちに手形の支払いを要求する権利が残るわけである。
まず、ごく基礎的な弱点を作る手筋を列挙してみよう。
(藤沢秀行『基本手筋事典 上(中盤の部)』日本棋院、1978年[1980年版]、151頁)
・碁の一手一手は、広い意味での両にらみといっていいかもしれない。
そのなかでも、一般的な手筋は、「左右同形、中央に手あり」であり、また、両ガラミ、モタレなども、本来なら作戦的な構想だが、やはりこの手筋の一変形と見られる。
・両にらみとは、一つずつ追求しても成功しない相手の弱点を、一度に二つ以上にらんで、一方を実現しようというものである。
ただし、相手にも両シノギの手筋が伏在しているばあいもあり、慎重を要する。
(藤沢秀行『基本手筋事典 上(中盤の部)』日本棋院、1978年[1980年版]、170頁)
・上からの攻めが封鎖ならば、下からの攻めが根拠を奪っての追い出しである。
根拠を奪うことじたい、相手の地を減らし、自分の地を増やす効果を生むケースが多い。
しかも、追いながら周辺の地を固め、相手が応手を誤ったり、手抜きをしたりすれば、トリカケに行くことも可能である。
・ただし、自分のモヨウに追い込む攻めは、原則として避けなければならない。
さきに損をしては、以後の攻めで取り戻すのが、たいへん。
基礎手筋を列挙する。
(藤沢秀行『基本手筋事典 上(中盤の部)』日本棋院、1978年[1980年版]、194頁)
・相手の石を取る有利はいうまでもなく、ましてその石が逃げ出されては困る要めの石なら、たとえ小さくとも取って安全を確保しておけば、あとを強く戦うことができるという目に見えぬ利得がある。
・そして、石を取るばあいには、ポンヌいたり、眼を奪って殺したりするほか、相手が身動きできないようにする石取りの技術が存在する。
まず、例によって、基礎的な石の取りかたをいくつか簡単に説明しておこう。
(藤沢秀行『基本手筋事典 上(中盤の部)』日本棋院、1978年[1980年版]、220頁)
・ヨセのコウ、死活のコウとちがって、中盤のコウは局面打開のために仕掛けられることが多い。
ただし、いちがいにコウといっても、コウを手段に相手を追い詰めるケースもあれば、コウを手段に追求をかわすケースもあるだろう。
・ここでは、攻めの手筋としてのコウを扱うが、コウはコウダテと一対にして考えなければならず、部分だけでの問題として解決することは、ほとんど不可能。
それを前提にして、まず基礎的な手筋を二、三掲げる。
(藤沢秀行『基本手筋事典 上(中盤の部)』日本棋院、1978年[1980年版]、244頁)
・ごく狭い意味でいう切断の手筋とは、コスミ、ケイマ、一間など、一見して確かそうな連絡形を、手順をくふうして断ち切る手法をいう。
もっと薄い、間隔の大きな連絡形は、何通りもの切断法があって、問題はその選択。
周囲の状況によって、切断法選択の巧拙が岐れ、全局の形勢によって、選択の善悪が判定されるのである。
・薄い連絡形の一例として、ここでは二間トビを採り上げ、さまざまな切断法を紹介しながら、切断の成立する条件について、説明する。
やや抽象的になるのは、お許しをねがう。
【12図】(ツケオサエ)
・黒1、3とツケオサエれば、aとbに断点が生じて、どちらかを切断できることは明白。
・ただし、白cなどとツガれたのち、黒bのキリに白からのシチョウが成立すれば、黒1、3は根本から考え直さなければならない。
※シチョウが悪ければ、白はd、eなど。
【13図】(ツケハネ)
・黒1、3は、白4で5のキリを期待し、黒4、白aとシチョウにトラれても、黒11のアテから切断するねらいである。
・こうしたばあいは、白4から6と裏からつながるのがよく、黒7とキッても、白8、10とフリカワルことができる。
※白bと補って、三角印の黒がコリ形。
【14図】(ツケギリ)
・黒1、3では切断したとはいえ、名ばかり。
・白4、6と裏からつながる手が絶対の強制力を持っており、黒9とキッても、実効は薄い。
※白4では5とアテ、黒4、白aと1子を捨てて打つこともでき、この形が中央にあったとしても、ほとんどこのばあい、異筋の切断となる。
【15図】(ツケヒキ)
・黒1、3のツケヒキは、aのハネダシとbのキリを見合いにする二間トビ切断の基本。
・aと1子を抱えこまれてはものが大きいので、こののち白はa、c、dのうちの一つを選んで、bのキリを許すことになる。
※白2で3とハネても、黒eと受けられて、強化するのみ。
【16図】(ツケツッパリ)
・黒1、3あるいは黒3から1とツッパッて、5ないしaとキルのは、俗筋とされる。
・この形では、白bのノビがほとんどキイているところで、黒aのキリには白bからcとカカえられる形があるし、黒5のキリには白b、黒d、白eとアテ出られても、つまらない。
【17図】(ツケハネ)
・黒1、3は有力な切断法で、このばあいはとくに、白4で5、黒4、白aのとき、黒bとキリ返す筋が光る。
・白4、6と裏からフリカワリを目指し、この形では黒11ののち、cとカケツぐくらいで、十分打てよう。
※黒7でdのキリは、三角印の黒との連係が悪い。
【18図】(ツケギリ)
・黒1、3も、14図同様、白にサバキの主導権を与えて、多くは不成功に終わる。
・いつのばあいでも、白は、4、6と裏から打つ調子が正しく、ことにこの形では、白aのキキがあって、黒bのキリが成立しない。
※逆に、三角印の黒が分断されてしまった。
(藤沢秀行『基本手筋事典 上(中盤の部)』日本棋院、1978年[1980年版]、17頁~18頁)
・キリチガイは、相手に多くのキキを与えるため、ふつうは切断の手段として好ましくない。
焦点を絞ったねらいというより、総合戦略としての切断に用いられる手法である。
【参考譜1】
第1期首相杯争奪戦決勝
黒 藤沢秀行
白 大平修三
≪棋譜≫参考譜1、21頁
・黒1と準備して、3、5のキリチガイがこの局面では、ぴったり決まった。
・白は数子を捨てるよりない。
【参考図1】(中央に厚み)
・白1とアテ、さらに3、5のアテツギなら、連絡は容易である。
・しかし、黒6に白7は省けず、黒8と中央一帯を地モヨウとしては、白にまったく勝ち目がない。
※実戦では、部分の戦いより、全局の形勢判断が優先するのである。
【参考図2】(フリカワリ)
・実戦では、白1、3と捨てに行き、黒4のモチコミを打たせて、中央の厚みにフリカワッた。
※この方が長丁場の勝負となる。
※白3で6のツギは、黒5、白4、黒aとオサえられ、白3なら黒bで全部死んでしまうのである。
(藤沢秀行『基本手筋事典 上(中盤の部)』日本棋院、1978年[1980年版]、21頁)
例題【7図】(下ノゾキ)
・黒1のノゾキはいまが時機。
・白2とツガせて、黒3と守れば、次の黒aに迫力が増している。
※白2でbなら、黒cとマガッて進出し、黒2のアテがあるので、dの欠陥がしぜんに解消されるのである。
※重くするねらいと、ようす見とを兼ねた筋だ。
(藤沢秀行『基本手筋事典 上(中盤の部)』日本棋院、1978年[1980年版]、134頁)
【アテマクリ】
・手を入れて守るまえの一仕事。
・後手となっても、相手を重くする効果は意外に大きい。
・黒シチョウ有利が条件である。
【1図】(ポンヌキが厚い)
・黒1と守れば、白2とポンヌいて先手。
※黒の実利、白の勢力というワカレだが、ポンヌキがいかにも厚い。
※しかも、黒1では白aとサガッて、b以下のシボリをねらう筋が残ってイヤミだし、黒1でaなら堅いが、白cとツケる大きな先手ヨセが残る。
【2図】(緩めない)
・といって、黒1、3と逃げ出すのでは、白6、8とキリサガられて、ツブレだ。
・したがって、黒は白6、8の余裕を与えないような、険しい手で細工をしなければならないのである。
・黒1でaのアテは、白2とノビられて、かえって味消しとなる。
【3図】(黒1、手筋)
・黒1のアテマクリ、白2のヌキなら3とアテて、ダンゴにシボッておく。
・黒5の守りが本手で、この形では白もいばれた厚みではないのだ。
※白2で3と抵抗したとき、黒2とツイで、シチョウを見ながら、白a を封ずる筋が成否の鍵である。
(藤沢秀行『基本手筋事典 上(中盤の部)』日本棋院、1978年[1980年版]、136頁)
<ポイント>
・アテマクリ+アテ=シボリ
【ノゾキ】
・形を重くするためには、常用手段のノゾキだが、ノゾキの形のない石を左右から揺さぶり、目的を達することもできる。
【参考譜21】
第13期十段戦挑戦者決定戦
黒 林海峰vs 白 藤沢秀行
≪棋譜≫参考譜21、146頁
・白1に黒2は必然。
・そこで白3とノゾけば、黒4のツギは愚形だし、全体の形も重くなったので、白5と進出のシンを止める攻めが好調である。
【参考図1】(形に溺れる)
・参考譜黒4で1とハイ、白3、黒aならキカシ返して、黒も満足。
・しかし、白2とソワれては、黒3を省けず、白4とハネアゲられて、左辺を広げられた。
※黒1、3は部分的な好形だが、全局的には参考譜のように重い形でがんばるよりない。
【参考図2】(その後)
・参考譜に続いて、黒は1とトビ、白2を誘って、3、5と進出する調子を求めた。
※黒1で2は白a、黒1でbは白c、黒1で3は白dと攻められ、真正直に逃げるのでは、白の注文にはまるのである。
※黒5に、白6、8とハズすのも、攻めの要領。
(藤沢秀行『基本手筋事典 上(中盤の部)』日本棋院、1978年[1980年版]、146頁)
弱点を作る手筋(151頁~)
【1図】ツケヒキ 定石 断点を残す
【2図】守りが好形
【3図】ツケツッパリ
【4図】オサエ
【5図】オサエコミ
【6図】出
【7図】デギリ
・黒1、3とデギリ1子を捨てることによって、ダメヅマリを利用する黒5、7の筋が生まれた。
※白4で8のカカエなら、黒4とキッて、隅の2子をトル。
・デギリを打たず、単に黒5では、白6、黒7、白aとサガられ、それからの黒1、3は白8とカカエられる。
(藤沢秀行『基本手筋事典 上(中盤の部)』日本棋院、1978年[1980年版]、151頁~152頁)
【コスミ】
・ほんのわずかなくふうで相手に弱点を作り、ひいては先手を奪取することができるばあいが、すくなくない。
・白3子をどうトルか。
【原図】黒番
【1図】(後手)
・黒1とオサえれば、2手と3手でセメアイ黒1手勝ち。
※だが、隅の実利が大きいと油断してはならない。
・白2のツケから先手でシメツけられ、白の勢力も無視できない厚さである。
※aに断点が残ってはいるが、ねらうには話の遠い形だろう。
【2図】(シボリ)黒7ツグ
・黒1のマガリは、白2から4、6とシボられて、お荷物を作っただけとなる。
※黒の形が重いので、中央の白を攻める構図はとうてい望めない。
※白4で5とツイでくれれば、黒a、白8、黒6で3子をトリ、いちおうは目的を達成するのだが……。
【3図】(黒1、手筋)
・黒1とコスむ。
・なんのへんてつもないような手に見えるが、白2、4とシメツけられたあとの形は、aに断点が生じて、明らかに成功だ。
・白も6とツイで、1図よりははるかに厚い形。
※とはいえ、中盤で1手の差は想像以上に大きいものなのである。
(藤沢秀行『基本手筋事典 上(中盤の部)』日本棋院、1978年[1980年版]、156頁)
【コスミ】
・相手の弱点を、追求せずににらんでおくだけで以後の進行は有利に展開する。
・右で弱点を守れば、左の守りにもなるのだ。
【参考譜22】
第9期名人戦第2局
黒 藤沢秀行vs白 林海峰
※白1では2とカタをツイて、黒a、白bが本形であった。
・黒2と鎌首を持ち上げられて、中央はいっぺんに薄く、黒4、6と大きく追って好調である。
【参考図1】(ワリコミ)
・白が中央を放置すれば、黒1、3の二段ワリコミで切断する。
・そこで白はaと打ち、白2で5、黒6、白2のシノギを用意した。
【参考図2】(コスミ)
・黒のもう一つのねらいは1のコスミだが、いますぐでは白2、4で上辺のセメアイがうまくいかない。
※しかし、こうしたねらいを持てば、中央の補強が先手となるのだから、その分、中央の黒の厚みが増しているのである。
(藤沢秀行『基本手筋事典 上(中盤の部)』日本棋院、1978年[1980年版]、155頁)
【二段バネ】
・二段バネは、断点が二つできる危なっかしい形だが、無事に落ち着けば相手の形にもキリとして石が残る。
【原図】白番
【1図】(俗筋)
・白1のハネは当然としても、3とツキアタるのでは、いかにも俗筋だ。
※aに断点は作ったものの、2子の頭をハネられた形で、ダメヅマリ。
※続いて白aのキリは黒bとサガられて、備えが省けず、不利な戦いを避けられない。
※白3でcと戻るのでは、黒4と固められる。
【2図】(白1、3、手筋)
・白1、3と二段にハネダし、黒4なら白5とツイで、これが注文の形である。
・黒6とヒケけば、のちに白aの動き出しがねらいであり、黒6でaのシチョウカカエなら、白6とキリコむ手筋がのちのねらいとなる。
※白はともあれ、こうして形をキメておくところだ。
【3図】(モトキリ)
・二段バネに対する根本的な逆襲は、黒4、6というようなモトキリだが、この形なら、白7とキラれて、好結果は期待できない。
・このあと、しいて図を作れば、黒8以下白21と生き生きの形だが、諸方に弱点のある黒の不利はいうまでもないだろう。
(藤沢秀行『基本手筋事典 上(中盤の部)』日本棋院、1978年[1980年版]、162頁)
藤沢秀行氏は、『手筋事典』において、両にらみの手筋について、次のように述べている。また、ツケギリの棋譜として、興味深い対局を載せている。
<両にらみの手筋について>
・碁の一手一手は、広い意味での両にらみといっていいかもしれない。
そのなかでも、一般的な手筋は、「左右同形、中央に手あり」であり、また、両ガラミ、モタレなども、本来なら作戦的な構想だが、やはりこの手筋の一変形と見られる。
・両にらみとは、一つずつ追求しても成功しない相手の弱点を、一度に二つ以上にらんで、一方を実現しようというものである。
ただし、相手にも両シノギの手筋が伏在しているばあいもあり、慎重を要する。
(藤沢秀行『基本手筋事典 上(中盤の部)』日本棋院、1978年[1980年版]、170頁)
〇そして、カラミ、モタレ、左右同形について、次のような例題の図を掲載している。
例題【4図】(カラミ)
・黒1と躍り出して左右の攻めを見る。
※これが典型的な両ガラミの形であり、両方の白が無事生還するためには、長期間の苦労が必要だろう。
※黒1でa、白b、黒c、白dなどと、一方をせっせと追って、さきに損をしてからでは、攻めに威力がない。
≪棋譜≫171頁、4図
例題【5図】(モタレ)
・黒1、3とモタレかかって、aのキリとbのオサエを両にらみにする。
※黒1でbやcなどと露骨に追い、白に脱出のめどがついてからでは、遅いのである。
※原理は両ガラミと同じだが、モタレの方は相手に弱点を作りにいく、仕掛けの手筋である。
≪棋譜≫171頁、5図
例題【7図】(左右同形)
・白1は、左右同形中央に手あり、の典型。
・aとbのハネの両にらみである。
・したがって、黒はcとアテ、白d、黒eなどとカケツいで、外部脱出を考えるくらいのものだろう。
※この形は、中国古典『官子譜』にも採録された著名な手筋でもある。
≪棋譜≫171頁、7図
(藤沢秀行『基本手筋事典 上(中盤の部)』日本棋院、1978年[1980年版]、171頁)
<ツケギリの実戦譜>
【ツケギリ】
・両にらみの筋を拡大解釈すれば、両ガラミの筋となり、モタレの筋となる。
より全局的な手筋の運用といえるだろう。
【参考譜26】
≪棋譜≫参考譜26、186頁
第15期NHK杯戦決勝
白 橋本昌二
黒 大竹英雄
・黒1とアオリ、白2と逃がしてから、3、5のツケギリで上下をカラミに持ち込んだ。
※黒の配石はすべて働き、ここから局面の主導権を得る。
≪棋譜≫参考図1、186頁
【参考図1】(実戦)
・参考譜に続いて、白1、3はマクリツギの筋だが、黒は形が悪くとも上下を切断して攻めれば、必ずどこかに利が残る。
・白9でaからシボッても、意味がない。
≪棋譜≫参考図2、186頁
【参考図2】(サバキの筋)
・白は前図5で1以下の交換をすませておけば、5のツギから11とオサえる筋に結び付けることができる。
※とはいえ、黒は2で7とノビキリ、上辺の攻めをさきにするからこうはならず、やはり苦しい戦いだ。
(藤沢秀行『基本手筋事典 上(中盤の部)』日本棋院、1978年[1980年版]、186頁)
<第1部> 攻めの手筋
【石を取る手筋】
【グルグルマワシ】(黒番)原図
・最終的にはシチョウの形だが、意外な方面からのシボリを連動させたばあいには、グルグルマワシと呼ばれることがある。
【1図】(イタチ)
・断点を恐れて、黒1とツグのでは、白2が「イタチの腹ヅケ」と呼ばれるセメアイの手筋で勝てない。
※黒aなら白bである。
・したがって、隅のセメアイに勝つためには、黒cとオサえなければならないが、白dのアタリをどう処理するかだ。
【2図】(黒3、手筋)
・白2には、黒3と尻からアテてシボるのである。
・黒5とアテて連絡。
➡このあとの仕上げも重要である。
※黒3で4のツギはむろん白aで3子がトラれるし、黒3でbのアテも、白4、黒c、白dで利得が少ない。
※黒3でcのコウは、一見して無暴(ママ)である。
【3図】(シチョウ)
・白6のツギには、黒7、9でぴったりシチョウである。
※このばあいでも、黒9でうっかり10は白9で逆にアタリとなることに注意。
※グルグルマワシとは、ずいぶん俗な命名だが、この結果を見れば、なるほどと納得がいくはずである。
(藤沢秀行『基本手筋事典 上(中盤の部)』日本棋院、1978年[1980年版]、227頁)
根拠を奪う手筋の例題は、次のような構成になっている。そのうちの一部を紹介しておく。
【1図】ナラビ
【2図】コスミツケ
【3図】ケイマ
【4図】スベリ
【5図】低いウチコミ
【6図】高いウチコミ
【7図】カド
【8図】ツケヒキ
【9図】ツケサガリ
【10図】コスミ
【11図】ツキアタリ
(藤沢秀行『基本手筋事典 上(中盤の部)』日本棋院、1978年[1980年版]、194頁~219頁)
例題【4図】スベリ
・黒1とスベれば、同点に守られた形にくらべて、地の出入りは大きいし、白も根拠の容易にできない姿。
・白2なら黒3から5とノゾくなどして、まとめて攻め上げる効果があるだろう。
※白2で3のツケなら黒2とハネダすし、白2で6なら黒aとサガる。
【5図】低いウチコミ
・黒1とウチコんで、根こそぎエグるきびしい手法もある。
・白2のツケならば、黒3、5とワタッて、地の得は前図より大きい。
※ただし、白は、中央進出の容易な形である。
※白2でaなら、黒3、白5、黒bと分断して、強硬に戦うことになる。
【6図】高いウチコミ
・黒1と第四線にウチコんで、白を愚形に導く軽い手法も考えられる。
・黒5のアテ一本が値打ちで、7とワタり、実利の得とともに、白aのつらいカカエを強制している。
※白2はやや注文にはまった嫌いがあり、b、cなどがまさるであろう。
【7図】カド
・黒1とカドにウチコむ筋も有力。
・白2なら黒3が左右にワタリを見た手筋であるし、白2でaなら黒bで、5図が期待できる。
※黒1では他に3とウチコむ筋もあり、これらの選択はすべて全局の状況によるといわなければならないほど、手広い形である。
(藤沢秀行『基本手筋事典 上(中盤の部)』日本棋院、1978年[1980年版]、195頁)
<第1部> 攻めの手筋
【石を取る手筋:ツケギリ】
・ダメヅマリの弱点を、オイオトシの原理で追求する手筋。
・常用の筋だが、黒の最強の抵抗に注意しなければならない。
・原図は『活碁新評』より。
【原図】(白番)
【1図】(俗筋)
・白1、3とごりごり打ってトレるなら、なによりわかりやすいのだが、黒4のハネに、白5と1子を投じなければ、7のアテが打てない。
・白9と遮断に成功しても、黒10と生きられては、得になっていないだろう。
・黒10では、さきにaとノゾくこともできる。
【2図】(白1・3、手筋)
・白1とツケ、黒2なら3とキリコむ筋がしゃれている。
※黒aなら白b、黒cなら白d、相手の打ちかたで、決まるオイオトシ。
※白1で3はむろん黒1でいけないし、黒2で3なら白2とオサえる。
※また、白3でaは黒3とツガれて、なんにもならない。
【3図】(最強の抵抗)
・黒の最強は2のグズミ。
※aのあたりに黒石があるようなときには、白の手筋をはね返す強手となる。
・このばあいは、白3とサガってよく、黒4、6とハネツいでも、bとハネダすセメアイのたしにはならない。
※黒2で6とコスむ筋も、この形では白3でよい。
(藤沢秀行『基本手筋事典 上(中盤の部)』日本棋院、1978年[1980年版]、234頁)
【ハネコミ】
・長手順で追いかけるばあいには、手順前後を許さぬ形もある。
・原図は、『発陽論』より。
【原図】白番
【1図】(白1、手筋)
・さきに白1とハネこんで受けかたを確かめておかねばならない。
・黒2なら白3のアテコミが妙着。
※黒aなら白bだし、黒cなら白aでオイオトシだ。
※黒2でdでも白3で、aとbの見合いである。
※白a、黒3をキメてからの1は、黒2でいけない。
【2図】(シチョウ)
・黒2と受けさせ、それから白3、5をキメるのである。
・黒が2、4とダメの窮屈な形になったので、白7とツギ、9とカケれば、あとはぐるぐるまわしのシチョウだ。
※白が3と4の二つを打てば、オイオトシ。
そのキキを見た白1が手順である。
【3図】(セメアイ)
・前図白9では1とオシ、3、5と突っ切る攻めもあるのだが、黒8とツケられてセメアイ1手負けの筋に入る。
※三角印の黒がない形なら、白7で10とオサえ、黒7、白a、黒b以下、難解。
(藤沢秀行『基本手筋事典 上(中盤の部)』日本棋院、1978年[1980年版]、240頁)
【1図】(ツケフクレ)
※コウ材に自信があれば、白1、3のツケフクレなどは、有力な局面打開法。
部分的な戦いでは、獲得不可能な利益を、全局のコウ材優位を背景にして、もぎ取るのである。
・黒4のアテなら、むろん白5とコウに受け、黒は断点の処置に困っている。
【2図】(二段バネ)
・前図白1、3のツケフクレに、黒が正面衝突を避けて、三角印の黒に退いた形。
・しかしこれでもなおかつ、白1と二段にハネて、強引にコウを仕掛ける筋が残っているのである。
・黒2ならむろん白3でコウ。
※黒2でaとあやまれば、白bでも3でも手抜きでもよい。
【3図】(ハネコミ)
・白1とハネコんで、3とフクれる。
※できあがった形は1図と同じである。
※白がコウに負けないとすれば、黒aのツギなら白bだし、黒bのツギなら白aとアテ、黒c、白dと楽に脱出する。
※白1でbのツケは、このばあい黒1で全滅の危険があるだろう。
その他の例題は次のような構成である。
【4図】カケツギ
【5図】ツケ
【6図】アテ
【7図】手抜き
(藤沢秀行『基本手筋事典 上(中盤の部)』日本棋院、1978年[1980年版]、244頁)
【コウで切断】
・ふつうでは考えられないねらいが、コウを利用することで生ずる。
・このばあいは左右の黒の切断である。
【原図】白番
【1図】(常識)
・白1とワリコんで、上下切断するねらいもあるそうだが、黒2、4と平易に受けられて、なんにもならない。
※白1でa、黒b、白cも黒2のアテがキイているので、かえってモチコミ。
※また、白1でb、黒a、白dは黒cとカカえられて、これもいけないというのが常識。
【2図】(白1、強手)
・常識ではどうにもならぬ連絡を、強引に打ち破るのが、白1のノゾキである。
・黒2と換わって部分的には損だが、次に白3とハネダして、黒aには白bとキル大コウにつなげるのである。
※黒2でaなら、白はむろん2とツキダし、分断の目的は達している。
【3図】(モチコミ)
・いきなり白1とハネダして、黒2なら白3とフクれる切断の形もないわけでない。
・しかし、黒4とカカえられては明らかにモチコミだし、いったん黒aとコウをトッて、ようすを見てくるかもしれない。
※非常識な前図白1にかぎるのである。
(藤沢秀行『基本手筋事典 上(中盤の部)』日本棋院、1978年[1980年版]、247頁)
【コウのキキ】
・あとではキカないところをキカし、コウ味を残しておくのは常識。
直接の手にならなければうっかりしがちだが、コウ味利用の外側のキカシもばかにならない利得なのである。
【原図】黒番
【1図】(無策)
・黒1のツギでは白2とノビられて、内部の細工が不可能となった。
※黒aなら白bで、なんの味もない。
※ただし、この形は黒cのオサエが先手。
※上辺より右辺の問題が大きいと見たときには、白2でdとツケておく。
※今度は黒aに白eとトル要領。
【2図】(黒1、手筋)
・さきに黒1とツケて、白の受けかたを見ておくのである。
・白2なら黒3とアテて5とツギ、白6には黒7のオサエがコウ含みのキキとなっている。
※白2で3のサガリなら黒2とハッて、白6、黒4、白a、黒5とツギ、白7には黒bがあるのだ。
【3図】(直接、手)
・前図白6で、1と上辺をがんばるのは、無理。
・黒2とオサえて直接、手になってしまうのである。
・白5、7はセメアイ常用の手筋ではあるが、黒8とカケツいで、コウはまぬかれない。
※また、白1でaなら黒3のオサエが先手。
黒のキカシは無駄にならない。
(藤沢秀行『基本手筋事典 上(中盤の部)』日本棋院、1978年[1980年版]、252頁)
【しゃくる】
・コウに導く一つの要領は弾力点を発見することだ。
・中盤、なにげないところにコウへの手段がひそんでいるのである。
・原図は、『官子譜』より。
【原図】黒番
【1図】(生き)
・黒1のアテはaのコウアテとの差で大きい。
・当然のように見えるが、白2、4で確実に生きられ、さしたる戦果にはならない。
※白2で4とヌケば、黒2とアテてコウに導くことができるのだから、その弾力点へさきに打つ手がないかと考えてみるのである。
【2図】(黒1、手筋)
・黒1としゃくる。
・白2なら黒3とアテオサえ、これはともあれコウである。
※現実問題としては、白に生きコウが多く、たとえば白a、黒b、白cとハネサガられても、とうてい黒dとトリカケに行く勇気はあるまい。
※しかし、この筋を見ているかどうかでは、大差だろう。
【3図】(セメアイ)
・白2のノビなら黒3とツギ、白4には黒5以下であっさりセメアイ勝ちだ。
※白4で5のオサエは黒4とハイ、白a、黒b、白c、黒dとキカして、eとオサえても、黒fとキッて、周辺がこのままの状態なら白ツブレ。
※シチョウの関係もあるが、黒1の価値には変わりない。
(藤沢秀行『基本手筋事典 上(中盤の部)』日本棋院、1978年[1980年版]、255頁)
【ツケフクレ】
・柄のないところへ柄をすげる手筋がコウといってもいいだろう。
・コウ材有利ならば、たいていの構えになぐりこんでいける。
【原図】黒番
【1図】(お荷物)
・いま三角印の黒とウチコみ、三角印の白にワタリを止めたところと見られる。
・続いて黒1、3、あるいは黒1でaなどと中央に逃げ出し、それで十分という局面はめったにない。
※黒1、3なら白4とワタられ、黒aなら白bとワタられて、攻めの対象となってはたいてい不利だ。
【2図】(黒1、3、手筋)
・黒1とツケ、白2なら黒3とコウにフクれて戦うのである。
※白2でaなら黒bとトビダして、その形なら白にぴったりしたワタリがないから、一方的に攻められる心配も薄れる。
※白4でcなら黒はdとハネてあくまでコウに仕掛けるのである。
【3図】(ダンゴ)
・前図黒5では1とツギ、白を低位にワタらせて不満がないようにも見える。
・じっさいこのあと、黒a、白b、黒cとポンヌくことにでもなれば十分だが、黒aには白cがあり、黒d、白b、黒eと2子をトッても、白fで全滅の恐れさえある。
黒fと逃げるのでは、やはり苦戦。
(藤沢秀行『基本手筋事典 上(中盤の部)』日本棋院、1978年[1980年版]、262頁)
第1部の「攻めの手筋」は前章で終わりであるが、第2部の「守りの手筋」の中のある手筋は、攻めとも関連する。例えば、「形を整える手筋」などがそうである。
「形を整える手筋」の【2図】(三目の真中)などは、「ダメヅマリの三子から一間の距離の中央は、守れば眼形の急所、打たれればウッテガエシを含んだ奪弾力の急所となる」という指摘は、攻守(攻防)を考える場合に、示唆に富む。参考の意味で、第2部の「守りの手筋」の一部の紹介しておきたい。
<第2部> 守りの手筋
【形を整える手筋】
・一着守って相手からの攻めがきかない形にしたうえで、あとを強く戦おうとするのが整形の手筋。
・形を崩す手筋の逆で、この守りの手筋は一般に「形」と呼ばれることが多い。
・ここでは、純然たる守りの「形」ばかりでなく、相手の弱点を衝いて自分の守りにつなげる手筋までを広く扱う。
〇整形の手筋は、石の働きや弾力性、のちのキキなどを総合した急所を発見するかどうかにかかる。
☆基礎的な手筋の例によって、急所の構造を知ってほしい。
【1図】(口)
・白から逆に1の点にノゾかれては、黒の形が崩れ、攻めの対象となる。(先述)
・さきんじて一着黒1と守っておけば、もう二、三手周辺に白が接近してきても、心配のない石になるのである。
※名称はないが、かりに「口の急所」と藤沢秀行氏は呼んでいる。
【2図】(三目の真中)
・ダメヅマリの三子から一間の距離の中央は、守れば眼形の急所、打たれればウッテガエシを含んだ奪弾力の急所となる。
・黒1と守っておけば、aのダメが詰まっても平気な形だから、次にbのハネから、白c、黒dとしてeのキリもねらえるだろう。
【3図】(未然のヌキ)
・相手の攻められないうちに守る、という点では、シチョウアタリのこないまえに、黒1とヌクなども、りっぱな整形手段。
・いつどのような形でシチョウアタリを打たれるかわからないのでは不安だし、黒1とヌイておけば、白a、黒1、白bのワタリを防ぎ、厚い形である。
【4図】(カケツギ)
・キレないところをツグ黒1も、がっちり守ってあとを強く戦う「本手」に属する。
※この守りがなければ、白aのハサミツケがうるさいし、白bのハネも大きい。
※いったん守っておけば、上辺へのヒラキのほか、cのカケ、dのツメなどを自由にねらえるだろう。
【5図】(ハネ)
・三角印の黒にまだ活力があるのだが、ともあれ1とハネて、三角印の白を悪手化しておく。⇒小さいようだが大事な一着。
・上辺に厚みを向け、右辺は白2と守られても、まだ黒aのキキがある。
※黒1のように、相手の石の働きを完全に殺す手はおおむね好手となる。
【6図】(ノゾキ)
・黒1と踏み込んで白2と換わり、3とツッパれば、黒aを防いで白4の守りはやむをえない。
※黒1で単に3は、白1と備えられて、bの進出をにらまれるのである。
※白2でcとコスミダしてくれば黒の注文通り。
黒d、白e、黒bのオサエが先手で、上辺がさらに厚みを増す。
【7図】(キカシ)
・黒3、5のツケフクレも整形の手筋だが、そのまえに黒1、白2と換わるのが、黒の反撃を封じるための巧妙な手筋になっている。
※白6で7のアテなら、黒6とアテ返し、白a、黒b、白ツギ、黒cの変化を想定すれば、黒1、白2の交換がいかに働いたか、説明を要しないだろう。
(藤沢秀行『基本手筋事典 上(中盤の部)』日本棋院、1978年[1980年版]、328頁~329頁)
<第2部> 守りの手筋【形を整える手筋】
【アテ】
・形ができるかできないかは、ほんのちょっとした手順で決まることもある。
大技も必要だが、小技も重要である。
【原図】(白番)
【1図】(シボリ)
・白1、3とシボッて5とスベり、左右を打ってしゃれた形。
※とはいえ、中央の黒があまりにも厚く、総合すればやはり黒に分があるだろう。
※白5でaのトビは、黒b、白c、黒dとキリコまれ、eからのシボリをにらまれて、白5とツゲない。
【2図】(大戦争)
・ポンヌキを打たせまいと白3のノビは、黒4とヘソを出られて守りかたがむずかしい。
・白7なら黒8、10のオサエをキカされたあとで、黒12、14と戦われてわけのわからぬ形。
※善悪は周囲の状況しだいだろう。
※白7で14は、黒aのキリが残っていけない。
【3図】(白1、手順)
・シボリのまえに白1のアテを一つキカしておくだけでいい。
・以下、白7までの形は、1図とちがって白も相当である。
※黒は白7のまえにaをキカすチャンスはない。
黒2でaなら白4とツイで、黒3、白2とポンヌけば、あとどう変化しても打てよう。
<変化図>(図は不掲載)
(藤沢秀行『基本手筋事典 上(中盤の部)』日本棋院、1978年[1980年版]、330頁)
・日本棋院は、ホームページで、無料の段級位認定を行なっているそうだ。
・次の6図は、平成12年7月の第8問(9路盤)である。
黒番で、A~Dの中に一つだけ黒が勝ちになる正解がある。
【図6】段級位認定・黒番(日本棋院)
≪棋譜≫131頁の図6
【小を捨てて大に就く】
・図7の黒1と打つとウッテガエシで、白二子を取れる。
※隅の一眼と合わせて二眼できるから、黒は生き。
・そう打つと、白は2と黒一子を取る。
・図8の黒1と打てば、白は2とツギ。
※黒は一眼になり、生きがなくなる。
攻め合いも黒が一手負けで、黒八子は取られる。
☆図7を選んで黒八子を助けるか、図8で黒一子を助けるか。
※『徒然草』に「例えば、碁を打つ人」という話があり、“これも捨てずかれも取ろうとすれば、かれも得ずこれも失うが道理”ということが書かれている。
兼好は「小を捨てて大に就く」ことをいい、“十の石を捨てて、一つでも大きい石に就くべき”と記した。
・一子と八子の石の数は比較にならない。しかし、ものごとは数量より質ということがある。何が小で何が大か。大小は、必ずしも数だけではない。
・図7に続き、図9の黒3と打てば黒五子は助かる。
・すると白4で、右上の黒二子は連絡を断たれて、取られる。
・この後を続けて打つと、図10が双方最善の進行で、白の4目勝ち。
・図8の白2で黒八子を取られた後は、図11になる。
・黒3とダメを詰めても、攻め合いは白が一手勝ち。
しかし、右上の黒地が固まる。
・図10は右上が白地であるから、その差は大きい。
・図12が最終形で、黒の1目勝ち。
※この場合は、八子より要石(かなめいし)の一子が大切なのである。
【図7】ウッテガエシ
【図8】黒八子が取られる
【図9】図7に続いて
【図10】白が4目勝ち
【図11】図8に続いて
【図12】黒が1目勝ち
黒 アゲハマ0+取り石1+黒地21=22目
白 アゲハマ8+取り石0+白地13=21目
(平本弥星『囲碁の知・入門編』集英社新書、2001年、130頁~133頁)
(2024年9月29日投稿)
【はじめに】
今回のブログでは、囲碁の攻めについて、次の文献を参考に考えてみたい。
〇藤沢秀行『基本手筋事典 上(中盤の部)』日本棋院、1978年[1980年版]
<お断り>
・図のイロハ…は、入力の都合上、abc…に変更させてもらった。
【藤沢秀行氏のプロフィール】
・1925年横浜市に生まれる。
・1934年日本棋院院生になる。1940年入段。
・1948年、青年選手権大会で優勝。その後、首相杯、日本棋院第一位、最高位、名人、プロ十傑戦、囲碁選手権戦、王座、天元などのタイトルを獲得。
・1977年から囲碁界最高のタイトル「棋聖」を六連覇、名誉棋聖の称号を受ける。
・執筆当時、日本棋院棋士・九段、名誉棋聖
<著書>
・「芸の詩」(日本棋院)
・「碁を始めたい人の本」(ごま書房)
・「秀行飛天の譜」(上・下、日本棋院)
・「囲碁発陽論」(解説、平凡社)
・「聶衛平 私の囲碁の道」(監修、岩波書店)
【藤沢秀行『基本手筋事典 上』(日本棋院)はこちらから】
〇藤沢秀行『基本手筋事典 上(中盤の部)』日本棋院、1978年[1980年版]
【目次】
<第1部> 攻めの手筋
切断の手筋 アテ
圧迫の手筋 ハサミツケ
封鎖の手筋 カド
形を崩す手筋 コスミ
ようすを見る手筋 ツケ
重くする手筋 アテマクリ
弱点を作る手筋 コスミ
両にらみの手筋 グズミ
根拠を奪う手筋 オキ
石を取る手筋 アテコミ
コウで脅かす手筋 (しゃくる)
<第2部> 守りの手筋
ツギの手筋 アテコミ
進出の手筋 トビダシ
脱出の手筋 カド
形を整える手筋 アテまくり
先手を取る手筋 オリキリ
軽くサバく手筋 ツケ
切り返しの手筋 ハネコミ
両シノギの手筋 アテコミ
根拠を固める手筋 ツキアタリ
ワタリの手筋 オキ
コウでねばる手筋 (コウかキカシか)
さて、今回の執筆項目は次のようになる。
・第1部 攻めの手筋の序文
・切断の手筋:薄い連絡形の例~二間トビの場合
・切断の手筋:キリチガイ~【参考譜1】藤沢秀行vs大平修三
・重くする手筋の例題
・重くする手筋:アテマクリ
・重くする手筋:ノゾキ~【参考譜21】林海峰vs藤沢秀行
【補足】要石かウッテガエシか~平本弥星『囲碁の知・入門編』より
【補足】大ナカ小ナカ~柳澤理志氏
【補足】大ナカ小ナカ~高先生
【補足】大ナカ小ナカ~Tsuruyama Atushi(鶴山淳志八段)
【参考実戦譜】上野梨紗vs安達利昌~NHK杯より
【参考実戦譜】藤沢秀行vs加藤正夫~藤沢秀行『勝負と芸』より
第1部 攻めの手筋の序文
切断の手筋
アテ・石の連絡を断ち切る手筋。
・大きく二つに割っていけば分断、侵入してきた石の退路を断てば遮断、さまざまな呼びかたはあっても、要は相手の石の連絡を断ち切ることによって、さまざまな利得を生み出そうとするのである。
・ただし、切断はごく基礎的な手段であって、手筋と呼ぶほどの微妙な手順や形を必要としないばあいが多い。
まず、部分的な手筋を要しない切断の例を二、三挙げ、切断の手筋の準備知識としよう。
(藤沢秀行『基本手筋事典 上(中盤の部)』日本棋院、1978年[1980年版]、14頁)
圧迫の手筋
ハサミツケ・封鎖より緩やかで、相手の石の一方に退路があるばあいの手法
・必然的に地を固めるが、それ以上に中央の勢力が有効な局面に用いられる。
・ごく基礎的な手筋であって、一般的な定石や布石のなかで多用される。
ふつうは、第三線の石に対して行使され、第四線の石を圧迫しても確定地が大き過ぎて、損になることが多い。
・相手が反撃したときには乱戦。
シチョウ問題が生ずるケースもあるので、周囲の状況に注意が必要。
(藤沢秀行『基本手筋事典 上(中盤の部)』日本棋院、1978年[1980年版]、36頁)
封鎖の手筋
カド・相手の石を封鎖し、包囲するのは、相手の地を限定し、自分の石を外部に働かせようとする全局的観点からの手法である。
・もちろん包囲したことで、逆に自分の弱点をねらわれたり、包囲した外勢がまったく働かなかったりするような形ならば、封鎖の着想そのものを考え直さなければならない。
・包囲するためには、包囲する石より多くの石数を要する。
手数の差と、外勢の効率をつねに比較する必要もある。
(藤沢秀行『基本手筋事典 上(中盤の部)』日本棋院、1978年[1980年版]、58頁)
形を崩す手筋
コスミ・形を崩す手筋とは、多くのばあい相手の形の急所に一撃して、石の働きの効率の悪い愚形に追い込む手法をいう。
愚形には、アキ三角、陣笠、集四、ダンゴ形など、さまざまな種類があって、そのいずれも石の働きの重複形である。
・ただし、相手の形を崩すことに成功しても、そのため自分の形がより崩れたり、弱点が生じたりしては、なんにもならない。
また、形を崩したあとの事後処理をどうするか、二、三の例題で説明しておく。
(藤沢秀行『基本手筋事典 上(中盤の部)』日本棋院、1978年[1980年版]、84頁)
ようすを見る手筋
ツケ・相手が右に受けるか、左に受けるか、ようすを見て、次の手を決める手筋である。
・まだ形の熟していない時期には、文字通り、ようすを見る手法となるが、石が混んできたときには、多くのばあい、左右の受け手に損得の差が生じ、一方の受けを強制する手段となることも少なくない。
・ただし、継続する手段との連係を誤れば、相手を固めただけ不利。
手筋を行使する時期と相手の反撃には、十分注意する必要がある。
(藤沢秀行『基本手筋事典 上(中盤の部)』日本棋院、1978年[1980年版]、111頁)
重くする手筋
アテマクリ・石の重い、軽いは碁の難解用語の一つだが、簡単にいってしまえば、「重い」とは、石のかたまりが大きく捨てにくい形のこと。
攻めようとするときには、できることなら重い形にして、フリカワリの可能性を奪い、攻めのレールに乗せてしまいたい。
ややもすれば、等閑視される手筋だが、技術が向上するにつれて、重要性を増すだろう。
・ただし、重くするつもりで、相手を強化し、厚い形にしては、攻めがきかなくなることに注意。
(藤沢秀行『基本手筋事典 上(中盤の部)』日本棋院、1978年[1980年版]、133頁)
弱点を作る手筋
コスミ・弱点を咎める手筋は理解しやすいが、うっかりしがちなのは、その前段階、弱点を作る手筋である。
・弱点を作る目的は、相手の守りを強制して、先手で利を得ることにあるが、その守りが以後の利得を約束するような好形ならば、弱点を作る意味がない。
・補いにくい弱点を作り、あるいは二つの弱点を作って、一方を守らせるようにすれば、のちに手形の支払いを要求する権利が残るわけである。
まず、ごく基礎的な弱点を作る手筋を列挙してみよう。
(藤沢秀行『基本手筋事典 上(中盤の部)』日本棋院、1978年[1980年版]、151頁)
両にらみの手筋
グズミ・碁の一手一手は、広い意味での両にらみといっていいかもしれない。
そのなかでも、一般的な手筋は、「左右同形、中央に手あり」であり、また、両ガラミ、モタレなども、本来なら作戦的な構想だが、やはりこの手筋の一変形と見られる。
・両にらみとは、一つずつ追求しても成功しない相手の弱点を、一度に二つ以上にらんで、一方を実現しようというものである。
ただし、相手にも両シノギの手筋が伏在しているばあいもあり、慎重を要する。
(藤沢秀行『基本手筋事典 上(中盤の部)』日本棋院、1978年[1980年版]、170頁)
根拠を奪う手筋
オキ・上からの攻めが封鎖ならば、下からの攻めが根拠を奪っての追い出しである。
根拠を奪うことじたい、相手の地を減らし、自分の地を増やす効果を生むケースが多い。
しかも、追いながら周辺の地を固め、相手が応手を誤ったり、手抜きをしたりすれば、トリカケに行くことも可能である。
・ただし、自分のモヨウに追い込む攻めは、原則として避けなければならない。
さきに損をしては、以後の攻めで取り戻すのが、たいへん。
基礎手筋を列挙する。
(藤沢秀行『基本手筋事典 上(中盤の部)』日本棋院、1978年[1980年版]、194頁)
石を取る手筋
アテコミ・相手の石を取る有利はいうまでもなく、ましてその石が逃げ出されては困る要めの石なら、たとえ小さくとも取って安全を確保しておけば、あとを強く戦うことができるという目に見えぬ利得がある。
・そして、石を取るばあいには、ポンヌいたり、眼を奪って殺したりするほか、相手が身動きできないようにする石取りの技術が存在する。
まず、例によって、基礎的な石の取りかたをいくつか簡単に説明しておこう。
(藤沢秀行『基本手筋事典 上(中盤の部)』日本棋院、1978年[1980年版]、220頁)
コウで脅かす手筋
しゃくる・ヨセのコウ、死活のコウとちがって、中盤のコウは局面打開のために仕掛けられることが多い。
ただし、いちがいにコウといっても、コウを手段に相手を追い詰めるケースもあれば、コウを手段に追求をかわすケースもあるだろう。
・ここでは、攻めの手筋としてのコウを扱うが、コウはコウダテと一対にして考えなければならず、部分だけでの問題として解決することは、ほとんど不可能。
それを前提にして、まず基礎的な手筋を二、三掲げる。
(藤沢秀行『基本手筋事典 上(中盤の部)』日本棋院、1978年[1980年版]、244頁)
切断の手筋:薄い連絡形の例~二間トビの場合
・ごく狭い意味でいう切断の手筋とは、コスミ、ケイマ、一間など、一見して確かそうな連絡形を、手順をくふうして断ち切る手法をいう。
もっと薄い、間隔の大きな連絡形は、何通りもの切断法があって、問題はその選択。
周囲の状況によって、切断法選択の巧拙が岐れ、全局の形勢によって、選択の善悪が判定されるのである。
・薄い連絡形の一例として、ここでは二間トビを採り上げ、さまざまな切断法を紹介しながら、切断の成立する条件について、説明する。
やや抽象的になるのは、お許しをねがう。
【12図】(ツケオサエ)
・黒1、3とツケオサエれば、aとbに断点が生じて、どちらかを切断できることは明白。
・ただし、白cなどとツガれたのち、黒bのキリに白からのシチョウが成立すれば、黒1、3は根本から考え直さなければならない。
※シチョウが悪ければ、白はd、eなど。
【13図】(ツケハネ)
・黒1、3は、白4で5のキリを期待し、黒4、白aとシチョウにトラれても、黒11のアテから切断するねらいである。
・こうしたばあいは、白4から6と裏からつながるのがよく、黒7とキッても、白8、10とフリカワルことができる。
※白bと補って、三角印の黒がコリ形。
【14図】(ツケギリ)
・黒1、3では切断したとはいえ、名ばかり。
・白4、6と裏からつながる手が絶対の強制力を持っており、黒9とキッても、実効は薄い。
※白4では5とアテ、黒4、白aと1子を捨てて打つこともでき、この形が中央にあったとしても、ほとんどこのばあい、異筋の切断となる。
【15図】(ツケヒキ)
・黒1、3のツケヒキは、aのハネダシとbのキリを見合いにする二間トビ切断の基本。
・aと1子を抱えこまれてはものが大きいので、こののち白はa、c、dのうちの一つを選んで、bのキリを許すことになる。
※白2で3とハネても、黒eと受けられて、強化するのみ。
【16図】(ツケツッパリ)
・黒1、3あるいは黒3から1とツッパッて、5ないしaとキルのは、俗筋とされる。
・この形では、白bのノビがほとんどキイているところで、黒aのキリには白bからcとカカえられる形があるし、黒5のキリには白b、黒d、白eとアテ出られても、つまらない。
【17図】(ツケハネ)
・黒1、3は有力な切断法で、このばあいはとくに、白4で5、黒4、白aのとき、黒bとキリ返す筋が光る。
・白4、6と裏からフリカワリを目指し、この形では黒11ののち、cとカケツぐくらいで、十分打てよう。
※黒7でdのキリは、三角印の黒との連係が悪い。
【18図】(ツケギリ)
・黒1、3も、14図同様、白にサバキの主導権を与えて、多くは不成功に終わる。
・いつのばあいでも、白は、4、6と裏から打つ調子が正しく、ことにこの形では、白aのキキがあって、黒bのキリが成立しない。
※逆に、三角印の黒が分断されてしまった。
(藤沢秀行『基本手筋事典 上(中盤の部)』日本棋院、1978年[1980年版]、17頁~18頁)
切断の手筋:キリチガイ~【参考譜1】藤沢秀行vs大平修三
・キリチガイは、相手に多くのキキを与えるため、ふつうは切断の手段として好ましくない。
焦点を絞ったねらいというより、総合戦略としての切断に用いられる手法である。
【参考譜1】
第1期首相杯争奪戦決勝
黒 藤沢秀行
白 大平修三
≪棋譜≫参考譜1、21頁
・黒1と準備して、3、5のキリチガイがこの局面では、ぴったり決まった。
・白は数子を捨てるよりない。
【参考図1】(中央に厚み)
・白1とアテ、さらに3、5のアテツギなら、連絡は容易である。
・しかし、黒6に白7は省けず、黒8と中央一帯を地モヨウとしては、白にまったく勝ち目がない。
※実戦では、部分の戦いより、全局の形勢判断が優先するのである。
【参考図2】(フリカワリ)
・実戦では、白1、3と捨てに行き、黒4のモチコミを打たせて、中央の厚みにフリカワッた。
※この方が長丁場の勝負となる。
※白3で6のツギは、黒5、白4、黒aとオサえられ、白3なら黒bで全部死んでしまうのである。
(藤沢秀行『基本手筋事典 上(中盤の部)』日本棋院、1978年[1980年版]、21頁)
重くする手筋の例題
例題【7図】(下ノゾキ)
・黒1のノゾキはいまが時機。
・白2とツガせて、黒3と守れば、次の黒aに迫力が増している。
※白2でbなら、黒cとマガッて進出し、黒2のアテがあるので、dの欠陥がしぜんに解消されるのである。
※重くするねらいと、ようす見とを兼ねた筋だ。
(藤沢秀行『基本手筋事典 上(中盤の部)』日本棋院、1978年[1980年版]、134頁)
重くする手筋:アテマクリ
【アテマクリ】
・手を入れて守るまえの一仕事。
・後手となっても、相手を重くする効果は意外に大きい。
・黒シチョウ有利が条件である。
【1図】(ポンヌキが厚い)
・黒1と守れば、白2とポンヌいて先手。
※黒の実利、白の勢力というワカレだが、ポンヌキがいかにも厚い。
※しかも、黒1では白aとサガッて、b以下のシボリをねらう筋が残ってイヤミだし、黒1でaなら堅いが、白cとツケる大きな先手ヨセが残る。
【2図】(緩めない)
・といって、黒1、3と逃げ出すのでは、白6、8とキリサガられて、ツブレだ。
・したがって、黒は白6、8の余裕を与えないような、険しい手で細工をしなければならないのである。
・黒1でaのアテは、白2とノビられて、かえって味消しとなる。
【3図】(黒1、手筋)
・黒1のアテマクリ、白2のヌキなら3とアテて、ダンゴにシボッておく。
・黒5の守りが本手で、この形では白もいばれた厚みではないのだ。
※白2で3と抵抗したとき、黒2とツイで、シチョウを見ながら、白a を封ずる筋が成否の鍵である。
(藤沢秀行『基本手筋事典 上(中盤の部)』日本棋院、1978年[1980年版]、136頁)
<ポイント>
・アテマクリ+アテ=シボリ
重くする手筋:ノゾキ~【参考譜21】林海峰vs藤沢秀行
【ノゾキ】
・形を重くするためには、常用手段のノゾキだが、ノゾキの形のない石を左右から揺さぶり、目的を達することもできる。
【参考譜21】
第13期十段戦挑戦者決定戦
黒 林海峰vs 白 藤沢秀行
≪棋譜≫参考譜21、146頁
・白1に黒2は必然。
・そこで白3とノゾけば、黒4のツギは愚形だし、全体の形も重くなったので、白5と進出のシンを止める攻めが好調である。
【参考図1】(形に溺れる)
・参考譜黒4で1とハイ、白3、黒aならキカシ返して、黒も満足。
・しかし、白2とソワれては、黒3を省けず、白4とハネアゲられて、左辺を広げられた。
※黒1、3は部分的な好形だが、全局的には参考譜のように重い形でがんばるよりない。
【参考図2】(その後)
・参考譜に続いて、黒は1とトビ、白2を誘って、3、5と進出する調子を求めた。
※黒1で2は白a、黒1でbは白c、黒1で3は白dと攻められ、真正直に逃げるのでは、白の注文にはまるのである。
※黒5に、白6、8とハズすのも、攻めの要領。
(藤沢秀行『基本手筋事典 上(中盤の部)』日本棋院、1978年[1980年版]、146頁)
弱点を作る手筋(151頁~)
弱点を作る手筋の例題
【1図】ツケヒキ 定石 断点を残す
【2図】守りが好形
【3図】ツケツッパリ
【4図】オサエ
【5図】オサエコミ
【6図】出
【7図】デギリ
・黒1、3とデギリ1子を捨てることによって、ダメヅマリを利用する黒5、7の筋が生まれた。
※白4で8のカカエなら、黒4とキッて、隅の2子をトル。
・デギリを打たず、単に黒5では、白6、黒7、白aとサガられ、それからの黒1、3は白8とカカエられる。
(藤沢秀行『基本手筋事典 上(中盤の部)』日本棋院、1978年[1980年版]、151頁~152頁)
弱点を作る手筋:コスミ
【コスミ】
・ほんのわずかなくふうで相手に弱点を作り、ひいては先手を奪取することができるばあいが、すくなくない。
・白3子をどうトルか。
【原図】黒番
【1図】(後手)
・黒1とオサえれば、2手と3手でセメアイ黒1手勝ち。
※だが、隅の実利が大きいと油断してはならない。
・白2のツケから先手でシメツけられ、白の勢力も無視できない厚さである。
※aに断点が残ってはいるが、ねらうには話の遠い形だろう。
【2図】(シボリ)黒7ツグ
・黒1のマガリは、白2から4、6とシボられて、お荷物を作っただけとなる。
※黒の形が重いので、中央の白を攻める構図はとうてい望めない。
※白4で5とツイでくれれば、黒a、白8、黒6で3子をトリ、いちおうは目的を達成するのだが……。
【3図】(黒1、手筋)
・黒1とコスむ。
・なんのへんてつもないような手に見えるが、白2、4とシメツけられたあとの形は、aに断点が生じて、明らかに成功だ。
・白も6とツイで、1図よりははるかに厚い形。
※とはいえ、中盤で1手の差は想像以上に大きいものなのである。
(藤沢秀行『基本手筋事典 上(中盤の部)』日本棋院、1978年[1980年版]、156頁)
弱点を作る手筋:コスミ~【参考譜22】藤沢秀行vs林海峰
【コスミ】
・相手の弱点を、追求せずににらんでおくだけで以後の進行は有利に展開する。
・右で弱点を守れば、左の守りにもなるのだ。
【参考譜22】
第9期名人戦第2局
黒 藤沢秀行vs白 林海峰
※白1では2とカタをツイて、黒a、白bが本形であった。
・黒2と鎌首を持ち上げられて、中央はいっぺんに薄く、黒4、6と大きく追って好調である。
【参考図1】(ワリコミ)
・白が中央を放置すれば、黒1、3の二段ワリコミで切断する。
・そこで白はaと打ち、白2で5、黒6、白2のシノギを用意した。
【参考図2】(コスミ)
・黒のもう一つのねらいは1のコスミだが、いますぐでは白2、4で上辺のセメアイがうまくいかない。
※しかし、こうしたねらいを持てば、中央の補強が先手となるのだから、その分、中央の黒の厚みが増しているのである。
(藤沢秀行『基本手筋事典 上(中盤の部)』日本棋院、1978年[1980年版]、155頁)
弱点を作る手筋:二段バネ
【二段バネ】
・二段バネは、断点が二つできる危なっかしい形だが、無事に落ち着けば相手の形にもキリとして石が残る。
【原図】白番
【1図】(俗筋)
・白1のハネは当然としても、3とツキアタるのでは、いかにも俗筋だ。
※aに断点は作ったものの、2子の頭をハネられた形で、ダメヅマリ。
※続いて白aのキリは黒bとサガられて、備えが省けず、不利な戦いを避けられない。
※白3でcと戻るのでは、黒4と固められる。
【2図】(白1、3、手筋)
・白1、3と二段にハネダし、黒4なら白5とツイで、これが注文の形である。
・黒6とヒケけば、のちに白aの動き出しがねらいであり、黒6でaのシチョウカカエなら、白6とキリコむ手筋がのちのねらいとなる。
※白はともあれ、こうして形をキメておくところだ。
【3図】(モトキリ)
・二段バネに対する根本的な逆襲は、黒4、6というようなモトキリだが、この形なら、白7とキラれて、好結果は期待できない。
・このあと、しいて図を作れば、黒8以下白21と生き生きの形だが、諸方に弱点のある黒の不利はいうまでもないだろう。
(藤沢秀行『基本手筋事典 上(中盤の部)』日本棋院、1978年[1980年版]、162頁)
両にらみの手筋の例題
藤沢秀行氏は、『手筋事典』において、両にらみの手筋について、次のように述べている。また、ツケギリの棋譜として、興味深い対局を載せている。
<両にらみの手筋について>
・碁の一手一手は、広い意味での両にらみといっていいかもしれない。
そのなかでも、一般的な手筋は、「左右同形、中央に手あり」であり、また、両ガラミ、モタレなども、本来なら作戦的な構想だが、やはりこの手筋の一変形と見られる。
・両にらみとは、一つずつ追求しても成功しない相手の弱点を、一度に二つ以上にらんで、一方を実現しようというものである。
ただし、相手にも両シノギの手筋が伏在しているばあいもあり、慎重を要する。
(藤沢秀行『基本手筋事典 上(中盤の部)』日本棋院、1978年[1980年版]、170頁)
〇そして、カラミ、モタレ、左右同形について、次のような例題の図を掲載している。
例題【4図】(カラミ)
・黒1と躍り出して左右の攻めを見る。
※これが典型的な両ガラミの形であり、両方の白が無事生還するためには、長期間の苦労が必要だろう。
※黒1でa、白b、黒c、白dなどと、一方をせっせと追って、さきに損をしてからでは、攻めに威力がない。
≪棋譜≫171頁、4図
例題【5図】(モタレ)
・黒1、3とモタレかかって、aのキリとbのオサエを両にらみにする。
※黒1でbやcなどと露骨に追い、白に脱出のめどがついてからでは、遅いのである。
※原理は両ガラミと同じだが、モタレの方は相手に弱点を作りにいく、仕掛けの手筋である。
≪棋譜≫171頁、5図
例題【7図】(左右同形)
・白1は、左右同形中央に手あり、の典型。
・aとbのハネの両にらみである。
・したがって、黒はcとアテ、白d、黒eなどとカケツいで、外部脱出を考えるくらいのものだろう。
※この形は、中国古典『官子譜』にも採録された著名な手筋でもある。
≪棋譜≫171頁、7図
(藤沢秀行『基本手筋事典 上(中盤の部)』日本棋院、1978年[1980年版]、171頁)
両にらみの手筋:ツケギリ~【参考譜26】橋本昌二vs大竹英雄
<ツケギリの実戦譜>
【ツケギリ】
・両にらみの筋を拡大解釈すれば、両ガラミの筋となり、モタレの筋となる。
より全局的な手筋の運用といえるだろう。
【参考譜26】
≪棋譜≫参考譜26、186頁
第15期NHK杯戦決勝
白 橋本昌二
黒 大竹英雄
・黒1とアオリ、白2と逃がしてから、3、5のツケギリで上下をカラミに持ち込んだ。
※黒の配石はすべて働き、ここから局面の主導権を得る。
≪棋譜≫参考図1、186頁
【参考図1】(実戦)
・参考譜に続いて、白1、3はマクリツギの筋だが、黒は形が悪くとも上下を切断して攻めれば、必ずどこかに利が残る。
・白9でaからシボッても、意味がない。
≪棋譜≫参考図2、186頁
【参考図2】(サバキの筋)
・白は前図5で1以下の交換をすませておけば、5のツギから11とオサえる筋に結び付けることができる。
※とはいえ、黒は2で7とノビキリ、上辺の攻めをさきにするからこうはならず、やはり苦しい戦いだ。
(藤沢秀行『基本手筋事典 上(中盤の部)』日本棋院、1978年[1980年版]、186頁)
石を取る手筋:グルグルマワシ
<第1部> 攻めの手筋
【石を取る手筋】
【グルグルマワシ】(黒番)原図
・最終的にはシチョウの形だが、意外な方面からのシボリを連動させたばあいには、グルグルマワシと呼ばれることがある。
【1図】(イタチ)
・断点を恐れて、黒1とツグのでは、白2が「イタチの腹ヅケ」と呼ばれるセメアイの手筋で勝てない。
※黒aなら白bである。
・したがって、隅のセメアイに勝つためには、黒cとオサえなければならないが、白dのアタリをどう処理するかだ。
【2図】(黒3、手筋)
・白2には、黒3と尻からアテてシボるのである。
・黒5とアテて連絡。
➡このあとの仕上げも重要である。
※黒3で4のツギはむろん白aで3子がトラれるし、黒3でbのアテも、白4、黒c、白dで利得が少ない。
※黒3でcのコウは、一見して無暴(ママ)である。
【3図】(シチョウ)
・白6のツギには、黒7、9でぴったりシチョウである。
※このばあいでも、黒9でうっかり10は白9で逆にアタリとなることに注意。
※グルグルマワシとは、ずいぶん俗な命名だが、この結果を見れば、なるほどと納得がいくはずである。
(藤沢秀行『基本手筋事典 上(中盤の部)』日本棋院、1978年[1980年版]、227頁)
根拠を奪う手筋の例題
根拠を奪う手筋の例題は、次のような構成になっている。そのうちの一部を紹介しておく。
【1図】ナラビ
【2図】コスミツケ
【3図】ケイマ
【4図】スベリ
【5図】低いウチコミ
【6図】高いウチコミ
【7図】カド
【8図】ツケヒキ
【9図】ツケサガリ
【10図】コスミ
【11図】ツキアタリ
(藤沢秀行『基本手筋事典 上(中盤の部)』日本棋院、1978年[1980年版]、194頁~219頁)
例題【4図】スベリ
・黒1とスベれば、同点に守られた形にくらべて、地の出入りは大きいし、白も根拠の容易にできない姿。
・白2なら黒3から5とノゾくなどして、まとめて攻め上げる効果があるだろう。
※白2で3のツケなら黒2とハネダすし、白2で6なら黒aとサガる。
【5図】低いウチコミ
・黒1とウチコんで、根こそぎエグるきびしい手法もある。
・白2のツケならば、黒3、5とワタッて、地の得は前図より大きい。
※ただし、白は、中央進出の容易な形である。
※白2でaなら、黒3、白5、黒bと分断して、強硬に戦うことになる。
【6図】高いウチコミ
・黒1と第四線にウチコんで、白を愚形に導く軽い手法も考えられる。
・黒5のアテ一本が値打ちで、7とワタり、実利の得とともに、白aのつらいカカエを強制している。
※白2はやや注文にはまった嫌いがあり、b、cなどがまさるであろう。
【7図】カド
・黒1とカドにウチコむ筋も有力。
・白2なら黒3が左右にワタリを見た手筋であるし、白2でaなら黒bで、5図が期待できる。
※黒1では他に3とウチコむ筋もあり、これらの選択はすべて全局の状況によるといわなければならないほど、手広い形である。
(藤沢秀行『基本手筋事典 上(中盤の部)』日本棋院、1978年[1980年版]、195頁)
石を取る手筋:ツケギリ
<第1部> 攻めの手筋
【石を取る手筋:ツケギリ】
・ダメヅマリの弱点を、オイオトシの原理で追求する手筋。
・常用の筋だが、黒の最強の抵抗に注意しなければならない。
・原図は『活碁新評』より。
【原図】(白番)
【1図】(俗筋)
・白1、3とごりごり打ってトレるなら、なによりわかりやすいのだが、黒4のハネに、白5と1子を投じなければ、7のアテが打てない。
・白9と遮断に成功しても、黒10と生きられては、得になっていないだろう。
・黒10では、さきにaとノゾくこともできる。
【2図】(白1・3、手筋)
・白1とツケ、黒2なら3とキリコむ筋がしゃれている。
※黒aなら白b、黒cなら白d、相手の打ちかたで、決まるオイオトシ。
※白1で3はむろん黒1でいけないし、黒2で3なら白2とオサえる。
※また、白3でaは黒3とツガれて、なんにもならない。
【3図】(最強の抵抗)
・黒の最強は2のグズミ。
※aのあたりに黒石があるようなときには、白の手筋をはね返す強手となる。
・このばあいは、白3とサガってよく、黒4、6とハネツいでも、bとハネダすセメアイのたしにはならない。
※黒2で6とコスむ筋も、この形では白3でよい。
(藤沢秀行『基本手筋事典 上(中盤の部)』日本棋院、1978年[1980年版]、234頁)
石を取る手筋:ハネコミ
【ハネコミ】
・長手順で追いかけるばあいには、手順前後を許さぬ形もある。
・原図は、『発陽論』より。
【原図】白番
【1図】(白1、手筋)
・さきに白1とハネこんで受けかたを確かめておかねばならない。
・黒2なら白3のアテコミが妙着。
※黒aなら白bだし、黒cなら白aでオイオトシだ。
※黒2でdでも白3で、aとbの見合いである。
※白a、黒3をキメてからの1は、黒2でいけない。
【2図】(シチョウ)
・黒2と受けさせ、それから白3、5をキメるのである。
・黒が2、4とダメの窮屈な形になったので、白7とツギ、9とカケれば、あとはぐるぐるまわしのシチョウだ。
※白が3と4の二つを打てば、オイオトシ。
そのキキを見た白1が手順である。
【3図】(セメアイ)
・前図白9では1とオシ、3、5と突っ切る攻めもあるのだが、黒8とツケられてセメアイ1手負けの筋に入る。
※三角印の黒がない形なら、白7で10とオサえ、黒7、白a、黒b以下、難解。
(藤沢秀行『基本手筋事典 上(中盤の部)』日本棋院、1978年[1980年版]、240頁)
コウで脅かす手筋の例題
【1図】(ツケフクレ)
※コウ材に自信があれば、白1、3のツケフクレなどは、有力な局面打開法。
部分的な戦いでは、獲得不可能な利益を、全局のコウ材優位を背景にして、もぎ取るのである。
・黒4のアテなら、むろん白5とコウに受け、黒は断点の処置に困っている。
【2図】(二段バネ)
・前図白1、3のツケフクレに、黒が正面衝突を避けて、三角印の黒に退いた形。
・しかしこれでもなおかつ、白1と二段にハネて、強引にコウを仕掛ける筋が残っているのである。
・黒2ならむろん白3でコウ。
※黒2でaとあやまれば、白bでも3でも手抜きでもよい。
【3図】(ハネコミ)
・白1とハネコんで、3とフクれる。
※できあがった形は1図と同じである。
※白がコウに負けないとすれば、黒aのツギなら白bだし、黒bのツギなら白aとアテ、黒c、白dと楽に脱出する。
※白1でbのツケは、このばあい黒1で全滅の危険があるだろう。
その他の例題は次のような構成である。
【4図】カケツギ
【5図】ツケ
【6図】アテ
【7図】手抜き
(藤沢秀行『基本手筋事典 上(中盤の部)』日本棋院、1978年[1980年版]、244頁)
コウで脅かす手筋:コウで切断
【コウで切断】
・ふつうでは考えられないねらいが、コウを利用することで生ずる。
・このばあいは左右の黒の切断である。
【原図】白番
【1図】(常識)
・白1とワリコんで、上下切断するねらいもあるそうだが、黒2、4と平易に受けられて、なんにもならない。
※白1でa、黒b、白cも黒2のアテがキイているので、かえってモチコミ。
※また、白1でb、黒a、白dは黒cとカカえられて、これもいけないというのが常識。
【2図】(白1、強手)
・常識ではどうにもならぬ連絡を、強引に打ち破るのが、白1のノゾキである。
・黒2と換わって部分的には損だが、次に白3とハネダして、黒aには白bとキル大コウにつなげるのである。
※黒2でaなら、白はむろん2とツキダし、分断の目的は達している。
【3図】(モチコミ)
・いきなり白1とハネダして、黒2なら白3とフクれる切断の形もないわけでない。
・しかし、黒4とカカえられては明らかにモチコミだし、いったん黒aとコウをトッて、ようすを見てくるかもしれない。
※非常識な前図白1にかぎるのである。
(藤沢秀行『基本手筋事典 上(中盤の部)』日本棋院、1978年[1980年版]、247頁)
コウで脅かす手筋:コウのキキ
【コウのキキ】
・あとではキカないところをキカし、コウ味を残しておくのは常識。
直接の手にならなければうっかりしがちだが、コウ味利用の外側のキカシもばかにならない利得なのである。
【原図】黒番
【1図】(無策)
・黒1のツギでは白2とノビられて、内部の細工が不可能となった。
※黒aなら白bで、なんの味もない。
※ただし、この形は黒cのオサエが先手。
※上辺より右辺の問題が大きいと見たときには、白2でdとツケておく。
※今度は黒aに白eとトル要領。
【2図】(黒1、手筋)
・さきに黒1とツケて、白の受けかたを見ておくのである。
・白2なら黒3とアテて5とツギ、白6には黒7のオサエがコウ含みのキキとなっている。
※白2で3のサガリなら黒2とハッて、白6、黒4、白a、黒5とツギ、白7には黒bがあるのだ。
【3図】(直接、手)
・前図白6で、1と上辺をがんばるのは、無理。
・黒2とオサえて直接、手になってしまうのである。
・白5、7はセメアイ常用の手筋ではあるが、黒8とカケツいで、コウはまぬかれない。
※また、白1でaなら黒3のオサエが先手。
黒のキカシは無駄にならない。
(藤沢秀行『基本手筋事典 上(中盤の部)』日本棋院、1978年[1980年版]、252頁)
コウで脅かす手筋:しゃくる
【しゃくる】
・コウに導く一つの要領は弾力点を発見することだ。
・中盤、なにげないところにコウへの手段がひそんでいるのである。
・原図は、『官子譜』より。
【原図】黒番
【1図】(生き)
・黒1のアテはaのコウアテとの差で大きい。
・当然のように見えるが、白2、4で確実に生きられ、さしたる戦果にはならない。
※白2で4とヌケば、黒2とアテてコウに導くことができるのだから、その弾力点へさきに打つ手がないかと考えてみるのである。
【2図】(黒1、手筋)
・黒1としゃくる。
・白2なら黒3とアテオサえ、これはともあれコウである。
※現実問題としては、白に生きコウが多く、たとえば白a、黒b、白cとハネサガられても、とうてい黒dとトリカケに行く勇気はあるまい。
※しかし、この筋を見ているかどうかでは、大差だろう。
【3図】(セメアイ)
・白2のノビなら黒3とツギ、白4には黒5以下であっさりセメアイ勝ちだ。
※白4で5のオサエは黒4とハイ、白a、黒b、白c、黒dとキカして、eとオサえても、黒fとキッて、周辺がこのままの状態なら白ツブレ。
※シチョウの関係もあるが、黒1の価値には変わりない。
(藤沢秀行『基本手筋事典 上(中盤の部)』日本棋院、1978年[1980年版]、255頁)
コウで脅かす手筋:ツケフクレ
【ツケフクレ】
・柄のないところへ柄をすげる手筋がコウといってもいいだろう。
・コウ材有利ならば、たいていの構えになぐりこんでいける。
【原図】黒番
【1図】(お荷物)
・いま三角印の黒とウチコみ、三角印の白にワタリを止めたところと見られる。
・続いて黒1、3、あるいは黒1でaなどと中央に逃げ出し、それで十分という局面はめったにない。
※黒1、3なら白4とワタられ、黒aなら白bとワタられて、攻めの対象となってはたいてい不利だ。
【2図】(黒1、3、手筋)
・黒1とツケ、白2なら黒3とコウにフクれて戦うのである。
※白2でaなら黒bとトビダして、その形なら白にぴったりしたワタリがないから、一方的に攻められる心配も薄れる。
※白4でcなら黒はdとハネてあくまでコウに仕掛けるのである。
【3図】(ダンゴ)
・前図黒5では1とツギ、白を低位にワタらせて不満がないようにも見える。
・じっさいこのあと、黒a、白b、黒cとポンヌくことにでもなれば十分だが、黒aには白cがあり、黒d、白b、黒eと2子をトッても、白fで全滅の恐れさえある。
黒fと逃げるのでは、やはり苦戦。
(藤沢秀行『基本手筋事典 上(中盤の部)』日本棋院、1978年[1980年版]、262頁)
守りの手筋:形を整える手筋
第1部の「攻めの手筋」は前章で終わりであるが、第2部の「守りの手筋」の中のある手筋は、攻めとも関連する。例えば、「形を整える手筋」などがそうである。
「形を整える手筋」の【2図】(三目の真中)などは、「ダメヅマリの三子から一間の距離の中央は、守れば眼形の急所、打たれればウッテガエシを含んだ奪弾力の急所となる」という指摘は、攻守(攻防)を考える場合に、示唆に富む。参考の意味で、第2部の「守りの手筋」の一部の紹介しておきたい。
<第2部> 守りの手筋
【形を整える手筋】
・一着守って相手からの攻めがきかない形にしたうえで、あとを強く戦おうとするのが整形の手筋。
・形を崩す手筋の逆で、この守りの手筋は一般に「形」と呼ばれることが多い。
・ここでは、純然たる守りの「形」ばかりでなく、相手の弱点を衝いて自分の守りにつなげる手筋までを広く扱う。
〇整形の手筋は、石の働きや弾力性、のちのキキなどを総合した急所を発見するかどうかにかかる。
☆基礎的な手筋の例によって、急所の構造を知ってほしい。
【1図】(口)
・白から逆に1の点にノゾかれては、黒の形が崩れ、攻めの対象となる。(先述)
・さきんじて一着黒1と守っておけば、もう二、三手周辺に白が接近してきても、心配のない石になるのである。
※名称はないが、かりに「口の急所」と藤沢秀行氏は呼んでいる。
【2図】(三目の真中)
・ダメヅマリの三子から一間の距離の中央は、守れば眼形の急所、打たれればウッテガエシを含んだ奪弾力の急所となる。
・黒1と守っておけば、aのダメが詰まっても平気な形だから、次にbのハネから、白c、黒dとしてeのキリもねらえるだろう。
【3図】(未然のヌキ)
・相手の攻められないうちに守る、という点では、シチョウアタリのこないまえに、黒1とヌクなども、りっぱな整形手段。
・いつどのような形でシチョウアタリを打たれるかわからないのでは不安だし、黒1とヌイておけば、白a、黒1、白bのワタリを防ぎ、厚い形である。
【4図】(カケツギ)
・キレないところをツグ黒1も、がっちり守ってあとを強く戦う「本手」に属する。
※この守りがなければ、白aのハサミツケがうるさいし、白bのハネも大きい。
※いったん守っておけば、上辺へのヒラキのほか、cのカケ、dのツメなどを自由にねらえるだろう。
【5図】(ハネ)
・三角印の黒にまだ活力があるのだが、ともあれ1とハネて、三角印の白を悪手化しておく。⇒小さいようだが大事な一着。
・上辺に厚みを向け、右辺は白2と守られても、まだ黒aのキキがある。
※黒1のように、相手の石の働きを完全に殺す手はおおむね好手となる。
【6図】(ノゾキ)
・黒1と踏み込んで白2と換わり、3とツッパれば、黒aを防いで白4の守りはやむをえない。
※黒1で単に3は、白1と備えられて、bの進出をにらまれるのである。
※白2でcとコスミダしてくれば黒の注文通り。
黒d、白e、黒bのオサエが先手で、上辺がさらに厚みを増す。
【7図】(キカシ)
・黒3、5のツケフクレも整形の手筋だが、そのまえに黒1、白2と換わるのが、黒の反撃を封じるための巧妙な手筋になっている。
※白6で7のアテなら、黒6とアテ返し、白a、黒b、白ツギ、黒cの変化を想定すれば、黒1、白2の交換がいかに働いたか、説明を要しないだろう。
(藤沢秀行『基本手筋事典 上(中盤の部)』日本棋院、1978年[1980年版]、328頁~329頁)
形を整える手筋:アテ
<第2部> 守りの手筋【形を整える手筋】
【アテ】
・形ができるかできないかは、ほんのちょっとした手順で決まることもある。
大技も必要だが、小技も重要である。
【原図】(白番)
【1図】(シボリ)
・白1、3とシボッて5とスベり、左右を打ってしゃれた形。
※とはいえ、中央の黒があまりにも厚く、総合すればやはり黒に分があるだろう。
※白5でaのトビは、黒b、白c、黒dとキリコまれ、eからのシボリをにらまれて、白5とツゲない。
【2図】(大戦争)
・ポンヌキを打たせまいと白3のノビは、黒4とヘソを出られて守りかたがむずかしい。
・白7なら黒8、10のオサエをキカされたあとで、黒12、14と戦われてわけのわからぬ形。
※善悪は周囲の状況しだいだろう。
※白7で14は、黒aのキリが残っていけない。
【3図】(白1、手順)
・シボリのまえに白1のアテを一つキカしておくだけでいい。
・以下、白7までの形は、1図とちがって白も相当である。
※黒は白7のまえにaをキカすチャンスはない。
黒2でaなら白4とツイで、黒3、白2とポンヌけば、あとどう変化しても打てよう。
<変化図>(図は不掲載)
(藤沢秀行『基本手筋事典 上(中盤の部)』日本棋院、1978年[1980年版]、330頁)
【補足】要石かウッテガエシか~平本弥星『囲碁の知・入門編』より
・日本棋院は、ホームページで、無料の段級位認定を行なっているそうだ。
・次の6図は、平成12年7月の第8問(9路盤)である。
黒番で、A~Dの中に一つだけ黒が勝ちになる正解がある。
【図6】段級位認定・黒番(日本棋院)
≪棋譜≫131頁の図6
【小を捨てて大に就く】
・図7の黒1と打つとウッテガエシで、白二子を取れる。
※隅の一眼と合わせて二眼できるから、黒は生き。
・そう打つと、白は2と黒一子を取る。
・図8の黒1と打てば、白は2とツギ。
※黒は一眼になり、生きがなくなる。
攻め合いも黒が一手負けで、黒八子は取られる。
☆図7を選んで黒八子を助けるか、図8で黒一子を助けるか。
※『徒然草』に「例えば、碁を打つ人」という話があり、“これも捨てずかれも取ろうとすれば、かれも得ずこれも失うが道理”ということが書かれている。
兼好は「小を捨てて大に就く」ことをいい、“十の石を捨てて、一つでも大きい石に就くべき”と記した。
・一子と八子の石の数は比較にならない。しかし、ものごとは数量より質ということがある。何が小で何が大か。大小は、必ずしも数だけではない。
・図7に続き、図9の黒3と打てば黒五子は助かる。
・すると白4で、右上の黒二子は連絡を断たれて、取られる。
・この後を続けて打つと、図10が双方最善の進行で、白の4目勝ち。
・図8の白2で黒八子を取られた後は、図11になる。
・黒3とダメを詰めても、攻め合いは白が一手勝ち。
しかし、右上の黒地が固まる。
・図10は右上が白地であるから、その差は大きい。
・図12が最終形で、黒の1目勝ち。
※この場合は、八子より要石(かなめいし)の一子が大切なのである。
【図7】ウッテガエシ
【図8】黒八子が取られる
【図9】図7に続いて
【図10】白が4目勝ち
【図11】図8に続いて
【図12】黒が1目勝ち
黒 アゲハマ0+取り石1+黒地21=22目
白 アゲハマ8+取り石0+白地13=21目
(平本弥星『囲碁の知・入門編』集英社新書、2001年、130頁~133頁)
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