≪ダメ、手割りに関する囲碁の格言~『新・早わかり格言小事典』より≫
(2021年9月4日)
今回のブログでは、日本棋院から出版されている工藤紀夫編『新・早わかり格言小事典 役に立つ囲碁の法則』(日本棋院、1994年[2007年版])に見える、ダメ、手割りに関する囲碁の格言について解説してみたい。
具体的には次の格言である。
〇外ダメからツメよ
〇手割りを考えよ
なお、この二つのテーマについては、他の文献なども参考にしてみた。
例えば、プロ棋士の木部夏生二段が、You Tubeで「囲碁棋士と学ぶ! 今日の格言」と題して、囲碁の格言を解説しておられるが、「攻め合い外ダメから詰めよ」というテーマで(2021年8月24日付け#24)で取り上げておられる。原理的なところを要領よく解説しておられ、内ダメは自分の手数を縮めてしまう悪手になってしまうので、注意を要するという。
また、坂田栄男九段の著作『囲碁名言集』(有紀書房、1988年[1992年版])は、含蓄のある内容で、この二つのテーマについても参考となる(次回のブログで、この坂田栄男九段の著作について紹介してみたい)。
外ダメ、内ダメについていえば、この両方を考えても、うまく解けない問題がある。工藤紀夫『初段合格の手筋150題』(日本棋院、2001年[2008年版])の中から、1問を解説しておく。
【『新・早わかり格言小事典 役に立つ囲碁の法則』日本棋院はこちらから】
新 早わかり格言小事典―役に立つ囲碁の法則
さて、今回の執筆項目は次のようになる。
数々ある攻め合いの要諦のなかでも、もっとも基本的なものである。
まず「外ダメ」とは何かを理解しなければならない。
「外ダメ」に対しては、「内ダメ」がある。攻め合うときは外ダメから、というのである。
【テーマ図:1図】
≪棋譜≫(129頁の1図)
棋譜再生
☆黒番としよう。さて、この攻め合いはどうなるか?
六子の外ダメが、a(8, 十六)、a(9, 十七)の2点である。b(5, 十六)、b(5, 十七)の2点が黒五子の外ダメである。
対して、c(7, 十八)、c(7, 十九)の2点を内ダメという。
※外ダメは「一方ダメ」、内ダメは「共通ダメ」という別称もある。
【テーマ図:2図】
≪棋譜≫(129頁の2図)
棋譜再生
☆やはり黒番で考える。
黒からつめようとすると、白のダメは2個所しかない。
前問の要領で「外ダメ」「内ダメ」を見極めれば、あっさりと解決する。
さて、上のテーマ図に対する正解と失敗は、次のようになる。
【1図の失敗:内ダメだから失敗】
≪棋譜≫(130頁の3図)
棋譜再生
・黒1とつめた。たしか、こちらは内ダメだから、失敗である。
・白2とつめられて気付いてもすでに手遅れ。失敗は取り返せない。
【1図の正解:外ダメだから正しい】
≪棋譜≫(130頁の4図)
棋譜再生
・黒1(3でもよい)が正しい。いうまでもなく外ダメだから。
・正しくつめたので白4まで、黒の先手ゼキになった。
※もっとも黒1は手抜きでも、白2のとき黒1でセキである。
【2図の失敗:内ダメだから失敗】
≪棋譜≫(130頁の5図)
棋譜再生
・黒1とツイだのはさらに3とツギ、a(8, 十八)の内ダメをつめようとしたものである。
・その間に白から2、4とつめられ、黒の負けとなってしまった。
※そもそも、内ダメをつめようとしたのがいけない。
【2図の正解:遠回りしても外ダメから】
≪棋譜≫(130頁の6図)
棋譜再生
・黒1と遠回りしても、a(9, 十九)の外ダメをつめることを考えるべきであった。
(工藤紀夫『新・早わかり格言小事典 役に立つ囲碁の法則』日本棋院、1994年[2007年版]、129頁~130頁)
「外ダメからツメよ」の別例を、坂田栄男九段の『囲碁名言集』(有紀書房、1988年[1992年版])からあげておこう。つまり、「攻合いのコウは最後に取れ」と題して、外ダメからつめる場合の例を掲げている。(「攻合い」の送り仮名はママ。以下同じ)
攻合いはただでさえややっこしいのに、それにコウがついているとなると、さぞ頭の痛いことである。
しかし、原理さえ知っていれば、さして苦しまずにすむようだ。
コウのついた攻合いの原則は、「攻合いのコウは最後に取れ」ということである。あわててコウを取らず、必要になったら、そのときに取るのである。
次のようなテーマ図で考えてみよう。
【攻合いのテーマ図】(黒の手番)
≪棋譜≫(256頁の1図)
棋譜再生
☆白のダメは四つ、黒は三つだから、黒が不利のように見えるが、そうではない。
「攻合いのコウは最後に取れ」というコツを知っていれば、かえって黒の有利な攻合いだとわかる。
【正解:外ダメからツメよ】
≪棋譜≫(256頁の2図)
棋譜再生
・コウにはかまわずに、黒は1、3と外ダメをつめる。
・白4で黒はアタリになった。
・必要が生じたら、ここで初めて黒5とコウを取る。
※同時に白がアタリとなり、白はコウをタテなくてはならない。
【失敗:黒があわててコウを取った場合】
≪棋譜≫(257頁の3図)
棋譜再生
・これは黒があわててコウを取った図である。
・白はもちろん1とつめて、あとを順々につめ合うと、結果は前図とまったく逆になることがわかるはずである。
⇒白がコウを取って黒がアタリとなり、黒がコウダテを求めるのである。
※このように、コウを先に取るか最後に取るかでは、重大な差が出る。
攻合いが大きければ大きいほど、コウの取り番は大きな問題で、勝敗に直結する。
たった一つのコウ材がないばかりに、無念の涙をのんだという例はいくらでもあるようだ。
「攻合いのコウは最後に取れ」――この原則は、眼のある石の攻合いでもまったく同じである。
(坂田栄男『囲碁名言集』有紀書房、1988年[1992年版]、256頁~257頁)
【坂田栄男『囲碁名言集』有紀書房はこちらから】
囲碁名言集
外ダメからでも、内ダメからでも、うまくいかないことがある。
だから、囲碁はむずかしい。工藤紀夫『初段合格の手筋150題』(日本棋院、2001年[2008年版])の中には、次のような問題がある。
【問題81】(黒番)
≪棋譜≫(177頁の問題図)
棋譜再生
☆攻め合いの考え方は摩訶不思議なところがある。
本題の黒の手数は三手。白は四手であるから、諦めてしまいそう。
でも逆転の手筋があるかもしれない。頑張って読み切ること。
【失敗1:内ダメから詰めた場合】
≪棋譜≫(178頁の失敗1)
棋譜再生
・黒1はいけない。
※攻め合いは多くの場合、「内ダメから詰めるのは間違っている」。
⇒黒1が内ダメから詰めた手で、攻め合いはやはり黒の負け。
【失敗2:外ダメから詰めた場合】
≪棋譜≫(178頁の失敗2)
棋譜再生
・では黒1の外からダメを詰めればよいかというと、これも失敗。
・白2のオキで、ピッタリ黒の一手負けに終わる。
【正解:「眼あり眼なし」の眼持ち】
≪棋譜≫(178頁の正解)
棋譜再生
・急がば回れの黒1が手筋。
⇒黒1によって、白2、4と迂回させられ、白は最後のアタリが打てなくなる。
※この結果を「眼あり眼なし」といい、見事に攻め合いを制した。
(工藤紀夫『初段合格の手筋150題』日本棋院、2001年[2008年版]、177頁~178頁)
【『初段合格の手筋150題』日本棋院はこちらから】
初段合格の手筋150題 (囲碁文庫)
石を捨てた、取られたというとき、その結果を判断する目安になるのが、「手割り」である。
有名なハメ手を紹介している。
【1図】
≪棋譜≫(170頁の1図)
棋譜再生
・黒4でa(6, 十六)、白b(7, 十八)と白をワタらせれば、なんでもなかった。
【2図】
≪棋譜≫(170頁の2図)
棋譜再生
・黒30まで、たいへんなハマリである。
☆この結果の「手割り」を解説している。
【3図】
≪棋譜≫(170頁の3図)
棋譜再生
・白は六子を取られている。
・その六子に見合う黒の六子を取り除くことによって、石の効率が知れる。
⇒黒の六子とは、2図の黒16、10、18、28、30、そして黒(7, 十七)である。
【4図】
≪棋譜≫(170頁の4図)
棋譜再生
・3図の黒六子を取り除いた結果は、こうなる。
しかし、黒はまだ不要な黒二子、すなわち黒(4, 十六)と黒(5, 十六)がくっついている。
・また、得た20目ちょっとの地と白の外勢をくらべれば、その優劣がはっきりするだろう。
⇒白大優勢である。
(工藤紀夫『新・早わかり格言小事典 役に立つ囲碁の法則』日本棋院、1994年[2007年版]、170頁)
☆ポンぬきは石にムダがなく、威力も大きい。
よほどのことがないかぎり、ポンぬきをさせてはならない
よく「ポンぬき三十目」といって、ポンぬきはさせてはならないものとされる。
三十目という数字に根拠なく、「たいへん大きいのだ」ということを表現したもののようだ。
(じっさい三十目、ときにはそれ以上の価値を持つポンぬきもあるという)
ポンぬきは、それ自体がひじょうな好形であるばかりでなく、厚みが四方に働くのが大きな特徴である。
したがって、辺や隅に片寄るよりも、中央のポンぬきほど価値がある。
【中央のポンぬきの模型図】
≪棋譜≫
棋譜再生
・白が四隅の星を占め、黒が中央でポンぬいた形。
・むろん実戦ではできるはずがなく、これは一つの模型図である。
⇒これで両者の力はつり合っている、という定説になっているそうだ。
〇「一に空き隅」といわれる重要な隅の拠点を、白は四つとも占めている。対する黒は、空中になんら実利をともなわないポンぬきがあるだけなのに、これで四隅に対抗できるという。
※坂田栄男氏は、院生(日本棋院で養成するプロ棋士のタマゴ)の時分、実験的にこの配置から打ってみたことがあるらしい。
⇒優劣はつけがたかったそうだ。
黒先なら黒がいいし、白先なら、わずかに白に分がある。
先に打ったほうが有利ということは、この配置が互角という証拠にほかならない。
〇なにしろ黒は中央に堅塁があるから、どんなにせまい白の構えにでも、平気で打ち込んで行ける。
もぐりこんで活き、白の外勢を厚くしても、それは気にかける必要がない。厚みはポンぬきが消してくれるからである。
また根拠がなくて攻め出されても、ポンぬきの声援があるから、トビ出しさえすれば、もう安全である。
隅に一手打つのは、だいたい十目の価値が持つといわれる。
かりにこの説が正しいものとし、上図の形が五分とすれば、四隅に一手ずつ打った白は四十目。それに対抗している黒のポンぬきも、おなじ四十目にあたるといえると、坂田氏は解説している。
このように中央のポンぬきは、大きな威力を持っている。
たとえ辺でも隅でも、ともかくポンぬきをさせるのは感心しない。
一個の石を取るには、タテヨコ四つのダメをつめればよく、その最小限の手数で石を取るのがポンぬきである。
ポンぬきは石にムダがなく、しかも弾力にとんで富んでいる。相手にはポンぬきをさせぬよう、自分からはチャンスがあれば、ためらわずにポンぬいて打つべきであるという。
【悪手の見当】
≪棋譜≫
棋譜再生
・白1と走り、黒2とツケて以下7まで。
☆初心の人の碁を見ていると、こんな変化がよく見られるという。
どの手がおかしいのか?
⇒白1に対する黒2のツケが悪手である。
・それに対する白3も悪手である。
(3は2の非をトガめないだけ、2よりも罪の重い手といえる)
※双方が悪手を打った場合、あとから打ったほうが不利を招くのは理の当然だとする。
・白7までの結果は隅の実利が大きく、それだけ白が不利となっている。
〇黒2は4とコスんで受けるところである。
(それを2とツケてきたのだから、白は気合からいっても、反発しなくてはならない)
【白はハネ出す一手】
≪棋譜≫
棋譜再生
・ここは白1とハネ出す一手である。
・黒2の切りに3とカカエて、必然黒6までとなる。
⇒こんな隅っこでも、ポンぬきはポンぬきなりの威力があって、白はすぐ続いて7、9と黒をゆさぶることができる。
・黒10には11とサガリ。
(黒イ[18の六、黒10の右]のオサエは隅には利かない)
【手割による検討】
≪棋譜≫
棋譜再生
・前図の結果を解剖してみると、このようになる。
・はじめ白1と三々に打ち込んで、黒2に3、5と打った。
・黒はだまって6とツギ、白7から11まで。
⇒この形に黒イ[17の二、白1の上]、白ロ[17の一]を加えたのが前図である。
※この解剖診断によって、悪手は黒の側にばかりあることが明らかになっているという。
・まず黒6は、いつでもハ[16の一、白3の上]とアテて、白イ[17の二、白1の上]とツガせるに決まったところ。
・それから6とツゲば、白11、黒ニ[18の六]、白7、黒10、白8,黒その左オサエ、白1の下ツギ、となるのが、定石であるという。
(白は後手で活きることになる)
・さらに大悪なのは、黒イ[17の二]と放りこんでいることで、もともとハ[16の一]とアテるべきところを、黒イ[17の二]、白ロ[17の一]と取らせたのだから、お話にならないという。
⇒ポンぬかせた罪が、そのまま黒の不利、白の有利につながっている。
〇このように、手順をかえて形を調べ、着手の可否を検討するのを手割(てわり)という。
強くなるにしたがって、興味を持つようになってくるようだ。
(坂田栄男『囲碁名言集』有紀書房、1988年[1992年版]、148頁~151頁)
※形をととのえるには、捨て石が有効なことが多い。
ことに第三線の石は、一つ第二線にサガって捨てるのがよい
格言「二子(もく)にして捨てよ」
坂田氏によれば、「石を捨てる楽しさ」が碁にはあるという。
相手に石を取らせ、それをタネにいろいろと仕事をする。
捨て石がうまくいったときの楽しさは、石を取るのとはまた違った味わいがある。
この捨て石のアジがわかるようになると、もう相当な腕前になっているはずだという。
初心のうちは、相手の石は取りたい、自分の石は取られたくないの一心である。石を捨てる、わざわざ取らせるなどということは、初心者は夢にも考えない。
それがだんだん強くなると、要石と廃石の区別がつくようになる。さらに捨て石を投じて手割をうんぬんするようになると、もうアマチュアとしては、一人前の打ち手に成長している。
よく「アマは石を取ろうとする、プロは捨てようとする」というが、一面の真理であるようだ。
〇石を捨てる目的の第一は、それによって相手をしめつけ、自分の形をととのえることにある。
したがって、アタリにされた石をポンと打ちぬかせてしまっては、うまく目的を果たせない。とくに第三線の石を捨てる場合は、一つノビて取らせるのが原則になる。
⇒ノビることによって手数をふやし、その間にしめつけをはかる。
【白ツケて整形】
≪棋譜≫
棋譜再生
☆黒の堅陣の中に白三子が孤立しているが、この白はなかなかの好形であるから、すぐにおさまることができる。
というのも、白1とツケるうまい手があるから。
これを捨て石にして黒に取らせ、白はきれいに形をととのえる。
【白の働いた形】
≪棋譜≫
棋譜再生
・続いて黒2のハネ出しに白3と切り、4のアテに5とノビる。
⇒この白5が「一つサガって捨てる」手である。
・黒6のオサエで二子は取られるけれど、これをタネに白は7のアテ、そして9、11まで、ムダなくぴったり利かすことができる。
⇒こうして、白は先手に整備し、もう攻められる心配はなくなった。
※黒2とハネ出して以降、この手順は一本道である。
白の石はどれも効果的に働き、理想的な結果となっている。
【失敗図:白が捨て石を打たない場合】
≪棋譜≫
棋譜再生
☆前図の結果がいかに白の働いた形であるかを説明してみよう。つまり、白が捨て石を打たないと、どうなるのか?
〇もし白が捨て石を打たず、本図のように、白1と突きあたったとすれば、黒は2とぶつかってくる。
(また1で2と打てば、黒は1とくる)
※この形では、白が形をととのえるには、1と2の両点が急所なので、普通に打ったのでは、二つの急所を二つとも占めることはできない。
※ところが前図では、打てないはずの急所を、二つとも白が打っている。
そこに捨て石の値打ちがある。
【手割:白の働きを確認】
≪棋譜≫
棋譜再生
☆手割で解剖して、白の働きを確認してみよう。
・はじめに白1と突きあたったとき、黒は2とハネて受けた。
・白3には4とサガり、白は5のマガリを利かして7とオサエる。
・ここで黒は8と手入れをしたのである。
⇒この形に白の捨て石の二子、黒が取るのに打った二子を加えると、2番目の図【白の働いた形】となる。
☆本図の手順を見ていえることは、白の着手には一つのムダもないのに、黒の打った手は不合理だらけ、ということである。
・第一、白1に黒2と打つことはありえない。
黒2は3と打つか、すくなくともイ(17の六、黒2の右)と引くところである。
・黒4もイとツグべきである。
・最後の黒8に至っては、手のないところに手を入れた、不要の一手になっている。
〇捨て石がどんなに効果のあるものか、これでわかる。
(坂田栄男『囲碁名言集』有紀書房、1988年[1992年版]、182頁~184頁)
(2021年9月4日)
【はじめに】
今回のブログでは、日本棋院から出版されている工藤紀夫編『新・早わかり格言小事典 役に立つ囲碁の法則』(日本棋院、1994年[2007年版])に見える、ダメ、手割りに関する囲碁の格言について解説してみたい。
具体的には次の格言である。
〇外ダメからツメよ
〇手割りを考えよ
なお、この二つのテーマについては、他の文献なども参考にしてみた。
例えば、プロ棋士の木部夏生二段が、You Tubeで「囲碁棋士と学ぶ! 今日の格言」と題して、囲碁の格言を解説しておられるが、「攻め合い外ダメから詰めよ」というテーマで(2021年8月24日付け#24)で取り上げておられる。原理的なところを要領よく解説しておられ、内ダメは自分の手数を縮めてしまう悪手になってしまうので、注意を要するという。
また、坂田栄男九段の著作『囲碁名言集』(有紀書房、1988年[1992年版])は、含蓄のある内容で、この二つのテーマについても参考となる(次回のブログで、この坂田栄男九段の著作について紹介してみたい)。
外ダメ、内ダメについていえば、この両方を考えても、うまく解けない問題がある。工藤紀夫『初段合格の手筋150題』(日本棋院、2001年[2008年版])の中から、1問を解説しておく。
【『新・早わかり格言小事典 役に立つ囲碁の法則』日本棋院はこちらから】
新 早わかり格言小事典―役に立つ囲碁の法則
さて、今回の執筆項目は次のようになる。
・はじめに
・外ダメからツメよ
・「外ダメからツメよ」の別例~坂田栄男『囲碁名言集』より
・外ダメ、内ダメ以外の手筋
・手割りを考えよ
・ポンぬきと手割~坂田栄男『囲碁名言集』より
・捨て石と手割~坂田栄男『囲碁名言集』より
外ダメからツメよ
数々ある攻め合いの要諦のなかでも、もっとも基本的なものである。
まず「外ダメ」とは何かを理解しなければならない。
「外ダメ」に対しては、「内ダメ」がある。攻め合うときは外ダメから、というのである。
【テーマ図:1図】
≪棋譜≫(129頁の1図)
棋譜再生
☆黒番としよう。さて、この攻め合いはどうなるか?
六子の外ダメが、a(8, 十六)、a(9, 十七)の2点である。b(5, 十六)、b(5, 十七)の2点が黒五子の外ダメである。
対して、c(7, 十八)、c(7, 十九)の2点を内ダメという。
※外ダメは「一方ダメ」、内ダメは「共通ダメ」という別称もある。
【テーマ図:2図】
≪棋譜≫(129頁の2図)
棋譜再生
☆やはり黒番で考える。
黒からつめようとすると、白のダメは2個所しかない。
前問の要領で「外ダメ」「内ダメ」を見極めれば、あっさりと解決する。
さて、上のテーマ図に対する正解と失敗は、次のようになる。
【1図の失敗:内ダメだから失敗】
≪棋譜≫(130頁の3図)
棋譜再生
・黒1とつめた。たしか、こちらは内ダメだから、失敗である。
・白2とつめられて気付いてもすでに手遅れ。失敗は取り返せない。
【1図の正解:外ダメだから正しい】
≪棋譜≫(130頁の4図)
棋譜再生
・黒1(3でもよい)が正しい。いうまでもなく外ダメだから。
・正しくつめたので白4まで、黒の先手ゼキになった。
※もっとも黒1は手抜きでも、白2のとき黒1でセキである。
【2図の失敗:内ダメだから失敗】
≪棋譜≫(130頁の5図)
棋譜再生
・黒1とツイだのはさらに3とツギ、a(8, 十八)の内ダメをつめようとしたものである。
・その間に白から2、4とつめられ、黒の負けとなってしまった。
※そもそも、内ダメをつめようとしたのがいけない。
【2図の正解:遠回りしても外ダメから】
≪棋譜≫(130頁の6図)
棋譜再生
・黒1と遠回りしても、a(9, 十九)の外ダメをつめることを考えるべきであった。
(工藤紀夫『新・早わかり格言小事典 役に立つ囲碁の法則』日本棋院、1994年[2007年版]、129頁~130頁)
「外ダメからツメよ」の別例~坂田栄男『囲碁名言集』より
「外ダメからツメよ」の別例を、坂田栄男九段の『囲碁名言集』(有紀書房、1988年[1992年版])からあげておこう。つまり、「攻合いのコウは最後に取れ」と題して、外ダメからつめる場合の例を掲げている。(「攻合い」の送り仮名はママ。以下同じ)
攻合いはただでさえややっこしいのに、それにコウがついているとなると、さぞ頭の痛いことである。
しかし、原理さえ知っていれば、さして苦しまずにすむようだ。
コウのついた攻合いの原則は、「攻合いのコウは最後に取れ」ということである。あわててコウを取らず、必要になったら、そのときに取るのである。
次のようなテーマ図で考えてみよう。
【攻合いのテーマ図】(黒の手番)
≪棋譜≫(256頁の1図)
棋譜再生
☆白のダメは四つ、黒は三つだから、黒が不利のように見えるが、そうではない。
「攻合いのコウは最後に取れ」というコツを知っていれば、かえって黒の有利な攻合いだとわかる。
【正解:外ダメからツメよ】
≪棋譜≫(256頁の2図)
棋譜再生
・コウにはかまわずに、黒は1、3と外ダメをつめる。
・白4で黒はアタリになった。
・必要が生じたら、ここで初めて黒5とコウを取る。
※同時に白がアタリとなり、白はコウをタテなくてはならない。
【失敗:黒があわててコウを取った場合】
≪棋譜≫(257頁の3図)
棋譜再生
・これは黒があわててコウを取った図である。
・白はもちろん1とつめて、あとを順々につめ合うと、結果は前図とまったく逆になることがわかるはずである。
⇒白がコウを取って黒がアタリとなり、黒がコウダテを求めるのである。
※このように、コウを先に取るか最後に取るかでは、重大な差が出る。
攻合いが大きければ大きいほど、コウの取り番は大きな問題で、勝敗に直結する。
たった一つのコウ材がないばかりに、無念の涙をのんだという例はいくらでもあるようだ。
「攻合いのコウは最後に取れ」――この原則は、眼のある石の攻合いでもまったく同じである。
(坂田栄男『囲碁名言集』有紀書房、1988年[1992年版]、256頁~257頁)
【坂田栄男『囲碁名言集』有紀書房はこちらから】
囲碁名言集
外ダメ、内ダメ以外の手筋
外ダメからでも、内ダメからでも、うまくいかないことがある。
だから、囲碁はむずかしい。工藤紀夫『初段合格の手筋150題』(日本棋院、2001年[2008年版])の中には、次のような問題がある。
【問題81】(黒番)
≪棋譜≫(177頁の問題図)
棋譜再生
☆攻め合いの考え方は摩訶不思議なところがある。
本題の黒の手数は三手。白は四手であるから、諦めてしまいそう。
でも逆転の手筋があるかもしれない。頑張って読み切ること。
【失敗1:内ダメから詰めた場合】
≪棋譜≫(178頁の失敗1)
棋譜再生
・黒1はいけない。
※攻め合いは多くの場合、「内ダメから詰めるのは間違っている」。
⇒黒1が内ダメから詰めた手で、攻め合いはやはり黒の負け。
【失敗2:外ダメから詰めた場合】
≪棋譜≫(178頁の失敗2)
棋譜再生
・では黒1の外からダメを詰めればよいかというと、これも失敗。
・白2のオキで、ピッタリ黒の一手負けに終わる。
【正解:「眼あり眼なし」の眼持ち】
≪棋譜≫(178頁の正解)
棋譜再生
・急がば回れの黒1が手筋。
⇒黒1によって、白2、4と迂回させられ、白は最後のアタリが打てなくなる。
※この結果を「眼あり眼なし」といい、見事に攻め合いを制した。
(工藤紀夫『初段合格の手筋150題』日本棋院、2001年[2008年版]、177頁~178頁)
【『初段合格の手筋150題』日本棋院はこちらから】
初段合格の手筋150題 (囲碁文庫)
手割りを考えよ
石を捨てた、取られたというとき、その結果を判断する目安になるのが、「手割り」である。
有名なハメ手を紹介している。
【1図】
≪棋譜≫(170頁の1図)
棋譜再生
・黒4でa(6, 十六)、白b(7, 十八)と白をワタらせれば、なんでもなかった。
【2図】
≪棋譜≫(170頁の2図)
棋譜再生
・黒30まで、たいへんなハマリである。
☆この結果の「手割り」を解説している。
【3図】
≪棋譜≫(170頁の3図)
棋譜再生
・白は六子を取られている。
・その六子に見合う黒の六子を取り除くことによって、石の効率が知れる。
⇒黒の六子とは、2図の黒16、10、18、28、30、そして黒(7, 十七)である。
【4図】
≪棋譜≫(170頁の4図)
棋譜再生
・3図の黒六子を取り除いた結果は、こうなる。
しかし、黒はまだ不要な黒二子、すなわち黒(4, 十六)と黒(5, 十六)がくっついている。
・また、得た20目ちょっとの地と白の外勢をくらべれば、その優劣がはっきりするだろう。
⇒白大優勢である。
(工藤紀夫『新・早わかり格言小事典 役に立つ囲碁の法則』日本棋院、1994年[2007年版]、170頁)
ポンぬきと手割~坂田栄男『囲碁名言集』より
☆ポンぬきは石にムダがなく、威力も大きい。
よほどのことがないかぎり、ポンぬきをさせてはならない
よく「ポンぬき三十目」といって、ポンぬきはさせてはならないものとされる。
三十目という数字に根拠なく、「たいへん大きいのだ」ということを表現したもののようだ。
(じっさい三十目、ときにはそれ以上の価値を持つポンぬきもあるという)
ポンぬきは、それ自体がひじょうな好形であるばかりでなく、厚みが四方に働くのが大きな特徴である。
したがって、辺や隅に片寄るよりも、中央のポンぬきほど価値がある。
【中央のポンぬきの模型図】
≪棋譜≫
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・白が四隅の星を占め、黒が中央でポンぬいた形。
・むろん実戦ではできるはずがなく、これは一つの模型図である。
⇒これで両者の力はつり合っている、という定説になっているそうだ。
〇「一に空き隅」といわれる重要な隅の拠点を、白は四つとも占めている。対する黒は、空中になんら実利をともなわないポンぬきがあるだけなのに、これで四隅に対抗できるという。
※坂田栄男氏は、院生(日本棋院で養成するプロ棋士のタマゴ)の時分、実験的にこの配置から打ってみたことがあるらしい。
⇒優劣はつけがたかったそうだ。
黒先なら黒がいいし、白先なら、わずかに白に分がある。
先に打ったほうが有利ということは、この配置が互角という証拠にほかならない。
〇なにしろ黒は中央に堅塁があるから、どんなにせまい白の構えにでも、平気で打ち込んで行ける。
もぐりこんで活き、白の外勢を厚くしても、それは気にかける必要がない。厚みはポンぬきが消してくれるからである。
また根拠がなくて攻め出されても、ポンぬきの声援があるから、トビ出しさえすれば、もう安全である。
隅に一手打つのは、だいたい十目の価値が持つといわれる。
かりにこの説が正しいものとし、上図の形が五分とすれば、四隅に一手ずつ打った白は四十目。それに対抗している黒のポンぬきも、おなじ四十目にあたるといえると、坂田氏は解説している。
このように中央のポンぬきは、大きな威力を持っている。
たとえ辺でも隅でも、ともかくポンぬきをさせるのは感心しない。
一個の石を取るには、タテヨコ四つのダメをつめればよく、その最小限の手数で石を取るのがポンぬきである。
ポンぬきは石にムダがなく、しかも弾力にとんで富んでいる。相手にはポンぬきをさせぬよう、自分からはチャンスがあれば、ためらわずにポンぬいて打つべきであるという。
【悪手の見当】
≪棋譜≫
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・白1と走り、黒2とツケて以下7まで。
☆初心の人の碁を見ていると、こんな変化がよく見られるという。
どの手がおかしいのか?
⇒白1に対する黒2のツケが悪手である。
・それに対する白3も悪手である。
(3は2の非をトガめないだけ、2よりも罪の重い手といえる)
※双方が悪手を打った場合、あとから打ったほうが不利を招くのは理の当然だとする。
・白7までの結果は隅の実利が大きく、それだけ白が不利となっている。
〇黒2は4とコスんで受けるところである。
(それを2とツケてきたのだから、白は気合からいっても、反発しなくてはならない)
【白はハネ出す一手】
≪棋譜≫
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・ここは白1とハネ出す一手である。
・黒2の切りに3とカカエて、必然黒6までとなる。
⇒こんな隅っこでも、ポンぬきはポンぬきなりの威力があって、白はすぐ続いて7、9と黒をゆさぶることができる。
・黒10には11とサガリ。
(黒イ[18の六、黒10の右]のオサエは隅には利かない)
【手割による検討】
≪棋譜≫
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・前図の結果を解剖してみると、このようになる。
・はじめ白1と三々に打ち込んで、黒2に3、5と打った。
・黒はだまって6とツギ、白7から11まで。
⇒この形に黒イ[17の二、白1の上]、白ロ[17の一]を加えたのが前図である。
※この解剖診断によって、悪手は黒の側にばかりあることが明らかになっているという。
・まず黒6は、いつでもハ[16の一、白3の上]とアテて、白イ[17の二、白1の上]とツガせるに決まったところ。
・それから6とツゲば、白11、黒ニ[18の六]、白7、黒10、白8,黒その左オサエ、白1の下ツギ、となるのが、定石であるという。
(白は後手で活きることになる)
・さらに大悪なのは、黒イ[17の二]と放りこんでいることで、もともとハ[16の一]とアテるべきところを、黒イ[17の二]、白ロ[17の一]と取らせたのだから、お話にならないという。
⇒ポンぬかせた罪が、そのまま黒の不利、白の有利につながっている。
〇このように、手順をかえて形を調べ、着手の可否を検討するのを手割(てわり)という。
強くなるにしたがって、興味を持つようになってくるようだ。
(坂田栄男『囲碁名言集』有紀書房、1988年[1992年版]、148頁~151頁)
捨て石と手割~坂田栄男『囲碁名言集』より
※形をととのえるには、捨て石が有効なことが多い。
ことに第三線の石は、一つ第二線にサガって捨てるのがよい
格言「二子(もく)にして捨てよ」
坂田氏によれば、「石を捨てる楽しさ」が碁にはあるという。
相手に石を取らせ、それをタネにいろいろと仕事をする。
捨て石がうまくいったときの楽しさは、石を取るのとはまた違った味わいがある。
この捨て石のアジがわかるようになると、もう相当な腕前になっているはずだという。
初心のうちは、相手の石は取りたい、自分の石は取られたくないの一心である。石を捨てる、わざわざ取らせるなどということは、初心者は夢にも考えない。
それがだんだん強くなると、要石と廃石の区別がつくようになる。さらに捨て石を投じて手割をうんぬんするようになると、もうアマチュアとしては、一人前の打ち手に成長している。
よく「アマは石を取ろうとする、プロは捨てようとする」というが、一面の真理であるようだ。
〇石を捨てる目的の第一は、それによって相手をしめつけ、自分の形をととのえることにある。
したがって、アタリにされた石をポンと打ちぬかせてしまっては、うまく目的を果たせない。とくに第三線の石を捨てる場合は、一つノビて取らせるのが原則になる。
⇒ノビることによって手数をふやし、その間にしめつけをはかる。
【白ツケて整形】
≪棋譜≫
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☆黒の堅陣の中に白三子が孤立しているが、この白はなかなかの好形であるから、すぐにおさまることができる。
というのも、白1とツケるうまい手があるから。
これを捨て石にして黒に取らせ、白はきれいに形をととのえる。
【白の働いた形】
≪棋譜≫
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・続いて黒2のハネ出しに白3と切り、4のアテに5とノビる。
⇒この白5が「一つサガって捨てる」手である。
・黒6のオサエで二子は取られるけれど、これをタネに白は7のアテ、そして9、11まで、ムダなくぴったり利かすことができる。
⇒こうして、白は先手に整備し、もう攻められる心配はなくなった。
※黒2とハネ出して以降、この手順は一本道である。
白の石はどれも効果的に働き、理想的な結果となっている。
【失敗図:白が捨て石を打たない場合】
≪棋譜≫
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☆前図の結果がいかに白の働いた形であるかを説明してみよう。つまり、白が捨て石を打たないと、どうなるのか?
〇もし白が捨て石を打たず、本図のように、白1と突きあたったとすれば、黒は2とぶつかってくる。
(また1で2と打てば、黒は1とくる)
※この形では、白が形をととのえるには、1と2の両点が急所なので、普通に打ったのでは、二つの急所を二つとも占めることはできない。
※ところが前図では、打てないはずの急所を、二つとも白が打っている。
そこに捨て石の値打ちがある。
【手割:白の働きを確認】
≪棋譜≫
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☆手割で解剖して、白の働きを確認してみよう。
・はじめに白1と突きあたったとき、黒は2とハネて受けた。
・白3には4とサガり、白は5のマガリを利かして7とオサエる。
・ここで黒は8と手入れをしたのである。
⇒この形に白の捨て石の二子、黒が取るのに打った二子を加えると、2番目の図【白の働いた形】となる。
☆本図の手順を見ていえることは、白の着手には一つのムダもないのに、黒の打った手は不合理だらけ、ということである。
・第一、白1に黒2と打つことはありえない。
黒2は3と打つか、すくなくともイ(17の六、黒2の右)と引くところである。
・黒4もイとツグべきである。
・最後の黒8に至っては、手のないところに手を入れた、不要の一手になっている。
〇捨て石がどんなに効果のあるものか、これでわかる。
(坂田栄男『囲碁名言集』有紀書房、1988年[1992年版]、182頁~184頁)
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