≪新渡戸稲造「武士道」と英語~主述関係を意識して読もう≫
(2021年12月30日投稿)
前回のブログでは、構文さえ理解できれば、解釈が比較的やさしい英文をあげておいた。
今回は、構文そのものよりも、英文の文型、構造をきちんと理解していないと、英文解釈が難しいものをみてみよう。そのためには、英文の主述関係を意識して読んでみることが大切である。
その題材として、新渡戸稲造が英文で書いた『武士道』を取り上げてみる。
参考にしたのは、次の著作である。
〇別冊宝島編集部編『「武士道」を原文で読む』(宝島社、2006年)
この著作の中には、1つの文が長い場合、次の3つの作業をしながら、読むのがポイントであると述べている。
①主語(主部)を見つけてアンダーラインを引く。
②述語の動詞を見つけて〇で囲む。
③意味のまとまりを見つけて/で区切る。
(別冊宝島編集部編『「武士道」を原文で読む』宝島社、2006年、15頁)
これも一つの方法であろう。実際に試してみて、自分に合った読み方をしていってほしい。
【『「武士道」を原文で読む』宝島社はこちらから】
「武士道」を原文で読む (宝島社新書)
さて、今回の執筆項目は次のようになる。
・1862年(文久2)、現在の岩手県盛岡市に生まれ、9歳で養子となり東京に出る。
・札幌農学校卒業後、アメリカ、ドイツへ留学する。農学、経済学などを学び、札幌農学校教授を皮切りに、京都帝大・東京帝大教授、東京女子大学初代学長などを歴任する。
・1920年(大正9)、国際連盟設立時には事務局次長としてジュネーブに6年間滞在する。
・1933年(昭和8)、カナダで開催された太平洋会議に出席する。10月15日、ビクトリア市にて享年71歳で死去。
※『Bushido-the soul of Japan』は1900年に書かれた。
(別冊宝島編集部編『「武士道」を原文で読む』宝島社、2006年、40頁、116頁、148頁)
別冊宝島編集部編『「武士道」を原文で読む』(宝島社)は、新渡戸稲造が1900(明治33)年にアメリカの出版社から上梓した『Bushido-the soul of Japan』の序文と本文17章の中から、各章の中心となる段落をピックアップしている。そして、単語の意味、英文を読み解く上でのヒントと日本語訳をつけている。
なお、『武士道』の原著は、新渡戸稲造が英文で書いた。だから訳者の櫻井鷗村が名をつらねた、邦文『武士道』は、明治41年が初版であった。
・格調高い新渡戸稲造の英文を読み解くには、この書の使い方としては、次のようにするのが、オススメであるようだ。
①まず和訳を読み、内容をつかむ。
②和訳1文を読んで、該当するその英文を読む(訳文と英文は番号で対照できる)
③わからない部分は「語句の意味」「英文の読み方」を参照する。
また、『Bushido』は1文が長いので、次の3つの作業をしながら、読むのがポイントである。
①主語(主部)を見つけてアンダーラインを引く。
②述語の動詞を見つけて〇で囲む。
③意味のまとまりを見つけて/で区切る。
(別冊宝島編集部編『「武士道」を原文で読む』宝島社、2006年、6頁~7頁、15頁、28頁~29頁)
新渡戸稲造の誕生から、20歳前の札幌農学校を卒業するまでの年表は、次のようになる。
1862年 9月1日、盛岡にて誕生
1867年 父・十次郎死去
1871年 叔父・太田時敏の養子となり、上京し、築地英学校に入学
1873年 東京外国語学校に入学
1875年 東京英語学校に入学
1877年 札幌農学校に第二期生として入学
1880年 母・勢喜(せき)死去
1881年 札幌農学校を卒業
20歳までの新渡戸稲造は、どのように英語と出あい、学習していったのだろうか。つまり20歳までの英語学習はどのような遍歴を辿ったのか。
この点について、エッセイ「井戸端で水を浴び、睡魔を払って英語と闘う」に略述してあるので、紹介しておこう。
(英語学習法としても参考となることが多い!)
裕福な武家に生まれた新渡戸稲造は、幼少よりかかりつけの医者から英語を学んだと言われている。
しかし、本格的に英語を学び始めたのは、9歳で入学した築地英学校時代のことである。外国人講師の指導のもとで毎日2時間学習したという。
めきめきと力をつけた新渡戸稲造は、11歳になると東京外国語学校(現・東京外国語大学)へ入学した。4年間、数学、地理、歴史などを英語で学んだ。
15歳を迎えたとき、「少年よ、大志を抱け」で有名なクラーク博士が教鞭をとっていた札幌農学校に入学した。
(札幌農学校の同期には、内村鑑三、宮部金吾らがいた。新渡戸が宮部金吾に宛てた直筆の英文の書簡が残っており、写真が掲載してある)
やはり、札幌農学校でも、ほとんどの教授は外国人であった。テキストも英語である。
(開国間もない当時は、西洋式の高等教育を授けることのできる日本人教師、日本語の教材が不足していた。英語のテキストを用いながら外国人が教えるといったことは、その時代にあってはやむを得ぬことだった)
ところで、英語漬けの毎日を過ごしていれば、英語力が上がるのは当然のことのように思えるが、それに対応するためには、大変な努力が必要だった。こんな逸話がある。
あるとき勉学に励んでいた新渡戸は睡魔に襲われる。そのとき新渡戸は井戸端まで駆け寄り、水を浴びて睡魔を払い、勉強を続けたという。
新渡戸が実践した英語学習法の一つに「多読」がある。
英語の本をとにかく大量に読みあさった新渡戸は、目を患ったほどだが、これにより速読力がつき、日本語の本より英語の本の方が読みやすくなるまでに至ったようだ。
18歳のときには、トマス・カーライル著『衣服哲学』をすらすらと読みこなしたという。驚きである。
また、一度習った単語は日常生活で使用したり、口癖のように繰り返し暗唱するなどして、忘れないように努めた。
こうした努力と英語漬けの環境により、後年世界を舞台に活躍できるほどの英語力を身につけた。
(別冊宝島編集部編『「武士道」を原文で読む』宝島社、2006年、38頁~40頁)
このように、英語学習法の一つ「多読」を実践して、速読力がついたというエピソードは大いに参考となろう。
新渡戸稲造の名著『Bushido』は、「武士道」を体系立てて英文を著し、欧米人に大反響を巻き起こした。
「武士道」は、封建制度を母として生まれた、わが国特有の道徳観であるとされる。正義を求め、名誉を重んじ、節制と恥の観念を大切にした武士道の考えは、封建の世が去った後も、宗教教育のない日本人の精神的ルーツとして存在し続ける。いわば、日本人の精神的バックグランドである。
100年前、武士道の内容を英語で出版できる日本人がいたことは我々の誇りである。
心血を注いで英語を習得した新渡戸の姿勢は、まさに武士道そのものといえる。新渡戸は、格調高く厳かに、そして何よりも正確に日本人の心を伝えようとした。その気概は、原文でなければ味わうことはできないと主張する人もいるくらいである。
新渡戸稲造の『Bushido』は、初版が発行された20世紀初頭、米国の第26代大統領セオドア・ルーズベルトも大変感銘をうけた。本を大量に買って子供や友人のほか、陸軍士官学校や海軍兵学校の生徒にも薦めたという。
そして、あの発明王エジソンも『Bushido』に、大いに啓発されたと伝えられる。
ともあれ、『Bushido』は、英文のほかにドイツ語・フランス語・ロシア語など数カ国語に翻訳され、欧米の知識階級が日本人のメンタリティーを理解することに貢献した。
(別冊宝島編集部編『「武士道」を原文で読む』宝島社、2006年、2頁~3頁)
それでは、実際に新渡戸稲造の書いた『Bushido』の英文を読んでみよう。
Chivalry is a flower no less indigenous to the
soil of Japan than its emblem, the cherry
blossom; nor is it a dried-up specimen of an
antique virtue preserved in the herbarium of our
history.
It is still a living object of power and beauty
among us; and if it assumes no tangible shape or
form, it not the less scents the moral atmosphere,
and makes us aware that we are still under its
potent spell.
<英単語>
・chivalry 騎士道精神
・indigenous 固有の
・specimen 見本
・herbarium 植物標本集
・tangible 具体的な
・scent におわす
・potent 強い
・spell 魅力
<英文の読み方>
・前半は、no less ~ than…「…と同じく~」を使い、Chivalry(武士道)とits emblem, the cherry
blossom(日本の象徴である桜)を比較する文。
・後半は、否定語nor(また~でもない)を文頭に置いた倒置の文。
・ itはchivalryを指す。過去分詞preserved in the herbarium of our historyまでが前の名詞 a dried-up specimen of an antique virtueを説明している。
・if節は譲歩(たとえ~でも)を表す。
・not the lessは挿入句で「それでもなお、やはり」の意味。
・この文中に出てくるit(its)はすべてchivalry(武士道)を指す。
<訳文>
武士道は日本の象徴である桜の花と同様に、わが国固有の華である。歴史の標本の中に収められた、干からびた押し花のように古めかしい道徳ではなく、今でも力と美の対象として、武士道は私たちの中にあり続けている。それは具体的な姿形をとってはいないものの、道徳の雰囲気を今も漂わせており、私たちは今だに、それに強く引きつけられていることに気づく。
「第1章 道徳の体系としての武士道」より
(別冊宝島編集部編『「武士道」を原文で読む』宝島社、2006年、18頁~19頁)
Bushido, then, is the code of moral
principles which the knights were required
or instructed to observe.
It is not a written code; at best it consists of a
few maxims handed down from mouth to mouth
or coming from the pen of some well-known
warrior or savant.
<英単語>
・code 掟
・observe 従う
・maxim 格言
・savant 学者
<英文の読み方>
・主語はBushido、述語はis。thenは「そういうわけで」の意で挿入されている。
・そのあとに続くwhich the knights were required or instructed to observeは前のthe code of moral
principlesを説明している。to observe(従うことを)は、were required と(were)instructedの両方にかかる。
・ItはBushidoを指す。このページに出てくる文中のitはすべてBushido。
・at bestからの文の切れ目は、次のようになる。
at best /it consists of a few maxims /handed down from mouth to mouth /or coming from the pen /of some well-known warrior or savant.
comingはmaximsにつながっている。
<訳文>
そのようなわけで、武士道とは道徳上の掟であり、武士はそれに従うよう教えられ、実践を求められた。
武士道は成文化された掟ではなく、口伝えや、ある有名な武士や学者が書き留めた格言といった程度のものである。
「第1章 道徳の体系としての武士道」より
(別冊宝島編集部編『「武士道」を原文で読む』宝島社、2006年、22頁~23頁)
Valour, Fortitude, Bravery, Fearlessness,
Courage, being the qualities of soul which
appeal most easily to juvenile minds, and which
can be trained by exercise and example, were, so
to speak, the most popular virtues, early
emulated among the youth.
<英単語>
・fortitude 気丈さ
・juvenile 少年の
・emulate まねる
<英文の読み方>
・2つのwhich は関係代名詞で、ともにthe qualities of soulにかかる。
<訳文>
勇猛、気丈、勇敢、大胆、勇気などは幼い武士たちに最も受け入れられやすい資質で、手本に倣えば養成できる、言わば、徳の中でも最も身近なものであった。
「第4章 勇気、勇敢と忍耐の精神」より
(別冊宝島編集部編『「武士道」を原文で読む』宝島社、2006年、56頁~57頁)
For propriety, springing as it does from
motives of benevolence and modesty, and
actuated by tender feelings toward the
sensibilities of others, is ever a graceful
expression of sympathy. (中略)
In America, when you make a gift, you sing its
praises to the recipient; in Japan we depreciate or
slander it.
<英単語>
・propriety 礼儀正しさ
・spring 生まれる
・motive 動機
・actuate 動かす
・graceful 奥ゆかしい
・depreciate 軽視する
・slander そしる
<英文の読み方>
・For~は前の文を受けて「というのは~」と理由を表す。主語はpropriety、述語は4行目のis。
・springingと、3行目のactuatedはともに主語proprietyにつながる。
・springing as it does from~のitはpropriety(礼儀)。
・asは「~なので」と理由を表す。強調するために動詞(spring)が前に出ている。
本来の語順は、as it springs from~。doesはspringsの代わりに使われている語。
・its、itはともにa giftを指す。
<訳文>
礼儀とは仁と謙遜から生まれるもので、他人への配慮の気持ちからにじみ出る、奥ゆかしい思いやりと言える。(中略)
贈り物をする際、アメリカ人は、その品物を絶賛して渡すのに対し、日本人はわざと軽視したり、つまらないもののように言う。
「第6章 礼儀」より
(別冊宝島編集部編『「武士道」を原文で読む』宝島社、2006年、76頁~77頁)
The apotheosis of Sincerity to which
Confucius gives expression in the Doctrine
of the Mean, attributes to its transcendental
powers, almost identifying them with the Divine.
“Sincerity is the end and the beginning of all
things; without Sincerity there would be
nothing.”
<英単語>
・apotheosis 神聖視
・transcendental 超越した
<英文の読み方>
・The apotheosis ~the Meanまでが主部、述語は attributes。
・attributes to itsのitsはSincerityを指す。
・identifying themのthemはtranscendental powersを指す。
・without Sincerity there would be nothing.は仮定法の文。
<訳文>
孔子が『中庸』の中で誠実を賛美するのは、誠実を持つ超越した力のせいであり、孔子はその力をほとんど神と結びつけてこう語っている。
「すべては誠実に始まり誠実に終わる。誠実なくしては何も存在しない。」
「第7章 真実そして誠実」より
(別冊宝島編集部編『「武士道」を原文で読む』宝島社、2006年、86頁~87頁)
野村恵造『Vision Quest 総合英語 2nd Edition』(新興出版社啓林館、2017年)においても、「ifを使わない仮定法①:副詞(句)で仮定を表す」には次の例文があり、解説がなされていた。
Focus 157 ifを使わない仮定法①:副詞(句)で仮定を表す
1. Without your help, I would not be able to do this job.
あなたの助けがなければ、私はこの仕事ができないだろう
(野村恵造『Vision Quest 総合英語 2nd Edition』新興出版社啓林館、2017年、278頁)
【野村恵造『Vision Quest 総合英語 2nd Edition』はこちらから】
Vision Quest 総合英語 2nd Edition
Those who are well acquainted with our
history will remember that only a few years
after our treaty ports were opened to foreign
trade, feudalism was abolished, and when with it
the samurai’s fiefs were taken and bonds issued to
them in compensation, they were given liberty to
invest them in mercantile transactions.
<英単語>
・fief 領地
・bond 公債
・compensation 報酬
・mercantile 商業の
・transaction 取引
<英文の読み方>
・those who~は「~する人々」を表し、our historyまでが主部となる。
・when with it(それと時を同じくして)のitは前で述べた「封建制度の廃止」を指す。
<訳文>
わが国の歴史に精通している者ならば、開港からわずか数年で封建制度が廃止された事実を記憶しておられるだろう。それと時を同じくして、武士は領地を取り上げられ、見返りに公債が発行され、それを商業の取引に投資する自由が与えられた。
「第7章 真実そして誠実」より
(別冊宝島編集部編『「武士道」を原文で読む』宝島社、2006年、88頁~89頁)
The individualism of the West, which
recognises separate interests for father and
son, husband and wife, necessarily brings into
strong relief the duties owed by one to the other;
but Bushido held that the interest of the family
and of the members thereof is intact, - one and
inseparable.
<英単語>
・individualism 個人主義
・interest 利害関係
・relief 強調
・owe 負うている
・thereof それゆえに
・intact 完全な
・inseparable 分けることができない
<英文の読み方>
・to the other;までの文の主部は、The individualism of the West, which recognises separate interests for father and son, husband and wife、述語はbrings。
・whichはThe individualism of the Westを指し、「そして、西洋の個人主義とは…」と説明を加えている。
・bring into strong relief~で「~を際立たせる」という意。
・過去分詞owed by one to the otherまでは前のthe duties(義務)にかかる。
・後半but以下の文では、述語held(hold)は「主張する」の意で、「武士道は~ということを主張している」となる。
<訳文>
西洋の個人主義では、父と息子、夫と妻それぞれの利害を分けて考えるため、個人が他者に対して負う義務は明らかである。しかし、武士道では、家族全体と個々の利害は完全に一体であり、分けることができない。
「第9章 忠義」より
(別冊宝島編集部編『「武士道」を原文で読む』宝島社、2006年、106頁~107頁)
In his great history, Sanyo relates in touching
language the heart struggle of Shigemori
concerning his father’s rebellious conduct.
“If I be loyal , my father must be undone; if I
obey my father, my duty to my sovereign must
go amiss.”
Poor Shigemori!
We see him afterward praying with all his soul
that kind Heaven may visit him with death, and that
he may be released from this world where it is
hard for purity and righteousness to dwell.
Many a Shigemori has his heart torn by the
conflict between duty and affection.
Indeed, neither Shakespeare nor the Old
Testament itself contains an adequate rendering
of ko, our conception of filial piety, and yet in
such conflicts Bushido never wavered in its
choice of loyalty.
<英単語>
・rebellious 謀反の
・sovereign 君主
・amiss 具合悪く
・afterward 後に
・purity 清廉
・dwell 居住する
・torn tearの過去分詞。引き裂かれた
・conflict 葛藤
・neither ~nor… ~でもなければ、…でもない
・adequate 適切な
・render 敬意を表す
・waver ためらう
<英文の読み方>
・In his great history,~の文の述語はrelates(物語る)、目的語はthe heart。
・in touching languageは「感動的な言い回しで」を表す。
・<see+人+~ing>で「人が~している様子を見る」の意。
・that kind Heaven ~, and that he may~の2つのthat節がpraying(~を祈る)の目的語になっている。
・many a +単数形で「数多くの」を表す。
<訳文>
頼山陽は、歴史書の中で、平重盛が父の謀反に対して苦しむ様子を感動的な表現で次のように著している。
「忠ならんと欲すれば孝ならず、孝ならんと欲すれば忠ならず」。
哀れな重盛よ!
その後彼は、全身全霊を込めて祈り、死して天に召され、清廉、正義といったことが育ちにくいこの世から解放されるように願ったのである。
重盛と同じように義務と愛情のはざまで心を引き裂かれた人物はあまたいる。シェークスピア(ママ)にも旧約聖書にも、我々の持つ孝行という概念と合致するような教えはないのだが、こうした葛藤が起こったとき、武士道では忠義という教えに何の迷いも生じなかった。
「第9章 忠義」より
(別冊宝島編集部編『「武士道」を原文で読む』宝島社、2006年、108頁~111頁)
野村恵造『Vision Quest 総合英語 2nd Edition』(新興出版社啓林館、2017年)においても、「<知覚動詞+O+分詞>」には次の例文があり、解説がなされていた。
Focus 106 <知覚動詞+O+分詞>
I saw Steve waiting for a bus. 私はスティーブがバスを待っているのを見かけた。
(S)(V)(O)(C)
⇒Steve was waiting(スティーブが待っていた)
・see(見る)などの知覚動詞はSVOC(C=分詞)の形をとることができる。
Cが現在分詞の場合、OとCの間には能動の関係がある。
・<see+O+現在分詞>の形で「Oが~しているのが見える」という意味を表す。
Oと現在分詞との間には、「スティーブが待っている」という能動の関係がある。
(野村恵造『Vision Quest 総合英語 2nd Edition』新興出版社啓林館、2017年、190頁)
The French, in spite of the theory
propounded by one of their most
distinguished philosophers, Descartes, that the
soul is located in the pineal gland, still insist in
using the term ventre in a sense which, if
anatomically too vague, is nevertheless
physiologically significant.
Similarly, entrailles stands in their language for
affection and compassion.
Nor is such a belief mere superstition, being
more scientific than the general idea of making
the heart the centre of the feelings.
<英単語>
・propound 提唱する
・philosopher 哲学者
・Descartes デカルト
・pineal gland 松果腺
・ventre (フランス語)ヴァントル 腹部
・anatomically 解剖学上は
・vague 漠然とした
・physiologically 生理学上は
・similarly 同様に
・entrailles (フランス語)アントレイユ 腹部
・compassion 憐れみ
・superstition 迷信
<英文の読み方>
・The French, in spite of~の文の主語はThe French、述語はinsist。
・in spite of~で「~にもかかわらず」。
・Descartesのあとのthat節はthe theory(理論)の内容を表している。
・否定語norを文頭に置くことにより倒置の形となっている。
<訳文>
最も優れた哲学者の一人、デカルトが、「魂は松果腺にある」という理論を唱えたが、フランス人は今だに、解剖学上は非常に漠然としているが、生理学的には意味のあるヴァントル(腹部)という言葉を使っている。
同様に、アントレイユ(腹部)という言葉を愛情や憐れみという意味で使っている。
これは単なる迷信からではなく、心臓は感情の中心だからという一般的考えと比べると、より科学的な根拠に基づいている。
「第12章 切腹と敵討ち」より
(別冊宝島編集部編『「武士道」を原文で読む』宝島社、2006年、138頁~139頁)
野村恵造『Vision Quest 総合英語 2nd Edition』(新興出版社啓林館、2017年)においても、「that を使った同格」には次の例文があり、解説がなされていた。
Focus 182 that を使った同格
He faced the fact that he would have to try again.
もう一度挑戦しなければならないという事実に彼は直面した。
(野村恵造『Vision Quest 総合英語 2nd Edition』新興出版社啓林館、2017年、317頁)
また、野村恵造『Vision Quest 総合英語 2nd Edition』(新興出版社啓林館、2017年)においても、「否定語を文頭に置くことにより倒置の形となる場合」には次の例文があり、解説がなされていた。
Focus 175 強調のための倒置
1. Never have I seen such a beautiful sight.
私はこれまで一度もこんなに美しい光景を見たことがありません。
2. Not a word did he say. 彼は一言も言わなかった。
【倒置】
・英語の語順は普通<主語+(助)動詞>だが、主語と(助)動詞の順序が逆になることがある。これを倒置という。
【否定を表す語句が文頭に出る】
1.never(一度も~ない、決して~ない)、rarely(めったに~ない)のような否定を表す副詞(句)を文頭に置き、否定の意味を強調することがある。
・このとき、その後は疑問文と同じ語順になる。
(主に文語的な表現である。)
<例文>
・I have never seen such a beautiful sight.
①否定語句を文頭に
・Never have I seen such a beautiful sight.
②<主語+動詞>の部分を疑問文の語順に
【倒置で使われる否定語句】
□ never 一度も[決して]~ない
□ little まったく[ほとんど]~ない
□ hardly/scarcely ほとんど~ない
□ seldom/rarely めったに~ない
□ not only ~ ~だけではなく
□ not until … …まで~ない
□ at no time 一度も~ない
□ on no account 決して~ない
□ under no circumstances どんな状況でも~ない
2.Focus 175の第2文のように、目的語が no, not, littleなどの否定語を伴って文頭に出た場合、疑問文と同じ語順になる。
・ He did not say a word.
→Not a word did he say. (彼は一言も言わなかった。)
(O) (疑問文の語順)
(野村恵造『Vision Quest 総合英語 2nd Edition』新興出版社啓林館、2017年、309頁)
In manifold ways has Bushido filtered down
from the social class where it originated, and
acted as leaven among the masses, furnishing a
moral standard for the whole people.
<英単語>
・manifold 多種多様な
・filter だんだん知られてくる
・originate 源を発する
・leaven 酵母
・the masses 大衆
・furnish (必要なものを)供給する
<英文の読み方>
・倒置の文。主語はBushido、述語はhas filtered(浸透する)。
・where it originatedは前のthe social classにかかり、「それ(武士道)が生まれた武士階級」となる。
・actedの主語はBushido、furnishing~は「~をもたらし」という意味。
<訳文>
武士道は、最初にそれを生んだ武士階級から多種多様な方向に浸透していき、大衆の間で酵母の役割を果たしながら、すべての人々に道徳規範を示していった。
「第15章 武士道の影響」より
このように、武士道はすべての日本人の道徳規範となっていった。大衆は武士ほどの気高さにまで到達することはなかったものの、やがて武士道は大和魂という名で呼ばれ、日本人の民族精神を表すまでに浸透した。
(別冊宝島編集部編『「武士道」を原文で読む』宝島社、2006年、162頁~163頁)
(2021年12月30日投稿)
【はじめに】
前回のブログでは、構文さえ理解できれば、解釈が比較的やさしい英文をあげておいた。
今回は、構文そのものよりも、英文の文型、構造をきちんと理解していないと、英文解釈が難しいものをみてみよう。そのためには、英文の主述関係を意識して読んでみることが大切である。
その題材として、新渡戸稲造が英文で書いた『武士道』を取り上げてみる。
参考にしたのは、次の著作である。
〇別冊宝島編集部編『「武士道」を原文で読む』(宝島社、2006年)
この著作の中には、1つの文が長い場合、次の3つの作業をしながら、読むのがポイントであると述べている。
①主語(主部)を見つけてアンダーラインを引く。
②述語の動詞を見つけて〇で囲む。
③意味のまとまりを見つけて/で区切る。
(別冊宝島編集部編『「武士道」を原文で読む』宝島社、2006年、15頁)
これも一つの方法であろう。実際に試してみて、自分に合った読み方をしていってほしい。
【『「武士道」を原文で読む』宝島社はこちらから】
「武士道」を原文で読む (宝島社新書)
さて、今回の執筆項目は次のようになる。
〇原著者新渡戸稲造(にとべ・いなぞう)の紹介
〇別冊宝島編集部編『「武士道」を原文で読む』(宝島社)の構成と使い方
〇国際人・新渡戸稲造と英語
〇新渡戸稲造の名著『Bushido』について
〇名著『Bushido』の内容
・武士道は日本の象徴である桜と同様に我が国固有の華である
・武士道とは心に刻み込まれた道徳上の掟である
・礼儀は、他人への配慮から生まれる奥ゆかしい思いやりである
・真実や誠実さを欠く礼儀は見せかけだけの茶番である
・洞察力のある人なら、富の構築と名誉がイコールでないことがわかるだろう
・武士道では、家族全体と個々の利害は完全に一体であり、分けられない
・切腹は、腹を魂と愛情の中心だとする解剖学上の信念から来ている
・もとはエリートの栄誉だった武士道は次第に全国民の志となった
原著者新渡戸稲造(にとべ・いなぞう)の紹介
・1862年(文久2)、現在の岩手県盛岡市に生まれ、9歳で養子となり東京に出る。
・札幌農学校卒業後、アメリカ、ドイツへ留学する。農学、経済学などを学び、札幌農学校教授を皮切りに、京都帝大・東京帝大教授、東京女子大学初代学長などを歴任する。
・1920年(大正9)、国際連盟設立時には事務局次長としてジュネーブに6年間滞在する。
・1933年(昭和8)、カナダで開催された太平洋会議に出席する。10月15日、ビクトリア市にて享年71歳で死去。
※『Bushido-the soul of Japan』は1900年に書かれた。
(別冊宝島編集部編『「武士道」を原文で読む』宝島社、2006年、40頁、116頁、148頁)
別冊宝島編集部編『「武士道」を原文で読む』(宝島社)の構成と使い方
別冊宝島編集部編『「武士道」を原文で読む』(宝島社)は、新渡戸稲造が1900(明治33)年にアメリカの出版社から上梓した『Bushido-the soul of Japan』の序文と本文17章の中から、各章の中心となる段落をピックアップしている。そして、単語の意味、英文を読み解く上でのヒントと日本語訳をつけている。
なお、『武士道』の原著は、新渡戸稲造が英文で書いた。だから訳者の櫻井鷗村が名をつらねた、邦文『武士道』は、明治41年が初版であった。
・格調高い新渡戸稲造の英文を読み解くには、この書の使い方としては、次のようにするのが、オススメであるようだ。
①まず和訳を読み、内容をつかむ。
②和訳1文を読んで、該当するその英文を読む(訳文と英文は番号で対照できる)
③わからない部分は「語句の意味」「英文の読み方」を参照する。
また、『Bushido』は1文が長いので、次の3つの作業をしながら、読むのがポイントである。
①主語(主部)を見つけてアンダーラインを引く。
②述語の動詞を見つけて〇で囲む。
③意味のまとまりを見つけて/で区切る。
(別冊宝島編集部編『「武士道」を原文で読む』宝島社、2006年、6頁~7頁、15頁、28頁~29頁)
国際人・新渡戸稲造と英語
新渡戸稲造の誕生から、20歳前の札幌農学校を卒業するまでの年表は、次のようになる。
1862年 9月1日、盛岡にて誕生
1867年 父・十次郎死去
1871年 叔父・太田時敏の養子となり、上京し、築地英学校に入学
1873年 東京外国語学校に入学
1875年 東京英語学校に入学
1877年 札幌農学校に第二期生として入学
1880年 母・勢喜(せき)死去
1881年 札幌農学校を卒業
20歳までの新渡戸稲造は、どのように英語と出あい、学習していったのだろうか。つまり20歳までの英語学習はどのような遍歴を辿ったのか。
この点について、エッセイ「井戸端で水を浴び、睡魔を払って英語と闘う」に略述してあるので、紹介しておこう。
(英語学習法としても参考となることが多い!)
裕福な武家に生まれた新渡戸稲造は、幼少よりかかりつけの医者から英語を学んだと言われている。
しかし、本格的に英語を学び始めたのは、9歳で入学した築地英学校時代のことである。外国人講師の指導のもとで毎日2時間学習したという。
めきめきと力をつけた新渡戸稲造は、11歳になると東京外国語学校(現・東京外国語大学)へ入学した。4年間、数学、地理、歴史などを英語で学んだ。
15歳を迎えたとき、「少年よ、大志を抱け」で有名なクラーク博士が教鞭をとっていた札幌農学校に入学した。
(札幌農学校の同期には、内村鑑三、宮部金吾らがいた。新渡戸が宮部金吾に宛てた直筆の英文の書簡が残っており、写真が掲載してある)
やはり、札幌農学校でも、ほとんどの教授は外国人であった。テキストも英語である。
(開国間もない当時は、西洋式の高等教育を授けることのできる日本人教師、日本語の教材が不足していた。英語のテキストを用いながら外国人が教えるといったことは、その時代にあってはやむを得ぬことだった)
ところで、英語漬けの毎日を過ごしていれば、英語力が上がるのは当然のことのように思えるが、それに対応するためには、大変な努力が必要だった。こんな逸話がある。
あるとき勉学に励んでいた新渡戸は睡魔に襲われる。そのとき新渡戸は井戸端まで駆け寄り、水を浴びて睡魔を払い、勉強を続けたという。
新渡戸が実践した英語学習法の一つに「多読」がある。
英語の本をとにかく大量に読みあさった新渡戸は、目を患ったほどだが、これにより速読力がつき、日本語の本より英語の本の方が読みやすくなるまでに至ったようだ。
18歳のときには、トマス・カーライル著『衣服哲学』をすらすらと読みこなしたという。驚きである。
また、一度習った単語は日常生活で使用したり、口癖のように繰り返し暗唱するなどして、忘れないように努めた。
こうした努力と英語漬けの環境により、後年世界を舞台に活躍できるほどの英語力を身につけた。
(別冊宝島編集部編『「武士道」を原文で読む』宝島社、2006年、38頁~40頁)
このように、英語学習法の一つ「多読」を実践して、速読力がついたというエピソードは大いに参考となろう。
新渡戸稲造の名著『Bushido』について
新渡戸稲造の名著『Bushido』は、「武士道」を体系立てて英文を著し、欧米人に大反響を巻き起こした。
「武士道」は、封建制度を母として生まれた、わが国特有の道徳観であるとされる。正義を求め、名誉を重んじ、節制と恥の観念を大切にした武士道の考えは、封建の世が去った後も、宗教教育のない日本人の精神的ルーツとして存在し続ける。いわば、日本人の精神的バックグランドである。
100年前、武士道の内容を英語で出版できる日本人がいたことは我々の誇りである。
心血を注いで英語を習得した新渡戸の姿勢は、まさに武士道そのものといえる。新渡戸は、格調高く厳かに、そして何よりも正確に日本人の心を伝えようとした。その気概は、原文でなければ味わうことはできないと主張する人もいるくらいである。
新渡戸稲造の『Bushido』は、初版が発行された20世紀初頭、米国の第26代大統領セオドア・ルーズベルトも大変感銘をうけた。本を大量に買って子供や友人のほか、陸軍士官学校や海軍兵学校の生徒にも薦めたという。
そして、あの発明王エジソンも『Bushido』に、大いに啓発されたと伝えられる。
ともあれ、『Bushido』は、英文のほかにドイツ語・フランス語・ロシア語など数カ国語に翻訳され、欧米の知識階級が日本人のメンタリティーを理解することに貢献した。
(別冊宝島編集部編『「武士道」を原文で読む』宝島社、2006年、2頁~3頁)
武士道は日本の象徴である桜と同様に我が国固有の華である
それでは、実際に新渡戸稲造の書いた『Bushido』の英文を読んでみよう。
Chivalry is a flower no less indigenous to the
soil of Japan than its emblem, the cherry
blossom; nor is it a dried-up specimen of an
antique virtue preserved in the herbarium of our
history.
It is still a living object of power and beauty
among us; and if it assumes no tangible shape or
form, it not the less scents the moral atmosphere,
and makes us aware that we are still under its
potent spell.
<英単語>
・chivalry 騎士道精神
・indigenous 固有の
・specimen 見本
・herbarium 植物標本集
・tangible 具体的な
・scent におわす
・potent 強い
・spell 魅力
<英文の読み方>
・前半は、no less ~ than…「…と同じく~」を使い、Chivalry(武士道)とits emblem, the cherry
blossom(日本の象徴である桜)を比較する文。
・後半は、否定語nor(また~でもない)を文頭に置いた倒置の文。
・ itはchivalryを指す。過去分詞preserved in the herbarium of our historyまでが前の名詞 a dried-up specimen of an antique virtueを説明している。
・if節は譲歩(たとえ~でも)を表す。
・not the lessは挿入句で「それでもなお、やはり」の意味。
・この文中に出てくるit(its)はすべてchivalry(武士道)を指す。
<訳文>
武士道は日本の象徴である桜の花と同様に、わが国固有の華である。歴史の標本の中に収められた、干からびた押し花のように古めかしい道徳ではなく、今でも力と美の対象として、武士道は私たちの中にあり続けている。それは具体的な姿形をとってはいないものの、道徳の雰囲気を今も漂わせており、私たちは今だに、それに強く引きつけられていることに気づく。
「第1章 道徳の体系としての武士道」より
(別冊宝島編集部編『「武士道」を原文で読む』宝島社、2006年、18頁~19頁)
武士道とは心に刻み込まれた道徳上の掟である
Bushido, then, is the code of moral
principles which the knights were required
or instructed to observe.
It is not a written code; at best it consists of a
few maxims handed down from mouth to mouth
or coming from the pen of some well-known
warrior or savant.
<英単語>
・code 掟
・observe 従う
・maxim 格言
・savant 学者
<英文の読み方>
・主語はBushido、述語はis。thenは「そういうわけで」の意で挿入されている。
・そのあとに続くwhich the knights were required or instructed to observeは前のthe code of moral
principlesを説明している。to observe(従うことを)は、were required と(were)instructedの両方にかかる。
・ItはBushidoを指す。このページに出てくる文中のitはすべてBushido。
・at bestからの文の切れ目は、次のようになる。
at best /it consists of a few maxims /handed down from mouth to mouth /or coming from the pen /of some well-known warrior or savant.
comingはmaximsにつながっている。
<訳文>
そのようなわけで、武士道とは道徳上の掟であり、武士はそれに従うよう教えられ、実践を求められた。
武士道は成文化された掟ではなく、口伝えや、ある有名な武士や学者が書き留めた格言といった程度のものである。
「第1章 道徳の体系としての武士道」より
(別冊宝島編集部編『「武士道」を原文で読む』宝島社、2006年、22頁~23頁)
武士道とは心に刻み込まれた道徳上の掟である
Valour, Fortitude, Bravery, Fearlessness,
Courage, being the qualities of soul which
appeal most easily to juvenile minds, and which
can be trained by exercise and example, were, so
to speak, the most popular virtues, early
emulated among the youth.
<英単語>
・fortitude 気丈さ
・juvenile 少年の
・emulate まねる
<英文の読み方>
・2つのwhich は関係代名詞で、ともにthe qualities of soulにかかる。
<訳文>
勇猛、気丈、勇敢、大胆、勇気などは幼い武士たちに最も受け入れられやすい資質で、手本に倣えば養成できる、言わば、徳の中でも最も身近なものであった。
「第4章 勇気、勇敢と忍耐の精神」より
(別冊宝島編集部編『「武士道」を原文で読む』宝島社、2006年、56頁~57頁)
礼儀は、他人への配慮から生まれる奥ゆかしい思いやりである
For propriety, springing as it does from
motives of benevolence and modesty, and
actuated by tender feelings toward the
sensibilities of others, is ever a graceful
expression of sympathy. (中略)
In America, when you make a gift, you sing its
praises to the recipient; in Japan we depreciate or
slander it.
<英単語>
・propriety 礼儀正しさ
・spring 生まれる
・motive 動機
・actuate 動かす
・graceful 奥ゆかしい
・depreciate 軽視する
・slander そしる
<英文の読み方>
・For~は前の文を受けて「というのは~」と理由を表す。主語はpropriety、述語は4行目のis。
・springingと、3行目のactuatedはともに主語proprietyにつながる。
・springing as it does from~のitはpropriety(礼儀)。
・asは「~なので」と理由を表す。強調するために動詞(spring)が前に出ている。
本来の語順は、as it springs from~。doesはspringsの代わりに使われている語。
・its、itはともにa giftを指す。
<訳文>
礼儀とは仁と謙遜から生まれるもので、他人への配慮の気持ちからにじみ出る、奥ゆかしい思いやりと言える。(中略)
贈り物をする際、アメリカ人は、その品物を絶賛して渡すのに対し、日本人はわざと軽視したり、つまらないもののように言う。
「第6章 礼儀」より
(別冊宝島編集部編『「武士道」を原文で読む』宝島社、2006年、76頁~77頁)
真実や誠実さを欠く礼儀は見せかけだけの茶番である
The apotheosis of Sincerity to which
Confucius gives expression in the Doctrine
of the Mean, attributes to its transcendental
powers, almost identifying them with the Divine.
“Sincerity is the end and the beginning of all
things; without Sincerity there would be
nothing.”
<英単語>
・apotheosis 神聖視
・transcendental 超越した
<英文の読み方>
・The apotheosis ~the Meanまでが主部、述語は attributes。
・attributes to itsのitsはSincerityを指す。
・identifying themのthemはtranscendental powersを指す。
・without Sincerity there would be nothing.は仮定法の文。
<訳文>
孔子が『中庸』の中で誠実を賛美するのは、誠実を持つ超越した力のせいであり、孔子はその力をほとんど神と結びつけてこう語っている。
「すべては誠実に始まり誠実に終わる。誠実なくしては何も存在しない。」
「第7章 真実そして誠実」より
(別冊宝島編集部編『「武士道」を原文で読む』宝島社、2006年、86頁~87頁)
【文法の補足】
野村恵造『Vision Quest 総合英語 2nd Edition』(新興出版社啓林館、2017年)においても、「ifを使わない仮定法①:副詞(句)で仮定を表す」には次の例文があり、解説がなされていた。
Focus 157 ifを使わない仮定法①:副詞(句)で仮定を表す
1. Without your help, I would not be able to do this job.
あなたの助けがなければ、私はこの仕事ができないだろう
(野村恵造『Vision Quest 総合英語 2nd Edition』新興出版社啓林館、2017年、278頁)
【野村恵造『Vision Quest 総合英語 2nd Edition』はこちらから】
Vision Quest 総合英語 2nd Edition
洞察力のある人なら、富の構築と名誉がイコールでないことがわかるだろう
Those who are well acquainted with our
history will remember that only a few years
after our treaty ports were opened to foreign
trade, feudalism was abolished, and when with it
the samurai’s fiefs were taken and bonds issued to
them in compensation, they were given liberty to
invest them in mercantile transactions.
<英単語>
・fief 領地
・bond 公債
・compensation 報酬
・mercantile 商業の
・transaction 取引
<英文の読み方>
・those who~は「~する人々」を表し、our historyまでが主部となる。
・when with it(それと時を同じくして)のitは前で述べた「封建制度の廃止」を指す。
<訳文>
わが国の歴史に精通している者ならば、開港からわずか数年で封建制度が廃止された事実を記憶しておられるだろう。それと時を同じくして、武士は領地を取り上げられ、見返りに公債が発行され、それを商業の取引に投資する自由が与えられた。
「第7章 真実そして誠実」より
(別冊宝島編集部編『「武士道」を原文で読む』宝島社、2006年、88頁~89頁)
武士道では、家族全体と個々の利害は完全に一体であり、分けられない
The individualism of the West, which
recognises separate interests for father and
son, husband and wife, necessarily brings into
strong relief the duties owed by one to the other;
but Bushido held that the interest of the family
and of the members thereof is intact, - one and
inseparable.
<英単語>
・individualism 個人主義
・interest 利害関係
・relief 強調
・owe 負うている
・thereof それゆえに
・intact 完全な
・inseparable 分けることができない
<英文の読み方>
・to the other;までの文の主部は、The individualism of the West, which recognises separate interests for father and son, husband and wife、述語はbrings。
・whichはThe individualism of the Westを指し、「そして、西洋の個人主義とは…」と説明を加えている。
・bring into strong relief~で「~を際立たせる」という意。
・過去分詞owed by one to the otherまでは前のthe duties(義務)にかかる。
・後半but以下の文では、述語held(hold)は「主張する」の意で、「武士道は~ということを主張している」となる。
<訳文>
西洋の個人主義では、父と息子、夫と妻それぞれの利害を分けて考えるため、個人が他者に対して負う義務は明らかである。しかし、武士道では、家族全体と個々の利害は完全に一体であり、分けることができない。
「第9章 忠義」より
(別冊宝島編集部編『「武士道」を原文で読む』宝島社、2006年、106頁~107頁)
武士道では、家族全体と個々の利害は完全に一体であり、分けられない(その2)
In his great history, Sanyo relates in touching
language the heart struggle of Shigemori
concerning his father’s rebellious conduct.
“If I be loyal , my father must be undone; if I
obey my father, my duty to my sovereign must
go amiss.”
Poor Shigemori!
We see him afterward praying with all his soul
that kind Heaven may visit him with death, and that
he may be released from this world where it is
hard for purity and righteousness to dwell.
Many a Shigemori has his heart torn by the
conflict between duty and affection.
Indeed, neither Shakespeare nor the Old
Testament itself contains an adequate rendering
of ko, our conception of filial piety, and yet in
such conflicts Bushido never wavered in its
choice of loyalty.
<英単語>
・rebellious 謀反の
・sovereign 君主
・amiss 具合悪く
・afterward 後に
・purity 清廉
・dwell 居住する
・torn tearの過去分詞。引き裂かれた
・conflict 葛藤
・neither ~nor… ~でもなければ、…でもない
・adequate 適切な
・render 敬意を表す
・waver ためらう
<英文の読み方>
・In his great history,~の文の述語はrelates(物語る)、目的語はthe heart。
・in touching languageは「感動的な言い回しで」を表す。
・<see+人+~ing>で「人が~している様子を見る」の意。
・that kind Heaven ~, and that he may~の2つのthat節がpraying(~を祈る)の目的語になっている。
・many a +単数形で「数多くの」を表す。
<訳文>
頼山陽は、歴史書の中で、平重盛が父の謀反に対して苦しむ様子を感動的な表現で次のように著している。
「忠ならんと欲すれば孝ならず、孝ならんと欲すれば忠ならず」。
哀れな重盛よ!
その後彼は、全身全霊を込めて祈り、死して天に召され、清廉、正義といったことが育ちにくいこの世から解放されるように願ったのである。
重盛と同じように義務と愛情のはざまで心を引き裂かれた人物はあまたいる。シェークスピア(ママ)にも旧約聖書にも、我々の持つ孝行という概念と合致するような教えはないのだが、こうした葛藤が起こったとき、武士道では忠義という教えに何の迷いも生じなかった。
「第9章 忠義」より
(別冊宝島編集部編『「武士道」を原文で読む』宝島社、2006年、108頁~111頁)
【文法の補足】
野村恵造『Vision Quest 総合英語 2nd Edition』(新興出版社啓林館、2017年)においても、「<知覚動詞+O+分詞>」には次の例文があり、解説がなされていた。
Focus 106 <知覚動詞+O+分詞>
I saw Steve waiting for a bus. 私はスティーブがバスを待っているのを見かけた。
(S)(V)(O)(C)
⇒Steve was waiting(スティーブが待っていた)
・see(見る)などの知覚動詞はSVOC(C=分詞)の形をとることができる。
Cが現在分詞の場合、OとCの間には能動の関係がある。
・<see+O+現在分詞>の形で「Oが~しているのが見える」という意味を表す。
Oと現在分詞との間には、「スティーブが待っている」という能動の関係がある。
(野村恵造『Vision Quest 総合英語 2nd Edition』新興出版社啓林館、2017年、190頁)
切腹は、腹を魂と愛情の中心だとする解剖学上の信念から来ている
The French, in spite of the theory
propounded by one of their most
distinguished philosophers, Descartes, that the
soul is located in the pineal gland, still insist in
using the term ventre in a sense which, if
anatomically too vague, is nevertheless
physiologically significant.
Similarly, entrailles stands in their language for
affection and compassion.
Nor is such a belief mere superstition, being
more scientific than the general idea of making
the heart the centre of the feelings.
<英単語>
・propound 提唱する
・philosopher 哲学者
・Descartes デカルト
・pineal gland 松果腺
・ventre (フランス語)ヴァントル 腹部
・anatomically 解剖学上は
・vague 漠然とした
・physiologically 生理学上は
・similarly 同様に
・entrailles (フランス語)アントレイユ 腹部
・compassion 憐れみ
・superstition 迷信
<英文の読み方>
・The French, in spite of~の文の主語はThe French、述語はinsist。
・in spite of~で「~にもかかわらず」。
・Descartesのあとのthat節はthe theory(理論)の内容を表している。
・否定語norを文頭に置くことにより倒置の形となっている。
<訳文>
最も優れた哲学者の一人、デカルトが、「魂は松果腺にある」という理論を唱えたが、フランス人は今だに、解剖学上は非常に漠然としているが、生理学的には意味のあるヴァントル(腹部)という言葉を使っている。
同様に、アントレイユ(腹部)という言葉を愛情や憐れみという意味で使っている。
これは単なる迷信からではなく、心臓は感情の中心だからという一般的考えと比べると、より科学的な根拠に基づいている。
「第12章 切腹と敵討ち」より
(別冊宝島編集部編『「武士道」を原文で読む』宝島社、2006年、138頁~139頁)
【文法の補足】
野村恵造『Vision Quest 総合英語 2nd Edition』(新興出版社啓林館、2017年)においても、「that を使った同格」には次の例文があり、解説がなされていた。
Focus 182 that を使った同格
He faced the fact that he would have to try again.
もう一度挑戦しなければならないという事実に彼は直面した。
(野村恵造『Vision Quest 総合英語 2nd Edition』新興出版社啓林館、2017年、317頁)
また、野村恵造『Vision Quest 総合英語 2nd Edition』(新興出版社啓林館、2017年)においても、「否定語を文頭に置くことにより倒置の形となる場合」には次の例文があり、解説がなされていた。
Focus 175 強調のための倒置
1. Never have I seen such a beautiful sight.
私はこれまで一度もこんなに美しい光景を見たことがありません。
2. Not a word did he say. 彼は一言も言わなかった。
【倒置】
・英語の語順は普通<主語+(助)動詞>だが、主語と(助)動詞の順序が逆になることがある。これを倒置という。
【否定を表す語句が文頭に出る】
1.never(一度も~ない、決して~ない)、rarely(めったに~ない)のような否定を表す副詞(句)を文頭に置き、否定の意味を強調することがある。
・このとき、その後は疑問文と同じ語順になる。
(主に文語的な表現である。)
<例文>
・I have never seen such a beautiful sight.
①否定語句を文頭に
・Never have I seen such a beautiful sight.
②<主語+動詞>の部分を疑問文の語順に
【倒置で使われる否定語句】
□ never 一度も[決して]~ない
□ little まったく[ほとんど]~ない
□ hardly/scarcely ほとんど~ない
□ seldom/rarely めったに~ない
□ not only ~ ~だけではなく
□ not until … …まで~ない
□ at no time 一度も~ない
□ on no account 決して~ない
□ under no circumstances どんな状況でも~ない
2.Focus 175の第2文のように、目的語が no, not, littleなどの否定語を伴って文頭に出た場合、疑問文と同じ語順になる。
・ He did not say a word.
→Not a word did he say. (彼は一言も言わなかった。)
(O) (疑問文の語順)
(野村恵造『Vision Quest 総合英語 2nd Edition』新興出版社啓林館、2017年、309頁)
もとはエリートの栄誉だった武士道は次第に全国民の志となった
In manifold ways has Bushido filtered down
from the social class where it originated, and
acted as leaven among the masses, furnishing a
moral standard for the whole people.
<英単語>
・manifold 多種多様な
・filter だんだん知られてくる
・originate 源を発する
・leaven 酵母
・the masses 大衆
・furnish (必要なものを)供給する
<英文の読み方>
・倒置の文。主語はBushido、述語はhas filtered(浸透する)。
・where it originatedは前のthe social classにかかり、「それ(武士道)が生まれた武士階級」となる。
・actedの主語はBushido、furnishing~は「~をもたらし」という意味。
<訳文>
武士道は、最初にそれを生んだ武士階級から多種多様な方向に浸透していき、大衆の間で酵母の役割を果たしながら、すべての人々に道徳規範を示していった。
「第15章 武士道の影響」より
このように、武士道はすべての日本人の道徳規範となっていった。大衆は武士ほどの気高さにまで到達することはなかったものの、やがて武士道は大和魂という名で呼ばれ、日本人の民族精神を表すまでに浸透した。
(別冊宝島編集部編『「武士道」を原文で読む』宝島社、2006年、162頁~163頁)
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