ブログ≪伊藤和夫氏と英文解釈≫
(2021年12月15日)
前回のブログで、伊藤和夫の言語観・英語観について、言及した。
晴山陽一の著作から英語教育について一人の人物に私は辿りついた。駿台予備校の伊藤和夫という人物である。私は幸か不幸か、大学受験で予備校や塾のお世話になったことは一度もなかったので、このような優秀な予備校講師がいることを、晴山陽一の著作を読むまで全く知らなかった。しかし、この先生の著作を実際にあたってみると、いろいろと啓発されることを多く書かれてある。以下、紹介しみたい。
前回のブログでは、
伊藤和夫が目指したのは、<英語→事柄→日本語>という理解の順序である。伊藤は言う。
「英語自体から事柄が分かること、つまり訳せるから分かるのではなく、分かるから必要なら訳せることが英語の目的である」と。
伊藤和夫の言語観とは、「言語の習得は理解が半分、理解した事項の血肉化が半分である。後者のためには、同種の構文で書かれた文章を大量かつ集中的に読むことが有効である」というものである。
伊藤は「あとがき」で、
「英語の構文を理論的に解明することを主眼とし、英文の読解にあたってその構造をできるかぎり意識的に分析しようとした」のが、『英文解釈教室』という本であり、この書物から得た知識をもとに、自分が読みたい原書を読むことを勧めている。そして、「本書の説く思考法が諸君の無意識の世界に完全に沈み、諸君が本書のことを忘れ去ることができたとき、本書は諸君のための役割を果たし終えたこととなるであろう」と締めくくっている。伊藤和夫(1927-1997)は、東京大学文学部西洋哲学科を卒業しただけあって、その主張は哲学的で、説得力がある。
日本語にする以前の水際で英文を「事柄」として理解する。それが伊藤が生涯追い求めた理想の「英文解釈」のあり方だったようだ。この<英語→事柄→日本語>という図式は、國弘正雄の<英語→イメージ→日本語>と完全に一致すると晴山陽一はいう(伊藤、1977年[1997年版]、iii頁~v頁、314頁。晴山、2008年、121頁)。
【伊藤和夫『ビジュアル英文解釈PARTⅠ』駿台文庫はこちらから】
ビジュアル英文解釈 PARTI (駿台レクチャー叢書)
【伊藤和夫『ビジュアル英文解釈PARTⅡ』駿台文庫はこちらから】
ビジュアル英文解釈 PARTII (駿台レクチャー叢書)
さて、今回の執筆項目は次のようになる。
文がこみ入ってくると、不定詞や so that...canをいちいち後から返って訳しているのでは、話が混乱してしまって、訳文が明瞭でなくなることも多い。
伊藤和夫がいつも言うように、「言葉の順序は思想の重要な部分」なのだから、先に出てくるものを先に訳すという方法にはそれだけで一つのメリットがある。
「目的」の不定詞は「ために」と訳すというような機械的な教わり方をし、そこから抜けられないために英語を読むために、目が英文の中を右往左往し、結局そこで挫折してしまった人がどんなに多いかと考えると恐ろしくなるくらいともいっている(伊藤和夫『ビジュアル英文解釈PARTⅠ』駿台文庫、1987年、186頁)
英語の基礎は、次の3つにあるという。
①主語と動詞の結びつきに代表される5文型
②修飾する言葉とされる言葉、HとMの結びつき
③節の使用による文の複雑化
全体の見通しがアタマあれば、個々の例題を通して単純なものから複雑なものへと、知識がラセン状に組み立てられてゆくのが、望ましいというのが、伊藤和夫の考え方である。
伊藤和夫のアタマの中にあったシステムがどのようなものかを、その中心部だけでも、最後にハッキリ示しておくことは有益だと思う。
伊藤和夫『ビジュアル英文解釈PARTⅡ』(駿台文庫、1988年)を終えて、「文法」を読むとよい。参照ページを丹念にたどって行けば、伊藤和夫が何を教えたくて、あちこちでいろんな伏線を張ったり、仕組んだりしていたか、どの部分とどの部分が有機的に関連するかが分かるという。それが力がつくことだと力説している。
最後に伊藤和夫は、
分らないと思っている英文の多くは、実は内容についての予備知識がなかったり、体験が不足しているために、形と無関係に「分からない」ことも多いと断わっている(伊藤和夫『ビジュアル英文解釈PARTⅡ』駿台文庫、1988年、242頁~243頁)。
伊藤和夫先生の口ぐせは、「左から右へ、上から下へ」英文を読むことである。
英語を読むときの目の動きが必ず「左から右、上から下」だということの中には、この順序に添わない、つまりこの順序を逆にする考え方や教え方は、すべて不自然だということが含まれていると、伊藤先生は主張している。
たとえば、次のような英文があるとする。
In Vermont someone had to walk with a red flag to
warn that it was coming.
・had to は「…しなければならない」という意味の助動詞must(= have to)の過去形。
・with a red flag 「赤い旗を持って」
・to warn 「警告するために」はwalk にかかる副詞的用法をまとめる不定詞。
・warn that …のthatは、warnの目的語になる名詞節をまとめる接続詞。
⇒It(=the car)was coming.とすれば独立文になることを確認する。
≪訳文≫
「バーモントでは、赤い旗を持った人が歩いて、自動車の接近を警告しなければならなかった。」
ここで、基礎が分っていない学生のR君が、次のような質問をする。
伊藤先生は、「to warnは警告するためにという意味の、目的を示す不定詞」だと言いながら、「歩いて…警告しなければならなかった」と訳している。「警告するために歩かなければならなかった」と訳さなくていいのですか、と。
伊藤先生は、この文章を英語で読むときには、次のような順序で、内容を追うことができなければ、本物でないという。
In Vermont (バーモントで), someone had to walk (誰かが歩かなければならなかった), with a red flag(赤い旗を持って), to warn that …(…ということを)
そして、次のように付言している。
※to warnは「目的」を示す不定詞だと教わると、まず目がそこへ行き、that it was comingを訳してから、次にsomeone had to walkへ目がもどるといった、行きつもどりつ型の読み方はだめなのだと。
そして、もう一人の学生G君は、伊藤先生に次のように反論する。
訳を通して考えるやり方で教わってきたから、伊藤先生のようなやり方では、ちゃんとした日本語にならない。分かったとはとても思えないと。
伊藤先生は、学生を諭す。
訳せたから読めたのではない。読めてるから、必要な場合には訳せるのだ。
このやり方は、すぐに慣れてくるはずだ。
だいたい、関係代名詞は、うしろから返って「…であるところの」と訳してみると意味が分れるというような、考え方や教え方をしているから、力がつかないのだという、伊藤先生の持論を主張している。
(伊藤和夫『ビジュアル英文解釈PARTⅠ』駿台文庫、1987年、3頁、6頁~7頁、22頁~23頁)
伊藤和夫先生は、『ビジュアル英文解釈PARTⅡ』(駿台文庫、1988年)において、文法的な解釈と、どう訳すかとはある程度次元のちがう問題であるという。
たとえば、次のような英文がある。
Far more important to men and women than the pleasures of
television or the motorcar is the fact that they can get the food and
shelter and the medical care needed to keep themselves and their
families in health and reasonable comfort.
<Vocabulary>
pleasure喜び shelter(衣食住の)住 medical care医療 reasonable ほどよい、応分の
・Far more important to …のFarは比較級を強める語。
(cf.) Gold is far heavier than water. (金は水よりずっと重い)
☆本文は、形容詞ではじまっている。主語はどこにあるのだろうと思えることが大切である。
ここで、次のように考えるのでは、心細い。
than the pleasures of television or the motorcar is the factの所が、the pleasures (=S)… is(=V)と見えてしまう。
⇒複数形のthe pleasuresがisの主語になれないいのはもちろんである。
それよりこの読み方では、次のように、この文は主語はおろか、動詞までなくなってしまう。
Far more important
→than the pleasures … is the fact that …
かといって、It is far more …のIt isの省略だろうなどと考えるのが、伊藤先生がいつも攻撃する「省略」のごまかしである。
(そんなことを許す規則はどこにもないという)
・thanのかかるのは、… the motorcarまで。
「男や女にとり、テレビや車の楽しみよりはるかに重要な」と読んでいて、is the factの所で、is が動詞、主語はあとのthe fact、全体はC+be+Sの構文とひらめくのが正しい解釈である。
(C=Complement:補語、S=Subject:主語を意味する)
・the fact thatのthatが関係代名詞であってはならないという約束はないが、同格名詞節が第1感としてひらめくのが、英語に慣れているということである。
・they can get the food and shelter
foodにtheがつくのはなぜかと感じていれば、the medical careのあとのneeded(=p.p.つまりPast Participle:過去分詞)をfood、shelter、medical careの3つにかけて、「…に必要な食物と住居、医療手段」と読めるはずである。
⇒needed以下の限定を受けるからthe foodとなっている。
(cf.) We buy it because of the quality or the value of the product.
(それを買うのは、製品の品質または価値のためである)
・to keep themselves and their families in …
×ここを「ひとりでいて、家族を…に保つ」のように、
keep themselves
and their families in health …
と読むのはいかにも不自然である。
〇ここは、keep (O+O) in healthと読むのが釣り合いのとれた読み方である。
⇒この文のin health …も目的補語である。
「自分と家族を健康で…快適な状態に保つ;自分も家族も健康で…快適な生活を送る」
・reasonableは「合理的な」ではない。
プールつきの豪邸に住んで召使いにかしづかれるといった、並みはずれた快適さまでは望まないが、人間として許されて当然の快適な生活はしたいと言っている。
※最後まできて、they can get以下に主語や目的語の点で欠けるものがないこと、つまりthatが接続詞で同格名詞節をまとめているという予想が正しかったことも確認できた。
☆まだ全体を訳す仕事が残っている。
この文は、C+be+Sであるが、文法的な解釈と、どう訳すかとは、ある程度次元のちがう問題であるという。
この解釈は、この文を「…はるかに重要なのは、…」とCをSのように訳すことを妨げるものではない。
⇒言葉が目に入る順序からすれば、そのほうが原文に近いとも言える。
「男や女にとり、テレビや車が与えてくれる楽しみよりはるかに重要なのは、…」とはじめよう。
・that – Clauseは、「…するために必要な食物と住居…を得ることができる」と訳しても、もちろん誤りではないが、訳がゴタゴタする。
⇒だから、neededまでで一度切って、「必要な食物と住居、医療手段を得て、自分も家族も健康で相当程度快適な生活を送れるようにすることである」とまとめる。
<大意>
「男や女にとり、テレビや車が与えてくれる楽しみよりはるかに重要なのは、必要な食物と住居、医療手段を得て、自分も家族も健康で相当程度快適な生活を送れるようにすることである。」
(伊藤和夫『ビジュアル英文解釈PARTⅡ』駿台文庫、1988年、175頁~178頁、181頁)
伊藤和夫『ビジュアル英文解釈PARTⅠ』(駿台文庫、1987年)では、英文解釈において次のようなルールをまとめている。
<List of rules ルール>
ルール1 前置詞のついた名詞は文の主語になることができない
ルール2 文の中で接続詞によってまとめられる部分は、それだけを取り出すと独立の文になる
ルール3 関係代名詞は節の中で代名詞として働き、先行詞を関係代名詞に代入すると独立の文ができる
ルール4 A and (M) Bの形では、Mは常にBにかかる
ルール5 第5文型の文のOとCの間には主語と述語の関係がかくれている
ルール6 名詞のあとに主語と動詞がコンマなしで続いているときは、関係代名詞の省略を考える。あとに目的語を持たない他動詞か前置詞があれば、それが正しいことになる
ルール7 形容詞・分詞があとから名詞を修飾するときは、名詞と形容詞・分詞の間に主語と述語の関係がかくれている
ルール8 かくれた述語の過去分詞を本来の述語に変えるときは、前にbe動詞を加える
ルール9 疑問代名詞と関係代名詞のwhatは、名詞節をまとめると同時に節の中で代名詞として働く
ルール10 接続詞+M2(副詞的修飾語)+S+Vの文ではM2は必ずあとの動詞へかかる
ルール11 冠詞と所有格のあとには名詞がある。このとき「冠詞(所有格)…名詞」の中に閉じこめられた語句はその外に出られない
(伊藤和夫『ビジュアル英文解釈PARTⅠ』駿台文庫、1987年、283頁)
関係代名詞(主格)について考えてみる。
次の英文が、関係代名詞を含む文である。
All dogs which were brought into the country
had to stay in some place for half a year.
・[All dogs had to stay …]+[The dogs were brought into …]と考える。
・were brought into the country「国内に持ちこまれた」→「国外から来た」
・had to stay in some place for half a yearは、for … a yearがstayにかかって、「ある場所に半年は留まらなければならなかった」
・The dogs …が、which were broughtに変わって、All dogsを修飾する形容詞節(名詞を修飾する節)になっているわけであるから、「国外から来た犬はすべて、ある場所に半年は留まらなければならないことになっていた」とまとめる。
※この文は関係詞の節がSとVの間に入って、S(S+V)Vという構成になっていることに注意せよ。
All dogs which were brought into …の所で、伊藤先生は、関係代名詞の節をThe dogs were brought into …という独立文にして見せた。
そして、次のように解説する。
※関係詞の節は、独立文の中の名詞か代名詞が、関係代名詞に変わることによって、文全体が別の文の中の名詞に対する修飾語(形容詞節)になったものとみる。
※関係詞の節について分からないことがあったら、「…であるところの」式の分かりにくい日本語の意味を考えるのではなく、
(1)先行詞を関係詞に代入して、分かりやすい独立文に還元し、
(2)次にそこで分かったことを先行詞に対する修飾語にしてみるということ
が大切である。
そして、これがどんな場合にもあてはまる手順である。
このことを、「関係代名詞は節の中で代名詞として働き、先行詞を関係代名詞に代入すると独立の文ができる」とまとめて、ルール3とする。
(伊藤和夫『ビジュアル英文解釈PARTⅠ』駿台文庫、1987年、24頁~25頁、29頁~30頁)
ルール4は、「A and (M) Bの形では、Mは常にBにかかる」というものである。ここのMはModifier(修飾語)を意味する。
たとえば、次のような英文があったとする。
The nightingale usually begins to sing about
the middle of May, and after the second week
in June people hear his voice no more.
・The nightingale usually begins to sing 「ナイチンゲールは普通歌いはじめる、歌いはじめるのが普通である」
・about the middle of Mayは「約、およそ」
⇒全体は「5月の中ごろに」の意味で、begins to singにかかる。
☆and after the second week in June … さて、このandは何と何を結ぶのだろうか?
ここを次のように考えた人はいないだろうか。
「ナイチンゲールは普通5月の中ごろと、6月の第2週以降に歌いはじめる」
歌いはじめる時期が1年に2回もあるのはおかしいが、もし、この文が、
The nightingale … begins to sing
about the middle of May,
and after the second week in June.
のように、in Juneの所で終わっていれば、ほかの読み方はない。
しかし、この文ではin Juneのあとに、people hearという主語と動詞が続く。
これが、この文の読み方を根本的に変えるのである。
そんなことはないと言い張り、
「5月の中ごろと6月の第2週のあとに、ナイチンゲールは歌いはじめる。人々はその鳥の声をもう聞かない」と訳せると言う人は、この読み方では、The nightingale usually begins とpeople hear という2つのS+Vを結ぶ言葉がないことに気がつかなくてはいけない。
The nightingale usually begins to sing about
the middle of May, and (after the second week
in June) people hear his voice no more.
「ナイチンゲールは普通5月の中ごろに歌いはじめる。6月の第2週以後はその声くことはもうなくなります」と読むのが正しい。
※and はThe nightingale … begins とpeople hearを結ぶのである。
※こういう考え方をすることを、読者はafterからin Juneまでをカッコに入れなさいと教わっているかもしれない。
カッコに入れるとは、いま述べたような考え方をすること、つまりandが何と何を結ぶか、andのすぐあとに来るものではなく、ひとつ後にくるものがand以下の中心になるのではないかという考え方をすることなのである。
⇒この考え方を一般的に示すと、A and BのandとBが離れる次のような形になる。
A and … B
…の部分に入る言葉はどういう働きをするのか。
こんな所に文全体の中心になる主語や動詞が出るはずはなく、ここに修飾語が入る。
A and (M) Bの形になる。
この構文ではMは常にBにかかる。つまり、
A and (M→) Bになる。
〇英語には、形が意味より優先する場合があり、この規則はその1つである。
これを、
A and (M) Bの形では、Mは常にBにかかる
とまとめて、ルール4と、伊藤和夫先生はみなしている。
(伊藤和夫『ビジュアル英文解釈PARTⅠ』駿台文庫、1987年、xii頁、34頁~35頁)
「ルール10 接続詞+M2(副詞的修飾語)+S+Vの文ではM2は必ずあとの動詞へかかる」について、解説を記しておく。
☆代名詞のthatと接続詞のthatは、どうやって見分けるのだろうか?
この点について、次のように説明している。
(1) They say that.
(2) They say that people usually marry in their teens.
(1)は、「彼らはそのことを言う」でthatは代名詞。
(2)も(1)と同様に、They say that …ではじまるが、thatは代名詞ではなく接続詞と感じられる。
☆同じthatなのに、ちがって感じられるのはなぜだろうか?
(2)では、people … marryという、thatによってまとめられるS+Vがthatとほぼ同時に目に入るからである。
この文は「人は普通十代で結婚すると言われる」の意味である。
(3) They say that in tropical countries.
(4) They say that in tropical countries
people usually marry in their teens.
(3)は「熱帯の国々では彼らはそのことを言う」で、thatはまた代名詞。
(4)はどうだろうか?
最後まで読めば、(2)と同じように、people … marryがthat によってまとめられるS+Vで、thatは接続詞だと分かるが、They sayからはじめてthatまで来たところでは、thatは代名詞なのか接続詞なのか分からないことになる。
※こういうところでは、途中で判断を保留して決定的な因子の登場を待つ、つまりin tropical countriesのあとがどうなるかを先に調べて決めるのではなく、一応thatの所で先を予想して、その予想に従った見通しを立てることが大切であるという。
では、thatの所で次のどちらを選ぶことになる。
(3)’ They say that(=代名詞) in … 名詞.
(4)’ They say that(=接続詞) in … 名詞+S+V
They say that …ではじまる文は、people … marryの所で自分の予想通りS+Vが現れたことが分かったら、そのまま先へ進めばよく、(3)’を選んだ人は文がin tropical countriesで終らず、予想外のS+Vが現れたら、それに驚いて前に返り、thatについての解釈を訂正すればよい。
※「予想と確認」または「予想と確認と訂正」。
これが、この本のPartⅠとPartⅡの全体で、伊藤和夫氏が読者に一番身につけてもらいたい考え方である。
(また、そのために必要な知識を、この2冊の本で提供したという)
さて、もう一つ大切なことがある。
それは、M2 thatとthat M2 のちがいを分かってほしいことである。
(3)は、
They say that ←in tropical countries.
でin tropical countriesはsayを中心にかかったが、(4)のようにthatが接続詞と決まると、接続詞のthatは文の中で自分がまとめる部分の開始を示すので、in tropical countriesをthatをこえて前のsay へかけることはできなくなる。
(4)は、
They say that (in tropical countries)→people … marry
と読んで、「熱帯の国々では人は普通十代で結婚すると、言われる」と訳すことになる。
逆に、in tropical countriesがthatの前に出ると、次にようになる。
They say in tropical countries that
people usually marry in their teens.
ここでは、They say ←in tropical countries that people … marry というかかり方、つまり、「人は普通十代で結婚すると、熱帯の国々では言われる」と解釈することになる。
※このことを一般化すると、
「接続詞+M2(副詞的修飾語)+S+Vの文ではM2は必ずあとの動詞へかかる」
というルールができる。
これをルール10と、伊藤和夫氏はみなしている。
(伊藤和夫『ビジュアル英文解釈PARTⅠ』駿台文庫、1987年、153頁~155頁)
【賞賛・非難のfor】
賞賛・非難の意を示す動詞は、動詞...for ~の形で「~のことで...を...する」の意味で使うものが多い。
cf. excuse, scold, praise, thank
blame...for~ 「...を~で非難する」
【問題】
Don’t blame me (for what happened, from one to the other, getting it right, out of order).
(伊藤和夫『新・英文法頻出問題演習[PARTⅡ 熟語篇]』駿台文庫、2001年[2009年版]、
101頁~102頁)
【禁止のfrom】
hinder, keep, prevent, prohibit, protect, stop等の動詞は、「動詞...from~」の形で、「...が~をすることをふせぐ(妨げる、禁止する)」の意味を示す。
keep ... from ~「...に~をさせない、...を~から守る」
【問題】
君の犬を私の庭に入らせないようにできないかね。
Can’t you [your dog / let/ keep/ out/ from/ coming] into my garden? (2つ不要)
(伊藤和夫『新・英文法頻出問題演習[PARTⅡ 熟語篇]』駿台文庫、2001年[2009年版]、
105頁~106頁)
【「~に変える」のinto】
change, cut, divide, make, turn, translate, talk等の動詞は、「動詞...into~」の形で、「...を~に変える」の意味を示す。
【問題】
I have translated a simple proverb ( ) plain English.
(簡単な諺を易しい英語に訳した)
translate...into~「...を~に翻訳する」
(伊藤和夫『新・英文法頻出問題演習[PARTⅡ 熟語篇]』駿台文庫、2001年[2009年版]、
109頁~110頁)
【分離のof】
clear, cure, deprive, rid, rob等の動詞は、「動詞...of ~」の形で、「...から ~を分離(除去)する」を示す
【問題】
This medicine will cure you ( ) your disease. (成城大)
(このクスリであなたの病気はなおるだろう)
(伊藤和夫『新・英文法頻出問題演習[PARTⅡ 熟語篇]』駿台文庫、2001年[2009年版]、
103頁~104頁)
【打つのon】
hit, pat, tap, strike等の動詞は、「人の頭(肩・背中)を打つ」を、「動詞+人+on the head (shoulder, back)」という形で表わすことが多い。
【問題】
He patted me (the back, my back, by my back, on the back). (慶大)
(彼は私の背中を軽くたたいた)
(伊藤和夫『新・英文法頻出問題演習[PARTⅡ 熟語篇]』駿台文庫、2001年[2009年版]、
105頁~106頁)
【with+供給物】
present 物 to人=present 人with物「人に物を贈る」
fill, present, provide, supply 等の動詞は、目的語のあとのwith~で材料または供給物が示される。
【問題】
I am going to present the prize ( ) her.
=I am going to present her ( ) the prize.
(その賞は彼女に贈るつもりです)
(伊藤和夫『新・英文法頻出問題演習[PARTⅡ 熟語篇]』駿台文庫、2001年[2009年版]、
107頁~108頁)
【基本動詞 takeを使った熟語】
1. take down 書きつける、書きとめる(=put down, write down)
2. take in (=deceive) だます
3. take off (帽子・靴などを)脱ぐ
4. take...off (ある期間・日を)休暇として取る
5. take off (飛行機が)離陸(出発)する
6. take on (仕事・責任などを)引き受ける
7. take out (人を)連れ出す
8. take over 引き継ぐ
9. take up (=occupy) (時間・場所などを)取る、占める。
【問題】
1. He took ( ) my telephone number in his notebook.(慶大)
2. I was taken ( ) by his smooth talk and appearance. (上智大)
3. Take ( ) your hat when you come into a room.(静岡大)
4. I have a headache, and I would like to take a day ( ) today.(関西学院大)
5. Our plane took (away, in, off, out) at exactly twelve o’clock, and landed on time
at Kennedy airport.(日本大)
6. Mr. Wilson said that he did not want to (look up, put up, take on, wear down)
any more serious obligations.(早大)
7. I plan to (take, make, see, call) a friend out to dinner tomorrow.(南山大)
8. John expects to take (after, back, into, over) the business when his father
retires.(慶大)
9. Please don’t trouble yourself for me. I don’t want to (get, give, make, take) up
your time.(京都産業大)
(伊藤和夫『新・英文法頻出問題演習[PARTⅡ 熟語篇]』駿台文庫、2001年[2009年版]、73頁~74頁)。
基本動詞 putを使った熟語
1. put away 片づける(しまう)
2. put off (=postpone)...[until ~] を[まで]延期する
3. put on 着る、身につける
4. put on weight 体重がふえる
5. put out (=extinguish) (火・燈火などを)消す
6. put up (旗を)掲げる、(家を)建てる
【問題】
1. Will you please help me clear the table? =Will you please help me put
( ) the things on the table? (早大)
2. They had to put ( ) their departure on account of heavy snow. (中央大)
3. If you want to help with the cooking, you had better take off your jacket
and put ( ) this apron.(浜松医大)
4. John has gained a lot of weight recently.
=John has ( ) ( ) a lot of weight recently.(立教大)
5. ( ) ( ) your cigarette before you go into the elevator.
エレベーターに乗る前にはタバコの火を消して下さい。(横浜市大)
6. They put ( ) the flag on national holidays.(早大)
(伊藤和夫『新・英文法頻出問題演習[PARTⅡ 熟語篇]』駿台文庫、2001年[2009年版]、71頁~72頁)。
2015年5月10日以降入力
暗記英文
①鈴木長十・伊藤和夫『新・基本英文700選』駿台文庫、2002年[2013年版]
②藤田英時『基本英文700でまるごと覚える重要単語&熟語1700』宝島社、2012年
受験英語用
①のNo.14
The best way to master English composition is to keep a diary in English.
(英作文に上達するには英語で日記をつけるにかぎる)
(鈴木・伊藤、2002年[2013年版]、10頁~11頁)
①のNo.555
The role of the historian is less to discover and catalog documents than to interpret and explain them. (歴史家の役割は、史料の発見や分類よりも、むしろその解釈と説明にある)
(鈴木・伊藤、2002年[2013年版]、130頁~131頁)
実用的
②のNo.189
You should be at the boarding gate at least 30 minutes prior to your scheduled departure time.
(出発予定時刻の少なくとも30分前に搭乗口にいる必要があります)
(藤田、2012年、56頁)
②のNo.345
Sorry I didn’t respond earlier, but I just haven’t had a chance to check my email for a while.
(もっと早く返事をしなくてごめん、でもしばらくメールをチェックするチャンスがなかったんだ)
(藤田、2012年、92頁)
15年5月24日以降、2021年12月14日構成を変更し、見出しづけ
伊藤和夫の言語観・英語観を知るには、その著『伊藤和夫の英語学習法』(駿台文庫、1995年[2011年版])は一読に値する本である。伊藤と、生徒2人との3人の会話形式で記述されているために、途中、冗話・冗談も含まれるが、生徒の質問に回答する伊藤の言葉の中には、受験英語という枠組みの中とはいえ、英語教育に対する信念が随所に吐露されていて、興味深い本である。
たとえば、伊藤和夫は言語について、「言葉の理解と音楽」と題して、次のような主旨のことを述べている。
言葉は、書かれるよりも、文字として存在するよりも前に、まず話し手の口から出る音、音声として存在するものである。他人の話を聞くときのことを考えてみればわかるように、音声は口を出た次の瞬間には消えてしまうから、分からなくなったからといって前へもどるわけにはゆかず、聞いた順序での理解が唯一の理解である。
言葉は絵より音楽に似ている。音楽の理解の方法はひとつで、音の流れに身をまかせ、最初からその順序に従って聞いてゆくことだけである。音楽のテープを逆まわししたり、思いつきで飛び飛びに聞いたところで音楽は分かるはずはない。英語の文も、先頭からその流れに沿って読まなくてはならず、英文を眺めるのではなく、読まなくてはいけないという(伊藤和夫『伊藤和夫の英語学習法』駿台文庫、1995年[2011年版]、48頁~49頁)。
【伊藤和夫『伊藤和夫の英語学習法』駿台文庫はこちらから】
大学入試伊藤和夫の英語学習法
このように、言葉はまず音声として存在するものだから、言葉の試験をする以上、Hearing(ヒアリング)の問題があるのは当然である。従来の英語教育は、訳読中心の方法、制限用法の関係詞はあとから返って「……ところの」と訳すというような教え方が主流であった。つまり英文を読む場合は、いつでもテキストを前に返って確認できる、場合によっては漢文の原文を返り点の記号に頼って読むように、目を行ったり来たりさせてきた。
しかし、英語を聞く場合はそうはいかず、音声は聞いたはじから消えてしまう。音によって理解することは、英語をどう訳すかの前にある、英語を英語の次元でどう理解するかという問題、つまり英語の順序で読むに従って理解するにはどういう頭の働きが必要かという問題に直結する。
ここで、伊藤和夫は英文を読むことと訳すことは、分離するものであるという立場をとる。旧式の訳読中心の教え方とは別の方法として、伊藤は前から訳してゆく方法を提唱している。その著『英語長文読解教室』(研究社出版、1983年[1992年版]、255頁~282頁)の「私の訳出法」において詳述している。
【伊藤和夫『英語長文読解教室』研究社出版はこちらから】
英語長文読解教室
読むことと訳すことはちがうから、いちいち日本語に訳す、つまり英文を行きつ戻りつ、何回も見るのではなく、左から右へ、上から下へ、文頭の大文字から文末のピリオドまで、英文の順序に沿って目を1度走らせるだけで、すべてが分かるように自分を訓練することが大切であると伊藤和夫は強調している(伊藤、1995年[2011年版]、71頁、122頁~123頁)。
そして、伊藤は英語の読解力と速読について、次のような立場を表明している。すなわち
「ゆっくり読んで分かる文章を練習によって速く読めるようにすることはできるが、ゆっくり読んでも分からない文章が速く読んだら分かるということはありえない」と。
これは自明の公理であるという。
よく英語の速読法として、文章を1語1語たどっていたのでは速く読めないので、名詞や動詞、形容詞だけ拾って読めとか、形容詞はたいてい飾りだから飛ばしても大丈夫だとか、パラグラフ(段落)の中心はたいてい文の先頭にあるから、各パラグラフの先頭の文だけ読めば、だいたいのことは分かるとよくいわれる。日本語でも「ななめ読み」とか「飛ばし読み」といわれる方法だが、それがなぜ可能かについて考えてみる必要があるという。
その際に、文中から取り出した、叙述の中心になるキーワードだけを、相互に無関係に読んでいるのではなく、キーワードとキーワードを自分で結び、その中間項に相当するものを自分の頭で補って、全体にひとつの意味の脈絡をつけることに成功し、しかもそれが原文の内容とだいたい同じだから、分かったことになる点に注意を促している。
読む前に、そこに書いてあることの見当がついているから、そうした速読は可能であったのである。逆に読む前に「分かって」いない文章を「ななめ読み」したり、「飛ばし読み」したところで、結局は誤解と妄想しか生まれてこないという。やはり読む前に「分からない」ものが、読んで分かるはずはないのである。つまり
「ゆっくり読めば分かる文章を練習によって速く読むことは可能だけれど、ゆっくり読んでも分からない文章を速く読んでみたところで誤解と妄想におちいるだけだ」と言い、日本人が陥りやすい英語速読法の落とし穴について注意している(伊藤、1995年[2011年版]、70頁~73頁)。
実は、先のキーセンテンスとか、パラグラフ・リーディングという速読法は、英語の本場であるアメリカの学生に対する速読の訓練法を直輸入してきたものであるから、それを日本の学生にやらせるには、根本的な見落としがあるとして、警鐘を鳴らしている。英語の形の上の約束すら身についていない日本の学生に、アメリカ式の速読訓練をさせても、効果があがるはずはないと、伊藤は否定的である(伊藤、1995年[2011年版]、74頁)。
ところで、Hearingの対策としては、できるだけ英語を「聴く」ようにすることを挙げているが、その際に注意すべき点を2点指摘している。
①ひとつは、ばかにしないで、できるだけ易しいもの、努力しないでも分かるものからはじめることである。最終的には、FENのニュースを聞いてその内容がわかるようになれば理想的であるが、焦ってはならず、最初はテレビやラジオの会話講座あたりの易しいレベルの方が途中で放棄しないですむから良いという。
②ふたつめは、耳で聞いたことをできればテキストで確認する努力、読むためのテキストも自分で声を出して読むことで耳で確認する努力も怠らないことである。先述したように、言葉は原則的には話すのが先で、読むのはあとであり、音声はテキストとちがって捉えにくいし、音声による文の構造は分析の対象にはなりにくい。
ただ、音声という捉えにくいものの中で、きちんと論理性や文法が貫徹しているから、言葉はすばらしいのである。ここに、中学・高校の英語教育を終えた人の利点がある。その人々はある程度読解力があるので、それまでに培ったReadingの力が、訓練次第によって、
Hearingの力とドッキングするという。そもそも読解力がなく読めない人のHearingの力は、ある所までくると壁につき当って先へ進めないというのが現実であるという。訳さずに読む力をつけるには、声を出してテキストを読むことを勧めている。つまり音読の勧めである。
英語の復習のうち、声を出して読むことを勧める理由として、目だけでなく耳まで、つまりできるだけ多くの能力を勉強に参加させるほうが効率がよいことが挙げられる。しかしそれだけではない。口を動かして読んでいれば、いやおうなしに英語の順序で考えざるを得ない利点を挙げている。
一方で声を出していながら、一方で訳すことはさすがにできないから、英語のままで考えることに慣れざるを得なくなるのが、音読の効用の第2点目である。つまり音読している時は英語の次元で理解することが中心になり、いちいち訳さなくてすむ点がよいという。英語の復習はテキストの中の単語の記憶が完了したかどうかを目安にするのがよいとする。つまり、テキストを何度もくり返しして、知らない単語がなくなったら、復習はすんだことにするというやり方である(伊藤、1995年[2011年版]、84頁、123頁~124頁)。
ところで、この伊藤和夫の言語観・英語観は、彼が勤めていた駿台予備校の英語科の講師陣に共通したものであったようである。
というのは、駿台の英語科の講師高橋善昭たちが執筆した『必修英語構文 CD付』(駿台文庫、1996年)の中でも、この言語観を端的に英語で表現した文章を掲載している。
It is of the highest importance, if we wish to understand the
real nature of language, to realize fully that words consist of
sounds, which are uttered and heard, and not of letters, which are
looked at.
Owing to the large part which books play in education,
people have come to hold strange views concerning language, and
some actually think that the letters, which make up the written
word on paper, are the real language, and that the sounds, which
we can hear, are only of minor importance. It is probable that
we should find it easier to grasp the real external facts of lan-
guage, which are its sounds, if we knew nothing about writing
and spelling at all, and could only think of language as being
uttered sounds. A little consideration of the question shows us
that the letters are very unimportant compared with the sounds,
and that when we study a language, it is the sounds and their
meanings which must mainly concern us.
【Notes】
of importance=important(of +抽象名詞=形容詞)、nature 本質、consist of... ...から成る、utter 声を発する、part=role、concerning... ...に関して、grasp... ...を把握する、external 外的な(↔internal)、uttered sound 発声された音、compared with ...
...と比較して
<訳例> ~「PARTⅡ Chapter2...section1」より
言語の本質を理解したいと思う場合、この上なく重要なことは、語は口で発せられ耳で聞かれる音声から成り立つのであって、目で見られる文字から成り立つのではないと十分に認識することである。
教育で書物が大きな役割を果たしているので、人は言語に関して奇妙な考えを持つようになった。現に、紙上に書かれた語を構成する文字が真の言語であり、耳で聞くことのできる音声は二義的重要性しか持たないと考える人もいる。多分、文字や綴りを全く知らないで、言語は発せられた音声であるとだけ考えることができるとすれば、言語の真の外的側面とはまさしく音声であるということが分かり易くなるであろう。この問題を少し考えてみれば分かることだが、文字は音声と比べると重要性は非常に低いものであり、言語の研究にあたってもっぱら我々の関心事としなければならないのは音声とその意味である。
(高橋善昭ほか『必修英語構文 CD付』駿台文庫、1996年、103頁および「必修英語構文別冊訳例集」PARTⅡChapter2...section1, 8頁の訳例参照のこと)。
【高橋善昭ほか『必修英語構文 CD付』(駿台文庫)はこちらから】
必修英語構文 CD付 駿台受験シリーズ
つまり、上記の文によれば、言語の本質を理解する上で、語は口で発せられ耳で聞かれる音声から成り立ち、目で見られる文字から成り立つのではないことを認識することが重要であると主張している。教育で書物が大きな役割を果たしていることから、紙上に書かれた語を構成する文字が真の言語であるかのように考える人もいるが、言語は発せられた音声であると考えることが一義的に重要であり、言語の研究では音声とその意味に関心をもつべきであるという。
この言語観・英語観は、高橋善昭たちが執筆した本書の基本的コンセプトになっている。その趣旨は「序にかえて」に述べてある。それによれば、本書は、駿台の英語科の講師たちの英知と経験を集約して、「英語構文」研究のテキストを編集し、解説を加えたものである。
そもそも英文は「単語」が横一列に連結した「線条構造」となっている。そして英語は「語順言語」であり、正確な読解には、個々の語句レベルの規則だけではなく、文レベルの構造が見えることが必要である。この「文レベルの法則性」を正しく認識することは、英文読解の基礎であり大前提であり、本書はこの基本的能力を短期に養成することを目的としているという。
そして本書の使用法の一つについて次のように記している。言語は音声と不可分であり、その感覚を磨くためにも、付属のCDを何回も聞くと共に、英文を声に出して読む努力をしてほしいという。このCDが slow tempoではなく natural speedで吹き込まれているのは、本物の音声とリズムを身につける必要があるからである。はじめは聞き取れなくても、何度も聞いているうちに聞き取れるようになる瞬間が誰にでも訪れるので、そこに到達するまで努力せよと主張している。
そしてCDの中でも高橋善昭自身も、この点を強調している。つまり、英文を文字で読めばわかるのに、耳から聞いたのではわからないことがあるのは、それまで聞いた絶対量が不足しているからで、聞いた量が臨界点(critical point)を越えると、誰でも必ず聞き取れるようになるという。THROUGH HARDSHIP TO THE STARS!と発奮を期待している
(高橋善昭ほか『必修英語構文 CD付』駿台文庫、1996年、3頁~5頁)。
(2021年12月15日)
【はじめに】
前回のブログで、伊藤和夫の言語観・英語観について、言及した。
晴山陽一の著作から英語教育について一人の人物に私は辿りついた。駿台予備校の伊藤和夫という人物である。私は幸か不幸か、大学受験で予備校や塾のお世話になったことは一度もなかったので、このような優秀な予備校講師がいることを、晴山陽一の著作を読むまで全く知らなかった。しかし、この先生の著作を実際にあたってみると、いろいろと啓発されることを多く書かれてある。以下、紹介しみたい。
前回のブログでは、
伊藤和夫が目指したのは、<英語→事柄→日本語>という理解の順序である。伊藤は言う。
「英語自体から事柄が分かること、つまり訳せるから分かるのではなく、分かるから必要なら訳せることが英語の目的である」と。
伊藤和夫の言語観とは、「言語の習得は理解が半分、理解した事項の血肉化が半分である。後者のためには、同種の構文で書かれた文章を大量かつ集中的に読むことが有効である」というものである。
伊藤は「あとがき」で、
「英語の構文を理論的に解明することを主眼とし、英文の読解にあたってその構造をできるかぎり意識的に分析しようとした」のが、『英文解釈教室』という本であり、この書物から得た知識をもとに、自分が読みたい原書を読むことを勧めている。そして、「本書の説く思考法が諸君の無意識の世界に完全に沈み、諸君が本書のことを忘れ去ることができたとき、本書は諸君のための役割を果たし終えたこととなるであろう」と締めくくっている。伊藤和夫(1927-1997)は、東京大学文学部西洋哲学科を卒業しただけあって、その主張は哲学的で、説得力がある。
日本語にする以前の水際で英文を「事柄」として理解する。それが伊藤が生涯追い求めた理想の「英文解釈」のあり方だったようだ。この<英語→事柄→日本語>という図式は、國弘正雄の<英語→イメージ→日本語>と完全に一致すると晴山陽一はいう(伊藤、1977年[1997年版]、iii頁~v頁、314頁。晴山、2008年、121頁)。
【伊藤和夫『ビジュアル英文解釈PARTⅠ』駿台文庫はこちらから】
ビジュアル英文解釈 PARTI (駿台レクチャー叢書)
【伊藤和夫『ビジュアル英文解釈PARTⅡ』駿台文庫はこちらから】
ビジュアル英文解釈 PARTII (駿台レクチャー叢書)
さて、今回の執筆項目は次のようになる。
・
『』の要約
伊藤和夫氏の考える英語の基礎
文がこみ入ってくると、不定詞や so that...canをいちいち後から返って訳しているのでは、話が混乱してしまって、訳文が明瞭でなくなることも多い。
伊藤和夫がいつも言うように、「言葉の順序は思想の重要な部分」なのだから、先に出てくるものを先に訳すという方法にはそれだけで一つのメリットがある。
「目的」の不定詞は「ために」と訳すというような機械的な教わり方をし、そこから抜けられないために英語を読むために、目が英文の中を右往左往し、結局そこで挫折してしまった人がどんなに多いかと考えると恐ろしくなるくらいともいっている(伊藤和夫『ビジュアル英文解釈PARTⅠ』駿台文庫、1987年、186頁)
英語の基礎は、次の3つにあるという。
①主語と動詞の結びつきに代表される5文型
②修飾する言葉とされる言葉、HとMの結びつき
③節の使用による文の複雑化
全体の見通しがアタマあれば、個々の例題を通して単純なものから複雑なものへと、知識がラセン状に組み立てられてゆくのが、望ましいというのが、伊藤和夫の考え方である。
伊藤和夫のアタマの中にあったシステムがどのようなものかを、その中心部だけでも、最後にハッキリ示しておくことは有益だと思う。
伊藤和夫『ビジュアル英文解釈PARTⅡ』(駿台文庫、1988年)を終えて、「文法」を読むとよい。参照ページを丹念にたどって行けば、伊藤和夫が何を教えたくて、あちこちでいろんな伏線を張ったり、仕組んだりしていたか、どの部分とどの部分が有機的に関連するかが分かるという。それが力がつくことだと力説している。
最後に伊藤和夫は、
分らないと思っている英文の多くは、実は内容についての予備知識がなかったり、体験が不足しているために、形と無関係に「分からない」ことも多いと断わっている(伊藤和夫『ビジュアル英文解釈PARTⅡ』駿台文庫、1988年、242頁~243頁)。
英文は「左から右へ、上から下へ」読む
伊藤和夫先生の口ぐせは、「左から右へ、上から下へ」英文を読むことである。
英語を読むときの目の動きが必ず「左から右、上から下」だということの中には、この順序に添わない、つまりこの順序を逆にする考え方や教え方は、すべて不自然だということが含まれていると、伊藤先生は主張している。
たとえば、次のような英文があるとする。
In Vermont someone had to walk with a red flag to
warn that it was coming.
・had to は「…しなければならない」という意味の助動詞must(= have to)の過去形。
・with a red flag 「赤い旗を持って」
・to warn 「警告するために」はwalk にかかる副詞的用法をまとめる不定詞。
・warn that …のthatは、warnの目的語になる名詞節をまとめる接続詞。
⇒It(=the car)was coming.とすれば独立文になることを確認する。
≪訳文≫
「バーモントでは、赤い旗を持った人が歩いて、自動車の接近を警告しなければならなかった。」
ここで、基礎が分っていない学生のR君が、次のような質問をする。
伊藤先生は、「to warnは警告するためにという意味の、目的を示す不定詞」だと言いながら、「歩いて…警告しなければならなかった」と訳している。「警告するために歩かなければならなかった」と訳さなくていいのですか、と。
伊藤先生は、この文章を英語で読むときには、次のような順序で、内容を追うことができなければ、本物でないという。
In Vermont (バーモントで), someone had to walk (誰かが歩かなければならなかった), with a red flag(赤い旗を持って), to warn that …(…ということを)
そして、次のように付言している。
※to warnは「目的」を示す不定詞だと教わると、まず目がそこへ行き、that it was comingを訳してから、次にsomeone had to walkへ目がもどるといった、行きつもどりつ型の読み方はだめなのだと。
そして、もう一人の学生G君は、伊藤先生に次のように反論する。
訳を通して考えるやり方で教わってきたから、伊藤先生のようなやり方では、ちゃんとした日本語にならない。分かったとはとても思えないと。
伊藤先生は、学生を諭す。
訳せたから読めたのではない。読めてるから、必要な場合には訳せるのだ。
このやり方は、すぐに慣れてくるはずだ。
だいたい、関係代名詞は、うしろから返って「…であるところの」と訳してみると意味が分れるというような、考え方や教え方をしているから、力がつかないのだという、伊藤先生の持論を主張している。
(伊藤和夫『ビジュアル英文解釈PARTⅠ』駿台文庫、1987年、3頁、6頁~7頁、22頁~23頁)
文法的な解釈と、どう訳すかとは次元のちがう問題
伊藤和夫先生は、『ビジュアル英文解釈PARTⅡ』(駿台文庫、1988年)において、文法的な解釈と、どう訳すかとはある程度次元のちがう問題であるという。
たとえば、次のような英文がある。
Far more important to men and women than the pleasures of
television or the motorcar is the fact that they can get the food and
shelter and the medical care needed to keep themselves and their
families in health and reasonable comfort.
<Vocabulary>
pleasure喜び shelter(衣食住の)住 medical care医療 reasonable ほどよい、応分の
・Far more important to …のFarは比較級を強める語。
(cf.) Gold is far heavier than water. (金は水よりずっと重い)
☆本文は、形容詞ではじまっている。主語はどこにあるのだろうと思えることが大切である。
ここで、次のように考えるのでは、心細い。
than the pleasures of television or the motorcar is the factの所が、the pleasures (=S)… is(=V)と見えてしまう。
⇒複数形のthe pleasuresがisの主語になれないいのはもちろんである。
それよりこの読み方では、次のように、この文は主語はおろか、動詞までなくなってしまう。
Far more important
→than the pleasures … is the fact that …
かといって、It is far more …のIt isの省略だろうなどと考えるのが、伊藤先生がいつも攻撃する「省略」のごまかしである。
(そんなことを許す規則はどこにもないという)
・thanのかかるのは、… the motorcarまで。
「男や女にとり、テレビや車の楽しみよりはるかに重要な」と読んでいて、is the factの所で、is が動詞、主語はあとのthe fact、全体はC+be+Sの構文とひらめくのが正しい解釈である。
(C=Complement:補語、S=Subject:主語を意味する)
・the fact thatのthatが関係代名詞であってはならないという約束はないが、同格名詞節が第1感としてひらめくのが、英語に慣れているということである。
・they can get the food and shelter
foodにtheがつくのはなぜかと感じていれば、the medical careのあとのneeded(=p.p.つまりPast Participle:過去分詞)をfood、shelter、medical careの3つにかけて、「…に必要な食物と住居、医療手段」と読めるはずである。
⇒needed以下の限定を受けるからthe foodとなっている。
(cf.) We buy it because of the quality or the value of the product.
(それを買うのは、製品の品質または価値のためである)
・to keep themselves and their families in …
×ここを「ひとりでいて、家族を…に保つ」のように、
keep themselves
and their families in health …
と読むのはいかにも不自然である。
〇ここは、keep (O+O) in healthと読むのが釣り合いのとれた読み方である。
⇒この文のin health …も目的補語である。
「自分と家族を健康で…快適な状態に保つ;自分も家族も健康で…快適な生活を送る」
・reasonableは「合理的な」ではない。
プールつきの豪邸に住んで召使いにかしづかれるといった、並みはずれた快適さまでは望まないが、人間として許されて当然の快適な生活はしたいと言っている。
※最後まできて、they can get以下に主語や目的語の点で欠けるものがないこと、つまりthatが接続詞で同格名詞節をまとめているという予想が正しかったことも確認できた。
☆まだ全体を訳す仕事が残っている。
この文は、C+be+Sであるが、文法的な解釈と、どう訳すかとは、ある程度次元のちがう問題であるという。
この解釈は、この文を「…はるかに重要なのは、…」とCをSのように訳すことを妨げるものではない。
⇒言葉が目に入る順序からすれば、そのほうが原文に近いとも言える。
「男や女にとり、テレビや車が与えてくれる楽しみよりはるかに重要なのは、…」とはじめよう。
・that – Clauseは、「…するために必要な食物と住居…を得ることができる」と訳しても、もちろん誤りではないが、訳がゴタゴタする。
⇒だから、neededまでで一度切って、「必要な食物と住居、医療手段を得て、自分も家族も健康で相当程度快適な生活を送れるようにすることである」とまとめる。
<大意>
「男や女にとり、テレビや車が与えてくれる楽しみよりはるかに重要なのは、必要な食物と住居、医療手段を得て、自分も家族も健康で相当程度快適な生活を送れるようにすることである。」
(伊藤和夫『ビジュアル英文解釈PARTⅡ』駿台文庫、1988年、175頁~178頁、181頁)
伊藤和夫『ビジュアル英文解釈』にみられるルール
伊藤和夫『ビジュアル英文解釈PARTⅠ』(駿台文庫、1987年)では、英文解釈において次のようなルールをまとめている。
<List of rules ルール>
ルール1 前置詞のついた名詞は文の主語になることができない
ルール2 文の中で接続詞によってまとめられる部分は、それだけを取り出すと独立の文になる
ルール3 関係代名詞は節の中で代名詞として働き、先行詞を関係代名詞に代入すると独立の文ができる
ルール4 A and (M) Bの形では、Mは常にBにかかる
ルール5 第5文型の文のOとCの間には主語と述語の関係がかくれている
ルール6 名詞のあとに主語と動詞がコンマなしで続いているときは、関係代名詞の省略を考える。あとに目的語を持たない他動詞か前置詞があれば、それが正しいことになる
ルール7 形容詞・分詞があとから名詞を修飾するときは、名詞と形容詞・分詞の間に主語と述語の関係がかくれている
ルール8 かくれた述語の過去分詞を本来の述語に変えるときは、前にbe動詞を加える
ルール9 疑問代名詞と関係代名詞のwhatは、名詞節をまとめると同時に節の中で代名詞として働く
ルール10 接続詞+M2(副詞的修飾語)+S+Vの文ではM2は必ずあとの動詞へかかる
ルール11 冠詞と所有格のあとには名詞がある。このとき「冠詞(所有格)…名詞」の中に閉じこめられた語句はその外に出られない
(伊藤和夫『ビジュアル英文解釈PARTⅠ』駿台文庫、1987年、283頁)
関係代名詞(主格)とルール3
関係代名詞(主格)について考えてみる。
次の英文が、関係代名詞を含む文である。
All dogs which were brought into the country
had to stay in some place for half a year.
・[All dogs had to stay …]+[The dogs were brought into …]と考える。
・were brought into the country「国内に持ちこまれた」→「国外から来た」
・had to stay in some place for half a yearは、for … a yearがstayにかかって、「ある場所に半年は留まらなければならなかった」
・The dogs …が、which were broughtに変わって、All dogsを修飾する形容詞節(名詞を修飾する節)になっているわけであるから、「国外から来た犬はすべて、ある場所に半年は留まらなければならないことになっていた」とまとめる。
※この文は関係詞の節がSとVの間に入って、S(S+V)Vという構成になっていることに注意せよ。
All dogs which were brought into …の所で、伊藤先生は、関係代名詞の節をThe dogs were brought into …という独立文にして見せた。
そして、次のように解説する。
※関係詞の節は、独立文の中の名詞か代名詞が、関係代名詞に変わることによって、文全体が別の文の中の名詞に対する修飾語(形容詞節)になったものとみる。
※関係詞の節について分からないことがあったら、「…であるところの」式の分かりにくい日本語の意味を考えるのではなく、
(1)先行詞を関係詞に代入して、分かりやすい独立文に還元し、
(2)次にそこで分かったことを先行詞に対する修飾語にしてみるということ
が大切である。
そして、これがどんな場合にもあてはまる手順である。
このことを、「関係代名詞は節の中で代名詞として働き、先行詞を関係代名詞に代入すると独立の文ができる」とまとめて、ルール3とする。
(伊藤和夫『ビジュアル英文解釈PARTⅠ』駿台文庫、1987年、24頁~25頁、29頁~30頁)
ルール4の解説
ルール4は、「A and (M) Bの形では、Mは常にBにかかる」というものである。ここのMはModifier(修飾語)を意味する。
たとえば、次のような英文があったとする。
The nightingale usually begins to sing about
the middle of May, and after the second week
in June people hear his voice no more.
・The nightingale usually begins to sing 「ナイチンゲールは普通歌いはじめる、歌いはじめるのが普通である」
・about the middle of Mayは「約、およそ」
⇒全体は「5月の中ごろに」の意味で、begins to singにかかる。
☆and after the second week in June … さて、このandは何と何を結ぶのだろうか?
ここを次のように考えた人はいないだろうか。
「ナイチンゲールは普通5月の中ごろと、6月の第2週以降に歌いはじめる」
歌いはじめる時期が1年に2回もあるのはおかしいが、もし、この文が、
The nightingale … begins to sing
about the middle of May,
and after the second week in June.
のように、in Juneの所で終わっていれば、ほかの読み方はない。
しかし、この文ではin Juneのあとに、people hearという主語と動詞が続く。
これが、この文の読み方を根本的に変えるのである。
そんなことはないと言い張り、
「5月の中ごろと6月の第2週のあとに、ナイチンゲールは歌いはじめる。人々はその鳥の声をもう聞かない」と訳せると言う人は、この読み方では、The nightingale usually begins とpeople hear という2つのS+Vを結ぶ言葉がないことに気がつかなくてはいけない。
The nightingale usually begins to sing about
the middle of May, and (after the second week
in June) people hear his voice no more.
「ナイチンゲールは普通5月の中ごろに歌いはじめる。6月の第2週以後はその声くことはもうなくなります」と読むのが正しい。
※and はThe nightingale … begins とpeople hearを結ぶのである。
※こういう考え方をすることを、読者はafterからin Juneまでをカッコに入れなさいと教わっているかもしれない。
カッコに入れるとは、いま述べたような考え方をすること、つまりandが何と何を結ぶか、andのすぐあとに来るものではなく、ひとつ後にくるものがand以下の中心になるのではないかという考え方をすることなのである。
⇒この考え方を一般的に示すと、A and BのandとBが離れる次のような形になる。
A and … B
…の部分に入る言葉はどういう働きをするのか。
こんな所に文全体の中心になる主語や動詞が出るはずはなく、ここに修飾語が入る。
A and (M) Bの形になる。
この構文ではMは常にBにかかる。つまり、
A and (M→) Bになる。
〇英語には、形が意味より優先する場合があり、この規則はその1つである。
これを、
A and (M) Bの形では、Mは常にBにかかる
とまとめて、ルール4と、伊藤和夫先生はみなしている。
(伊藤和夫『ビジュアル英文解釈PARTⅠ』駿台文庫、1987年、xii頁、34頁~35頁)
ルール10の解説
「ルール10 接続詞+M2(副詞的修飾語)+S+Vの文ではM2は必ずあとの動詞へかかる」について、解説を記しておく。
☆代名詞のthatと接続詞のthatは、どうやって見分けるのだろうか?
この点について、次のように説明している。
(1) They say that.
(2) They say that people usually marry in their teens.
(1)は、「彼らはそのことを言う」でthatは代名詞。
(2)も(1)と同様に、They say that …ではじまるが、thatは代名詞ではなく接続詞と感じられる。
☆同じthatなのに、ちがって感じられるのはなぜだろうか?
(2)では、people … marryという、thatによってまとめられるS+Vがthatとほぼ同時に目に入るからである。
この文は「人は普通十代で結婚すると言われる」の意味である。
(3) They say that in tropical countries.
(4) They say that in tropical countries
people usually marry in their teens.
(3)は「熱帯の国々では彼らはそのことを言う」で、thatはまた代名詞。
(4)はどうだろうか?
最後まで読めば、(2)と同じように、people … marryがthat によってまとめられるS+Vで、thatは接続詞だと分かるが、They sayからはじめてthatまで来たところでは、thatは代名詞なのか接続詞なのか分からないことになる。
予想と確認が大切
※こういうところでは、途中で判断を保留して決定的な因子の登場を待つ、つまりin tropical countriesのあとがどうなるかを先に調べて決めるのではなく、一応thatの所で先を予想して、その予想に従った見通しを立てることが大切であるという。
では、thatの所で次のどちらを選ぶことになる。
(3)’ They say that(=代名詞) in … 名詞.
(4)’ They say that(=接続詞) in … 名詞+S+V
They say that …ではじまる文は、people … marryの所で自分の予想通りS+Vが現れたことが分かったら、そのまま先へ進めばよく、(3)’を選んだ人は文がin tropical countriesで終らず、予想外のS+Vが現れたら、それに驚いて前に返り、thatについての解釈を訂正すればよい。
※「予想と確認」または「予想と確認と訂正」。
これが、この本のPartⅠとPartⅡの全体で、伊藤和夫氏が読者に一番身につけてもらいたい考え方である。
(また、そのために必要な知識を、この2冊の本で提供したという)
さて、もう一つ大切なことがある。
それは、M2 thatとthat M2 のちがいを分かってほしいことである。
(3)は、
They say that ←in tropical countries.
でin tropical countriesはsayを中心にかかったが、(4)のようにthatが接続詞と決まると、接続詞のthatは文の中で自分がまとめる部分の開始を示すので、in tropical countriesをthatをこえて前のsay へかけることはできなくなる。
(4)は、
They say that (in tropical countries)→people … marry
と読んで、「熱帯の国々では人は普通十代で結婚すると、言われる」と訳すことになる。
逆に、in tropical countriesがthatの前に出ると、次にようになる。
They say in tropical countries that
people usually marry in their teens.
ここでは、They say ←in tropical countries that people … marry というかかり方、つまり、「人は普通十代で結婚すると、熱帯の国々では言われる」と解釈することになる。
※このことを一般化すると、
「接続詞+M2(副詞的修飾語)+S+Vの文ではM2は必ずあとの動詞へかかる」
というルールができる。
これをルール10と、伊藤和夫氏はみなしている。
(伊藤和夫『ビジュアル英文解釈PARTⅠ』駿台文庫、1987年、153頁~155頁)
伊藤和夫と英語の熟語
【賞賛・非難のfor】
賞賛・非難の意を示す動詞は、動詞...for ~の形で「~のことで...を...する」の意味で使うものが多い。
cf. excuse, scold, praise, thank
blame...for~ 「...を~で非難する」
【問題】
Don’t blame me (for what happened, from one to the other, getting it right, out of order).
(伊藤和夫『新・英文法頻出問題演習[PARTⅡ 熟語篇]』駿台文庫、2001年[2009年版]、
101頁~102頁)
【禁止のfrom】
hinder, keep, prevent, prohibit, protect, stop等の動詞は、「動詞...from~」の形で、「...が~をすることをふせぐ(妨げる、禁止する)」の意味を示す。
keep ... from ~「...に~をさせない、...を~から守る」
【問題】
君の犬を私の庭に入らせないようにできないかね。
Can’t you [your dog / let/ keep/ out/ from/ coming] into my garden? (2つ不要)
(伊藤和夫『新・英文法頻出問題演習[PARTⅡ 熟語篇]』駿台文庫、2001年[2009年版]、
105頁~106頁)
【「~に変える」のinto】
change, cut, divide, make, turn, translate, talk等の動詞は、「動詞...into~」の形で、「...を~に変える」の意味を示す。
【問題】
I have translated a simple proverb ( ) plain English.
(簡単な諺を易しい英語に訳した)
translate...into~「...を~に翻訳する」
(伊藤和夫『新・英文法頻出問題演習[PARTⅡ 熟語篇]』駿台文庫、2001年[2009年版]、
109頁~110頁)
【分離のof】
clear, cure, deprive, rid, rob等の動詞は、「動詞...of ~」の形で、「...から ~を分離(除去)する」を示す
【問題】
This medicine will cure you ( ) your disease. (成城大)
(このクスリであなたの病気はなおるだろう)
(伊藤和夫『新・英文法頻出問題演習[PARTⅡ 熟語篇]』駿台文庫、2001年[2009年版]、
103頁~104頁)
【打つのon】
hit, pat, tap, strike等の動詞は、「人の頭(肩・背中)を打つ」を、「動詞+人+on the head (shoulder, back)」という形で表わすことが多い。
【問題】
He patted me (the back, my back, by my back, on the back). (慶大)
(彼は私の背中を軽くたたいた)
(伊藤和夫『新・英文法頻出問題演習[PARTⅡ 熟語篇]』駿台文庫、2001年[2009年版]、
105頁~106頁)
【with+供給物】
present 物 to人=present 人with物「人に物を贈る」
fill, present, provide, supply 等の動詞は、目的語のあとのwith~で材料または供給物が示される。
【問題】
I am going to present the prize ( ) her.
=I am going to present her ( ) the prize.
(その賞は彼女に贈るつもりです)
(伊藤和夫『新・英文法頻出問題演習[PARTⅡ 熟語篇]』駿台文庫、2001年[2009年版]、
107頁~108頁)
【基本動詞 takeを使った熟語】
1. take down 書きつける、書きとめる(=put down, write down)
2. take in (=deceive) だます
3. take off (帽子・靴などを)脱ぐ
4. take...off (ある期間・日を)休暇として取る
5. take off (飛行機が)離陸(出発)する
6. take on (仕事・責任などを)引き受ける
7. take out (人を)連れ出す
8. take over 引き継ぐ
9. take up (=occupy) (時間・場所などを)取る、占める。
【問題】
1. He took ( ) my telephone number in his notebook.(慶大)
2. I was taken ( ) by his smooth talk and appearance. (上智大)
3. Take ( ) your hat when you come into a room.(静岡大)
4. I have a headache, and I would like to take a day ( ) today.(関西学院大)
5. Our plane took (away, in, off, out) at exactly twelve o’clock, and landed on time
at Kennedy airport.(日本大)
6. Mr. Wilson said that he did not want to (look up, put up, take on, wear down)
any more serious obligations.(早大)
7. I plan to (take, make, see, call) a friend out to dinner tomorrow.(南山大)
8. John expects to take (after, back, into, over) the business when his father
retires.(慶大)
9. Please don’t trouble yourself for me. I don’t want to (get, give, make, take) up
your time.(京都産業大)
(伊藤和夫『新・英文法頻出問題演習[PARTⅡ 熟語篇]』駿台文庫、2001年[2009年版]、73頁~74頁)。
基本動詞 putを使った熟語
1. put away 片づける(しまう)
2. put off (=postpone)...[until ~] を[まで]延期する
3. put on 着る、身につける
4. put on weight 体重がふえる
5. put out (=extinguish) (火・燈火などを)消す
6. put up (旗を)掲げる、(家を)建てる
【問題】
1. Will you please help me clear the table? =Will you please help me put
( ) the things on the table? (早大)
2. They had to put ( ) their departure on account of heavy snow. (中央大)
3. If you want to help with the cooking, you had better take off your jacket
and put ( ) this apron.(浜松医大)
4. John has gained a lot of weight recently.
=John has ( ) ( ) a lot of weight recently.(立教大)
5. ( ) ( ) your cigarette before you go into the elevator.
エレベーターに乗る前にはタバコの火を消して下さい。(横浜市大)
6. They put ( ) the flag on national holidays.(早大)
(伊藤和夫『新・英文法頻出問題演習[PARTⅡ 熟語篇]』駿台文庫、2001年[2009年版]、71頁~72頁)。
2015年5月10日以降入力
暗記英文
①鈴木長十・伊藤和夫『新・基本英文700選
②藤田英時『基本英文700でまるごと覚える重要単語&熟語1700』宝島社、2012年
受験英語用
①のNo.14
The best way to master English composition is to keep a diary in English.
(英作文に上達するには英語で日記をつけるにかぎる)
(鈴木・伊藤、2002年[2013年版]、10頁~11頁)
①のNo.555
The role of the historian is less to discover and catalog documents than to interpret and explain them. (歴史家の役割は、史料の発見や分類よりも、むしろその解釈と説明にある)
(鈴木・伊藤、2002年[2013年版]、130頁~131頁)
実用的
②のNo.189
You should be at the boarding gate at least 30 minutes prior to your scheduled departure time.
(出発予定時刻の少なくとも30分前に搭乗口にいる必要があります)
(藤田、2012年、56頁)
②のNo.345
Sorry I didn’t respond earlier, but I just haven’t had a chance to check my email for a while.
(もっと早く返事をしなくてごめん、でもしばらくメールをチェックするチャンスがなかったんだ)
(藤田、2012年、92頁)
15年5月24日以降、2021年12月14日構成を変更し、見出しづけ
言葉の理解と音楽~伊藤和夫の言語観・英語観
伊藤和夫の言語観・英語観を知るには、その著『伊藤和夫の英語学習法』(駿台文庫、1995年[2011年版])は一読に値する本である。伊藤と、生徒2人との3人の会話形式で記述されているために、途中、冗話・冗談も含まれるが、生徒の質問に回答する伊藤の言葉の中には、受験英語という枠組みの中とはいえ、英語教育に対する信念が随所に吐露されていて、興味深い本である。
たとえば、伊藤和夫は言語について、「言葉の理解と音楽」と題して、次のような主旨のことを述べている。
言葉は、書かれるよりも、文字として存在するよりも前に、まず話し手の口から出る音、音声として存在するものである。他人の話を聞くときのことを考えてみればわかるように、音声は口を出た次の瞬間には消えてしまうから、分からなくなったからといって前へもどるわけにはゆかず、聞いた順序での理解が唯一の理解である。
言葉は絵より音楽に似ている。音楽の理解の方法はひとつで、音の流れに身をまかせ、最初からその順序に従って聞いてゆくことだけである。音楽のテープを逆まわししたり、思いつきで飛び飛びに聞いたところで音楽は分かるはずはない。英語の文も、先頭からその流れに沿って読まなくてはならず、英文を眺めるのではなく、読まなくてはいけないという(伊藤和夫『伊藤和夫の英語学習法』駿台文庫、1995年[2011年版]、48頁~49頁)。
【伊藤和夫『伊藤和夫の英語学習法』駿台文庫はこちらから】
大学入試伊藤和夫の英語学習法
このように、言葉はまず音声として存在するものだから、言葉の試験をする以上、Hearing(ヒアリング)の問題があるのは当然である。従来の英語教育は、訳読中心の方法、制限用法の関係詞はあとから返って「……ところの」と訳すというような教え方が主流であった。つまり英文を読む場合は、いつでもテキストを前に返って確認できる、場合によっては漢文の原文を返り点の記号に頼って読むように、目を行ったり来たりさせてきた。
しかし、英語を聞く場合はそうはいかず、音声は聞いたはじから消えてしまう。音によって理解することは、英語をどう訳すかの前にある、英語を英語の次元でどう理解するかという問題、つまり英語の順序で読むに従って理解するにはどういう頭の働きが必要かという問題に直結する。
英文を読むことと訳すことは違うという伊藤の立場
ここで、伊藤和夫は英文を読むことと訳すことは、分離するものであるという立場をとる。旧式の訳読中心の教え方とは別の方法として、伊藤は前から訳してゆく方法を提唱している。その著『英語長文読解教室』(研究社出版、1983年[1992年版]、255頁~282頁)の「私の訳出法」において詳述している。
【伊藤和夫『英語長文読解教室』研究社出版はこちらから】
英語長文読解教室
読むことと訳すことはちがうから、いちいち日本語に訳す、つまり英文を行きつ戻りつ、何回も見るのではなく、左から右へ、上から下へ、文頭の大文字から文末のピリオドまで、英文の順序に沿って目を1度走らせるだけで、すべてが分かるように自分を訓練することが大切であると伊藤和夫は強調している(伊藤、1995年[2011年版]、71頁、122頁~123頁)。
そして、伊藤は英語の読解力と速読について、次のような立場を表明している。すなわち
「ゆっくり読んで分かる文章を練習によって速く読めるようにすることはできるが、ゆっくり読んでも分からない文章が速く読んだら分かるということはありえない」と。
これは自明の公理であるという。
よく英語の速読法として、文章を1語1語たどっていたのでは速く読めないので、名詞や動詞、形容詞だけ拾って読めとか、形容詞はたいてい飾りだから飛ばしても大丈夫だとか、パラグラフ(段落)の中心はたいてい文の先頭にあるから、各パラグラフの先頭の文だけ読めば、だいたいのことは分かるとよくいわれる。日本語でも「ななめ読み」とか「飛ばし読み」といわれる方法だが、それがなぜ可能かについて考えてみる必要があるという。
その際に、文中から取り出した、叙述の中心になるキーワードだけを、相互に無関係に読んでいるのではなく、キーワードとキーワードを自分で結び、その中間項に相当するものを自分の頭で補って、全体にひとつの意味の脈絡をつけることに成功し、しかもそれが原文の内容とだいたい同じだから、分かったことになる点に注意を促している。
読む前に、そこに書いてあることの見当がついているから、そうした速読は可能であったのである。逆に読む前に「分かって」いない文章を「ななめ読み」したり、「飛ばし読み」したところで、結局は誤解と妄想しか生まれてこないという。やはり読む前に「分からない」ものが、読んで分かるはずはないのである。つまり
「ゆっくり読めば分かる文章を練習によって速く読むことは可能だけれど、ゆっくり読んでも分からない文章を速く読んでみたところで誤解と妄想におちいるだけだ」と言い、日本人が陥りやすい英語速読法の落とし穴について注意している(伊藤、1995年[2011年版]、70頁~73頁)。
実は、先のキーセンテンスとか、パラグラフ・リーディングという速読法は、英語の本場であるアメリカの学生に対する速読の訓練法を直輸入してきたものであるから、それを日本の学生にやらせるには、根本的な見落としがあるとして、警鐘を鳴らしている。英語の形の上の約束すら身についていない日本の学生に、アメリカ式の速読訓練をさせても、効果があがるはずはないと、伊藤は否定的である(伊藤、1995年[2011年版]、74頁)。
ところで、Hearingの対策としては、できるだけ英語を「聴く」ようにすることを挙げているが、その際に注意すべき点を2点指摘している。
①ひとつは、ばかにしないで、できるだけ易しいもの、努力しないでも分かるものからはじめることである。最終的には、FENのニュースを聞いてその内容がわかるようになれば理想的であるが、焦ってはならず、最初はテレビやラジオの会話講座あたりの易しいレベルの方が途中で放棄しないですむから良いという。
②ふたつめは、耳で聞いたことをできればテキストで確認する努力、読むためのテキストも自分で声を出して読むことで耳で確認する努力も怠らないことである。先述したように、言葉は原則的には話すのが先で、読むのはあとであり、音声はテキストとちがって捉えにくいし、音声による文の構造は分析の対象にはなりにくい。
ただ、音声という捉えにくいものの中で、きちんと論理性や文法が貫徹しているから、言葉はすばらしいのである。ここに、中学・高校の英語教育を終えた人の利点がある。その人々はある程度読解力があるので、それまでに培ったReadingの力が、訓練次第によって、
Hearingの力とドッキングするという。そもそも読解力がなく読めない人のHearingの力は、ある所までくると壁につき当って先へ進めないというのが現実であるという。訳さずに読む力をつけるには、声を出してテキストを読むことを勧めている。つまり音読の勧めである。
英語の復習のうち、声を出して読むことを勧める理由として、目だけでなく耳まで、つまりできるだけ多くの能力を勉強に参加させるほうが効率がよいことが挙げられる。しかしそれだけではない。口を動かして読んでいれば、いやおうなしに英語の順序で考えざるを得ない利点を挙げている。
一方で声を出していながら、一方で訳すことはさすがにできないから、英語のままで考えることに慣れざるを得なくなるのが、音読の効用の第2点目である。つまり音読している時は英語の次元で理解することが中心になり、いちいち訳さなくてすむ点がよいという。英語の復習はテキストの中の単語の記憶が完了したかどうかを目安にするのがよいとする。つまり、テキストを何度もくり返しして、知らない単語がなくなったら、復習はすんだことにするというやり方である(伊藤、1995年[2011年版]、84頁、123頁~124頁)。
高橋善昭『必修英語構文』の言語観
ところで、この伊藤和夫の言語観・英語観は、彼が勤めていた駿台予備校の英語科の講師陣に共通したものであったようである。
というのは、駿台の英語科の講師高橋善昭たちが執筆した『必修英語構文 CD付』(駿台文庫、1996年)の中でも、この言語観を端的に英語で表現した文章を掲載している。
It is of the highest importance, if we wish to understand the
real nature of language, to realize fully that words consist of
sounds, which are uttered and heard, and not of letters, which are
looked at.
Owing to the large part which books play in education,
people have come to hold strange views concerning language, and
some actually think that the letters, which make up the written
word on paper, are the real language, and that the sounds, which
we can hear, are only of minor importance. It is probable that
we should find it easier to grasp the real external facts of lan-
guage, which are its sounds, if we knew nothing about writing
and spelling at all, and could only think of language as being
uttered sounds. A little consideration of the question shows us
that the letters are very unimportant compared with the sounds,
and that when we study a language, it is the sounds and their
meanings which must mainly concern us.
【Notes】
of importance=important(of +抽象名詞=形容詞)、nature 本質、consist of... ...から成る、utter 声を発する、part=role、concerning... ...に関して、grasp... ...を把握する、external 外的な(↔internal)、uttered sound 発声された音、compared with ...
...と比較して
<訳例> ~「PARTⅡ Chapter2...section1」より
言語の本質を理解したいと思う場合、この上なく重要なことは、語は口で発せられ耳で聞かれる音声から成り立つのであって、目で見られる文字から成り立つのではないと十分に認識することである。
教育で書物が大きな役割を果たしているので、人は言語に関して奇妙な考えを持つようになった。現に、紙上に書かれた語を構成する文字が真の言語であり、耳で聞くことのできる音声は二義的重要性しか持たないと考える人もいる。多分、文字や綴りを全く知らないで、言語は発せられた音声であるとだけ考えることができるとすれば、言語の真の外的側面とはまさしく音声であるということが分かり易くなるであろう。この問題を少し考えてみれば分かることだが、文字は音声と比べると重要性は非常に低いものであり、言語の研究にあたってもっぱら我々の関心事としなければならないのは音声とその意味である。
(高橋善昭ほか『必修英語構文 CD付』駿台文庫、1996年、103頁および「必修英語構文別冊訳例集」PARTⅡChapter2...section1, 8頁の訳例参照のこと)。
【高橋善昭ほか『必修英語構文 CD付』(駿台文庫)はこちらから】
必修英語構文 CD付 駿台受験シリーズ
つまり、上記の文によれば、言語の本質を理解する上で、語は口で発せられ耳で聞かれる音声から成り立ち、目で見られる文字から成り立つのではないことを認識することが重要であると主張している。教育で書物が大きな役割を果たしていることから、紙上に書かれた語を構成する文字が真の言語であるかのように考える人もいるが、言語は発せられた音声であると考えることが一義的に重要であり、言語の研究では音声とその意味に関心をもつべきであるという。
この言語観・英語観は、高橋善昭たちが執筆した本書の基本的コンセプトになっている。その趣旨は「序にかえて」に述べてある。それによれば、本書は、駿台の英語科の講師たちの英知と経験を集約して、「英語構文」研究のテキストを編集し、解説を加えたものである。
そもそも英文は「単語」が横一列に連結した「線条構造」となっている。そして英語は「語順言語」であり、正確な読解には、個々の語句レベルの規則だけではなく、文レベルの構造が見えることが必要である。この「文レベルの法則性」を正しく認識することは、英文読解の基礎であり大前提であり、本書はこの基本的能力を短期に養成することを目的としているという。
そして本書の使用法の一つについて次のように記している。言語は音声と不可分であり、その感覚を磨くためにも、付属のCDを何回も聞くと共に、英文を声に出して読む努力をしてほしいという。このCDが slow tempoではなく natural speedで吹き込まれているのは、本物の音声とリズムを身につける必要があるからである。はじめは聞き取れなくても、何度も聞いているうちに聞き取れるようになる瞬間が誰にでも訪れるので、そこに到達するまで努力せよと主張している。
そしてCDの中でも高橋善昭自身も、この点を強調している。つまり、英文を文字で読めばわかるのに、耳から聞いたのではわからないことがあるのは、それまで聞いた絶対量が不足しているからで、聞いた量が臨界点(critical point)を越えると、誰でも必ず聞き取れるようになるという。THROUGH HARDSHIP TO THE STARS!と発奮を期待している
(高橋善昭ほか『必修英語構文 CD付』駿台文庫、1996年、3頁~5頁)。
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